昔話『ねずみ経』のあらすじ・内容解説・感想|おすすめ絵本
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 『ねずみきょう』は、おきょうらないおぼうさんが、ネズミのうごきをながら、「おんちょろちょろ云々うんぬん」とおもいつきで“でたらめなおきょう”をおばあさんにおしえます。おばあさんがそのおきょうとなえているとき泥棒どろぼうはいりますが、「おんちょろちょろ、られそうろう」や「おんちょろちょろ、あなのぞそうろう」など、となえたおきょう文句もんくがたまたま泥棒どろぼう行動こうどうとぴったり符合ふごうし、泥棒どろぼうおそれてげるという展開てんかいです。

 今回こんかいは、『ねずみ経』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいします!

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概要

 『ねずみきょう』は『でたらめきょう』や『おんちょろちょろ』ともばれる民話みんわで、偶然ぐうぜんしあわせをることを主題しゅだいにしたわらばなしです。

 中国ちゅうごく地方ちほう位置いちする鳥取県とっとりけんつたわる民話みんわとされますが、東北とうほく地方ちほう位置いちする福島県ふくしまけん中部ちゅうぶ地方ちほう位置いちする岐阜県ぎふけん九州きゅうしゅう地方ちほう位置いちする熊本県くまもとけんなど、日本にっぽん各地かくち類似るいじのおはなしひろ存在そんざいし、登場とうじょう人物じんぶつをはじめとした細部さいぶすこしずつちがいはありますが、“でたらめなおきょう”がおばあさんをすくうという内容ないよう共通きょうつうしています。

 “意外いがい言葉ことば”によってすくわれるというおはなしは、日本にっぽんのみならず中国ちゅうごくをはじめとしたインドネシアやインドなどのアジアのほかに、ヨーロッパにも存在そんざいします。

 絵本えほんねずみきょう (日本にっぽん民話みんわえほん)』は、教育きょういく画劇がげきから出版しゅっぱんされています。高見たかみ八重子やえこさんのやわらかくやさしい上品じょうひんいろ使づかいの魅力みりょくてきで、香山かやま美子よしこさんによるおはなしたのしさをより一層いっそうてます。まえかせにぴったりな一冊いっさつです。

 絵本えほんおんちょろきょう (幼児ようじみんわ絵本えほん)』は、ほるぷ出版しゅっぱんから出版しゅっぱんされています。梶山かじやま俊夫としおさんのちからあると、夫婦ふうふ愛情あいじょう気持きもわらえるようえがいた木暮こぐれ正夫まさおさんのぶんとのギャップが、とても愉快ゆかいで、「おんちょろきょう」の信者しんじゃになること間違まちがいなしの一冊いっさつです。

 絵本えほんおんちょろちょろ (こどものとも絵本えほん)』は、福音館ふくいんかん書店しょてんから出版しゅっぱんされています。むかしからがれているおはなしを、梶山かじやま俊夫としおさんがどもの表現ひょうげん上手じょうず使つか再話さいわし、さらに瀬田せた貞二ていじさんの非常ひじょう大胆だいたんによって、ども間違まちがいなしの絵本えほんとなっています。

 紙芝居かみしばいねずみきょう (日本にっぽん民話みんわかみしばいせん)』は、童心社どうしんしゃから出版しゅっぱんされています。監修かんしゅう児童じどう文学ぶんがく作家さっか松谷まつたにみよさんです。武士田ぶしだただしさんのリズミカルでれのぶんと、渡辺わたなべ有一ゆういちさんのすみふちりされたシンプルでハッキリとしたにより、どもからお年寄としよりまでたのしめる紙芝居かみしばいです。

 『どもにかた日本にっぽん昔話むかしばなし 2』は、こぐましゃから出版しゅっぱんされています。かずある日本にっぽんむかしばなしなかから、「花咲はなさかじい」をはじめ「浦島太郎うらしまたろう」「三枚さんまいのおふだ」「ねずみきょう」など、どもがよろこぶおはなし厳選げんせんされぜん23ぺん収録しゅうろくされています。方言ほうげんあじわいを適度てきどのこしながら、いていてもわかりやすい言葉ことばで、日本人にっぽんじんこころおくゆたかな世界せかいつむぎだします。

あらすじ

 むかしむかし、あるところに、おばあさんが一人ひとりんでいました。

 このおばあさんは、おじいさんをくしたばかりで、一日いちにちじゅう仏壇ぶつだんまえわせていました。

 ただ、おばあさんはきが出来できず、おきょうらないため、いつもだれかにおきょうおしえてもらいたいとおもっていました。

 そんなあるばん、おばあさんのいえ一人ひとりたびのおぼうさんがたずねてきて、
 「みちもよってしまい、ひとつのあかりをたよりにやってきました。どうか一晩ひとばんめていただけないでしょうか」
たのみました。

 おばあさんは、
 「どうぞ、まっていらしてください」
気持きもちよくけ、親切しんせつにもてなしました。

 おぼうさんにご馳走ちそうべさせわると、
 「じつは、今日きょうはおじいさんの四十九しじゅうくにちで、ひとつおきょうをあげてくれませんか」
とおばあさんがおぼうさんにたのみました。

 ところが、それをいたおぼうさんはこまってしまいました。

 このおぼうさんは格好かっこうばっかりのいい加減かげんなおぼうさんで、おきょうなんてひとつもらなかったのでした。

 しかし、おぼうさんなのにおきょうらないともえないので、仕方しかたなく仏壇ぶつだんまえり、「どうしたものか……」とかんがえながらかね一回いっかいたたきました。

 すると、まえかべあなから、ネズミが一匹いっぴきてきました。

 おきょうはじまるのをっているおばあさんのために、おぼうさんは覚悟かくごめて、おきょうとなえるような調子ちょうしこえはじめました。

 「おんちょろちょろ、られそうろう
とおきょうとなえるように大声おおごえいました。

 おばあさんがあとからつづいて、
 「おんちょろちょろ、られそうろう
となえました。

 すると、もう一匹いっぴきのネズミがてきてあなのぞいたので、
 「おんちょろちょろ、あなのぞそうろう
とおぼうさんは大声おおごえいました。

 おばあさんも、
 「おんちょろちょろ、あなのぞそうろう
つづいてとなえました。

 今度こんど二匹にひきのネズミがかお見合みあわせて「チューチュー」といたので、おぼうさんは調子ちょうしって、
 「おんちょろちょろ、なにやらささやきもうされそうろう
大声おおごえうと、そのこえおどろいたネズミたちは仏壇ぶつだんかげかくれました。
 「おんちょろちょろ、かくれてそうろう
かくれたとおもったら、すぐにまたネズミたちがてきたので、
 「おんちょろちょろ、またそうろう
うと、二匹にひきのネズミはあななかげていきました。
 「おんちょろちょろ、ていかれそうろう、おんちょろちょろ、おんちょろちょろ」

 ここまでうと、おぼうさんはかねを「チーン」とらしてホっといきをつきました。

 「おきょうはこれまでじゃ」
とおぼうさんがうと、おばあさんは大喜おおよろこびをして、
 「ありがたい、ありがたい」
とおぼうさんにこころからおれいいました。

 こうして、きゅうごしらえのおきょうを、一晩ひとばんじゅうあげつづけたおぼうさんは、翌朝よくあさげるようにていきました。

 おぼうさんがかえってからも、そのおきょう有難ありがたがって、おばあさんはおじいさんのために、あさからばんまで、仏壇ぶつだんまえすわって、「おんちょろちょろ、おんちょろちょろ」ととなつづけました。

 あるばん、おばあさんのいえ二人ふたり泥棒どろぼうしのみました。

 泥棒どろぼうなか様子ようすうかがおうとみみますと、
 「おんちょろちょろ、られそうろう
とおばあさんのこえこえました。

 「おや、おかしなことをっとるぞ、なにっているんだろう」
おもった泥棒どろぼう一人ひとりが、障子しょうじやぶあなからなか様子ようすのぞいてみると、
 「おんちょろちょろ、あなのぞそうろう
泥棒どろぼうはハッとして、
 「オレがあなからのぞいていることっているようだ」
一人ひとり泥棒どろぼううと、
 「いやいや、そんなことはあるまい」
 「しかし、あのばあさんこうをいたまま、オレたちのしていることをてた」
二人ふたり泥棒どろぼうがあっけにられていると、
 「おんちょろちょろ、なにやらささやきもうされそうろう
とおばあさんがうので、泥棒どろぼうあわてて物陰ものかげかくれると、
 「おんちょろちょろ、かくれてそうろう
一人ひとり泥棒どろぼう障子しょうじからスッとかおすと、
 「おんちょろちょろ、またそうろう

 二人ふたり泥棒どろぼう気味きみわるくなって、
 「これはかなわん」
って、なにらずに大慌おおあわてでげていきまいました。

 「おんちょろちょろ、ていかれそうろう、おんちょろちょろ、おんちょろちょろ」
となえたおばあさんは、「チーン」とかねらして、仏壇ぶつだんわせました。

 それからもおばあさんは、仏壇ぶつだんまえすわっては、あさからばんまで、このおきょうとなつづけたそうです。

解説

 『ねずみきょう』の前半ぜんはん部分ぶぶんは、『にわか和尚おしょう』とばれる独立どくりつした民話みんわとして、東北とうほく地方ちほう位置いちする秋田県あきたけんつたわります。

 『にわか和尚おしょう』は、おきょうなにも知らないが、和尚おしょうさんの真似事まねごとをするおじいさんが、お葬式そうしきでおきょうわりに、まええるものをおきょうらしくとなえるという内容ないようです。

 また、『にわか和尚おしょう』の類似るいじするおはなしが、江戸えど時代じだい初期しょき元和げんな9ねん(1623ねん)に安楽庵あんらくあん策伝さくでんによって成立せいりつした咄本はなしぼん醒睡笑せいすいしょう』にしるされています。

 ちなみに『醒睡笑せいすいしょう』は、文字もじどおり「ねむりをましてわらう」という意味いみで、庶民しょみんあいだひろ流行りゅうこうしたおはなしあつめた笑話わらいばなししゅうです。

 『醒睡笑せいすいしょう』は、のち咄本はなしぼん落語らくご影響えいきょうあたえ、寄席よせ落語らくごもとネタとして参照さんしょうされました。そこから『にわか和尚おしょう』と同様どうよう内容ないようである、上方かみがた落語らくごの『鳥屋とりや坊主ぼうず』がまれ、『鳥屋とりや坊主ぼうず』がのち移植いしょくされ江戸えど落語らくごの『万金丹まんきんたん』がまれました。

 『鳥屋とりや坊主ぼうず』も『万金丹まんきんたん』も、お葬式そうしきで“でたらめなおきょう”をとなえるだけではなく、“でたらめな戒名かいみょう”をつけるだん追加ついかされていて、きめこまかいかたりになっています。

 安楽庵あんらくあん策伝さくでん落語らくご位置いちづけられ、現代げんだいでも『醒睡笑せいすいしょう』に由来ゆらいする複数ふくすうとしばなしえんじられています。

感想

 何事なにごとの おわしますかは らねども かたじけなさに なみだこぼるる

 これは、平安へいあん時代じだい末期まっきから鎌倉かまくら時代じだい初期しょきにかけての僧侶そうりょであり、歌人かじんとして有名ゆうめい西行さいぎょう法師ほうしが、伊勢いせ神宮じんぐう参詣さんけいしたおりんだうたです。

 「この神社じんじゃのご神体しんたいがどういうものかはからないけれども、なんとなくありがたい気持きもちになってなみだがこぼれる」という意味いみですが、このうたこそ、日本人にっぽんじん宗教しゅうきょうかん典型てんけいてきあらわしているのではないでしょうか。

 日本人にっぽんじんは、宗教しゅうきょう感情かんじょうとうと傾向けいこうがあります。しかし、わけがわからないものをありがたがるということは、むしろこまったことではないのでしょうか。

 「しんじるものはすくわれる」という言葉ことばがありますが、こういう信仰しんこうのありかたは、宗教しゅうきょう盲信もうしんしているので、はたかられば滑稽こっけいです。

 主人公しゅじんこうのおばあさんが、“でたらめなおきょう”を無批判むひはんれ、本物ほんものだとおもんでとなつづける姿すがたが、まさにこれにたります。

 つまり、よく混同こんどうされる“信心しんじん”と“信仰しんこう”は、けっしておなじものではないということです。

 そして、信心しんじんとは「なにかをしんじる」ということではなく、目覚めざめや気付きづきであると『ねずみきょう』はいているのでしょう。

まんが日本昔ばなし

ねずみきょう
放送日: 昭和51年(1976年)11月20日
放送回: 第0096話(第0059回放送 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 高橋良輔
文芸: 沖島勲
美術: 本田幸雄
作画: 岩崎治彦
典型: 笑話わらいばなし
地域: 中国地方(鳥取県)

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最後に

 今回こんかいは、『ねずみきょう』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいしました。

 なにかを盲目もうもくてきしんじる熱心にっしんひとというのは、他人たにんから客観きゃっかんてきると、滑稽こっけいかなしくうつったり、ぎゃくにいとおしかったりすると『ねずみきょう』はおしえています。ぜひれてみてください!

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