昔話『鬼からもらった力』のあらすじ・内容解説・感想

　ある日ひ、「おのぶ」という名なの娘むすめが、赤鬼あかおにから“力ちから”を授さずかったことで大力だいりき無双むそうとなります。その力ちからを使つかって、おのぶが数々かずかずの難問なんもんや困難こんなんに立たち向むかうお話はなしが『鬼おにからもらった力ちから』です。

　今回こんかいは、『鬼おにからもらった力ちから』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ、感想かんそうなどをご紹介しょうかいします！

概要

　『鬼おにからもらった力ちから』は、『赤あか鬼おにからもらった力ちから』とも呼よばれ、関東かんとう地方ちほうに位置いちする群馬県ぐんまけんの利根郡とねぐん川場村かわばむら立岩たついわにある清岸院せいがんいんという寺院じいんが舞台ぶたいのお話はなしです。清岸院せいがんいんは、天文てんぶん3年ねん(1534年ねん)に開基かいきした曹洞宗そうとうしゅうの寺院じいんで、ご本尊ほんぞんは釈迦しゃか牟尼仏むにぶつとされます。

　物語ものがたりに登場とうじょうする主人公しゅじんこうの“のぶ”が、毎日まいにちのように川かわまで運はこび洗濯せんたくをしたと伝つたわり、「おのぶの洗濯せんたく岩いわ」と呼よばれる大おおきな石いしが、現在げんざいも清岸院せいがんいんの境内けいだいに残のこされています。

　清岸院せいがんいんの裏山うらやまの立岩たついわ山頂さんちょうには、天長てんちょう4年ねん3月がつ(827年ねん)の草創そうそうと伝つたわり、川場村かわばむら指定してい重要じゅうよう文化財ぶんかざいの虚空蔵堂こくうぞうどうがあり、ご本尊ほんぞんの虚空蔵こくうぞう菩薩ぼさつは、弘法大師こうぼうだいしの諡号しごうで知しられる空海くうかいの御作ぎょさくと伝つたわります。

　室町むろまち時代じだいに創設そうせつされたといわれ、清岸院せいがんいんから立岩たついわ山頂さんちょうの虚空蔵堂こくうぞうどうまで続つづく456段だんにわたる石段いしだんの両側りょうがわには、亡なき者もののために追善ついぜん供養くようを修おさめる十三じゅうさん仏ぶつが安置あんちされ、仏ほとけへの信仰しんこうと慈悲じひを願ねがう村民そんみんの素朴そぼくな心こころを物語ものがたっています。

　虚空蔵堂こくうぞうどうも含ふくめた、広ひろい寺域じいきを有ゆうする清岸院せいがんいんは、自然しぜんに囲かこまれた眺望ちょうぼうの良よい場所ばしょにあります。樹齢じゅれい400年ねんを超こえるイトヒバがそびえるほか、春はるには1000本ぼんの桜さくらに彩いろどられ、7月がつ半なかばくらいまでは800本ぽんの紫陽花あじさいを楽たのしむことができ、一年いちねんを通つうじて目めを楽たのしませてくれます。

あらすじ

　むかしむかし、上州の川場村に清岸院というお寺がありました。

　清岸院は、周囲を山に囲まれ、後ろには、目がくらむような、恐ろしい岩がそそり立っておりました。

　清岸院には、和尚さんに拾われて、お寺で育った、おのぶという一人の女の子がおりました。

　おのぶは、クリクリとした目に、赤いほっぺのなかなか可愛い娘でした。

　おのぶが、七歳になったばかりのある日、いつものように、裏山に薪を拾いに行きました。

　ところが、夜でもないのに、辺りがどんどん薄暗くなり、山が急に暗くなりました。

　これには、
　「変じゃな、キツネにでも化かされたか」
と、おのぶもすっかり驚いていました。

　すると、強い風が吹き、地響きのような足音とともに、真っ暗な闇の中から、一匹の大きな赤鬼が現れました。

　普通の娘なら、驚いて腰を抜かすか気を失ってしまうところですが、おのぶは気の強い子なので、
　「うわあっ」
と叫びながら、赤鬼をにらみつけました。

　「ガァーッ」
と赤鬼が、おのぶに向かって脅してみせると、
　「うわあっ」
と、おのぶも負けずに大きな声を赤鬼に浴びせました。

　怯む様子もなく、赤鬼を睨みつけるおのぶに、赤鬼は思わず笑ってしまいました。

　そして、
　「気に入った。ワシの持っているこの力を、お前にくれてやろう」
と赤鬼は言って、おのぶの前にゴツい手を差し出しました。

　「ワシのこの手を両手でしっかり掴め」
と赤鬼が言うと、おのぶは言われた通り、赤鬼の手を両手で掴みました。

　すると不思議な事に、おのぶに赤鬼の力がグングンと伝わり、背丈がドンドンと伸び、両腕はムクムクと太くなり、力こぶがモリモリとできました。

　おのぶは、すっかり大きくなった自分の姿に驚いていました。

　こうして、この日を境に、おのぶは鬼のような力を持つ、百人力の大女になりました。

　おのぶは、大きくて重い洗濯石を、軽々と持ち上げ、頭に乗せると、楽々と運ぶようになりました。

　やがて、おのぶの怪力の噂は、村中に知れ渡りました。

　ある日、おのぶが川で洗濯をしていると、おのぶの噂を聞きつけた一人のお侍さんがやって来ました。

　「おい、小娘。お前、すごい力持ちだそうじゃないか。どうだ、オレといっちょ力比べをしないか」
とお侍さんが言ってきました。

　おのぶは、洗濯の手を止め、
　「いいよ。そんならお侍さん、この洗濯石を持ち上げてください」
と言いました。
　「なに、その石をじゃと。そんなものワケないわ」
とお侍さんは答えると、洗濯石に手をかけ、必死に力いっぱい持ち上げようとしましたが、洗濯石を持ち上げることはできませんでした。

　そうしたら、お侍さんが、
　「小娘め、ワシに恥をかかせたな。今度は、その洗濯物を絞る勝負をしよう」
と言うので、おのぶとお侍さんとの洗濯物の絞りっこ勝負が始まりました。

　お侍さんが、大きな布を力一杯絞りますが、五回ほど絞ったら、すぐに力尽きてしまいました。

　おのぶは、どんどんと洗濯物を絞り続け、あっという間に、布から水は一滴も出なくなりました。

　おのぶが、洗濯物を絞る勝負でも、お侍さんに勝ちました。

　そして、おのぶは、また重い洗濯石を片手でひょいと担ぐと、お侍さんの元を去っていきました。

　おのぶのもの凄い力を目の当たりにしたお侍さんは、
　「うひゃあ」
と言いながら、その場で腰を抜かしてしまいました。

　しかし、このお侍さん、実は本当のお侍さんではなく、近くの山に住む山賊の親分だったので、大変なことになりました。

　数日後、手下の山賊を大勢引き連れ、おのぶの住む清岸院に仕返しにやってきました。

　「お前たちは何者だ」
と、おのぶが叫ぶと、
　「やい小娘、この間は、よくもワシに恥をかかせたな。今日は、その仕返にきた。覚悟しろ」
と山賊の親分が叫びました。

　そんな事では怯まないが、おのぶでした。

　「お前たちなんかに負けるものか」
と叫びながら、おのぶは拳を空高く突き上げました。

　「かかれ～！」
と親分が号令をかけると、子分たちは次々とおのぶに向かって突き進みました。

　おのぶは、足場にしていた丸太を片手でひょいと持ち上げ、
　「それっ！」
と言いながら、山賊めがけて丸太を投げつけました。

　おのぶの投げた丸太は、次々と命中し、みるみるうちに山賊たちを撃退しました。

　山賊の親分は、無事なのが自分一人だけと気づくと、急に恐ろしくなり、
　「ひゃあ～」
と言って、その場から逃げ去りました。

　こうして、山賊たちを追っ払ったことで、おのぶはますます有名になりました。

　その後も、おのぶは、よく働き、いつまでも清岸院で暮らしたそうです。

　現在も清岸院には、「おのぶの洗濯石」と呼ばれる大きな石が残されていて、大人が三～四人がかりでも持ち上げることが出来ないそうです。

解説

　『鬼おにからもらった力ちから』は、『赤あか鬼おにからもらった力ちから』とも呼よばれている昔話むかしばなしですが、実じつは『赤あか鬼おにからもらった力ちから』には、おのぶの“その後ご”が描えがかれています。

　そこで、ここでは『鬼おにからもらった力ちから』では描えがかれなかった、おのぶの“その後ご”のあらすじをみていきましょう。

　おのぶが幼少ようしょうの頃ころ、力ちからを与あたえられた赤あか鬼おにから、まさかのプロポーズされるという展開てんかいと、最後さいごは力ちから比くらべの勝負しょうぶをするという結末けつまつには驚おどろきしかありません。

　ちなみに、清岸院せいがんいんには、「住持じゅうじである文鳳ぶんぽうの母ははの名なが『のぶ』である」との記録きろくが残のこされているので、『鬼おにからもらった力ちから』の主人公しゅじんこうである“おのぶ”は、実在じつざいの人物じんぶつであったと考かんがえられています。

感想

　群馬県ぐんまけんの名物めいぶつを意味いみする言葉ことばに、「かかあ天下でんかと空からっ風かぜ」というものがあります。

　「かかあ天下でんか」と聞きくと、家庭かていの物事ものごとを仕切しきり、男性だんせいを尻しりに敷しく、気きの強つよい女性じょせいを想像そうぞうしますが、群馬ぐんまでは明治めいじ時代じだいに栄さかえた絹きぬ産業さんぎょうが、女性じょせいに依存いぞんする部分ぶぶんが多おおかったことから、よく働はたらく妻つまに対たいして夫おっとが感謝かんしゃの意いを込こめて、「オレのかかあは天下一てんかいち」と言いったことに由来ゆらいします。

　つまり、「かかあ天下でんか」という言葉ことばには、女性じょせいを褒ほめ称たたえる意味いみ合あいが込こめられているということです。

　そして、「空からっ風かぜ」とは、群馬ぐんまで吹く冬の空からっ風かぜから、家庭かていを守まもる強つよい妻つまを表あらわした言葉ことばといわれています。

　「かかあ天下でんかと空からっ風かぜ」と聞きくと、群馬ぐんまでは、夫おっとを尻しりに敷しいて威張いばっている妻つまが多おおいと想像そうぞうしてしまいます。

　しかし、実際じっさいは、よく働はたらき家計かけいを支ささえる妻つまを褒ほめ称たたえる言葉ことばでした。

　『鬼おにからもらった力ちから』にも、そのような“群馬ぐんま気質きしつ”の要素ようそが残のこされており、力ちから強づよく活躍かつやくする女性じょせいが象徴的しょうちょうてきに描えがかれています。

まんが日本昔ばなし

『鬼おにからもらった力ちから』
放送日: 昭和52年(1977年)03月26日
放送回: 第0125話(0077 Aパート)
語り: 常田富士男･(市原悦子)
出典: 出典: 『上州じょうしゅうの民話みんわ 第だい1集しゅう ([新版しんぱん]日本にっぽんの民話みんわ 20)』 おのちゅうこう (未來社みらいしゃ)
演出: 久米工
文芸: 沖島勲
美術: サキスタジオ
作画: シンエイ動画
典型: 怪異譚かいいたん･鬼譚おにたん
地域: 関東地方(群馬県)

最後に

　今回こんかいは、『鬼おにからもらった力ちから』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ、感想かんそうなどをご紹介しょうかいしました。

　古来こらい、日本にっぽんでは、「鬼おには人間にんげんの禍福かふくを支配しはいする祖霊それい」と考かんがえられ、「祀まつられざる祖霊それい」とされてきました。つまり、鬼おには“悪あくの象徴しょうちょう”と捉とらえられてきました。しかし、神かみとして祀まつられている鬼おにも日本にっぽん各地かくちに存在そんざいし、民衆みんしゅうに福ふくをもたらす鬼おにもたくさん存在そんざいします。『鬼おにからもらった力ちから』に登場とうじょうする鬼おにも、福ふくをもたらした鬼おにとされています。ぜひ触ふれてみてください！