昔話『屁ひり女房』のあらすじ・内容解説・感想|おすすめ絵本
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 嫁いできたお嫁さんは、器量が良くて働き者でした。しかし、お嫁さんには、人には言えない秘密がありました——『ひり女房にょうぼう』は、「屁」とも呼ばれる「おなら」を題材にしたお話です。おならが人の役に立ち、最後には大きな幸せをもたらします。

 今回こんかいは、『ひり女房にょうぼう』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいします!

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概要

へっこきあねさがよめにきて 『ひり女房にょうぼう』は、『屁ひり嫁』や『屁っぴり嫁』とも呼ばれ、東北地方に伝承されてきた、「おなら」にまつわる笑い話です。

 「おなら」などの下品な単語は、社会生活ではタブー視されている言葉です。

 でも、子どもはなぜかこういう言葉が大好きです。

 子どもが下品な言葉が大好きなのは、今も昔も変わりません。したがって、日本の昔話には「屁ひり嫁」という分類があり、内容には微妙な違いがみられますが、日本各地に『ひり女房にょうぼう』と似たようなお話が広く分布しています。

 もしかしたら、『屁ひり女房』は、子どもに排泄や性など人体についての教育を始める、はじめの一歩のお話だったのかもしれません。

 絵本えほんへっこきあねさがよめにきて (おはなし名作絵本 17)』は、ポプラしゃから出版しゅっぱんされています。とても絵が美しく、お嫁入りの様子や部屋の造り、着物の柄など、昔の日本の暮らしぶりが、太田大八さんによって丁寧に生き生きと描かれています。大川悦生さんによる文は、方言で語られているため少し難しく感じますが、趣がありリズミカルなので思いのほか読みやすいです。豪快な「おなら」が、ただただ面白く、笑いっぱなしの一冊です。

 絵本えほんへっこきあねさ (てのひらむかしばなし)』は、岩波いわなみ書店しょてんから出版しゅっぱんされています。手のひらサイズの絵本です。方言で語られる長谷川摂子さんの文は、リズムが良くて、特に屁の音の表現は最高に楽しいです。さらに、荒井良二さんが、絵の中に文字を入れるなどの工夫を凝らし、お話の面白さを10倍にしています。痛快な屁の音を表現した文とポップでとぼけた絵は、屁を題材にした絵本の金字塔です。

 絵本えほんへっこきよめどん (日本名作おはなし絵本)』は、小学館しょうがっかんから出版しゅっぱんされています。長谷川義史さんによる分かりやすい語り口調の文に、富安陽子さんによる可愛くて、明るくて、迫力満点の絵が、お話にぴったりです。終始笑いが絶えない、元気をもらえる一冊です。

 文庫ぶんこかもとりごんべえ (ゆかいな昔話むかしばなし50せん)』は、岩波いわなみ書店しょてんから出版しゅっぱんされています。かたりつがれた日本にっぽん各地かくちつたわるむかしばなしなかから、表題ひょうだいさくの「かもとりごんべえ」のほか「へやのこり」など、わらいをいざなうおかしなはなしえらんで50ぺん収載しゅうさいされています。

 『甲斐かい民話みんわ ([新版しんぱん]日本にっぽん民話みんわ 17)』は、未來社みらいしゃから出版しゅっぱんされています。ふゆやま小屋ごやばたでたのしまれた、くにづくりの物語ものがたり、笛吹川ふえふきがわ伝説でんせつ甲州こうしゅう商人しょうにん気質きしつあらわはなしなど、地域ちいきのつながりを大切たいせつにし、団結だんけつりょくつよいとされる甲州人こうしゅうじんのことがよくわかる、「ひりよめ」などの山々やまやまかこまれた甲州こうしゅう神秘しんぴてきうつくしい民話みんわが76ぺん郷土きょうどのわらべうたが収録しゅうろくされています。

あらすじ

 むかしむかし、ある村に、年老いた母親と息子が住んでおりました。

 ある日、息子が、隣村から嫁さんをもらうことになりました。

 この嫁さんは、器量好しで、朝から晩までよく働くことから、近所でも評判になりましました。その上、なかなか孝行な嫁さんで、年老いた母親も息子も、とても気に入っていました。

 ところが、しばらくすると青い顔になり、嫁さんの様子がおかしくなりました。

 「どうしたんだね」
と母親が心配して尋ねると、
 「屁がしたいけど、我慢しているんです」
と嫁さんが言いました。

 「それなら、屁をすればいい」
と優しく母親が促すと、
 「私が屁をすると大変なことになるから」
と嫁さんが言うので、
 「屁ぐらい誰でもするんだから、さっさと遠慮せずに出せばいい」
と母親は言いました。

 すると、嫁さんはニッコリ笑って、
 「お母さん、ありがとうございます。それならば遠慮なく屁をします。お母さんは、どこかにつかまっていてください」
と言うと、着物の裾をまくりました。

  ブーッ

 嫁さんは、驚くほど大きな屁をしました。

 そして、母親は、嫁さんの屁に吹き飛ばされて、向かいの大根畑へ飛ばされてしまいました。

 母親は大根畑から、
 「これはたまらん!ひとつ引き屁をしてくれ!」
と嫁さんに向かって叫びました。

 そう母親から言われたので、
 「えっこらしょ!」
と嫁さんは言って、尻をすぼめて、引き屁というものをしました。

 すると、母親は、その引き屁に吸い込まれて、今度は家に戻ってきました。

 「お母さん、大丈夫でしたか?そして、また屁が出そう!」
と嫁さんが言うので、それを聞いた母親は、必死に柱にしがみつきました。

  ブーッ!

 嫁さんの屁に吹き飛ばされて、またまた母親は、大根畑まで飛ばされてしまいました。

 ちょうどその時、その様子を野良仕事から帰ってきた旦那さんが見ていました。

 旦那さんは、カンカンに怒りながら、
 「これほど屁をする者は、うちに置くわけにはいかない。出て行ってくれ」
と嫁さんに向かって怒鳴りました。

 母親は、息子の怒りをやわらげようと、必死になってなだめましたが、息子は聞き入れませんでした。

 そして、旦那さんが、嫁さんを実家まで送っていくことになりました。

 嫁さんの荷物を背負いながら歩く旦那さんの後を、嫁さんは悲しみながら、とぼとぼと付いて歩いていました。

 しばらく歩くと、米俵をたくさん積んだ船が、風が止んだことで帆は垂れ下がり、押しても漕いでも動かず、港から出航できなくて困っていました。

 それを見た嫁さんは、
 「私なら屁ひとつで船を出せるよ」
と言うと、
 「屁で船が動いたら、ここにある米俵をいくつでもくれてやる」
と船頭たちが言い返しました。

 「本当に米俵をくれるんだな。それならば屁を出すよ」
と嫁さんは言うと、クルリと後ろを向いて、着物の裾をまくりました。

  ブーッ!

 もの凄い、見事な屁が出ました。

 船の帆は屁の風を受け、あっという間に沖へ出て行きました。

 ところが、船が沖に出て行ってしまったので、嫁さんは約束の米俵をもらうことができませんでした。

 そこで、今度は、尻をすぼめて、嫁さんは引き屁をしました。

 すると、あっという間に、船に積んであったたくさんの米俵が港に戻ってきました。

 そこから、嫁さんは米俵を三俵いただきました。

 これで嫁さんは、実家への土産ができました。

 「旦那さま、すいませんがこの米俵を背負ってください」
と嫁さんは旦那さんにお願いすると、またとぼとぼと歩き始めました。

 さらに道を進み、旦那さんと嫁さんは、峠に差し掛かりました。

 この峠を越えれば、嫁さんの実家なので、旦那さんとは別れなければなりませんでした。

 峠を上りながら、嫁さんはだんだんと悲しい気持ちになっていきました。

 そんな時、柿の実がいっぱいなっている、大きな一本の柿の木が嫁さんの目に入りました。

 その柿の木の下では、反物売りらしい男が、馬の背に乗って柿の実を取ろうとしていました。しかし、なかなか手が届かず、柿の実が取れなくて、男は困っていました。

 それを見た嫁さんは、
 「私なら屁ひとつで柿の実を落とせるよ」
と言うと、
 「屁で柿の実が落ちたら、ここにある反物を全部と馬をくれてやる」
と男は言い返しました。

 「本当にくれるんだな。それならば屁を出すよ」
と嫁さんは言うと、クルリと後ろを向いて、着物の裾をまくりました。

  ブーッ!

 見事な屁が出たのと同時に、柿の実が一つ残らず木から落ちました。

 約束通り、嫁さんは、男から反物と馬をもらいました。

 「旦那さま、すいませんが、米俵と反物を馬に載せたら、馬を引いてください」
と嫁さんは旦那さんにお願いすると、またとぼとぼと歩き始めました。

 旦那さんは、とぼとぼと歩く嫁さんを見ていたら、とても愛おしく思えてきました。

 そして、旦那さんは嫁さんに向かって、
 「こんな宝嫁を、実家に帰らせるのはもったいない」
と言い、嫁さんと一緒に家へ引き返すことにしました。

 嫁さんは大変に喜び、
 「とっておきを残しているんだ」
と旦那さんに伝えると、クルリと後ろを向いて、着物の裾をまくりました。

 「お前、まさか」
と旦那さんが嫁さんに言ったのも束の間、もう手をくれでした。

  ブーッ!

 特別に大きな屁が出ました。

 旦那さんは、山を越え野を越え川を越え、自分の家まで空を飛んで帰ってきました。

 縁側で茶を飲んでいた母親は、息子が空から飛んできたので、びっくりしました。

 嫁さんは、米俵と反物を載せた馬を引いて、後から家に帰ってきました。

 母親は大変に喜び、
 「嫁さんがいつでも好きなだけ屁ができるよう、庭に『屁の家(部屋)』をつくってあげなさい」
と息子に言いました。

 それからというもの、親子三人は、いつまでも幸せに暮らしたそうです。

解説

 物を吹っ飛ばすほど、大きな「屁」をしてしまうお嫁さんには驚かされますが、「引き屁」をすると、吹っ飛ばした物が戻ってくるっていう発想は、奇想天外すぎです。

 ちなみに、引き屁とは、尻の穴をすぼめて掃除機みたいに、物を一気に吸い込む行為のことです。

 さて、日本の昔話には「屁ひり嫁」という分類があり、『屁ひり女房』のお話は日本各地にお話が広く分布しています。『屁ひり女房』のような、いったん離縁を言い渡されたお嫁さんが、次第に重宝され、最後には復縁するという内容が一般的ですが、復縁しない結末を迎えるお話もあります。

 また、お嫁さんは離縁されたまま、嫁ぎ先には戻れませんが、屁による活躍によって、お殿様より嫁ぎ先だった家の隣に立派な家を建ててもらうという、ちょっと不思議な結末を迎えるお話もあります。

感想

 先天的に並外れた特殊能力を持つ女性が、結婚した相手から離縁を言い渡されたものの、「これが私の一番の魅力」と言わんばかりに、特殊能力を存分に発揮し、活躍して、最後は復縁するという内容は、よくみられる昔話とはひと味違っていて、興味を惹かれます。

 それは、『ひり女房にょうぼう』には、現代にも通ずる共通点が見られるからでしょう。

 真剣に頑張っている女性の姿というものは、多くの人の心を強く揺さぶり、魅力的に見えるものです。

 特に男性ならば、一生懸命頑張る女性に心惹かれ、恋心を抱くこともあるでしょう。

 “屁”は、人に笑われるような欠点ですが、威力が並外れていたことから、個人が持つ特殊能力として、それを活かしながら頑張る女性を応援するのと同時に、女性に生きる勇気も与えているように感じます。

 健康で明るく、充実した日々を自立して、女性が生涯を通じて過ごせるよう、応援する物語が『ひり女房にょうぼう』です。

まんが日本昔ばなし

ひり女房にょうぼう
放送日: 昭和52年(1977年)07月16日
放送回: 第0150話(0093 Aパート)
語り: 常田富士男・(市原悦子)
出典: 表記なし
演出: 高橋良輔
文芸: 沖島勲
美術: 本田幸雄
作画: 岩崎治彦
典型: 笑話わらいばなし
地域: 東北地方

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最後に

 今回こんかいは、『ひり女房にょうぼう』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいしました。

 人間の体について知ることは、自分の体を大事にすることにつながります。その肯定感は、子どもの心の発育のために欠かせない要素です。子どもが大好きな「おなら」などの下品な言葉に対して、正しい知識を身につけるためにも、日頃から、『ひり女房にょうぼう』のようなお話を親子で一緒に見て過ごすことが重要です。ぜひれてみてください!

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