昔話『耳なし芳一』のあらすじ・内容解説・感想|おすすめ絵本
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 源平げんぺい合戦かっせん最後さいごである「壇ノ浦だんのうらたたかい」で入水にゅうすいした、おさな安徳天皇あんとくてんのうまつっている阿弥陀寺あみだじ(現在げんざい山口県やまぐちけん下関市しものせきし鎮座ちんざする赤間神宮あかまじんぐう)は、源平合戦でやぶれた平家へいけ一門いちもんを祀るつかがあることで有名ゆうめいです。そして、阿弥陀寺は盲目もうもく琵琶びわ法師ほうしみみなし芳一ほういち』の舞台ぶたいでもあります。

 今回こんかいは、『耳なし芳一』のあらすじと解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいします!

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概要

 『みみなし芳一ほういち』とは、盲目もうもく琵琶びわ法師ほうしである芳一ほういちが、怨霊おんりょうからのがれるために経文きょうもん全身ぜんしんしるし、なんのがれようとしますが、みみだけ経文を書きわすれられたため、怨霊に耳だけきちぎられるという怪談かいだんばなしです。

 芳一が実在じつざいした人物じんぶつなのかどうかは不明ふめいです。しかし、一説いっせつには、南北朝なんぼくちょう時代じだい(1337~1392ねん)の平家へいけ琵琶びわ演奏家えんそうかである明石覚一あかしかくいちではないかとわれています。

 『耳なし芳一』は、明治めいじ時代じだい文豪ぶんごうであるラフカディオ・ハーンこと小泉八雲こいずみやくも怪奇かいき文学ぶんがく作品集さくひんしゅう怪談かいだん』にげられたことにより日本中にっぽんじゅうひろられるようになりました。

 絵本えほんみみなし芳一ほういち』は小学館しょうがっかんから出版しゅっぱんされています。小泉八雲こいずみやくも名作めいさくこう勝負しょうぶした絵巻物えまきもののような絵本です。さいとうよしみさんによる迫力はくりょくある中心ちゅうしんで、それに船木裕ふなきひろしさんのぶん独特どくとくのリズムにより、こわさというより魔力まりょくかんじます。日本人にっぽんじんこころ次世代じせだいつたえる絵本です。

 絵本えほんみみなしほういち (せかい童話どうわ図書館としょかん 23)』は、いずみ書房しょぼうから出版しゅっぱんされています。怪談話かいだんばなしは、おさないおさんにはこわいおはなしなのかもしれませんが、ひらのていいちさんの迫力はくりょくのあると、しぶきけんたろうさんのぶんにより、最後さいごまでえたあとには、幼いお子さんでもこのお話のことを大好だいすきになることでしょう。怖さをえたよろこびを体験たいけんすることができる絵本です。

 『みみなし芳一ほういち雪女ゆきおんな ([新装版しんそうばん]八雲やくも 怪談かいだん傑作集けっさくしゅう)』は講談社こうだんしゃから出版しゅっぱんされています。すこふる言葉ことばづかいですが、小学校しょうがっこう高学年こうがくねん以上いじょうならば十分じゅうぶんむことができます。小泉八雲こいずみやくもの『怪談かいだん』20ぺんうつくしい文章ぶんしょうあたらしいどもたちにつたえています。

あらすじ

 むかしむかし、赤間関あかまがせき阿弥陀寺あみだじというおてらに、芳一ほういちという盲目もうもく琵琶法師びわほうしんでいました。

 芳一の琵琶びわがたりは、少年しょうねんころから師匠ししょうをしのぐ腕前うでまえでした。そのなかでも芳一は『平家物語へいけものがたり』の弾き語りが得意とくいで、「壇ノ浦だんのうらたたかい」のうたうたうと「鬼神きじんなみだながす」とわれるほどの名手めいしゅでした。

 あるなつよる和尚おしょう留守るすときに、芳一が琵琶の稽古けいこをしていると、裏門うらもんからちかづいてくる足音あしおとこえてきました。けれどもそれは和尚ではありませんでした。
 そして、
 「芳一!」
ひくこえんだのでした。
 芳一はおびえながら、
 「は、はい。わたくしはえません。いったいどなたさまでございましょう」
たずねたのでした。
 すると声のぬしは、
 「わしは、主人しゅじん使つかいでまいった。が主人は高貴こうきなおかたで、おぬしの琵琶のかたりをいてみたいとおのぞみだ。さあ、屋敷やしき案内あんないしよう」
と言いました。

 芳一はそのもうしたがうことにしました。芳一がおとこの声のあとについていくとおおきな屋敷へとおされました。

 「芳一をつれて参ったぞ」
と男が声をかけると、衣擦きぬずれのおと、ささやく声があちらこちらから聞こえてきました。
 すると、おくほうから年老としおいたおんなの声で、
 「芳一、さあ壇ノ浦のはなしをきかせておくれ」
と言われました。
 「かしこまりました」
と芳一はこたえ、声をげて、はげしい海戦かいせんの歌を謡いました。芳一の琵琶の弾き語りを、みな熱心ねっしんり、語りが佳境かきょうになると、皆が激しくいたのでした。

 語りをえた芳一に、
 「なんと素晴すばらしい。今夜こんやからあと六日間むいかかん琵琶の弾き語りを聞かせてほしい。また、このことはだれにも言わないように」
と年老いた女に言われました。

 そして、芳一がお寺にかえったのは、もうがたちかころでした。

 約束通やくそくどおり、芳一はこの不思議ふしぎ出来事できごとを誰にも言わず、翌日よくじつも高貴なお方のところき琵琶の弾き語りをしました。

 ところが、和尚は、目の見えない芳一がごと無断むだんでお寺から一人ひとりかけ、明け方に帰ってくることに気付きづいて不審ふしんおもい、その理由りゆうを芳一にめましたが、芳一はだまったままでした。

 和尚は、お寺の男たちに芳一を見張みはるようめいじました。

 その夜、あめなか、芳一が出かけていきました。お寺の男たちは芳一のあといかけましたが、見失みうしなってしまいました。ところが、阿弥陀寺の墓地ぼちちかくをとおりかかると、大雨おおあめにもかかわらず、一心不乱いっしんふらんに琵琶をらす芳一の姿すがたつけたのでした。

 近づくとそこは安徳天皇あんとくてんのう墓前ぼぜんで、芳一はおそろしいほど無数むすう鬼火おにびかこまれて琵琶を掻き鳴らしていました。

 驚愕きょうがくしたお寺の男たちは強引ごういんに芳一をれ帰りました。

 和尚は芳一にこのばんの出来事をおしえ、けるようにとせまりました。事実じじつを聞かされ、和尚に問い詰められた芳一はとうとう事情じじょうけました。

 芳一が、平家へいけ一門いちもん邪悪じゃあく怨霊おんりょうかれていることをった和尚は、
 「芳一、このままではおまえいのちあぶない。だが、わしは今夜こんやも出かけなければならない。そのまえに、お前の身体中からだじゅうにおきょうこう。お経がお前をまもってくれるはずだ」
と言い、和尚は芳一をはだかにして、弟子でし僧侶そうりょとともに身体中の隅々すみずみまで般若心経はんにゃしんぎょうばれるお経を書きました。

 そして和尚は、
 「もしを呼ばれても、返事へんじをしてはいけない。うごいてもいけない。わしの言う通りにしておけば、間違まちがいなく危険きけんは通りぎるであろう。しかし、もし声を出したり、すこしでも動いたりすれば、お前はきにされるだろう」
と芳一にかたく言いふくめたのでした。

 そのばん、芳一が一人ですわっていると、いつものように怨霊が芳一をむかえにました。けれども、お経の書かれた芳一の身体からだは、怨霊には見えません。

 「芳一、芳一、琵琶はあるが芳一はおらん。いったいどこにおるのだ」
当惑とうわくした怨霊は芳一をさがまわりました。

 芳一は和尚のもうしつけにしたがい、物音ものおとのひとつてず、じっとしていました。

 怨霊は芳一を探し回った挙句あげく写経しゃきょうわすれたみみのみが暗闇くらやみの中で見えました。
 「おや、これは芳一の耳ではないか。それではここへ来た証拠しょうこに、この耳をって帰るとしよう」
と怨霊は言い、芳一からその両耳りょうみみきちぎったのでした。

 それでも芳一は身動みうごひとつせず、声を出しませんでした。

 そして怨霊はそのままって行きました。

 明け方になり帰って来た和尚は、両耳を引きちぎられてだらけになり意識いしきのない芳一の姿におどろきました。

 芳一から昨夜さくや一部始終いちぶしじゅうを聞いた和尚は、はじめて、芳一の身体に般若心経を写経したさいに、弟子の僧侶がお経を耳にだけ書きらしてしまったことに気付き、芳一に、そのことを見落みおとしてしまったみずからふかびたのでした。

 その、平家一門の邪悪な怨霊は二度にどあらわれず、芳一の耳のきず無事ぶじなおりました。

 この奇妙きみょうな出来事は世間せけんひろわたり、芳一の琵琶の腕前うでまえ評判ひょうばんになり、人々ひとびとえずお寺にやってくるようになりました。

 そうして芳一は、いつしか「耳なし芳一」と呼ばれるようになりました。

解説

 源義経みなもとのよしつねひきいる源氏軍げんじぐんめられて、壇ノ浦だんのうらうみしず平家へいけ滅亡めつぼうします。おさな安徳天皇あんとくてんのうせながら入水にゅうすいした平清盛たいらのきよもり正室せいしつである二位尼にいのあま(平時子たいらのときこ)をはじめ、安徳天皇のはは建礼門院けんれいもんいん( 平徳子たいらのとくし)など、平家のおんなたちが次々つぎつぎと入水していったというその情景じょうけいは、なみだなくしてはかたることができません。

 それをしるしたものが『平家物語へいけものがたり』です。

 そのかたとして日本にっぽんもっと有名ゆうめい琵琶法師びわほうしが、『みみなし芳一ほういち』の主人公しゅじんこうである盲目もうもく芳一ほういちではないでしょうか。

 山口県下関市やまぐちけんしものせき鎮座ちんざする赤間神宮あかまじんぐう境内けいだい宝物殿ほうもつでんおくには、「芳一堂ほういちどう」があります。

 山口県やまぐちけん芸術げいじゅつ奨励賞しょうれいしょう受賞じゅしょうしたこともある彫刻家ちょうこくか押田政夫おしだまさお(山口県防府市やまぐちけんほうふし出身しゅっしん)による芳一像ほういちぞうは、昭和しょうわ32ねん(1957年)に舞台ぶたいとなった赤間神宮あかまじんぐうまつられました。

 芳一堂はちいさなおどうですが、小泉八雲こいずみやくもの『怪談かいだん』でられていることもあり、赤間神宮のなかでも人気にんき場所ばしょです。

 また、赤間神宮は、源平合戦げんぺいかっせんやぶれた平家へいけ一門いちもんまつつかがあることでも有名ゆうめいです。

 みみきちぎられた芳一ですが、そのは平家の怨霊おんりょうたたられることもなく、琵琶びわ名手めいしゅとしてなに不自由ふじゆうなくらしたと物語ものがたりめくくります。

 その結末けつまつにひと安心あんしんしました。

 「祇園精舎ぎおんしょうじゃかねこえ」の有名ゆうめい一説いっせつからはじまる『平家物語へいけものがたり』は、日本人にっぽんじんならだれしも一度いちどんでみたいとおも物語ものがたりといわれています。『吉村昭よしむらあきら平家物語へいけものがたり』は、原文げんぶん雰囲気ふんいきのこしながらの現代語訳げんだいごやくでありながら、意外いがいなほどみやすいです。鎌倉時代かまくらじだいの日本人の感性かんせいをうかがいることができ、日本人の精神せいしん根源こんげんかんじることができます。

感想

 『みみなし芳一ほういち』の舞台ぶたいは、山口県下関市やまぐちけんしものせき鎮座ちんざする赤間神宮あかまじんぐう前述ぜんじゅつである阿弥陀寺あみだじです。

 そこに琵琶法師びわほうし芳一ほういちが、「壇ノ浦だんのうらたたかい」でうみしずんだ平家へいけ怨霊おんりょうたちにわれて、壇ノ浦の悲話ひわ琵琶びわをかきらしながらかたるところから物語ものがたりはじまります。

 毎夜まいよのように安徳天皇あんとくてんのう平家へいけ一門いちもんまつった墓所ぼしょへとかける芳一は、無数むすう鬼火おにびなかなにかにかれたように壇ノ浦の悲話を、琵琶をかき鳴らしながら一心不乱いっしんふらんに語りつづけます。

 これをった和尚おしょうが芳一のあんじてもどし、怨霊からえないようにするため、芳一の身体中からだじゅう般若心経はんにゃしんぎょう経文きょうもんしるしました。

 前夜同様ぜんやどうよう、芳一をむかえに怨霊がふたたおとずれますが、怨霊には琵琶が見えるだけで芳一の姿すがたは見えません。

 それでも、みみだけが見えたので、芳一の耳を強引ごういんきちぎり、そのります。

 これは、芳一の耳にだけ経文を書き記しれたことによりこりました。

 そして、芳一の耳のきずえ、怨霊もあらわれることもなくなり、物語ものがたりまくじます。

 「壇ノ浦の戦い」により、栄華えいがほこった平家は滅亡めつぼういたります。そのざまがあまりにも無残むざんだったことで、怨霊となってこの彷徨ほうこうすることになったと、一般的いっぱんてきにはとらえられています。

 しかし、壇ノ浦で戦いにまれて死出しでたびへとてられた幼帝ようていおんなたちは、その悲運ひうんを芳一の琵琶のがたりによってなぐさめてもらっていたのではないでしょうか。

 そうかんがえると、幼帝や女たちは、むしろ健気けなげではないでしょうか。

 芳一が耳を引きちぎられたことは悲運とはいうものの、それが怨霊となった平家一門の精一杯せいいっぱいの報復だったという気がしてなりません。

まんが日本昔ばなし

みみなし芳一ほういち
放送日: 昭和51年(1976年)07月10日
放送回: 第0067話(第0040回放送 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 杉田実
文芸: 吉田義昭
美術: 馬郡美保子
作画: 馬郡美保子
典型: 怪異譚かいいたん
地域: 中国地方(山口県)


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最後に

 今回こんかいは、『みみなし芳一ほういち』のあらすじと解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいしました。

 『みみなし芳一ほういち』は、壇ノ浦だんのうらうみしずんだ平家へいけ一門いちもんうらみが怨霊おんりょうとなり、琵琶法師びわほうし芳一ほういちたたったという物語ものがたりです。ぜひれてみてください!

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