昔話『あとかくしの雪』のあらすじ・内容解説・感想|おすすめ絵本
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 貧まずしい村むらで起おきた、小ちいさな優やさしさと不思議ふしぎな雪ゆきの出来でき事ごと
 「滅私めっし奉公ほうこう」という故事こじがあります。これは、「私しを捨すてて公こうに尽つくす」ことが美徳びとくとされる日本人にっぽんじんの精神せいしんを意味いみします。『あとかくしの雪ゆき』は、まさにその日本人にっぽんじんの精神せいしんである“自己じこ犠牲ぎせい”を主題しゅだいにしたお話ばなしです。

 今回こんかいは、『あとかくしの雪ゆき』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ、感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいします!

概要

 『あとかくしの雪ゆき』は、中部ちゅうぶ地方ちほうに属ぞくする新潟県にいがたけんや中国ちゅうごく地方ちほうに属ぞくする広島県ひろしまけんに伝つたわる民話みんわとされます。

 木下きのした順二じゅんじの『あとかくしの雪ゆき』が小学校しょうがっこう国語こくご教科書きょうかしょに採用さいようされたことにより、日本にっぽん中じゅうで広ひろく知しられるようになりました。

 『あとかくしの雪ゆき』は、『お衣ころも替がえ』と呼よばれる、いわゆる日本にっぽん各地かくちに多数たすう存在そんざいする「空海くうかい(弘法こうぼう大師だいし)伝説でんせつ」のひとつです。

 そして、旧暦きゅうれきの11月がつ23日にち、つまり冬至とうじの晩ばんに、日本にっぽん各地かくちで行おこなわれる民間みんかん行事ぎょうじ「大師講だいしこう」の由来ゆらいのお話はなしとして、庶民しょみんの心こころに、より広ひろく深ふかく浸透しんとうしています。

 『あとかくしの雪ゆき』は、悲かなしくて、切せつなくて、残酷ざんこくなのに美うつくしいお話ばなしです。

 絵本えほん『あとかくしの雪ゆき (絵本えほん・子こどもの世界せかい 19)』は、ポプラ社しゃから出版しゅっぱんされています。大川おおかわ悦生えっせいさんによる越後えちご方言ほうげんで語かたられる優やさしい口調くちょうの文ぶんは、深ふかく心こころに染しみ入いります。そして、雄大ゆうだいで色合いろあいが渋しぶい太田おおた大八だいはちさんの絵えが、とても良よい雰囲気ふんいきで物語ものがたりを引ひき立たてます。ただ、文ぶんと絵えが別々べつべつに見開みひらきで進すすむ構成こうせいになっているため、もしかしたら読よみ聞きかせには不向ふむきな絵本えほんかもしれません。

 絵本えほん『あとかくしの雪ゆき (行事ぎょうじむかしむかし)』は、佼成こうせい出版しゅっぱん社しゃから出版しゅっぱんされています。「行事ぎょうじむかしむかし」は、実じつの兄弟きょうだいである谷たに真介しんすけさんと赤坂あかさか三好みよしさんがタッグを組くみ、絵本えほんを通とおして日本にっぽんの年中ねんちゅう行事ぎょうじを知しることで、子こどもたちに季節きせつ、生活せいかつ、文化ぶんかの理解りかいを促うながすために企画きかくされた全ぜん13巻かんのシリーズです。本書ほんしょは、「11月がつ23日にちの『大師講だいしこう』の夜よる、必かならず雪ゆきが降ふる」といわれる由来ゆらい話ばなしを扱あつかった第だい10弾だんです。谷たにさんは、子こどもにも分わかりやすいよう、口語こうご的てきで読よみ聞きかせに適てきした、親したしみやすく、昔むかし話ばなしらしい語かたり口ぐちを再現さいげんしています。そして、心理しんり描写びょうしゃを控ひかえ、行動こうどうや情景じょうけいを中心ちゅうしんに短みじかい文ぶんで進すすめ、想像そうぞうの余地よちを残のこします。赤坂あかさかさんも読よみ聞きかせを意い識しきした、雪ゆきの静しずけさと人物じんぶつの表情ひょうじょうが美うつくしい絵えを描えがいています。それにより、心こころが美うつくしく、信心しんじん深ぶければ、神様かみさまも大目おおめに見みてくださるという、善悪ぜんあくだけでは割わり切きれない部分ぶぶんがあるということを、子こどもでも理解りかいできるよう文ぶんと絵えに様々さまざまな工夫くふうが施ほどこされています。例たとえば、お婆ばあさんが「大根だいこんを盗ぬすんだ」という表現ひょうげんは使つかわれず、お婆ばあさんが「何なにかをした」というような文ぶんと絵えによって、「何なにをしたのか」を想像そうぞうさせるように構成こうせいされています。冬至とうじの頃ころに手てに取とりたくなり、優やさしさの機微きびを感かんじることでしょう。大人おとなも考かんがえさせられる一冊いっさつです。

 『わらしべ長者ちょうじゃ (日本にっぽん民話選みんわせん)』は、岩波いわなみ書店しょてんから出版しゅっぱんされています。木下きのした順二じゅんじ氏しは劇作げきさく家かとして知しられ、人々ひとびとの間あいだで口くち伝つたえに語かたられてきた民話みんわを、その語かたり口ぐちを大切たいせつに再話さいわすることが特徴とくちょうです。表題ひょうだいの「わらしべ長者ちょうじゃ」をはじめ、「かにむかし」「こぶとり」「ききみみずきん」「天人てんにん女房にょうぼう」「三年さんねん寝太郎ねたろう」「みそ買かい橋ばし」「あとかくしの雪ゆき」など、よく知しられた民話みんわが22篇へん並ならびます。本書ほんしょは、現代げんだいの子こどもたちには決けっしてなじみ深ぶかいとは言いえない、方言ほうげんや擬態語ぎたいご・擬音語ぎおんごが生いき生いきと使つかわれていて、声こえに出だして読よみたくなるリズムがあります。そして、そこに赤羽あかばね末吉すえよし氏しの絵えが加くわわることで、物語ものがたりに柔やわらかな風ふう合あいが生うまれます。「かにむかし」のさるかにの取とり交かわしや、「みそ買かい橋ばし」の知恵ちえの部分ぶぶんなどは、ユーモアと教訓きょうくんが自然しぜんに溶とけ込こんでいます。口承こうしょうの変化へんかを楽たのしめる点てんも魅力みりょくで、知しっているお話はなしでも少すこし違ちがう展開てんかいに気きづくことがあります。貧まずしさから這はい上あがる工夫くふうや、欲よく張ばりの失敗しっぱい、家族かぞくの絆きずななど、日常にちじょうに通つうじる部分ぶぶんが新鮮しんせんに感かんじられ、子こどもに読よみ聞きかせるのにも、大人おとなが一人ひとりでじっくり読よむのにも向むいています。日本にっぽんの民話みんわが持もつ素朴そぼくな知恵ちえと人間にんげん味みを丁寧ていねいに伝つたえる、読よみ手てに優やさしい一冊いっさつです。

あらすじ

 むかしむかし、ある冬ふゆの日ひの夕暮ゆうぐれ、一人ひとりの旅人たびびとが雪ゆきの降ふり積つもった小ちいさな村むらにやってきました。

 旅人たびびとは、とぼりとぼり雪ゆきの上うえを歩あるきながら、一軒いっけん一軒いっけん訪たずねては、
 「どうか一晩ひとばんだけ泊とめてください」
と頼たのんでまわりました。

 しかし、どこの誰だれともわからない、みすぼらしい旅人たびびとを家いえに泊とめる者ものは誰だれもいませんでした。

 しかも、今いまにも雪ゆきが降ふり出だしそうな日ひで、野宿のじゅくをするわけにもいきませんでした。

 旅人たびびとが最後さいごに戸とをたたいたのは、村むらでも一番いちばん貧まずしい家いえで、お婆ばあさんがひとりきりで住すんでいました。

 「何なにもいらないから、どうか一晩ひとばんだけ泊とめてください」
と旅人たびびとが頼たのみこみました。

 お婆ばあさんは、自分じぶんの食たべる物ものもろくにないくらい貧まずしいのに、
 「ああ、ええとも。オラのとこは貧乏びんぼうで何なにもないが、泊とまっていってくれ」
とお婆ばあさんは気きの毒どくな旅人たびびとを快こころよく家いえに招まねきいれました。

 「ありがとうございます。泊とめていただければ、私わたしは何なにもいりません」
と言いって、旅人たびびとはお婆ばあさんの家いえにあがりました。

 旅人たびびとを家いえにあげてはみたものの、なにしろこのお婆ばあさんは、なんともかとも貧乏びんぼうで、何なにひとつ旅人たびびとをもてなしてやることができませんでした。

 そこで、しかたなく、晩ばんになってから、お婆ばあさんは隣となりの大おおきな家いえの大根だいこん畑ばたけへ行いき、
 「今日きょうだけは、許ゆるしてくだされ」
と手てを合あわせ、その畑はたけから大根だいこんを一本いっぽん抜ぬき取とりました。

 雪ゆきの上うえには、お婆ばあさんの足跡あしあとがくっきりとついていました。

 家いえに戻もどったお婆ばあさんは、盗ぬすんできた大根だいこんで大根だいこん焼やきをつくり、旅人たびびとに食たべさせました。

 なにしろ寒さむい晩ばんだったので、
 「うまい、うまい」
と旅人たびびとは心こころからうまそうにしながら、お婆ばあさんのつくった大根だいこん焼やきを食たべました。

 翌朝よくあさ、お婆ばあさんはまだ夜よも明あけぬうちに旅人たびびとを起おこし、早々そうそうに旅たび立だたせました。

 やがて日ひが昇のぼると、さらさらと雪ゆきは降ふってきて、あゆむあとからのように、雪ゆきが地面じめんをすっかり隠かくしました。

 お婆ばあさんの足跡あしあとも雪ゆきがみんな隠かくしてしまいました。

 このみすぼらしい旅人たびびとは、弘法こうぼう大師だいしという偉えらい僧侶そうりょで、お婆ばあさんの優やさしい心こころを知しって、法力ほうりょくで雪ゆきを降ふらせたのでした。

 この日ひが旧暦きゅうれきの11月がつ23日にちだったことから、今いまでもその地方ちほうでは、この日ひに大根だいこん焼やきを食たべ、またこの日ひに雪ゆきが降ふれば、赤飯せきはんを炊たいて祝いわう家いえもあるそうです。

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解説

 日本にっぽん各地かくちには「弘法こうぼう大師だいし伝説でんせつ」が多数たすう存在そんざいします。

 弘法こうぼう大師だいしの諡号しごうで知しられる空海くうかいは、平安へいあん時代じだい初期しょきの僧そうで、真言宗しんごんしゅうの開祖かいそです。

 空海くうかいは、最新さいしんの仏教ぶっきょうである「密教みっきょう」を学まなぶため、遣唐使けんとうしとして唐とう(現在げんざいの中国ちゅうごく)へ渡わたり、密教みっきょうを学まなんでから帰国きこくした後のち、唐とうで学まなんできた密教みっきょうを日本にっぽんで広ひろめようと日本にっぽん各地かくちを行脚あんぎゃしたといわれます。

 そして、弘法こうぼう大師だいしにまつわる伝説でんせつは、北きたは北海道ほっかいどうから南みなみは鹿児島県かごしまけんまで広ひろく分布ぶんぷしており、その数かずは5000ヶ所かしょ以上いじょうもあるといわれます。

 弘法こうぼう大師だいし信仰しんこうのあるところに弘法こうぼう大師だいし伝説でんせつは生うまれ、弘法こうぼう大師だいし伝説でんせつの生うまれたところに弘法こうぼう大師だいし信仰しんこうは、より広ひろく深ふかく、庶民しょみんの心こころに浸透しんとうしていきました。

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感想

 『あとかくしの雪ゆき』ほど、読よみ終おわった後あとに戸惑とまどってしまうお話はなしはありません。

 それは、「盗ぬすみ」が美談びだんのように取とり上あげられているからでしょう。

 もう少すこし掘ほり下さげていうと、「もてなし」という道徳的どうとくてきな価値かちと「盗ぬすみ」という反はん道徳的どうとくてきな価値かちが混在こんざいしているため、道徳性どうとくせいの強つよいお話はなしとなっているからでしょう。

 しかし、『あとかくしの雪ゆき』が、単たんに盗ぬすみは“良よい”か“悪わるい”かを問とうお話はなしではありません。

 なぜなら、確たしかに盗ぬすみという行為こういは、とても褒ほめられたものではありませんが、そう言いい切きれない何やか大切ていせつなことがあるのではないかということに、すぐに気きづかされるからです。

 それは、お婆ばあさんが単純たんじゅんに盗ぬすみを働はたらいたわけではないからです。

 葛藤かっとうの末すえ「しかたがない」と決心けっしんし、お婆ばあさんは盗ぬすみを働はたらいたのです。

 貧まずしさ故ゆえに、優やさしさ故ゆえに、悪わるいと知しりつつ盗ぬすみを働はたらかざるを得えなかったのです。

 そのすべてを見みていた神様かみさまは、盗ぬすみという行為こういのみならず、お婆ばあさんの心こころまでも包つつみ込こむように、雪ゆきを降ふらせたのでした。

 つまり、盗ぬすみを働はたらいたお婆ばあさんの足跡あしあとを、雪ゆきという自然しぜんに宿やどる神かみが消けしたということは、罪つみを犯おかしたお婆ばあさんの心こころとその行為こういに、次元じげんを超越ちょうえつした価値かちを認みとめたからに他ほかなりません。

 そして、旅人たびびとを大切たいせつにするという思想しそうを根底こんていにおき、旅人たびびととお婆ばあさんのお互たがいを思おもいやる心情しんじょうを描えがくことで、お婆ばあさんの心こころと盗ぬすみという行為こういを必然性しつぜんせいのあるものにしています。

 『あとかくしの雪ゆき』が、昔むかしから人々ひとびとの中なかで受うけとめられ、受うけ継つがれてきたのは、大切たいせつな心こころが、人ひとを育そだてる心こころにつながっていることを感かんじるからでしょう。

 改あらためて『あとかくしの雪ゆき』は、後世こうせいに語かたり伝つたえる必要ひつようがある物語ものがたりということを強つよく感かんじます。

まんが日本昔ばなし

『あとかくしの雪ゆき』
放送日: 昭和51年(1976年)09月04日
放送回: 第0079話(第0048回放送 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 杉田実
文芸: 境のぶひろ
美術: 内田好之
作画: 高橋信也
典型: 自己犠牲譚じこぎせいたん・弘法大師伝説こうぼうだいしでんせつ・由来譚ゆらいたん
地域: ある所

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 『あとかくしの雪ゆき』は「DVD-BOX第だい3集しゅう 第だい14巻かん」で観みることができます。

最後に

 今回こんかいは、『あとかくしの雪ゆき』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ、感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいしました。

 日本人にっぽんじんにとって最高さいこうの美徳びとくは、「自己じこ犠牲ぎせい」に他ほかなりません。その「自己じこ犠牲ぎせい」を題材だいざいにしたお話はなしが『あとかくしの雪ゆき』です。ぜひ触ふれてみてください!

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