昔話『古屋のもり』のあらすじ・内容解説・感想｜おすすめ絵本

　ふっとした会話かいわを聞きいたことで起おこる勘違かんちがいから、『古屋ふるやのもり』の物語ものがたりは展開てんかいします。得体えたいの知しれない“ふるやのもり”に慌あわてて逃にげる泥棒どろぼうと狼おおかみの必死ひっしのやり取とりが痛快つうかいで、最後さいごは猿さるが仰天ぎょうてんするといった内容ないようにぐんぐんと引ひき込こまれていきます。

　今回こんかいは、『古屋ふるやのもり』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ、感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいします！

概要

　『古屋ふるやのもり』は、東北とうほく地方ちほうに位置いちする岩手県いわてけんに伝つたわる民話みんわです。

　古ふるい時代じだいから伝承でんしょうされてきたお話はなしで、中国ちゅうごく地方ちほうに位置いちする鳥取県とっとりけんや中部ちゅうぶ地方ちほうに位置いちする富山県とやまけんなど日本にっぽん各地かくちに類話るいわが存在そんざいします。

　また、日本にっぽんをはじめ、中国ちゅうごくや東南とうなんアジア、インドなどにも類話るいわが存在そんざいします。

　『古屋ふるやのもり』の起源きげんは、西暦せいれき200年ねんごろに成立せいりつしたとされるインドの子こども向むけ説話集せつわしゅう『パンチャタントラ』とされますが、その典拠てんきょは不明ふめいです。

　日本にっぽんでは、江戸えど時代じだい中期ちゅうきの儒学者じゅがくしゃである岡白駒おかはっくが明和めいわ5年ねん(1768年ねん)に発行はっこうした『奇談一笑きだんいっしょう』に「屋漏可恐(やもりおそるべし)」という題名だいめいで書かき残のこしたのが初出しょしゅつと言いわれています。

　昭和しょうわ16年ねん(1941年ねん)に三国書房みくにしょぼうより発行はっこうされた柳田国男やなぎたくにおの『日本にっぽんの昔話むかしばなし』に、「猿さるの尾おはなぜ短みじかい」という題名だいめいで収録しゅうろくされたことにより『ふるやのもり』は日本中にっぽんじゅうで広ひろく知しられるようになりました。

　絵本えほん『ふるやのもり(こどものとも傑作集けっさくしゅう)』は、福音館書店ふくいんかんしょてんから出版しゅっぱんされています。田島征三たしませいぞうさんによる暗くらい色彩しきさいで少すこし怖こわそうな雰囲気ふんいきの絵えですが、瀬田貞二せたていじさんのスピード感かんのある面白おもしろい文ぶんにより、いくらでも想像そうぞうが膨ふくらんで止とまりません。子こどもたちを惹たきつける不思議ふしぎな魅力みりょくがある一冊いっさつです。ちなみに、この絵本えほんは、子こどもたちの心こころに残のこるような強烈きょうれつな印象いんしょうの絵本えほんを数々かずかず生うみ出だしてこられた田島征三たしませいぞうさんの絵本えほんデビュー作さくです。

　絵本えほん『ふるやのもり(むかしむかし絵本えほん 10)』は、ポプラ社しゃから出版しゅっぱんされています。「ふるやのもり」という魅力的みりょくてきで不思議ふしぎな響ひびきのある言葉ことばから、鮮あざやかに話はなしを広ひろげた今江祥智いまえよしともさんの文ぶんと、松山文雄まつやまふみおさんの繊細せんさいにして大胆だいたんな絵えが重かさなり合あったことで、読よみ進すすめるにつれて物語ものがたりが一気いっきに加速かそくしていく高揚感こうようかんを覚おぼえます。昔話むかしばなしの面白おもしろさがぎっしりと詰つまっていて、言葉ことばによって心こころが踊おどらされる一冊いっさつです。

　絵本えほん『ふるやのもり(幼児ようじみんわ絵本えほん 22)』は、ほるぷ出版しゅっぱんから出版しゅっぱんされています。清水耕蔵しみずこうぞうさんによる絵えが秀悦しゅうえつで迫力はくりょく満点まんてんです。そして、方言ほうげんを使つかった今村泰子いまむらひろこさんの文ぶんは、読よみ進すすめるにつれて、難むずかしさよりも“勘違かんちがい”による言葉ことば遊あそびを題材だいざいにした物語ものがたりの独特どくとくな雰囲気ふんいきを壊こわしたくないという気持きもちにさせられます。松谷まつたにみよ子こさんと吉沢和夫よしざわかずおさんの監修かんしゅうにより、昔話むかしばなしらしい温あたたかみのあって、読よんでいて楽たのしい気持きもちになる一冊いっさつです。

　現在げんざいは、新潮文庫しんちょうぶんこより出版しゅっぱんされている『日本にっぽんの昔話むかしばなし』は、「聴耳頭巾ききみみずきん」「瓜子姫うりこひめ」「藁わらしべ長者ちょうじゃ」など、広ひろく世よに知しられたお話はなしから、「古屋ふるやの漏もり」「猿さるの尾おはなぜ短みじかい」「海うみの水みずはなぜ鹹しおからい」など、古ふるくから語かたり伝つたえられてきたものまで、日本人にっぽんじんが育はぐくんできた昔話むかしばなしの数々かずかずを、民俗学者みんぞくがくしゃの柳田国男やなぎたくにお先生せんせいが日本にっぽん各地かくちから集あつめて、美うつくしい日本語にほんごで後世こうせいに残のこそうとした名著めいちょです。

あらすじ

　むかしむかし、山奥やまおくに古ふるい一軒いっけんの家いえがありました。その家いえには、お爺じいさんとお婆ばあさんと、その孫まごが三人さんにんで暮くらしていました。生活せいかつは貧まずしく、家の中なかには何なにもありませんでした。あるものといえば、馬うまが一頭いっとういるだけでした。

　ある晩ばん、雨あめが降ふりそうな暗くらい夜よるのことでした。馬うまを盗ぬすもうと、泥棒どろぼうが家いえに忍しのび込こみ、梁はりの上うえに隠かくれ、家族かぞくが寝静ねしずまるのを待まっていました。

　ところが偶然ぐうぜんにも、この日ひは、狼おおかみも馬うまを捕とって食くおうと家いえに忍しのび込こみ夜よるが更ふけるのをじっと待まっていました。

　お婆ばあさんは孫まごを寝ねかしつけようと、いつものようにお話はなしをしていました。

　「この世よで泥棒どろぼうより狼おおかみより怖こわいものってなあに」
と孫まごが尋たずねるので、
　「それは“ふるやのもり”じゃよ」
　「早はやく寝ねないと今夜こんやあたり来くるかもしれんのう」
とお婆ばあさんは答こたえました。

　これを聞きいていた泥棒どろぼうと狼おおかみは、自分じぶんより強つよい奴やつがやってくるというので、気きが気きではありません。ぶるぶると震ふるえていました。

　“ふるやのもり”とは、古ふるい家いえの雨漏あまもりのことで、お爺じいさんとお婆ばあさんは雨漏あまもりにとても困こまっていたのでした。

　やがて雨あめが降ふってきて、天井てんじょうから雨漏あまもりがしてきました。

　「“ふるやのもり”が来きた」
とお婆ばあさんが叫さけぶと、泥棒どろぼうは驚おどろいて梁はりから狼おおかみの上うえに落おちてしまいました。

　狼おおかみは“ふるやのもり”が自分じぶんの上うえに落おちてきたと勘違かんちがいし、泥棒どろぼうを背中せなかに乗のせたまま外そとへ飛とび出だしました。

　泥棒どろぼうも自分じぶんがしがみついているのが“ふるやのもり”だと思おもい、ふり落おとされたら食たべられてしまうと必死ひっしで狼おおかみにしがみつきました。

　狼おおかみは山中さんちゅうを走はしり回まわり、狼おおかみの背中せなかにしがみつく泥棒どろぼうは目めに留とまった木きの枝えだへ飛とび移うつりました。

　狼おおかみはそのまま走はしっていってしまいました。

　ほっとした泥棒どろぼうは、ちょうど木きの幹みきに穴あなが開あいていたので、しばらくそこに隠かくれることにしました。

　ところが、穴あなが深ふかかったため泥棒どろぼうは穴あなの底そこに落おちてしまいました。

　一方いっぽう、狼おおかみは仲間なかまの動物どうぶつたちに恐おそろしい目に遭あったことを話はなしました。

　山やま一番いちばんの知恵者ちえものの猿さるにとっても初はじめて聞きく名前なまえでした。

　そこで、狼おおかみとともに木きの穴あなに落おちたものが何なにかを確たしかめに行いくことにしました。

　木きの幹みきに開あいた穴あなが怪あやしいので、猿さるが長ながいしっぽを垂たらしてみると、穴あなの中なかの泥棒どろぼうは木きの蔓つるだと思おもい、猿さるのしっぽにつかまってよじ登のぼり始はじめました。

　驚おどろいた猿さるは、捕つかまったら“ふるやのもり”に食たべられてしまうと思おもい、必死ひっしに踏ふん張ばりました。

　すると、猿さるのしっぽはぷつんと切きれてしまい、その拍子ひょうしで猿さるは前まえにつんのめり、顔かおを擦すりむいてしまいました。

　それから、猿さるのしっぽは短みじかくなり、顔かおが真まっ赤かになったそうです。

解説

　『古屋ふるやのもり』は、「古ふるい家いえでは雨漏あまもりがする」という、生活せいかつに根ねざした実感じっかんから生うまれた民話みんわです。

　言葉ことばの勘違かんちがいからお話はなしが発展はってんし、最後さいごは猿さるのしっぽが短みじかくなり顔かおが赤あかくなった由来ゆらいが結末けつまつとなっています。

　雨漏あまもりする茅葺かやぶき屋根やねや藁葺わらぶき屋根やねは、近代化きんだいかが進すすみ、生活せいかつ環境かんきょうが一変いっぺんした現代げんだいの農村のうそん地帯ちたいでは、すっかり姿すがたを消けしたものばかりです。

　そして、現代げんだいの子こどもたちは、雨漏あまもりと無縁むえんの生活せいかつをしています。しかし、雨漏あまもりの鬱陶うっとうしさや情景じょうけいが浮うかばない面白おもしろさを理解りかいすることができないお話はなしでもあります。

　また『古屋ふるやのもり(古屋ふるやの漏もり)』は、「秘密ひみつのもれることは恐おそろしい」という戒いましめの意味いみにも用もちいられます。

感想

　『古屋ふるやのもり』の面白おもしろさは、物語ものがたりに登場とうじょうする人物じんぶつや動物どうぶつは本当ほんとうのことを何なにも知しらないのに、物語ものがたりの読よみ手てや聞きき手てである私わたしたちはすべてを知しっているという仕掛しかけではないでしょうか。

　泥棒どろぼうも狼おおかみもお互たがいの正体しょうたいを知しりません。

　しかし、読者どくしゃである私わたしたちは、すべてを知しっています。

　泥棒どろぼうも狼おおかみも“ふるやのもり”が何なにかを知しりませんが、読者どくしゃである私わたしたちは知しっています。

　泥棒どろぼうと猿さるに関かんしても同様どうようのことがいえます。

　思おもいがけず、偶然ぐうぜんにも誤解ごかいや勘違かんちがい、信しんじ込こみによって、結むすび付つくはずがないものが結むすびつくという物語ものがたりの意外性いがいせいと、物語ものがたりに登場とうじょうする人物じんぶつや動物どうぶつと私わたしたち読よみ手てや聞きき手てとの関係かんけいが、このお話はなしの可笑おかしみであり、物語ものがたりを読よみ進すすめることで笑わらいが生うまれるということがいえます。

まんが日本昔ばなし

『古屋ふるやのもり』
放送日: 昭和51年(1976年)04月03日
放送回: 第0045話(第0026回放送 Aパート)
語り: 市原悦子･(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 彦根のりお
文芸: 沖島勲
美術: 前島道子
作画: 座間喜代美
典型: 動物昔話どうぶつむかしばなし･由来譚ゆらいたん
地域: 東北地方(岩手県)

　Amazonプライム・ビデオで、『まんが日本にっぽん昔むかしばなし』へ、ひとっ飛とび。

　かつてテレビで一大いちだいブームを作つくった『まんが日本にっぽん昔むかしばなし』の中なかから傑作けっさく101話わを厳選げんせんした書籍しょせきの分冊版ぶんさつばんは講談社こうだんしゃより出版しゅっぱんされています。『古屋ふるやのもり』が収録しゅうろくされています。

　国民的こくみんてきアニメーション『まんが日本にっぽん昔むかしばなし』がDVDになりました！
　『古屋ふるやのもり』は「DVD-BOX第だい9集しゅう 第だい41巻かん」で観みることができます。

最後に

　今回こんかいは、『古屋ふるやのもり』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ、感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいしました。

　ふっとした会話かいわから始はじまった勘違かんちがいの連続れんぞくは、滑稽こっけいですが、不思議ふしぎとちょっと怖こわくて陰湿いんしつを感かんじます。それは『古屋ふるやのもり』が雨あめの夜よるに起おきた出来事できごとだからでしょう。ぜひ触ふれてみてください！