古来、日本では、火は宗教的な意味をもち、観念の中で聖なるものとされてきました。火を扱うところは神聖視され、竈や炉には神様が祀られてきました。その神様が『火男』です。
今回は、『火男』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
お祭りなどで、縁起が良いものとして扱われるものの一つに「ひょっとこ」のお面があります。口を突き出し、おどけた表情は、見るからに縁起物です。
しかし、なぜ「ひょっとこ」と呼ばれるようになったのでしょうか。
ひょっとこの語源には諸説ありますが、有力なものの一つに火を竹筒で吹く「火男」がなまったという説があります。
ひょっとこのお面がどうやってできたのかという昔ばなしが、この『火男』のお話です。
松谷みよ子の『昔話十二か月〈十二月の巻〉』で「火男」は「ひょっとこ」と紹介したことにより日本中で広く知られるようになりました。
芥川龍之介は『ひょっとこ』という題名の小説を発表しています。
太宰治は著作『おしゃれ童子』で、演劇中の鳶職が「ひょっとこめ!」と台詞を吐くことに憧れ、紺の股引が欲しかったという記載があります。
また、日本を舞台にしたレーヴィ・マデトヤ作曲のバレエ音楽『オコン・フオコ』は、「おかめ・ひょっとこ」が由来といわれています。
あらすじ
むかしむかし、優しいお爺さんと欲張りなお婆さんがいました。
ある日、お爺さんが山へ芝刈りに行くと、
「芝よこせー、芝よこせー」
と小さな洞穴から声がするので芝を入れてみました。
すると、お爺さんはその洞穴に吸い込まれてしまいました。
洞穴の中は真っ赤な火の世界が広がっており、そこには火の神様がいました。
火の神様が芝のお礼にと宝物が入っているという包みを渡すので、家に持ち帰って開けてみると、おもしろい顔をしたヘソばかりいじっている男の子が入っていました。
変なものを持ち帰ってきたとお婆さんは怒りますが、お爺さんは「火男」と名付けて大切に育てることにしました。
火男はヘソばかり毎日いじっているので、ヘソが大きく腫れ上がってしまいました。かわいそうに思ったお爺さんはがキセルでヘソを叩いてみると、ヘソから小判が出てきました。
小判が出るたびにヘソが小さくなるので、お爺さんはは一日に三回だけヘソを叩くようにしました。
一日に三枚の小判が手に入るようになり、二人はお金持ちになりましたが、お爺さんは山へ芝刈りに行くことをやめませんでした。
お爺さんの留守を狙って、欲張りなお婆さんは小判を山ほど出そうと企み、大きなキセルでヘソを叩こうとしますが、火男は逃げ回ります。家中を逃げ回ったすえ、火男は竈の前に追い詰められました。
火男は真っ赤に燃え上がる火に招かれるように竈の中へ入り、火になって神様のところへ帰ってしまいました。
火男がいなくなったことを知り、悲しんだお爺さんは、火男に似せたお面を彫りました。そのお面を竈の近くに飾り、それを見るたびにお爺さんは火男のことを思い出して過ごしました。
火男がやがて「ひょっとこ」と言い変わり、お祭りなどで使われるお面になったそうです。
解説
火や灯りは家族や人々の寄り集う場所であり、生活の拠点であるともいえます。
日本人は古来より、そうした火を取り扱う場所としての竈を大切にし、「竈に『火男』の面を吊るすと家が繁栄する」として「火男」を信仰の対象としてきました。
さて、お祭りなどの屋台で必ずあるのが、お面を売るお店です。そこには、「お多福」と並んで「ひょっとこ」のお面が必ずといっていいほどあります。それは、ひょっとこを知らない日本人がいないからでしょう。お多福は、日本人女性の美しさの代表的な顔形を象徴していますが、ひょっとこが日本人男性の男前の代表とはいえませんね。
では、ひょっとこがなぜ口をすぼめて曲げたような表情なのかというと、火男がだんだん訛って「ひょっとこ」に変わったからだといわれています。口をとがらせ一方の目が小さいのは、火吹き竹で火を吹くときの顔つきということです。
日本人は、「火は水を呼ぶ」という意識を持っています。ひょっとこが火の神様であることから、対照的な水の神様としてお多福ができ、これを一対にしました。つまり、火と水が人間生活の中で一番重要なものであるというあらわれです。
感想
『火男』は、“無欲”と“欲”が題材です。
つまり、無欲で良い行為をしていくと幸福がもたらされるが、欲がわいてくると良いことも無になってしまうという戒めの意味が込められています。
すなわち、無欲こそが日本人の伝統的な最高の精神美であると伝えようとしているのです。
欲望や醜い心を持っていてはいけないと強調しています。
まんが日本昔ばなし
『火男』
放送日: 昭和50年(1975年)01月28日
放送回: 第0008話(第0004回放送 Bパート)
語り: 常田富士男・(市原悦子)
出典: 表記なし
演出: 杉井ギサブロー
脚本: 平見修二
美術: 馬郡美保子
作画: 杉井ギサブロー
典型: 民間信仰・隣の爺型・由来譚
地域: 東北地方
『火男』は未DVD化のため「VHS-BOX第1集 第9巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『火男』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
人間が生きるために火はどうしても必要なものです。火の神様から遣わされた男の子を大事にするという、日本人の神に対する考え方が『火男』からは感じられます。ぜひ触れてみてください!