昔話『大工と鬼六』のあらすじ・解説・感想｜おすすめ絵本

　『大工だいくと鬼六おにろく』は、認知度にんちどは低ひくいですが、ぞっとするような内容ないようで展開てんかいが面白おもしろい民話みんわです。そして、お話はなしの全体ぜんたいがとても謎なぞめいており、単一たんいつの解釈かいしゃくを許ゆるさない深ふかみがあります。

今回こんかいは、『大工と鬼六』のあらすじと解説かいせつ、感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいします！

概要

　『大工だいくと鬼六おにろく』は、東北とうほく地方ちほうに位置いちする岩手県いわてけん胆沢郡いさわぐん金ケ崎町かねがさきちょうに伝つたわる民話みんわです。

　大正 たいしょう6年ねん(1917年)に大日本図書だいにっぽんとしょより発行はっこうされた水田光みずたひかるの『お話はなしの実際じっさい』に「鬼おにの橋はし」の題だいで収録しゅうろくされたのが初出しょしゅつといわれています。

　昭和しょうわ6年ねん(1931年)に三元社さんげんしゃより発行はっこうされた佐々木喜善せがわたくおの『聴耳草紙ききみみぞうし』に「大工だいくと鬼六おにろく」の題だいで収録しゅうろくされたことで広ひろく知しられるようになりました。

　『大工と鬼六』は、北欧ほくおうに伝承でんしょうされる「オーラフ上人しょうにんの寺院じいん建立こんりゅう伝説でんせつ」を改作かいさくしたと水田光が『お話の実際』の中なかで明あかしています。
　たぶん、大正たいしょう時代じだいということもあるので、水田光は外国がいこくの民話をそのまま翻訳ほんやくしても日本人にっぽんじんが理解りかいすることは難むずかしいと考かんがえたのでしょう。そこで、舞台ぶたいや登場人物とうじょうじんぶつなどを日本風にっぽんふうに改作したのではないかと想像そうぞうします。

　福音館書店ふくいんかんしょてんより出版しゅっぱんされている再話さいわ: 松居直まついただし／絵え: 赤羽末吉あかばすえきちの絵本えほん『だいくとおにろく』は、絵巻物えまきものの表現ひょうげんを取とり入いれ、登場人物とうじょうじんぶつの心理状態しんりじょうたいを芝居仕立しばいじたてに表現ひょうげんした絵本えほんです。絵本の可能性かのうせいに挑戦ちょうせんした仕上しあがりとなっています。

　『したきりすずめ (日本にっぽんの昔話むかしばなし 2)』は福音館書店ふくいんかんしょてんから出版しゅっぱんされています。第だい2巻かんは初夏しょかのお話はなしを中心ちゅうしんに構成こうせいされていて、「したきりすずめ」をはじめ「田植たうええぎつね」や「大工だいくと鬼六おにろく」など、昔むかしながらの正統派せいとうは昔話むかしばなし集しゅうが59篇へん収録しゅうろくされています。方言ほうげんで書かかれた文章ぶんしょうは、リズムが良よくてとても読よみやすく、読よみ手ての想像そうぞうをかきたてます。昔話を通とおして、その時代じだいを知しる良よい機会きかいになることでしょう。

　現在げんざいは、筑摩ちくま書房しょぼうより出版しゅっぱんされている佐々木ささき喜善きぜん氏しの『聴耳ききみみ草紙ぞうし』には、いにしえの日本にっぽんに息いきづいていた不思議ふしぎな、愉快ゆかいな、奇想きそう天外てんがいな、あるいは怖こわい物語ものがたりがぎっしりと詰つまった、日本人にっぽんじんの心こころの故郷ふるさとともいうべき珠玉しゅぎょくの物語ものがたり集しゅうです。

あらすじ

　むかしむかし、あるところに、とても流ながれの速はやい川かわがありました。

　何度なんども橋はしを架かけましたが、その度たびに橋が流ながされてしまうので、村人むらびとたちは困こまり果はて、この辺あたりで一番いちばん名高なだかい大工だいくに橋をかけてもらうことにしました。
　大工は橋を架けることを引ひき受うけたものの、あまりに速い川の流れに心配しんぱいになっていました。
　大工が流れの速い川じっと眺ながめていると、流れの中なかから大おおきな鬼おにが現あらわれ、
　「目めん玉たまをよこせば立派りっぱな橋を架けてやる」
と大工に言いいました。

　次つぎの日ひ、大工が川へ行いくと、橋が半分はんぶんできあがていました。

　さらに次の日、川へ行ってみると、もうすでに立派な橋が完成かんせいしていました。
　そこに鬼が現れ、
　「さあ、目ん玉よこせ」
と大工に迫せまりました。
　大工が
　「待まってくれ！」
と頼たのみ、逃にげ出だすと、
　「それならば、オレの名前なまえを言い当あてたら、目ん玉を諦あきらめてやる」
と鬼が言いました。

　大工の逃げた先さきは山やまの奥深おくぶかい場所ばしょでした。すると、遠とおくから不思議ふしぎな子守こもり唄うたが聞きこえてきました。
　「早はやく寝ねた子こには　鬼六おにろくが　目ん玉もってやってくる」
　はっとした大工は、慌あわてて家いえに帰かえりました。

　次の日、大工が川へ行くと、鬼が現れて、
　「目ん玉をよこせ」
と言いました。
　大工は色々いろいろと当てずっぽうの名前を口くちにしますが、
　「なかなかオレの名前を言い当てられないな」
と鬼に笑わらわれながら言われたので、大工は最後さいごに、
　「お前の名前は鬼六だ！」
と大声おおごえで叫さけびました。
　すると鬼は嬉うれしそうに姿すがたを消けし、それっきり現れなくなりました。

　こうして、流れの速い川には立派な橋が架かりました。そして、橋架け名人めいじんである鬼六の架けた橋は、どんな大雨おおあめでも流されることはなかったそうです。

解説

　鬼おにや悪魔あくまなどの名前なまえを言いい当あてるというお話はなしは世界中せかいじゅうに存在そんざいします。

　最もっとも有名ゆうめいなお話は、ヤーコプとヴィルヘルムのグリム兄弟きょうだいが編纂へんさんしたドイツの『グリム童話どうわ』に収録しゅうろくされていて、日本にっぽんでは「がたがたの竹馬たけうまこぞう」と訳やくされることもある、悪魔が名前を言い当てられたことで滅ほろびる「ルンペンシュティルツヒェン」ではないでしょうか。

　古来こらいの日本を支配しはいし続つづけた思想しそうである陰陽道おんみょうどうの世界せかいでは、「名前はこの世よで一番いちばん短みじかい呪しゅ」とし、相手あいての名なを知しることができれば、その名で相手に呪のろいをかけたとの記録きろくがあります。

　このように、名前の神秘性しんぴせいを題材だいざいにしたお話は世界中に存在します。これは、対象たいしょうの名前を知れば相手を支配しはい、操あやつることができるという概念がいねんが込こめられているからでしょう。

　絵本えほん『グリムどうわ (母ははと子このおやすみまえの小ちいさな絵本えほん)』はナツメ社しゃから出版しゅっぱんされています。子こどもたちのさまざまな感情かんじょうを喚起かんきさせ、想像力そうぞうりょくを高たかめるお話はなしが、バラエティー豊ゆたかな挿絵さしえと共ともに収録しゅうろくされています。それぞれのお話からわかる教訓きょうくんや読よみ聞きかせのポイントも解説かいせつされています。読んだ日ひを記入きにゅうする欄らんもあります。

感想

　外国がいこく由来ゆらいだからでしょうか、『大工だいくと鬼六おにろく』は、多おおくの謎なぞが含ふくまれた民話みんわです。

　その中なかでも特とくに気きになる謎なぞが一点いってんあります。

　それは、「なぜ鬼おには大工だいくに自分じぶんの名前なまえを言いい当あてる機会きかいを与あたえたのか」という点てんです。
　鬼はその場ばで大工の目めん玉たまを奪うばえばいいのに、わざわざ自分の名前を考かんがえる時間じかんを与えるため、その場から大工を逃にがします。そのおかげで、逃げた先さきの山奥やまおくで大工は子守こもり唄うたを耳みみにして、鬼に関かんする重大じゅうだいな情報じょうほうを入手にゅうしゅします。

　それらを勘案かんあんすると、一ひとつの疑問ぎもんが浮うかびます。

　「ひょっとして鬼は名前を言い当てて欲ほしかったのではないか」と言うことです。

　そのように考えると、このお話はなしに登場とうじょうする「鬼」は、「流ながれの速はやい川かわ」を象徴化しょうちょうかしたものと捉とらえることができます。
　そして、「目ん玉」は「命いのち」で「名前」は「自然しぜんの本質ほんしつ」と置おき換かえることができます。

　つまり、『大工と鬼六』が伝つたえたいことは、自然の本質を理解りかいしたことで、川の流れを克服こくふくし、命を落おとすことなく無事ぶじに生活せいかつできるようになったということです。

まんが日本昔ばなし

『大工だいくと鬼六おにろく』
放送日: 昭和51年(1976年)04月10日
放送回: 第0048話(第0027回放送 Bパート)
語り: 市原悦子･(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 小華和ためお
文芸: 沖島勲
美術: 古谷彰
作画: 川島明
典型: 奇譚きたん
地域: 東北地方(岩手県)

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最後に

　今回こんかいは、『大工だいくと鬼六おにろく』のあらすじと解説かいせつ、感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいしました。

　昔むかしばなしは、釈然しゃくぜんとしないところに面白おもしろみがあると思おもっています。『大工と鬼六』もそのような民話みんわなので、ぜひ触ふれてみてください！