昔話『鶴柿』のあらすじ・内容解説・感想
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 人間にんげんによって苦難くなんすくわれたツルが、人間にんげんおんがえしをするという、ツルと人間にんげんとのあたたかい交流こうりゅうえがいたおはなしが『鶴柿つるがき』です。

 今回こんかいは、『鶴柿つるがき』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ感想かんそうなどをご紹介しょうかいします!

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概要

 本州ほんしゅう唯一ゆいいつのナベヅルの越冬えっとうである山口県やまぐちけん周南市しゅうなんし八代やしろ地区ちくには、ツルとさとひとたちとのあたたかい交流こうりゅうつたえるおはなし数多かずおおのこされています。

 『鶴柿つるがき』もそのひとつです。

 『つるおんがえし』と同様どうように、人間にんげんによって苦難くなんすくわれたツルが、人間にんげんおんがえしをすることを主題しゅだいにしたおはなしです。

 ところで、周南市しゅうなんし八代やしろ地区ちくでは、「かきがきにすると、かきたねがすべてえてなくなる」という不思議ふしぎ現象げんしょうこるそうです。

 『鶴柿つるがき』は、八代やしろ地区ちくでは、なぜがきたねがすべてえるようになったのか、その由来ゆらいつたえるおはなしでもあります。

あらすじ

 むかしむかし、あるとしあきのこと、つる親子おやこそらたかんでおりました。

 子鶴こづるは、ながたびつかれから病気びょうきとなり、すっかりよわっていました。

 親鶴おやづるは、なにどもにべさせるものはないかとさがしていると、おかうえいっぽんかきつけました。

 かきには、あかじゅくして美味おいしそうなかきがなっていました。

 親鶴おやづるは、このかき子鶴こづるべさせようとおもいました。

 ところが、つるは、そのおおきなからだながくてほそあし邪魔じゃまをして、かきえだまることができませんでした。

 仕方しかたなく、つるかきしたりて、うらめしそうにかき見上みあげていると、いちのカラスがんできました。

 カラスは、かきえだまると、早速さっそくれたかき美味おいしそうにはじめました。

 それをていた親鶴おやづるは、
 「どもにべさせたいので、わたしにもひとれたかきってください」
とカラスにたのみました。

 しばらく、カラスは意地いじわるそうに、親鶴おやづるほうながめておりましたが、
 「ってやってもいいけど、おまえさんは器量きりょうよしだから、よくれたかきでは、きれいな着物きものよごれてしまうので、これでよかろう」
って、カラスはまだれていない、あおくてかたかきって親鶴おやづるげました。

 「カラスさん、もうわけありませんが、どもにべさせるので、もっとれたかきをおねがいします」
丁寧ていねいにおねがいしました。

 しかし、カラスはらぬかおで、
 「そうか、それならちょっとっていろ」
って、自分じぶんだけよくれた美味おいしいかきべ、たねやヘタをパラパラとしたとしました。

 いつまでたってもカラスは意地いじわるをするばかりで、れたかきってくれそうもありませんでした。

 それでも親鶴おやづるは、どもにれたかきべさせたい一心いっしんで、何度なんどもカラスにおねがいをしたのでした。

 すると、カラスははらてて、
 「それなら、おまえさんがきなものをればいいじゃないか」
って、かたかき親鶴おやづるあたまうえにボトリととしました。

 かきのそばで、親鶴おやづるとカラスのやりとりの一部いちぶ始終しじゅうていた、一人ひとりおんながおりました。

 親鶴おやづる可哀かわいそうおもったおんなは、はたけ仕事しごとをしているおっとうをいそいでびにいきました。

 「おっとう、はやはやく!あのカラスがつる意地いじわるばかりするんだよ」
 「よしかった!いま、カラスをぱらってやるからな」

 そうって、おっとうはくわまわしながら、
 「こりゃ、カラス!あっちへけ!」
とカラスにいました。

 それでも、カラスはらぬかおなので、おっとうはかきのぼり、カラスがまっているえださぶりました。

 「こりゃ、カラス!あっちへけ!」
いながら、おっとうがえださぶるので、ついにカラスはどこかへんでいきました。

 カラスをぱらったおっとうは、かきふたみっつもいで、
 「さあ、これをおべ。よくれていて美味おいしいぞ」
って、つるわたしました。

 クルー、クルー
 クルー、クルー

 つるは、何度なんど何度なんどもおれいいました。

 そして、親鶴おやづるは、あかじゅくしたかきくちにくわえると、子鶴こづるもとっていきました。

 それから、しばらくった、あるさむのことでした。つるかきわたした、あのお百姓ひゃくしょうさんのいえでは、大変たいへんなことがこっていました。

 がきべたおんなが、かきたねのどまらせてくるしんでいました。

 「お医者いしゃさまとおいし、どうしたらいいものか」
と、おっとうはこまっていました。

 おっとうは、おんないて、ごろより信仰しんこうする天神てんじんさまたすけをもとめて、おまいりにかけようとしたとき戸口とぐちたたおとこえてきました。

 「はて、だれじゃ」
いながら、おっとうがとびらけると、いちつる戸口とぐちっていました。
 「わたしは、先日せんじつかきっていただいたつるです。今度こんどわたしおんがえしをするばんです」
つるは、おっとうにいました。

 いえなかはいると、つるおんな枕元まくらもとかいました。

 そして、つるは、ながいクチバシをおんなくちなかむと、のどまったかきたね上手じょうずしました。

 しばらくして、おんな意識いしきもどしました。

 「あっ!がついたぞ!よかった、よかった。ありがとう」
とおっとうは、つる何度なんど何度なんどもおれいいました

 つるとのわかぎわ
 「八代やしろかき美味おいしいんじゃが、たねおおくてしょうがない。たねさえなければ、周防すおういちなんじゃが」
何気なにげなく、おっとうはいました。

 つるは、それをくともなくいていましたが、やがてそらたかっていきました。

 つるは、てんのぼって、神様かみさまいままでのことをはなしました。

 神様かみさまは、つる八代やしろひとたちからやさしくされたことを大変たいへんよろこびました。

 それからだそうです。八代やしろかきは、にあるうちはたねがあっても、がきにすると、どういうわけか、たねがすっかりえてなくなってしまうようになりました。

 そうして八代やしろでは、したかきのことを「がき」とも「るしがき」ともわず、つるおんがえしとかんがえ、「鶴柿つるがき」とぶようになったそうです。

解説

 山口県やまぐちけん周南市しゅうなんし八代やしろ地区ちくには、10がつ下旬げじゅんになると、とおくシベリアから、おもにナベヅルが越冬えっとうのためわたってくる、本州ほんしゅう唯一ゆいいつのツルの渡来とらいです。

 近代きんだい日本にっぽんで、地域ちいきさきけ、明治めいじ20ねん(1887ねん)からツルの保護ほごはじめた、「近代きんだい日本にっぽん自然しぜん保護ほご制度せいど発祥はっしょう」です。

 「八代やしろのツルおよびその渡来とらい」として、八代やしろ地区ちく全域ぜんいきが、大正たいしょう10ねん(1921ねん)に天然てんねん記念物きねんぶつ指定していされ、その昭和しょうわ30ねん(1955ねん)にはくに特別とくべつ天然てんねん記念物きねんぶつ指定していされました。

 ちなみに、ナベヅルは、ツルもくツルツルぞく分類ぶんるいされる大型おおがた鳥類ちょうるいで、シベリア南東なんとうから中国ちゅうごく北東ほくとう繁殖はんしょくし、ふゆ日本にっぽんにやってくるわたどりです。

 全体的ぜんたいてき羽衣うい灰黒かいこくしょくをしていて、くび半分はんぶんからうえはくしょくをしています。頭頂とうちょう羽毛うもうがなくあか皮膚ひふ露出ろしゅつしています。

 身長しんちょうは90~100cm、翼開長よくかいちょうは160~180cm、翼長よくちょうは45~50cm、くちばしは10cm程度ていどで、体重たいじゅうは3.5~4kgほどです。からだおおきいですが、ツルの仲間なかまとしては中形ちゅうがたです。

 成鳥せいちょう幼鳥ようちょうおおきさはほとんどわりませんが、幼鳥ようちょう全体ぜんたいすこちゃいろがかったいろで、とくくびからうえちゃいろ産毛うぶげのこっています。

 ナベヅルは、成鳥せいちょうになりオスとメスがツガイをつくると、どちらかがぬまでずっとそのツガイを維持いじします。そして、家族かぞく単位たんい生活せいかつし、若鳥わかどり繁殖はんしょく年齢ねんれいになるまで、たくさんの仲間なかまたちとれをつくって行動こうどうします。

感想

 お釈迦しゃかさまは、「一切いっさい皆苦かいく」という真理しんりいています。

 「一切いっさい皆苦かいく」は、「わたしたちの世界せかいは、自分じぶんおもどおりにならないことばかりである」という意味いみで、それをることから仏教ぶっきょうはじまります。

 つまり、やすらかにきるためには、「なにひとおもどおりになるものはない」という現実げんじつ出発しゅっぱつてんにして、自分じぶんなかつめて、くるしみやなやみを方法ほうほうさがすことです。

 そこで大切たいせつになるものが、なかのあらゆるものは一定いっていではなく、えず変化へんかつづけ、あらゆるものが影響えいきょうあた関係かんけいであり、つながっている相互そうご関係かんけいにあるということを理解りかいすることです。

 これを仏教ぶっきょうでは「無常むじょう」とびます。

 なかのあらゆるものが無常むじょうであるとれば、一期いちご一会いちえ出会であいいを大切たいせつにすることができますし、自分じぶん以外いがいのものにたいして慈悲じひこころってせっすることできるので、いまとうときることができます。

 『鶴柿つるがき』の物語ものがたり真髄しんずいは、あらゆるものはささえ、ささえられ、かされて存在そんざいしているとつたえたいのではないかとおもいます。

 つまり、“自分じぶんだけ”という独立どくりつした自我じがはどこにも存在そんざいすることはなく、すべてがあらゆる「えん」によってかされている存在そんざいということです。

 あらゆる現象げんしょう一喜いっき一憂いちゆうすることがなくなれば、こころ安定あんていした状態じょうたいになるので、結果けっかとしてしあわせにきることができるということです。

まんが日本昔ばなし

鶴柿つるがき
放送日: 昭和52年(1977年)04月23日
放送回: 第0132話(0081 Aパート)
語り: 常田富士男・(市原悦子)
出典: 『周防すおう長門ながと民話みんわ だい1しゅう ([新版しんぱん]日本にっぽん民話みんわ 29)』 松岡利夫 (未來社)
演出: 森田浩光
文芸: 沖島勲
美術: 下道一範
作画: 森田浩光
典型: 動物報恩譚どうぶつほうおんたん由来譚ゆらいたん
地域: 中国地方(山口県)

最後に

 今回こんかいは、『鶴柿つるがき』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ感想かんそうなどをご紹介しょうかいしました。

 なかのあらゆるものはつながっていて、ささえ、ささえられた相互そうご関係かんけいつ、「えん」によってかされている存在そんざいということを『鶴柿つるがき』はいています。ぜひれてみてください!

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