昔話『ひなの夜ばやし』のあらすじ・内容解説・感想|おすすめ絵本
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 ケガをった老人ろうじん手当てあてした、こころやさしいおばあさんが、老人ろうじんから一対いっつい男雛おびな女雛めびなゆずけます。あるとしの「もも節句せっく」に、おばあさんが、その雛人形ひなにんぎょうから、不思議ふしぎ現象げんしょう体験たいけんするおはなしが『ひなのばやし』です。

 今回こんかいは、『ひなのばやし』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいします!

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概要

 修善寺しゅぜんじ地域ちいきは、静岡県しずおかけん東部とうぶ位置いちする伊豆いず半島はんとうにあり、みどりゆたかな自然しぜん温泉おんせんめぐまれ、ふるさとあたらしさが融合ゆうごうした、魅力みりょくある地域ちいきです。

 その修善寺しゅぜんじは、歴史れきしマニアにとっては、源氏げんじ滅亡めつぼうとして歴史れきしにそののこす、とても好奇心こうきしんてられる、魅力みりょくまった場所ばしょでもあります。

 そんな修善寺しゅぜんじ舞台ぶたいにした物語ものがたりが『ひなのばやし』です。

 鎌倉かまくら幕府ばくふ初代しょだい将軍しょうぐん源頼朝みなもとのよりとも死後しご二代にだい将軍しょうぐん源頼家みなもとのよりいえのもとで、御家人ごけにんたちがあらあらそいをしました。

 『ひなのばやし』は、そのころのおはなしではないかとかんがえられます。

 絵本えほんひなのよばやし (日本にっぽんのむかしばなしシリーズ)』は、ポプラしゃから出版しゅっぱんされています。テレビアニメーション『ふるさと再生さいせい 日本にっぽんむかしばなし』をもと書籍しょせきした、ちいさなサイズの絵本えほんです。すこむずかしい内容ないようなので、ちいさなおさんでも理解りかいできるよう、ちょうどいいながさの文章ぶんしょう可愛かわいらしい独特どくとくなイラストで、物語ものがたりがリズムすすむよう工夫くふうしてあります。日本にっぽん歴史れきし風習ふうしゅうといった、どもたちにかたぎたいことが凝縮ぎょうしゅくされた一冊いっさつです。

 絵本えほんおひなさまの平安へいあん生活せいかつえほん』は、あすなろ書房しょぼうから出版しゅっぱんされています。ひな人形にんぎょうのモデルとなった「平安へいあん貴族きぞくらしぶり」がえがかれています。ひな人形にんぎょう衣装いしょう道具どうぐなどの説明せつめいからはじまり、そのもととなったものについての解説かいせつまで、どもにかりやすいよう記載きさいされています。めずらしくて面白おもしろ一冊いっさつです。

 『伊豆いず民話みんわ ([新版しんぱん]日本にっぽん民話みんわ 4)』は、未來社みらいしゃから出版しゅっぱんされています。太平洋たいへいよううみのなかに、ずんと片腕かたうでをのばしたような伊豆いず半島はんとう。そこには、ゆたかな自然しぜんめぐまれた生活せいかつ条件じょうけんのなかに、あかるくおおらかな風格ふうかくをもつ民話みんわつたわります。「たぬきの糸車いとぐるま」「河鹿かじか屏風びょうぶ」「仙人せんにんみかん」「ふくおに」「天狗てんぐ独楽こま」「ひなばやし」など、人間にんげん本然ほんぜん哀愁あいしゅうのなかに、のんびりとしたあかるさがある伊豆いず民話みんわが55へん収録しゅうろくされています。

あらすじ

 むかしむかし、伊豆の修善寺からそれほど遠くないある山の中に、一軒の大きなお屋敷がありました。

 そこには、お婆さんが商人たちと、一緒に暮らしていました。

 ある日のこと、一人の老人がこの山の中を歩いておりました。

 老人は深い傷を負っており、山の中にある大きなお屋敷の前まで来ると、そこでばったり倒れました。

 「どうなすったんじゃ」
と商人が慌ててお屋敷から飛び出して、老人に声をかけました。

 老人は深い傷により、苦しそうにうめいていました。

 ここに住むお婆さんは、とても親切な人なので、老人をお屋敷の中に入れると、手当を行いました。

 ちょうどその頃、修善寺で戦が始まったという噂が広まっていました。

 お婆さんの看病のおかげで、老人は日増しに快方に向かっていきました。

 ある日、老人は布団から起き上がると、何やらノミで木を彫り始めました。

 老人が彫っていたものは、一対の男雛と女雛でした。完成した雛は、見事な出来栄えで、男雛は華やかでありながらも静かに語りかける気品の高い雰囲気が漂い、女雛には美しさの中にどこか寂しい影を宿した顔つきでした。

 「この男雛はワシのゆかりの若殿にそっくりじゃ。また女雛はワシの縁につながる娘にそっくりじゃ。どうか末永く可愛がって下され」
と老人はお婆さんに言い、雛人形を渡しました。

 それから数日後の夜、老人はどこともなく去っていきました。

 それからというもの、毎年、お婆さんは桃の節句になると、この雛人形を飾りました。

 ところが、ある年の桃の節句、お婆さんは風邪を引いて寝込んでしまいました。

 すると、桃の節句が過ぎ去ろうとしている真夜中、蔵の奥で何やらヒソヒソと話す声が聞こえてきました。

 「桃の節句だというのに、お婆さんはどうしたんだろう。箱の中なので少し窮屈だけど、お囃子して若君殿を慰めようか」
こうして五人囃子は、にぎやかにお囃子を始めました。

 お婆さんは、夢うつつの中で、このお囃子を聴きながらも、お囃子の中に琴の音が欠けていることに気がつきました。

 そこで、お婆さんは布団から起き上がると、立てかけてあった琴をお囃子にあわせて弾き始めました。

 そうして琴を弾き終えると、いつしかお婆さんは眠りについてしまいました。

 翌朝、お婆さんが目を覚ますと、蔵の奥にある雛の箱はめちゃくちゃになっていました。

 この状況を見たお婆さんは、
「あの老人が作った雛には魂が乗り移っている」
と悟ったのでした。

 それからというもの、この地方では、年に一度は雛を箱から出さないと、その年は不吉なことが起こると伝えられます。

 また、老人が彫った男雛は、鎌倉幕府第二代将軍の源頼家公に、女雛はその乳母の娘である桜の前にそっくりだったといわれています。

解説

 『ひなのばやし』にある「男雛おびな源頼家みなもとのよりいえこう」とは、わずとれた鎌倉かまくら時代じだい元久げんきゅう元年がんねん7がつ18にち(1204ねん8がつ14にち)に北条時政ほうじょうときまさ密計みっけいにより、修禅寺しゅぜんじ門前もんぜん虎溪橋こけいばしわきにある中湯なかゆ(現在げんざい筥湯はこゆ)で入浴中にゅうよくちゅう襲撃しゅうげきされ暗殺あんさつされた、鎌倉かまくら幕府ばくふ二代にだい将軍しょうぐん源頼家みなもとのよりいえのことです。

 頼家よりいえ乳母うばは、河越重頼かわごえしげよりつま河越尼かわごえのあまです。そして、重頼しげより河越尼かわごえのあまむすめは、幼名ようみょうが『牛若丸うしわかまる』としてられ“悲劇ひげきのヒーロー”とばれる源義経みなもとのよしつね正室せいしつである郷御前さとごぜんです。そのことから、『ひなのばやし』にある「女雛めびな男雛おびな乳母うばむすめであるさくらぜん」は郷御前さとごぜんかんがえることができます。

 鎌倉かまくら幕府ばくふ初代しょだい将軍しょうぐん源頼朝みなもとのよりとも乳母うば比企尼ひきのあまなのですが、比企尼ひきのあまおいである比企能員ひきよしかずは、そのえんから鎌倉かまくら幕府ばくふ二代にだい将軍しょうぐん源頼家みなもとのよりいえ乳母父めのとぶとなり、頼朝よりともあと二代にだい将軍しょうぐん頼家よりいえ外戚がいせきとして権勢けんせいつよめていきました。しかし、北条時政ほうじょうときまさ謀略ぼうりゃくによって一族いちぞくもろともほろぼされました。

 『ひなのばやし』には、「修善寺しゅぜんじいくさはじまった」とありますが、静岡県しずおかけん伊豆いず半島はんとう中心部ちゅうしんぶ位置いちする修善寺しゅぜんじは、源氏げんじ一族いちぞく骨肉相食こつにくあいは悲劇ひげき舞台ぶたいとなり、源氏げんじ滅亡めつぼうとして歴史れきしにそののこしています。

 鎌倉かまくら時代じだい歴史書れきししょである『吾妻鏡あずまかがみ』によると、頼家よりいえ暗殺あんさつされた六日むいか家臣かしんたちは主君しゅくん無念むねんらすべく謀反むほんくわだてるが、挙兵きょへいまえにそれが発覚はっかくしてられたとしるされています。

 もしかしたら、『ひなのばやし』に登場とうじょうするきずった老人ろうじんは、その残党ざんとう一人ひとりかもしれません。

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 『源頼家みなもとのよりいえとその時代じだい: 二代目にだいめ鎌倉殿かまくらどの宿老しゅくろうたち (歴史れきし文化ぶんかライブラリー)』は、吉川よしかわ弘文館こうぶんかんから出版しゅっぱんされています。鎌倉かまくら幕府ばくふ初代しょだい将軍しょうぐん源頼朝みなもとのよりとも急死きゅうしともない、二代にだい将軍しょうぐんとなった源頼家みなもとのよりいえ。ところが、北条氏ほうじょうし実権じっけんにぎられ、遊興ゆうきょうふけり、“暗君あんくん”として『吾妻鏡あずまかがみ』にはえがかれています。ところが、近年きんねんでは、それが見直みなおされつつあります。源頼家みなもとのよりいえは、本当ほんとう暗君あんくんだったのか、それとも悲劇ひげき将軍しょうぐんか。文書ぶんしょ史料しりょうげ、頼家よりいえ実像じつぞうとその時代じだいせまる、非常ひじょう興味きょうみぶか一冊いっさつです。

 徳川家康とくがわいえやす愛読あいどくしていた『吾妻鏡あずまかがみ』は、物語ものがたりというより、政治せいじ話題わだいおおく、出来事できごと記録きろくした資料しりょうといった内容ないようですが、鎌倉かまくら時代じだいるためには必読ひつどくです!『吾妻鏡あずまかがみ (角川書店かどかわしょてんへんビギナーズ・クラシックス)』は、現代語訳げんだいごやく古文こぶんきとしたリズムによってだれもが古典こてん世界せかいたのしむことができます。

感想

 日本人にっぽんじん古代こだいより、あらゆる自然物しぜんぶつ崇拝すうはいし、自然しぜん万物ばんぶつのあらゆるもの、現象げんしょうに、かみ見出みだうやまってきました。

 この「モノにはたましい宿やどる」というかんがかたが、日本人にっぽんじん根底こんていながれていることから、ひな人形にんぎょう五月ごがつ人形にんぎょうなどのようなひと姿すがたをした人形にんぎょうには、ひときわ「たましい」のようなものをかんじるのです。

 さて、人形にんぎょうは「ひとがた」とむこともできます。

 日本にっぽんには、古代こだいからひとかたちをかたどったくさなどに、けがれやわざわいうつすという習慣しゅうかんがあります。これを「形代かたしろ」とび、現在げんざい神社じんじゃでは、毎年まいとし、6がつ30にちの「夏越なごし大祓おおはらえ」と12がつ31にちの「年越としこし大祓おおはらえ」のまえに、氏子うじこいえ人形ひとがたくばり、それに氏名しめい年齢ねんれいいておみやおさめると、神職しんしょくはらえをしてながし、わざわいをけるという神事しんじおこなわれています。

 もしかしたら、ひな人形にんぎょう五月ごがつ人形にんぎょうなどをかざ習慣しゅうかんは、その名残なごりではないかとかんがえられます。

 何千年なんぜんねんまえから、日本にっぽんでは、人形ひとがた人間にんげん身代みがわりとして、すべての災厄さいやくけてきました。

 だからこそ、『ひなのばやし』にもあるように、ねん一度いちど感謝かんしゃ気持きもちをめて、ひな人形にんぎょう五月ごがつ人形にんぎょうなどをはこからし、キレイにき、太陽たいようひかりてて、人形にんぎょうのエネルギーをあたえましょう。

まんが日本昔ばなし

ひなのばやし
放送日: 昭和52年(1977年)02月26日
放送回: 第0119話(0073 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 『伊豆の民話 ([新版]日本の民話 4)』 岸なみ (未來社)
演出: 馬郡美保子
文芸: 沖島勲
美術: 馬郡美保子
作画: 馬郡美保子
典型: 奇談怪談譚きだんかいだんたん幽霊妖怪譚ゆうれいようかいたん霊験譚れいけんたん
地域: 中部地方(静岡県)

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最後に

 今回こんかいは、『ひなのばやし』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいしました。

 「あらゆるものにはたましい宿やどる」というかんがかたが、日本人にっぽんじん根底こんていながれていることから、雛人形ひなにんぎょうにもたましい宿やどり、『ひなのばやし』のようなおはなしまれたのでしょう。ぜひれてみてください!

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