『大工と鬼六』は、認知度は低いですが、ぞっとするような内容で展開が面白い民話です。そして、お話の全体がとても謎めいており、単一の解釈を許さない深みがあります。
今回は、『大工と鬼六』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『大工と鬼六』は、東北地方に位置する岩手県胆沢郡金ケ崎町に伝わる民話です。
大正 6年(1917年)に大日本図書より発行された水田光の『お話の実際』に「鬼の橋」の題で収録されたのが初出といわれています。
昭和6年(1931年)に三元社より発行された佐々木喜善の『聴耳草紙』に「大工と鬼六」の題で収録されたことで広く知られるようになりました。
『大工と鬼六』は、北欧に伝承される「オーラフ上人の寺院建立伝説」を改作したと水田光が『お話の実際』の中で明かしています。
たぶん、大正時代ということもあるので、水田光は外国の民話をそのまま翻訳しても日本人が理解することは難しいと考えたのでしょう。そこで、舞台や登場人物などを日本風に改作したのではないかと想像します。
あらすじ
むかしむかし、あるところに、とても流れの速い川がありました。
何度も橋を架けましたが、その度に橋が流されてしまうので、村人たちは困り果て、この辺りで一番名高い大工に橋をかけてもらうことにしました。
大工は橋を架けることを引き受けたものの、あまりに速い川の流れに心配になっていました。
大工が流れの速い川じっと眺めていると、流れの中から大きな鬼が現れ、
「目ん玉をよこせば立派な橋を架けてやる」
と大工に言いました。
次の日、大工が川へ行くと、橋が半分できあがていました。
さらに次の日、川へ行ってみると、もうすでに立派な橋が完成していました。
そこに鬼が現れ、
「さあ、目ん玉よこせ」
と大工に迫りました。
大工が
「待ってくれ!」
と頼み、逃げ出すと、
「それならば、オレの名前を言い当てたら、目ん玉を諦めてやる」
と鬼が言いました。
大工の逃げた先は山の奥深い場所でした。すると、遠くから不思議な子守り唄が聞こえてきました。
「早く寝た子には 鬼六が 目ん玉もってやってくる」
はっとした大工は、慌てて家に帰りました。
次の日、大工が川へ行くと、鬼が現れて、
「目ん玉をよこせ」
と言いました。
大工は色々と当てずっぽうの名前を口にしますが、
「なかなかオレの名前を言い当てられないな」
と鬼に笑われながら言われたので、大工は最後に、
「お前の名前は鬼六だ!」
と大声で叫びました。
すると鬼は嬉しそうに姿を消し、それっきり現れなくなりました。
こうして、流れの速い川には立派な橋が架かりました。そして、橋架け名人である鬼六の架けた橋は、どんな大雨でも流されることはなかったそうです。
解説
鬼や悪魔などの名前を言い当てるというお話は世界中に存在します。
最も有名なお話は、ヤーコプとヴィルヘルムのグリム兄弟が編纂したドイツの『グリム童話』に収録されていて、日本では「がたがたの竹馬こぞう」と訳されることもある、悪魔が名前を言い当てられたことで滅びる「ルンペンシュティルツヒェン」ではないでしょうか。
古来の日本を支配し続けた思想である陰陽道の世界では、「名前はこの世で一番短い呪」とし、相手の名を知ることができれば、その名で相手に呪いをかけたとの記録があります。
このように、名前の神秘性を題材にしたお話は世界中に存在します。これは、対象の名前を知れば相手を支配、操ることができるという概念が込められているからでしょう。
絵本『グリムどうわ (母と子のおやすみまえの小さな絵本)』はナツメ社から出版されています。子どもたちのさまざまな感情を喚起させ、想像力を高めるお話が、バラエティー豊かな挿絵と共に収録されています。それぞれのお話からわかる教訓や読み聞かせのポイントも解説されています。読んだ日を記入する欄もあります。感想
外国由来だからでしょうか、『大工と鬼六』は、多くの謎が含まれた民話です。
その中でも特に気になる謎が一点あります。
それは、「なぜ鬼は大工に自分の名前を言い当てる機会を与えたのか」という点です。
鬼はその場で大工の目ん玉を奪えばいいのに、わざわざ自分の名前を考える時間を与えるため、その場から大工を逃がします。そのおかげで、逃げた先の山奥で大工は子守り唄を耳にして、鬼に関する重大な情報を入手します。
それらを勘案すると、一つの疑問が浮かびます。
「ひょっとして鬼は名前を言い当てて欲しかったのではないか」と言うことです。
そのように考えると、このお話に登場する「鬼」は、「流れの速い川」を象徴化したものと捉えることができます。
そして、「目ん玉」は「命」で「名前」は「自然の本質」と置き換えることができます。
つまり、『大工と鬼六』が伝えたいことは、自然の本質を理解したことで、川の流れを克服し、命を落とすことなく無事に生活できるようになったということです。
まんが日本昔ばなし
『大工と鬼六』
放送日: 昭和51年(1976年)04月10日
放送回: 第0048話(第0027回放送 Bパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 小華和ためお
文芸: 沖島勲
美術: 古谷彰
作画: 川島明
典型: 奇譚
地域: 東北地方(岩手県)
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『大工と鬼六』は「DVD-BOX第10集 第46巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『大工と鬼六』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
昔ばなしは、釈然としないところに面白みがあると思っています。『大工と鬼六』もそのような民話なので、ぜひ触れてみてください!