『笠地蔵』は、年の瀬も押し迫る頃、貧しいけれど優しい男が、道端に並ぶ六体のお地蔵様を雪と寒さから守ってあげようと、笠を被せてあげたことから物語は展開します。小学校国語教科書で読んだという方も多いと思います。
今回は、『笠地蔵』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
東北地方の岩手県や福島県に伝わる民話とされますが、地蔵信仰のない沖縄県以外の日本各地に広く分布し、地域ごとに異なる部分もみられますが、大晦日の出来事とする点では違いがありません。また、寺社縁起と関連しているものもあります。
昭和41年(1966年)に福音館書店より発行された再話: 瀬田貞二・画: 赤羽末吉の『かさじぞう』が絵本としては親しまれていますが、昭和42年(1967年)にポプラ社より発行された再話: 岩崎京子・画: 新井五郎の『かさこじぞう』の絵本を元にしたお話が、昭和57年(1982年)から四社の出版社において小学校国語科二年生の教科書に採用されたことで、より親しまれ定着しました。
あらすじ
むかしむかし、雪深い山奥に貧乏な夫婦が住んでいました。
大晦日だというのに米はなく餅もつけませんでした。そこで、女房が作った髪に飾る綛玉を売って、お正月の買い物をすることにしました。
亭主が売り物の綛玉を持って街へ向かう途中に地蔵峠を通ると、お地蔵様の頭の上に雪が積もっていたので雪を払ってあげました。
大晦日の夕方、街に着いた亭主のですが誰からも見向きもされません。仕方がないので亭主は、笠売りのお爺さんと、それぞれの売り物を交換して家路に着きました。
途中、亭主がまた地蔵峠を通ると、お地蔵様が寒そうに立ち尽くしていました。優しい亭主は笠をお地蔵様の頭に被せて、一つ足りない分は自分が身につけていた手拭いを被せてあげました。
家に帰り、そのことを女房に話すと、女房は良いことをしたと喜んでくれました。
その夜、夫婦が寝ていると外から物音が聞こえてきました。出てみると、そこには米や野菜などがたくさん置いてありました。
夫婦には、遠くに峠のお地蔵様の帰る後ろ姿がみえました。こうして夫婦は無事にお正月を迎えることができました。
解説
『笠地蔵』の純粋に正しい行いをする者が救われるという展開は、仏教思想の観念に基づくものであり、親が子に語り継いでいくことで、子どもに「思いやりの大切さ」や「人間の善意の素晴らしさ」などの道徳を教え諭す寓話の要素を持っています。
感想
『笠地蔵』の要点は二点あります。
一点は、見返りを求めない、清らかな心で施す、真実の布施奉仕であり、その尊き心が説かれています。人間とは心のどこかで見返りを求めてしまうものです。しかし、このお話に登場する夫婦のように、見返りをもとめない心、囚われのない心こそが大切で、囚われのない心の中にこそ、本当の幸せがあるということです。
もう一点は、今という時間を大切に生きているということです。この夫婦は、その日の食事にさえ不自由する貧しい生活であるにも関わらず、目の前のお地蔵様が寒かろうと、笠を差し出しました。明日どうなるかもわからず未来への不安があるのに、それを気にしないということは、いまこの瞬間を夫婦が大切に生きているということです。実に清々しく、なんとも潔い生き方です。
この夫婦と同じ状況で、同じ行いをするのは大きな勇気が必要です。しかし、その尊き心は学ぶべきでしょう。そして、この夫婦のように、一番大切なものを施すことはできなくても、施しはいつでも出来るものです。それは「誰かの幸せを祈る」ということです。神仏に手を合わせて幸せを祈ることも、大きな心の施しです。
まんが日本昔ばなし
『笠地蔵』
放送日: 昭和50年(1975年)01月07日
放送回: 第0002話(第0001回放送 Bパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: まるふしろう
脚本: 平見修二
美術: 阿部幸次
作画: 上口照人・樋口雅一
典型: 致富譚・地蔵信仰
地域: 東北地方
最後に
今回は、『笠地蔵』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
『笠地蔵』は、善悪を対比するようなお話ではなく、純粋に正しい行いをする者が救われるという展開は、読む者を幸せな気持ちにさせてくれます。ぜひ触れてみてください!