「良い初夢は人に話さなければ、その夢は叶う」といわれていますが、『初夢長者』を読むと、良い初夢を人に話すことはやめようという気持ちになります。
今回は、『初夢長者』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『初夢長者』は、口承説話のため、明確な原典とされる文献資料はありません。
日本の文献で初夢という言葉が初めて使われたのは、平安時代末期に西行法師によって執筆された歌集『山家集』です。
『山家集』の「巻上:春・第一首 たつ春の朝よみける」には、次のような歌が詠まれています。
年くれぬ 春来べしとは 思い寝に
まさしく見えて かなふ初夢
この歌の訳は、「騒乱の年が暮れて、新しい年こそ穏やかで平和な世であってほしいと思いながら寝たところ、思い通り夢の中は落ち着いた正しい世であるではないか、これぞ初夢」という趣旨です。
この歌からもわかる様に、古来より日本人が初夢を特別なものと考えていたことが分かります。
絵本『はつゆめはひみつ (行事むかしむかし)』は佼成出版社から出版されています。谷真介さんの文と赤坂三好さんの絵は、子どもが興味を持つよう工夫されていて、とても読みやすいです。「一月二日の夜に見る初夢は誰にも話してはいけない」という由来が、楽しく語られています。 絵本『こぞうのはつゆめ (てのひらむかしばなし)』は岩波書店から出版されています。さすが長谷川摂子さんの絵本です。あれよあれよという間に、物語が展開していき、ビックリさせられっぱなしで目が離せません。大人も子どもも思わずプププッと笑ってしまう、読み聞かせにおススメの一冊です。 絵本『はつゆめちょうじゃ (おはなしえほんシリーズ)』はフレーベル館から出版されています。こわせたまみさんの文と村上豊さんの絵が、ほのぼのとしていて穏やかで心が和みます。おめでたいお正月にぴったりな絵本です。あらすじ
むかしむかし、ある村に、一人の長者様がおりました。
ある年の元旦の夜、長者様は使用人を集めて、
「今夜みる夢は、初夢じゃ。一分で買うので、その初夢を明日、ワシに話しておくれ」
と長者様は、働いている皆にお年玉をやろうと思っておもしろおかしく言いました。
使用人は、一斉に布団にもぐり込み早めに眠りにつきまた。
次の日、長者様は、
「どんな初夢を見たのか順番に聞かせておくれ」
と言いました。
皆は長者様にわれ先にと初夢を話しました。
「それはおもしろい夢じゃ」
「はい、お年玉」
長者様は、ニコニコしながらお屠蘇気分で初夢を聞いては、それをおもしろがりました。そして最後に、年末に入ったばかりの小僧の番になりました。
ところが小僧は、
「おらは話さねぇ」
とだんまりを決め込みました。
「よし、それなら五分でどうじゃ、七分だ、いや一両でどうじゃ」
と長者様は言いました。
話さないとなると、なにがなんでも聞きたくなるものです。
長者様の顔は、お酒の酔いが醒めて真っ赤から真っ青になって、お年玉の額を増やしましたが、小僧は言うことをききませんでした。
怒った長者様は、
「出ていけぇ」
と言って、小僧を村へ帰してしまいました。
村に帰ると、父親も小僧がどんな夢を見たのか聞きましたが、頑として答えませんでした。
怒った父親は、小僧を船に乗せて海へ流してしまいました。
船は何十日も揺られて鬼ヶ島に流れ着きました。
「お頭、人間の子どもじゃ」
と鬼たちは興奮しながら、鬼の大将のもとへ小僧を運んでいきました。
「ちょっと太らせてから丸焼きにでもしよう」
と鬼の大将が言ったので、鬼たちは小僧を太らせてから食べようと牢屋へ入れて食べ物を与え続けました。
まるまる太っていよいよ食べられるという時、
「死ぬ前に、鬼の宝物を見せて欲しい」
と小僧は鬼の大将にお願いしました。
「ここには沢山の金銀財宝があるが、その中でもオレが特に大事にしているものが三つある」
と鬼の大将は答え、続けて、
「一つ目は『千里棒』といって、『千里』と叫ぶと千里すっ飛ぶ棒だ」
「二つ目は『生き棒』といって、死にそうな者でもこれでなでるとすぐに生き返る」
「三つ目は『聞き耳棒』といって、鳥や動物たちの話し声が何でも分かる」
と鬼の大将は鼻を高々にして、三つの宝物を小僧の前に置きました。
「これで満足したか」
と鬼の大将が言い終わらないうちに、小僧は三つの宝物を取り、「千里」と叫びました。
すると、千里棒は、小僧を乗せるとあっという間に千里の彼方へ飛んだので、小僧は見事に鬼ヶ島からの脱出に成功しました。
鬼の大将は、悔しくて悔しくて大粒の涙をボロボロとこぼして泣きました。
千里向うまで飛んだ小僧は、カラスの会話を聞き耳棒を使って聞き、西の長者様の娘が病気になっていることを知りました。
そこで、小僧はその家を訪ねてみることにしました。
「私が娘さんの病気を治してあげましょう」
と小僧が言うと、西の長者様は驚きながら、
「もし娘の病気を治してくれたら、娘の婿にしてやってもよい」
と言いました。
娘の部屋に通されると、小僧は生き棒を取り出して、それを娘のおでこにあてました。
すると、娘の顔色がみるみるよくなり、やがてもとのような元気で明るい笑顔が戻りました。
西の長者様の娘の病気を治した小僧は、娘の婿となりました。
また、川を隔てた東の長者様の娘も病気になっていることも知り、これも小僧が生き棒を使って治しました。
東の長者様は、小僧を娘の婿にすると引き留め、帰そうとしなかったので、西の長者様と喧嘩になり、ついに城のお殿様の裁きで決着をつけることになりました。
お殿様は、
「月の前十五日は東の婿となり、後十五日は西の婿となるように」
と西と東の長者様に命じました。
こうして小僧は二人の娘といつまでも仲良く暮らし、いつしか「初夢長者」と呼ばれるようになりました。
これも初夢で金の大黒様を前と後ろに抱いている夢をみたおかげでした。
初夢は人に話さないと叶うといわれています。
解説
「初夢は人に話すと叶わない」と言われますが、これは日本古来の言葉遊びの類だと言われています。
「話す」は「放す/離す」に通ず、ということで、悪い初夢は人に話すと正夢にならないと言われています。
『初夢長者』からは、日本人の知恵と遊び心を知ることができます。
感想
「素直」と「頑固」は、まるで正反対の性格に思われますが、意外にも人の心の中に於いてはかなり分かり易く共存しています。
ほとんどの人間は根本のところで素直です。
しかし、素直なだけでは物足りなさを感じます。
素直の中に頑固さが欲しいものです。
自分の考えにこだわりを持った上で、それに固執せず素直に人の意見を聞くという、相反する事柄を上手に調整することを鍛えれば、成長することができるのではないかと考えます。
何にも影響されない“芯がある人”というのは、とても大切な特性です。
そして、芯がある人は自分の価値観や考えを大切にしますが、決してそれを他者に押し付けることはせず、他者の意見や価値観を尊重します。
我を通すために他者を否定するのではなく、受け入れた上でどうするかを考えます。
このように考えると、人間にとっては、素直さを持ちながらも、相反する頑固さも持つことが、必要だということです。
まんが日本昔ばなし
『初夢長者』
放送日: 昭和51年(1976年) 01月17日
放送回: 第0029話(第0015回放送 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 堀口忠彦
文芸: 沖島勲
美術: 堀口忠彦
作画: 堀口忠彦・岩崎治彦
典型: 夢譚
地域: 近畿地方(大阪府)
『初夢長者』は「DVD-BOX第12集 第57巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『初夢長者』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
夢は誰でも見るものです。ただ朝起きた時、夢を覚えているかいないかです。もし良い夢を見て、その夢を覚えているようなら、決して人に話さず、心に秘めておきましょう。そうすれば、その吉夢はきっと叶うと『初夢長者』は教えています。ぜひ触れてみてください!