『絵姿女房』は、女房の美しさに惚れ惚れと見とれ、仕事をしない夫に困った女房が絵姿を持たせます。それによって女房は殿様に無理やりお城に連れて行かれます。しかし、女房は機知を働かせて最後は殿様と夫を入れかえて安楽に暮らします。
今回は、『絵姿女房』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『絵姿女房』は、主に西日本に伝わる民話です。
昭和2年(1927年)に島根県教育会より発行された『島根県口碑伝説集』では島根県八束郡意東村(現在の島根県松江市東出雲町)に伝わる民話として「六日の菖蒲」という題名で収録されています。
昭和18年(1943年)に三省堂より発行された岩倉市郎の『南蒲原郡昔話集』では新潟県南蒲原郡葛巻村(現在の新潟県見附市葛巻)に伝わる民話として「絵姿女房」という題名で収録されています。
昭和40年(1965年)に未來社より発行された下野敏見の『屋久島の民話 第二集』では「みかん売り 八兵衛」という題名で収録されています。
類話は西日本を中心に日本中に広く分布し、女房を奪われた男が物売りに扮装してお城に入り、殿様をお城から追い出してしまう「物売型」と、女房の力で殿様からの難題を克服する「難題型」とに二分されます。
また、日本をはじめ、中国、東南アジア、モンゴルなどにも類話が存在します。
あらすじ
むかしむかし、あるところに兵六というお人好しの百姓がおりました。兵六には美しくて気立てのいい女房がいて、二人は仲良く幸せに暮らしておりました。
兵六は女房があまりにも美しいので、ちょっとの間も離れることが出来ませんでした。仕事もせずに女房の顔ばかりながめておりました。
困った女房は、自分の絵を兵六にもたせて仕事に行かせることにしました。絵は、いまにも口でもきくかと思えるほどの生き写しでした。
兵六は喜んで、女房の絵姿を板に貼り付けて、それを見ながらようやく畑仕事をしっかりするようになりました。
ところがある日、大事な絵姿が風で飛ばされてしまいました。
慌てて兵六は追いかけましたが、追いつくことができず、絵姿はお城の中へ飛ばされていきました。
絵姿を見た殿様は、絵の中の女性をひと目で気に入り、自分の妻にしようと家来にこの女性を探して連れてくるように言いつけました。
そうして、ついに兵六の女房が見つかってしまい、女房はお城に連れて行かれることになりました。
女房は桃の種を兵六に渡して、
「三年経ったら実がなりますので、必ずお城に売りに来てください」
と泣きながら言い残して連れて行かれました。
兵六はしょんぼりとしていましたが、女房の言う通りに桃の種を植えて大事に三年間育て、桃の木は立派に育ちました。そして、実った桃をお城へ売りに行くことにしました。
一方、お城では無理やり結婚させられた女房が、三年もの間、全く笑わないので殿様はほとほと困り果てていました。
そこへ兵六が桃を売りにやってきました。
久しぶりに兵六の声を聞いた女房は嬉しそうに笑い出しました。
それを見た殿様は嬉しくなり、兵六をお城に招き入れ、
「もう一度桃を売ってみなさい」
と言いました。
女房は兵六の姿を見てまた嬉しそうに笑い、殿様は嬉しくて嬉しくて今度は自分が女房を笑わせようと思い、兵六に代わって自分が桃売りになると言い出しました。
兵六と着物を交換し桃売りの姿になった殿様は、女房が笑ってくれるのを見ながらはしゃいでいるうちに、桃売りの格好でお城の外まで出ていってしまいました。
そんなこととは知らない門番は、桃売りが帰ったのだと思いお城の門を閉めしまいました。
そして、再びお城の中に入ろうとした桃売り姿の殿様に向かって、
「怪しい桃売りめ」
と言って取り合わず追い出してしまいました。
こうして、兵六は美しい女房とともに殿様として、末長く幸せに暮らしました。
解説
ヤーコプとヴィルヘルムのグリム兄弟が編纂したドイツの『グリム童話』では、家や時代、社会の落伍者が、その弱点をむしろ長所として活かし活躍することで、一家に繁栄をもたらしたり、王に就いたりというお話があります。
これは、引け目を感じて生きている者には励ましの出世物語となります。さらに、代わり映えのしない家や時代、社会に別の価値観を持ち込むことで、その家や時代、社会を活性化し、改革するという面もあります。
しかし、日本では、庶民が天皇や大名などの位の高い地位に就くというお話は皆無です。
そのため、この『絵姿女房』の様な百姓が殿様になるという趣向は、外国渡来ではないかとする説もありますが、一概にはそうとも言い切れません。
感想
『絵姿女房』は、男の夢を描いた物語と言えます。
結婚前の男性は、それと想う女性との結婚を夢見る時、自分の価値を過小評価する傾向があります。
それは、男という生き物が、自分の弱点を意識しながら生きているからです。自分のことを完璧だと思っている男性より、学歴、収入、外見、性格、才能などに劣等感を持っているという男性のなんと多いことでしょう。そして、男性は無意識の内に「自分が一家の大黒柱にならなければ」という考えがあるため、昔ばなしの中の冴えない男が、時代を超えて説得力を持つのです。
それに加えて、多くの男性は女性の価値を過大評価する傾向があります。
盲目の恋をしている間は、女性は絶世の美女に他なりません。しかし、結婚をするとそれが間違いだったことにすぐに気がつきます。だから、このお話の様な、結婚後も見惚れるような女性というのは、奇跡に近いと言えましょう。
『絵姿女房』の美人女房は、しがない平凡な男の味方です。男としてこれ以上の夢はありません。つまり、これはあくまで夢であって現実ではないということです。
まんが日本昔ばなし
『絵姿女房』
放送日: 昭和51年(1976年)03月27日
放送回: 第0044話(第0025回放送 Bパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 光延博愛
文芸: 沖島勲
美術: 内田好之(青木稔)
作画: 高木三枝子
典型: 難題女房譚
地域: 中国地方(鳥取県)
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『絵姿女房』は「DVD-BOX第1集 第3巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『絵姿女房』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
「権力は肉体の自由を奪うことができても、心の自由までは奪うことができない」ということを改めて教えてくれるお話です。ぜひ触れてみてください!