昔話『天狗の羽うちわ』のあらすじ・内容解説・感想|おすすめ絵本
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 天狗てんぐやまかみとして、古来こらい日本にっぽんでは信仰しんこう対象たいしょうとなってきました。奥深おくぶかい山にみ、きびしい修行しゅぎょうかさねる修験者しゅげんじゃのようにえがかれることがおおい天狗ですが、『天狗てんぐうちわ』に登場とうじょうする天狗は、ちょっとけていて、ずるがしこ人間にんげん簡単かんたんだまされてしまうという、ちょっぴり可愛かわいい天狗です。

 今回こんかいは、『天狗の羽うちわ』のあらすじと解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいします!

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概要

 『天狗てんぐうちわ』あるような、天狗てんぐの“うちわ”を使つかってはなながびる民話みんわは、東北とうほく地方ちほう位置いちする秋田県あきたけん福島県ふくしまけんなど日本にっぽん各地かくち類話るいわ存在そんざいします。

 いいになって、自慢じまんしたり、得意とくいになったり、うぬぼれたりすることを、「天狗てんぐになる」とか「はなたかい」とか表現ひょうげんすることがあります。

 『天狗の羽うちわ』は、主人公しゅじんこうが天狗の“羽うちわ”を使ってはなび、まさに天狗のようになります。

 ひととしてのみちはずさないためのいましめが題材だいざいとなっているおはなしです。

 絵本えほんてんぐの うちわ (昔話むかしばなし絵本えほん)』はひかりのくにから出版しゅっぱんされています。人間にんげんひそぜんあくが、どもにかりやすくえがかれています。たとえ要領ようりょうがよいとしても、わるおこないをすればわるむくいがあるということをおしえている絵本です。

 絵本えほんてんぐのはうちわ (日本にっぽん民話みんわえほん)』は教育画劇きょういくがげきから出版しゅっぱんされています。香山美子こうやまよしこさんによる主人公しゅじんこうおおらかな性格せいかくとしたぶんと、一見いっけんざつにもえる長新太ちょうしんたさんの自由じゆうにのびのびとしたにより、むものすべてが主人公そのものにおもえてくる絵本です。

 『さるかにかっせん (日本にっぽん昔話むかしばなし 4)』は福音館書店ふくいんかんしょてんから出版しゅっぱんされています。小澤俊夫おざわとしおさん特有とくゆう方言ほうげんまじえたかた口調くちょうぶん擬音ぎおん赤羽末吉あかばすえきちさんのがぴったりかさなり、かせに最適さいてきほんです。表題ひょうだいの「さるかにかっせん」のほかに「天狗てんぐのうちわ」など、あきのおはなし中心ちゅうしんむかしながらの正統派せいとうは昔話むかしばなしが61ぺん収録しゅうろくされています。

 『もっと日本にっぽんのわらいばなし』はポプラしゃから出版しゅっぱんされています。『日本にっぽんのわらいばなし』『日本にっぽんのおばけばなし』につづ第三弾だいさんだんです。みじかいおはなしなかにたくさんのわらいがまっているので、読書どくしょ入門にゅうもんあさ音読おんどくにぴったりです。読書が苦手にがてなおさんにもおすすめの一冊いっさつです。「てんまでのびたはな」をふくめた、だれもがみやすく、たのしい日本にっぽんわらばなしが40ぺん収録しゅうろくされています。

あらすじ

 むかしむかし、あるところに、頓智とんちくというかずるがしこいというか、そんなおとこがおりました。

 ある、男は天狗てんぐりるとうわさされる、むらにあるおおきなかしかけました。

 大きな樫の木のっこで、男はサイコロをころがしては、
 「うわっ、江戸えどえる、きょうが見える、大阪おおさかが見える」
とおもしろそうに大声おおごえいました。

 それをいた天狗が、
 「わしにもサイコロをしてくれ」
と男に言いました。

 しかし、男はサイコロに一生懸命いっしょうけんめいです。その様子ようすを見ていた天狗は、サイコロがしくてたまりません。

 そこで天狗は、
 「なぁ、お前のサイコロとわしの“うちわ”を交換こうかんしないか」
と男に言いました。

 さらに、
 「このうちわであおぐと、はなたかくなったりひくくなったり出来できるぞ」
と天狗は、男の鼻をあおぎながら言いました。

 「鼻よ、高くなれ、高くなれ」
と天狗が言うと、男の鼻はグングンびて、こうのやまさりそうになりました。

 「うわっ、はやもともどしてくれ」
と男が言うと、天狗は、
 「わしのうちわとサイコロを交換するか」
と言うので、男は、
 「仕方しかたがない。交換するから、早く鼻を元に戻してくれ」
と言いました。

 こうして男は天狗のうちわをれると、げるようにいそいで村へかえっていきました。

 サイコロを手に入れた天狗は、
 「まずは、きょうみやこ見物けんぶつしようかな」
うれしそうに言いました。

 天狗はサイコロをころがしましたが、なにも見えません。

 「おや、へんだな、もう一度いちど
と言いながら、天狗は何度なんどもサイコロをころがしましたが、いくらやっても何も見えませんでした。天狗はようやく、男にだまされたことにがつきました。

 さて、男はいえくとあたりをって、ためしに、
 「鼻よ、高くなれ」
と言って、天狗のうちわで自分じぶんの鼻を仰いでみると、たしかに鼻は、みるみる高くなりました。ぎゃくもまたしかり。

 そして、男はいいことをおもいつきました。

 よるになると男はまちへ出かけて、長者ちょうじゃの家にしのみました。そして、ている長者の一人ひとりむすめの鼻を、天狗のうちわであおぎ、鼻を高くしてしまいました。

 夜がけると、長者の娘は自分の鼻を見てさけびました。鼻が伸びていて、とても人前ひとまえには出ることができません。長者の家では大騒おおさわぎとなっていました。

 男は頃合ころあいを見計みはからって、長者の家のまえで、
「鼻なおし、鼻直し」
大声おおごえをあげてあるきました。

 長者の家では、すぐに男をめ、
 「おれいなんでも言うことをくから、とにかく娘の鼻を直してくれ」
と頼みました。

 男は、長者の娘の前で天狗のうちわをり出し、
 「鼻よ、ひくくなれ、低くなれ」
となえながらうちわで娘の鼻をあおぎました。すると娘の鼻はたちまち元に戻りました。

 これにより、男は長者の娘の婿むことなりました。

 ある日、男は、
 「あついからあおげ」
よめに言っててしまいました。

 ところが、嫁が間違まちがって天狗の羽うちわであおいでしまったので、男の鼻がどんどん伸びていきました。嫁はおもしろくて、あおぎつづけました。そして、のびた鼻はとうとうてんにまでとどいてしまいました。

 天では、あまがわかるはし工事こうじをしていました。そこに鼻がきたので、はしらだとおもい鼻にくぎってしまいました。

 いたみできた男は、嫁にうちわを裏返うらがえしにしてあおがせますが、鼻は釘ではし固定こていされてしまったので、鼻がちぢむと男のほうそらへとかいあがっていき、やがて男は空にえてしまいました。

解説

 『天狗てんぐうちわ』の“うちわ”は、漢字かんじでは「羽団扇はうちわ」または「葉団扇はうちわ」と表記ひょうきされます。

 羽うちわはヤツデという植物しょくぶつで、大型おおがたおおきく掌状しょうじょうけた独特どくとくかたちをしていたり、天狗てんぐついといわれていたりすることから、別名べつめい「テングノハウチワ」ともばれています。

 ヤツデ=漢字かんじ表記ひょうきされることから、葉がやっつに裂けているとおもわれがちですが、実際じっさいななきゅう奇数きすうに裂けたものがほとんどです。

 ちなみに、鞍馬くらま天狗てんぐ有名ゆうめい京都府きょうとふ京都市きょうとし左京区さきょうく鞍馬寺くらまでらの天狗が持つ羽うちわは、十一じゅういちに裂けています。関東かんとう地方ちほうで天狗が有名な東京都とうきょうと八王子市はちおうじし高尾山たかおさん薬王院やくおういんの天狗が持つ羽うちわは、十一と十五じゅうごに裂けています。

 羽うちわは、天狗のなかでも、大天狗おおてんぐまたはちからつよい天狗が持つとされています。それは、羽うちわ自体じたい強力きょうりょく神通力じんつうりきゆうするからだといわれています。

 羽うちわ一本いっぽんで、飛行ひぎょう縮地しゅくち分身ぶんしん変身へんしん風雨ふうう火炎かえん人心じんしん折伏しゃくぶくなど、なんでも自由自在じゆうじざいだといわれます。そのなかでもとくおそれられたものが、天狗によってこる火事かじです。

 天狗の羽うちわは、あおり、火勢かせいつよめ、火を自在じざいあやつるために使つかわれるものとしんじられてきました。そのため、天狗をまつ寺社じしゃでは天狗が火事を起こさないよう、火伏ひぶせかみとして祀られていることがあります。

感想

 孔子こうし論語ろんごに「君子くんしやすらかにしておごらず。小人しょうじんは驕りて泰かならず」とあります。

 これは、「人間にんげん出来できているひとは、泰然たいぜんとして高慢こうまんではない。人間の出来ていない人は、威張いばらしてきがない」という意味いみです。

 孔子は、自分じぶんおこないにほこりと自信じしんがあれば、態度たいど自然しぜんと落ち着いたものになり、自分が目指めざそうとするものが、さらにたかいところにあれば、けっして驕ることなく謙虚けんきょな人間になれるといています。

 傲慢ごうまんひとを「天狗てんぐになる」とうように、『天狗てんぐうちわ』の主人公しゅじんこうはずるがしこく傲慢なおとこで、天狗の羽うちわによってはなながび、まさに天狗となり、最後さいごはそのおごたかぶりがいましめられる結果けっかとなりました。

 つまり、自分自身じぶんじしんを高めようとするのならば、日々ひび判断はんだん行為こういたして、人間としてただしいものであるかとか、驕り高ぶることがないかとか、つねに謙虚にきびしく反省はんせいし、みずからを戒めていかなければならないということを、『天狗の羽うちわ』はおしえているのでしょう。

まんが日本昔ばなし

天狗てんぐうちわ
放送日: 昭和51年(1976年)06月05日
放送回: 第0060話(第0035回放送 Bパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 小華和ためお
文芸: 沖島勲
美術: 竹森佳史
作画: 福田皖
典型: 因果応報譚いんがおうほうたん天狗譚てんぐたん
地域: 東北地方(福島県)


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最後に

 今回こんかいは、『天狗てんぐうちわ』のあらすじと解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいしました。

 先人せんじんたちは、色々いろいろかたちきていくうえでのおしえをかたってきました。『天狗の羽うちわ』もおごたかぶることをいましめ、因果いんがめぐることをつたえてきたおはなしです。ぜひれてみてください!

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