『かみそり狐』は、いたずら好きな狐の悪だくみを暴こうと立ち上がた若者が、反対に狐から化かされてしまうというお話です。
今回は、『かみそり狐』のあらすじと内容解説、感想などをご紹介します!
概要
『かみそり狐』は、鳥取県の倉吉市上井や八頭郡智頭町波多に伝わるお話です。
『かみそり狐』は、西日本、特に中国地方に多く伝わる、美女に化けて妻帯者や恋人のいる男性へ言い寄ってくる、「おさん狐」ではないかといわれています。
民俗学者の関敬吾が昭和30年(1955年)に角川書店より出版した、『日本昔話集成 第2部 本格昔話 3』に「髪剃狐」という題で紹介したことにより、『かみそり狐』は日本全国で知られるようになりました。
あらすじ
むかしむかし、山奥に大きな池があって、この池の周りには、いたずら好きな狐の一族が住んでおりました。
その狐たちは、里に下りてきては人間を化かして、頭をツルツルに剃ってしまうので、その狐たちは「かみそり狐」と呼ばれていました。
ある日、かみそり狐を退治しようと村の衆が集まりました。
その席で、村でただ一人、狐に頭を剃られていない才造という若者が、
「ようし、オレが行って、狐の正体を見届けてくる」
と言いだしました。
才造は知恵者であることから、村の人々に一目置かれていました。
「才造なら狐を退治できるかもしれない」
と村人たちは思いながらも、
「才造も頭を丸坊主にされてしまうかもしれない」
と心のどこかで思っていました。
それからしばらくしたある日のこと、才造は、野原の真ん中で姉さんに化ける狐を見つけました。
狐が化けた姉さんは、才造が見ていたとも知らず歩き始めました。
しばらくして姉さんは道端にしゃがみこみ、枯れ草を引っこ抜いて、何かを作り始めました。
やがて枯れ草の人形が出来上がりました。そして、その人形が生きた赤ん坊に変わったのでした。
才造は、赤ん坊を抱いた姉さんに化けた狐が、何かをたくらんでいると思い、こっそりと後を追うことにしました。
狐が化けた姉さんは、
「遅くなりました」
と言いながら、一軒の家へ入って行きました。
家の中にはお婆さんがおりまして、枯れ草が化けた赤ん坊をあやし始めました。
才造はそこへ駆け込み、槍を姉さんに向けながら、
「お婆さん、騙されてはいけません!このお嫁さんは狐が化けています。お婆さんの抱いている赤ん坊は枯れ草で作った人形です。オレ、この目でしっかりと見ましたから!」
とお婆さんに言いました。
「何をするだ!オラの大切な嫁を殺す気か!」
とお婆さんに言われた才造は、
「お嫁さんではない!こいつは狐だ!」
と言い、お婆さんと言い争いになりました。
そこで、才造は知恵を働かせることにしました。
才造は、姉さんと赤ん坊を縛り上げると、杉の葉を燻し、その煙を浴びせ始めました。
姉さんと赤ん坊は煙を浴びて咳き込みだすと、
「なんと惨いことを!」
とお婆さんは言い、
「助けてください!」
と姉さんは才造に訴えました。
しかし、才造は止めようとはしませんでした。
ところが、いつまでたっても姉さんと赤ん坊は正体を現さないので、才造はだんだんと心配になってきました。
そして、とうとう姉さんと赤ん坊はパッタリと倒れてしまいました。
「死んでしまったではないか!これでもオラの嫁と孫が狐だと言うのか!」
とお婆さんは叫びました。
「起きてくれ! 返事をしてくれ!」
と才造が呼びかけても、姉さんと赤ん坊は返事をしませんでした。
「どうすればいいんだ。オレはとんでもねえことをしてしまった」
と才造が困り果ててあたふたしていると、そこに偉いお坊さんが現れました。
お坊さんに事のいきさつを話すとともに、亡くなった姉さんと赤ん坊を弔いたいという気持ちから、
「オレをお坊さんに弟子にしてください」
と才造はお坊さんに頼み込みました。
才造の思いを汲んだお坊さんは、
「では、まずは頭を丸めることにしましょう」
と才造に言い、才造の頭を丸坊主にしました。
ところが、このお坊さんも、姉さんも、お婆さんも、みんな「かみそり狐」が化けたものでした。
そうして狐は見事、才造の頭もツルツルに剃ってしまったのでした。
解説
『かみそり狐』は、「おさん狐」や「おさんわ狐」と呼ばれる狐の妖怪ではないかと伝わります。
おさん狐は、痴話喧嘩が大好きで、嫉妬深いと伝わります。
現代において、恋路を邪魔をする女性や浮気相手などの女性に対し、蔑称として“女狐”と呼ぶことがありますが、このような蔑称は、おさん狐が由来だとされています。
一説には、おさん狐は御年80歳。500匹もの手下を従える、狐界の女ボスです。
おさん狐は、馬方や若者、特に美女に化けることが多く、人間を騙したりからかったりします。しかし、決して人を殺めるような残虐なことはしないので、実は地元の人々から親しまれています。
それから、1961年の開始以来、“朝ドラ”の愛称で親しまれているNHK連続テレビ小説。第108作目として、2023年度前期に植物学者・牧野富太郎の人生をモデルとして放送された『らんまん』では、第5週のタイトルが「キツネノカミソリ」でした。
神木隆之介さん演じる主人公の槙野万太郎が、5月3日(水)放送の第23回の冒頭で、燃えるように鮮やかな色の花を見つけます。その花が「キツネノカミソリ」です。
「キツネノカミソリ」は、日本では、本州・四国・九州地方に分布し、山野の湿った場所に生える多年草です。花期は8月です。ヒガンバナ科のいわゆる球根草で、キツネノカミソリを漢字で表すと「狐の剃刀」となります。狭長な葉の形に基づいて付けられた名前です。
感想
よく日本人は、お人好しで単純で騙されやすいといわれます。
騙されやすいという点に関しては、他人を簡単に信用してしまうと言い換えた方がよいかもしれません。
だから、古来、日本社会には、「人を見たら泥棒と思え」という言葉があるのです。
しかし、現実では、何事においてもあまり相手を疑わず、簡単に信用してしまう傾向にあるのが日本人です。
それは、日本が他の民族に占領されたことがない国であることから、独特の文化、考え方が定着したことによります。
長年、同じ文化や歴史を共有し、同じ価値観を持つことから、「言葉にしなくてもわかってもらえる」とか「相手も自分と同じように考えている」とか思うようになったのでしょう。
最初に「日本人は、お人好しで単純で騙されやすい」と記しましたが、言い換えれば、これは日本人が常に周りに気配りをし、素直で、嘘をつかず、真面目で、控えめで和を貴ぶということです。
日本を観光している外国人に「日本の一番の魅力は?」と問うと、多くの外国人が「日本の一番の魅力は日本人だ」と答えるそうです。
つまり、それだけ日本人が魅力的だと褒めているのです。
日本では、現代でも謙虚であることが美徳とされる文化が根強く残っています。
謙虚は、読んで字のごとく「へりくだって譲る」ことですが、自らを低め相手を高めることを喜んで行うことができる民族は、世界中を探しても日本人くらいでしょう。
日本人は、世界にもまれな素晴らしい民族です。
しかし、日本では常識とされるものが、世界では非常識の場合もあります。
日本人の良いところをしっかりと認識し、外国人とは考え方が違うということを理解することがとても大事なのです。
まんが日本昔ばなし
『かみそり狐』
放送日: 昭和51年(1976年)09月25日
放送回: 第0084話(第0051回放送 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 杉田実
文芸: 境のぶひろ
美術: 下道文治
作画: 上口照人
典型: 頓知話・残酷譚・狐譚
地域: 中国地方(鳥取県)
最後に
今回は、『かみそり狐』のあらすじと内容解説、感想などをご紹介しました。
日本人は世界一の“お人好し”といわれています。だから、悪い輩は、それを逆手に取って、日本人を騙します。正直者であることは、とても大切なことであり、微笑ましいことでもありますが、それを逆手に取って、騙す輩がいることを、日本人は絶対に忘れてはならないと『かみそり狐』は教えています。ぜひ触れてみてください!