『龍の淵』は、お金になる“漆”を手に入れるため、兄弟で裏切り合い、対立する、厳しい内容のお話です。騙し合う、嘘をつく、お互いの行動を探り合うなど、欲に目が眩むと身を滅ぼすという、人間の欲の醜さを目の当たりにするお話です。
今回は、『龍の淵』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『龍の淵』は、宮崎県児湯郡西米良村小川地区に実在する「蛇淵」が舞台のお話です。
西米良村では『蛇淵の生うるし』という名 の民話で知られています。
『龍の淵』の伝説として伝わるこの民話は、島根県能義郡広瀬町(現在の島根県安来市)や福井県福井市に、ほぼ同じ内容の伝説が『頼太水』という民話として伝わることから、類話が日本各地に広く分布しているのではないかと考えられます。
また、劇作家の木下順二が昭和22年(1947年)に発表した、『龍の淵』とほぼ同じ内容の『木竜うるし』が、小学校の国語の教科書に採用されたことで、より親しまれ定着しました。
あらすじ
むかしむかし、あるところに漆取りの兄弟が住んでいました。
ある日 、兄が漆の木を探して山の中を歩いていると、気味の悪い淵に出ました。
兄はうっかり鉈を淵に落としてしまったので、潜って探していると、淵の底に良質な漆が溜まっているのを見つけました。
それを街へ持っていくと驚くほど高値で売れたので、その日から兄は人が変わったように怠け者になってしまいました。
兄は弟に淵の漆のことを秘密にしていましたが、ある日、兄の行動を怪しんだ弟が、兄の後をつけて淵の漆のことを知りました。
そして、弟も良質な淵の底の漆を街へ売りに行き、兄と同じように怠け者になってしまいました。
弟に淵の漆を知られたことがおもしろくなかった兄は、淵の底に木彫りの龍を沈めて弟に漆を取らせないようにしました。
翌日、淵に潜った弟は、木彫りの龍を本物と勘違いして逃げ帰りました。
それを見た兄は、これで漆を独り占めできると淵に潜ると、木彫りの龍が動き出して襲いかかってきました。
慌てて逃げましたが、自分で作った龍が動くはずがないと、もう一度潜ってみましたが、やはり龍が襲いかかってきました。
兄は何とか逃げ切ることができましたが、その後、龍は深い淵に戻ったまま二度と姿を現すことはありませんでした。
解説
漆は、「うるわし」や「うるおす」が語源といわれるように、大変に美しい塗料です。
日本の漆の歴史は古く、石器時代から接着剤として活用されてきました。縄文時代には、漆の樹液が塗料として用いられた土器や木の器、櫛や耳飾りといった装身具をみることができます。
漆は、ウルシの木から取れる樹液のことです。
日本では、「漆掻き」と呼ばれる方法で、ウルシの木の樹液を採取します。一本の木から採れる漆の量は、わずか200gです。樹液を採取するために15〜20年かけて木を育て、6月から10月までの5ヶ月間で漆を採り尽くし、採取したら枯れてしまうので、役目を終えた木は伐採されます。そして、切り株から出た芽を育てて、また同じ営みを繰り返していきます。
わずか200gを採るために約20年の歳月をかける漆は、「血の一滴」といわれるほど貴重なものとされてきました。
それだけに漆掻きは、職人の技が試される奥の深い仕事なのです。
感想
古代中国の老子という思想家が残した、「知足者富」という言葉をご存知ですか。
これは日本語の「足るを知る者は富む」の語源だといわれ、「満足することを知っている者は、たとえ貧しくても心が豊かであること」という意味です。
近年、世界中で人間自身が持つ“おかしさ”や“意地汚さ”が表面化しています。
日本と日本人が、そんな世界とどう向き合うべきかということを一言でいうならば、「足るを知る」ということではないでしょうか。
そして、「知足の心」がもたらす“感謝”と“謙虚さ”を基にした、他人を思いやる「利他の心」であるとも考えます。
老子の教えには、日本人気質の骨組みになっているものがいくつもありますが、謙虚さもそれに含まれているといっても過言ではないでしょう。
謙虚な気持ちがあれば、物事に敬意を感じずにはいられない感覚となります。
そうすると、満ち足りた気持ちになれる可能性が高くなり、色々な物事を吸収できる落ち着いた心境にもなれます。
物事に対して謙虚な気持ちで接することが習慣化すると、物事への感謝の気持ちが自然と湧いてきて、現状に対して満ち足りていると感じることが自然と増えてくるので、自分自身と調和でき、関わる人とも調和でき、物事がうまく運ぶようになります。
その結果、満足度の高い生き方ができることでしょう。
この『龍の淵』は、日本人が忘れずに持ち続けなければいけない、感謝と謙虚さの重要性を伝えているのでしょう。
まんが日本昔ばなし
『龍の淵』
放送日: 昭和51年(1976年) 01月24日
放送回: 第0031話(第0016回放送 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 小華和ためお
文芸: 沖島勲
美術: 阿部幸次・(青木稔)
作画: 金沢比呂司
典型: 龍蛇譚
地域: 九州地方(宮崎県)
『龍の淵』は「DVD-BOX第11集 第55巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『龍の淵』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
『龍の淵』は、日本人が忘れずに持ち続けなければいけない、“感謝”と“謙虚さ”の重要性を伝えるお話です。ぜひ触れてみてください!