人間が人生で経験し得る最もすばらしい人間関係は、愛に満ちた家族の中にあります。家族愛、親子愛、兄弟(姉妹)愛、永遠に変わらぬ家族の大切さを説いたお話が『お月さん金の鎖』です。
今回は、『お月さん金の鎖』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『お月さん金の鎖』は、東北地方から九州地方、さらに南西諸島まで日本各地に広く分布します。
特に、九州地方など日本列島の南部の地域に数多く似たお話が存在します。
あらすじには、その土地ごとに若干の差異がありますが、典型的な内容は、限りなく深い母親の愛情と兄弟愛を描いているため、心に哀しみが残ります。
絵本『天のかみさま金んつなください (こどものとも絵本)』は、福音館書店から出版されています。津谷タズ子さんによる東北なまりの文が、梶山俊夫さんの絵に引っ張られて、終始ハラハラドキドキの絵本です。三人兄弟の絆と親子の愛情があれば、どんな化け物にも負けないと説いている一冊です。 絵本『おそばのくきはなぜあかい (岩波の子どもの本)』は、岩波書店から出版されています。石井桃子さんの読みやすい文と、初山滋さんの美しい幻想的な絵による夢のある内容に、とにかく心が豊かになります。「おそばのくきはなぜあかい」の他、「おししのくびはなぜあかい」と「うみのみずはなぜからい」の“なぜ”にまつわる昔話が3篇収録されています。※山姥の流した血とは違う内容の由来話が収録されています
あらすじ
むかしむかし、あるところに、母親と太郎、次郎、三郎の三人の子どもが住んでいました。
母親は三人の子どもを大変に可愛がっていて、片時もそばを離れることはありませんでした。
ところが、ある日、どうしても母親が一人で出かけなければならないことが起きました。
母親は心配して、上の二人の子どもの太郎と次郎に向かって、
「お前たちは、十分に気をつけて、家を守るんですよ。お母さんがいない間は、誰が来ても戸を開けてはなりません。油断をすると、恐ろしい山姥がやってきますから」
と言って、一番下の子どもの三郎を託して出かけていきました。
山姥と聞いただけで、太郎と次郎はガタガタと恐怖に身を震わせました。
母親の出かけるのを見た山姥は、先ずは母親に襲いかかり喰ってしまいました。
山姥は、母親の着物を着て、母親に成りすますと、三人の子どもたちがいる家にやってきました。
しかし、戸がしっかりと閉まっていました。
「トントントン」
と家で留守番をしていた子どもたちに、戸をたたく音が聞こえてきました。
「誰ですか」
と家の中から太郎が尋ねると、
「お母さんだよ」
と外にいる山姥は答えました。
でも、太くてガラガラな荒い声だったので、
「嘘だ、嘘だ、お母さんの声はもっときれいで優しいぞ」
と太郎と次郎は言って、戸を開けませんでした。
仕方がないので、山姥は山に戻り、きれいな声のでる草を食べ、またやってきました。
「お母さんだよ。戸を開けておくれ」
その声が今度はきれいで優しかったので、太郎は少し戸を開けて、
「戸の隙間から手を入れて見せておくれ」
と用心して言いました。
山姥は戸の隙間から手を差し入れました。
すると、その手は黒くて毛むくじゃらでした。
「お母さんの手は、こんなにガサガサしていない。スベスベしていてきれいな手だ」
と言って、太郎は戸を閉めてしまいました。
またしても山姥は、子どもたちに、母親ではないことが知られてしまいました。
山姥は再び山へ戻ると、山芋を手に塗ってスベスベにして、またまた家で留守番をしている子どもたちのところへやってきました。
山姥は、きれいな声のでる草を食べているので、きれいな優しい声で、
「お母さんだよ。戸を開けておくれ」
と言いながら、山芋を塗ったスベスベした手を太郎と次郎に見せました。
声がきれいで優しく、手がスベスベしていたので、
「スベスベの手だ。本当のお母さんが帰ってきた」
と喜び、家の中にいた太郎と次郎は、すぐに戸を開けてしまいました。
まんまと山姥は、子どもたちのいる家の中へ入ることに成功しました。
山姥は、母親の着物を着て、母親に成りすましていたので、子どもたちはすっかり安心してしまい、いつものように馴れ馴れしく振る舞いました。
夜になって、山姥は、三人の子の一番下の三郎を抱き上げ、寝間へ入り寝てしまいました。
別の部屋で寝ていた上の二人の子どもの太郎と次郎は、カリカリと何かをかじる音が聞こえてきたので、夜中に目を覚ましました。
太郎と次郎が、
「お母さん、何を食べているの」
と聞くと、山姥は声づくりをして、
「とても美味しいものだよ。少しあげるから食べてみなさい」
と言って、一本の指を投げたのでした。
太郎と次郎は、それを見て驚きました。
それは、山姥が母親に成りすましていることが分かったからでした。
「あいつは山姥だ、三郎は喰われた」
と叫んで、二人は逃げ出しました。
夜が明ける頃、家の外に出た二人は、走りに走って川に出ました。しかし、橋がなく渡ることができないので、
「どうする、どうしよう」
と二人は言いながら、オドオド、キョロキョロしていたら、すぐ先に大きな一本の木があるのを見つけました。
二人はその木に登って身を隠しました。
追いかけてきた山姥は、川面に二人が写っているのを見つけまいた。
「そこにいたのか、もう逃さないぞ」
と言って、山姥は川の中に入っていきました。
それを木の上から見ていた二人は、おかしくて笑い出してしまいました。
笑い声に驚いた山姥が上を仰ぐと、探していた二人の子どもが、木の上に隠れていたのでした。
山姥は二人の子どもに、
「どうやってそんな高い木に登ったんだね」
と尋ねました。
子どもたちは、
「油を足に塗って登ったんだよ」
と答えました。
山姥は、その通りに油を足に塗って木に登ろうとしましたが、ツルツル滑ってどうしても登れませんでした。
何回やっても木に登れないので、ふうふうと山姥が肩で息をしている姿を見ると、ついおかしくなって、
「木にナタで切れ目をつければ登れるのに」
と次郎が言ってしまいました。
山姥はそれを聞くと、足に塗った油をとると、木にナタで切れ目をつけて登ってきました。
山姥はドンドンと木を登ってきて、木のてっぺんまで追い詰められた太郎と次郎は、
「お天道さま、お天道さま、どうか助けてください。天から金の鎖を下ろしてください」
と叫びました。
すると、天から金の綱がゾロゾロと下りてきました。
太郎と次郎は、それにぶら下がると、ズンズン天に引き上げられていきました。
間一髪のところで二人の子どもを捕え損ねた山姥は、残念がりながら、二人の子どもが行った通り天に向かって、
「鎖をよこせ」
と叫びました。
すると、今度は、天から腐った縄が下がってきました。
山姥は、それにぶら下がり天に登りかけましたが、途中でプッツリ切れ、蕎麦畑に落ちてしまいました。
蕎麦畑に落ちた山姥は、そこにあった石に頭を打ちつけて、そのまま死んでしまいました。
山姥の流した血で、蕎麦の茎が真っ赤に染まったので、今でも、蕎麦の茎は赤いといわれています。
そして、金の鎖で天に登り、助かった太郎と次郎は、やがて夜空に光り輝くお星さまになったのでした。
解説
『お月さん金の鎖』の昔話は、東北地方から九州地方、さらに南西諸島まで日本各地で広く語られています。
特に、九州地方など日本列島の南部の地域に数多く似たお話が存在します。
語られる地域によって、展開や細かい設定に違いがみられますが、おおむね筋立ては共通しています。
『お月さん金の鎖』は、怪談話の趣が強い内容ですが、その一方で、瀬戸内海に浮かぶ塩飽諸島の中心で香川県丸亀市に属する本島をはじめとして、中国・四国・九州地方では『蕎麦の茎は何故赤いかの話』という題で、やや赤みかがっている蕎麦の茎の色の由来話として語られています。
沖縄県の八重山列島にある石垣島などでは、『兄弟星』や『お月お星』という題で、「二人の兄弟が星になった」または「二人の兄弟の一人が月でもう一人が星になった」として、月や星の由来話として語られています。
さらには、九州地方の北方にある玄界灘に浮かぶ長崎県の対馬島などでは、『天道さま金の鎖』という題で、母親が蘇生する展開のお話が語られています。
また、「お月さまいくつ、十三七つ、まだ年や若いな」という歌詞で知られる、わらべうた『お月さまいくつ』の唄の由来としても語られることがあります。
それから、日本には、『お月さん金の鎖』と同じように、山姥から子どもが逃げる『三枚のお札』という有名な昔話があります。
この『三枚のお札』も日本各地で広く語られていますが、面白いことに『お月さん金の鎖』とは対照的に、似たお話は東北地方など日本列島の北部の地域に数多く存在しています。
感想
子どもが成長していく上で、家庭というのは大切な役割を担っています。
親は我が子の成長を最後まで見届けることはできません。
一人っ子の家庭であれば、友達の大切さを教えなければいけませんが、兄弟姉妹のいる家庭であるならば、兄弟(姉妹)愛を教えることがとても重要です。
兄弟(姉妹)愛は、血がつながっているから自然に生まれるものではありません。
我が子に対して親が、時間をかけ、育み、覚えるものです。
兄弟(姉妹)愛を育むためには、親が兄弟(姉妹)を比べることはせず、平等に愛することです。
それだけで子どもは安心します。
また、兄弟(姉妹)愛を育む際、年齢が一番上の子が下の子たちの面倒をみるようにする傾向がありますが、それよりも子どもはそれぞれが自立するよう方向づけることが望ましいです。
誰かに責任を押しつけてしまうと、他の子どもたちは依頼する癖がついてしまいます。
そして、年齢が一番上の子に責任が重くのしかかってしまいます。
もしくは、早く生まれただけなのに、「自分は偉い」とか「特権がある」とか、年齢が一番上の子が勘違いをするようになってしまうかもしれません。
もちろん、年齢が一番上の子が下の子たちの面倒をみることを否定しません。しかし、下の子たちが上の子を助けることだってあります。
つまり、兄弟(姉妹)はチームということです。
リーダーは、兄弟(姉妹)の中で、日々、場面場面で変わるということです。
愛情を素直に与えたり受け入れたりするものが兄弟(姉妹)の関係です。
そして、兄弟(姉妹)が、お互いに尊敬し合い、信頼し合い、助け合える関係を築くことこそが、我が子に親が残すことのできる最高の財産だと思います。
まんが日本昔ばなし
『お月さん金の鎖』
放送日: 昭和52年(1977年)03月19日
放送回: 第0124話(0076 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 芝山努
文芸: 沖島勲
美術: 芝山努
作画: 芝山努
典型: 逃竄譚・由来譚・妖怪譚・山姥譚
地域: ある所
『お月さん金の鎖』は「DVD-BOX第9集 第43巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『お月さん金の鎖』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
冒頭から母親が山姥に喰われてしまうという展開に驚かされ、結末でも天に昇った子どもたちが月や星になるという、恐ろしいだけではなく悲劇を感じるお話が『お月さん金の鎖』です。ぜひ触れてみてください!