『鉢かつぎ姫』は、室町時代末期に成立したとされる『御伽草子』の中に収められているお話の一つで、古くから大阪府交野郡(現在の大阪府交野市)に伝わる民話として人々に親しまれています。
今回は、『鉢かつぎ姫』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『鉢かつぎ姫』は、大阪府交野郡(現在の大阪府交野市)が舞台のお話と言われています。
室町時代末期に成立したとされたとされる『御伽草子』の中に収められているお話の一つで、「鉢かづきの草子」として世間に広く知れ渡ることになります。
『御伽草子』には「鉢かつぎ姫」の他に、「一寸法師」や「浦島太郎」などが掲載されています。
鎌倉時代前期に成立したとされる『住吉物語』と共に中世の継子いじめを主題としたお話の代表作で、そこに奈良県桜井市初瀬にある長谷観音をからませることによって、観音信仰の教化活動も行われていたのではないかと考えられています。
ちなみに、「鉢かづき姫」が正式名称です。それは、「かづき」は「頭にかぶる」という意味の古語「被く(かづく)」の活用形であるからで、現代語の「担ぐ(かつぐ)」の活用形ではないからです。
絵本『
はちかつぎひめ (日本の民話えほん)』は
教育画劇から
出版されています。
有名な
日本の
民話を、
香山美子さんがとても
分かりやすく
描いています。そして、
赤坂三好さんによる
切り
絵が
鮮やかで
美しいので、
小さなお
子さんでも
楽しめる絵本です。
絵本『
はちかつぎひめ (松谷みよ子むかしむかし)』は
童心社から
出版されています。
松谷みよ
子さんよる
方言を
取り
入れた
語り
口調の
文は、のんびりとしていて
味わいがあります。
梅田俊作さんの
絵は、
重い
内容のお
話とは
対照的に、
華やかな
色を
多く
使い
美しいです。
絵本『
鉢かづき (日本の物語絵本)』はポプラ
社から
出版されています。
色が
澄んでいて、
平安時代の
華やかで
美しい
着物や
花の
描写を
楽しむことができます。ところどころに
和歌も
詠まれているため、
大人でも
楽しめる絵本です。
絵本『
はちかづきひめ こどものとも絵本』は
福音館書店から
出版されています。
中井智子さんによる
美しくて
優しい
絵は、まるで
巻き
物のようです。
長谷川摂子さんによる
悲しくて
忍耐の
日々を
淡々と
語る
文と、それに
応える
繊細な絵の
組み
合わせがとても
良い絵本です。
「
講談社の
絵本」として
昭和12
年(1937年)に
刊行された『
鉢かつぎ
姫』が、
平成13
年(2001年)に
現代仮名づかいで
復刻しました。
一流の
日本画家によって
緻密に
描かれた
絵には、とても
迫力があります。
広川操一さんの
絵は
美しく
品があります。『
鉢かつぎ姫 (新・講談社の絵本)』はおすすめの絵本です。
『
むかしむかし V (花さかじい/つるのおんがえし/はちかつぎひめ)』は
文渓堂から
出版されています。
現代にもしっかりと
伝えていきたい、
選りすぐりの
日本の
昔話が3
篇収録されています。
全5
巻シリーズの
最終巻。
あらすじ
むかしむかし、河内国の交野郡寝屋にとても裕福な長者が住んでいました。
長者と奥方の夫婦仲は大変に良く幸せな毎日を送っていましたが、どうしたわけか子どもに恵まれませんでした。
そこで観音様に祈願したところ、望み通りに女の子が生まれ、やがて美しい姫に成長しました。
しかし、その頃、姫の母は長い間病気で寝込んでおりました。母は自分が死んだ後の姫の行く末を心配し、観音様にお参りしたところ、姫の頭に鉢をかぶせよというお告げがありました。
母はお告げの通りに姫に鉢をかぶせ、それから幾日もしないうちに亡くなってしまいました。
父が姫の鉢をみっともないからと取ろうとしましたが、なぜか外すことができませんでした。
しばらくして父が再婚すると、新しい母は姫の鉢を気味悪がって姫につらく当たり、家来に命じて姫を遠いところへ捨ててしまいました。
姫は行くあてもなく歩き続け、生きていくのが辛くなり川へ身を投げました。ところが、鉢のおかげで溺れることなく浮き上がり、お公家様に助けられ、姫はそこで働くことになりました。
ある日の夜、蔵の中に置かれている琴を見つけた姫は、昔を懐かしんで弾いていると、そこへ若君がやってきました。
若君は姫が高貴な生まれと感じ素性を尋ねました。
姫は問われるままに、自分の身の上を若君に聞かせました。
しばらく経ったある日、若君に結婚話が持ち上がったのですが、若君は姫と結婚したいと言ったので、両親から猛反対されてしまいます。
若君の父は姫を亡き者にしようと刀を抜いて振りかぶった瞬間、姫が頭にかぶっていた鉢が光って粉々に砕け、中からたくさんの金銀財宝と共に美しい姫の姿が現れました。
その後、姫は若君と結ばれ、観音様に感謝しながらいつまでも幸せに暮らしました。
解説
長谷観音は不思議な出来事に関わって昔話によく登場します。昔話が語られていた当時、人々に親しまれ信仰された存在であったと思われます。
『御伽草子』は、それまでの『源氏物語』に代表される貴族の恋愛が中心だった長編物語とは異なり、短編物語となり、口頭で伝わってきた昔ばなしに近い民間説話が取り入れられ、名もない庶民が主人公になったり、それが神仏の化身や申し子であったり、動物を擬人化したりするなど、それまでにない多種多様な題材が表されています。
姫の名は初瀬山の長谷観音にちなんで付けられた初瀬姫、父は河内国交野郡寝屋の長者である備中守藤原実高、その妻は摂津国鳴海の芦屋長太夫の娘で照見、姫を助けたお公家様は山蔭三位中将、姫の結婚相手は中将の四男である宰相殿御曹司と伝えられています。
それから、このお話には、若君の兄嫁たちと美貌や宝物や才覚を競うという続きがあり、最後は継母と不仲になって屋敷を出た父と姫の再会が果たされるという結末で物語が締めくくられています。
『
御伽草子』には、
多くの
人が
子どもの
頃に
聞いたことのある
昔話がたくさん
詰まっています。
現代語訳は
掲載されていませんが、
原文・
挿絵・
注釈の
三つが
揃っているので、ほとんど
読むことが
可能です。
上下巻で
渋川版『
御伽草子』の
全23
篇を
読むことができます。
感想
この『鉢かつぎ姫』を理解するには、姫がかぶった“鉢”とはいったい何であったのか、その意味を知る必要があるのではないでしょうか。
『鉢かつぎ姫』は、母性的な人物と男性的な人物との役割の対比が、とても興味深い内容となっています。
母性が否定的に働く時には、男性的なものが補償をして肯定的に働くことをこのお話は教えています。もしくは、母性が姫の成長のために辛い環境を姫に与えて、その姫を助ける存在として男性を登場させたかのようにも受け取れます。
この母性に当たるものが鉢の役割であったのではないでしょうか。
そして、鉢によって外界との交わりを遮断された姫は、内界へと向かい自分の感情や苦しみに目をそむけずに直視するようになります。
自らの悲しみに向き合うことで、姫は少女から女性へと変容を遂げます。
また、鉢は守ると共に隠れる場所を提供します。
鉢の中に隠れることによって、内なる異性との関わりを深めることができました。
子を想う母の気持ちを感じるお話です。
まんが日本昔ばなし
『鉢かつぎ姫』
放送日: 昭和51年(1976年)02月21日
放送回: 第0037話(第0020回放送 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 今沢哲男
文芸: 鈴木良武
美術: 青木稔・(竹森佳史)
作画: 鈴木欽一郎
典型: 継子いじめ譚・観音信仰・霊験譚
地域: 近畿地方(大阪府)
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鉢かつぎ姫』は「
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最後に
今回は、『鉢かつぎ姫』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
最愛の母を失い、自らも異形の風貌となった姫。家を追い出され、助けられたお公家様の家で働くことになります。過酷な日々を送っても、懸命に生きることでお公家様の若君に見初められ、幸せをつかむという物語は人生の示唆に富み、時代を経ても色あせることはありません。
昔から親しまれている日本版シンデレラ物語の『鉢かつぎ姫』に、ぜひ触れてみてください!