『髪長姫』は、史実でいうと藤原不比等の長女で、第42代文武天皇の正妃となり、第45代聖武天皇のご生母となられた藤原宮子(宮子姫)です。藤原宮子は、7世紀後半、九海士の里(和歌山県御坊市)でお生まれになったと伝えられています。
今回は、『髪長姫』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
和歌山県日高郡川辺町(現在の日高川町)にある道成寺の創建にまつわる民話です。
道成寺といえば悲恋の物語である「安珍・清姫伝説」が全国的には有名ですが、この『髪長姫』も平安時代中期の長久年間(1040~44年)に編纂された『大日本国法華験記』にすでにみえる古いお話で、その後『今昔物語集』などに書きつがれていき、室町時代中期(1400年代)に編纂された『道成寺縁起絵巻』でまとまったとされています。
現在でも「髪長姫伝説」や「宮子姫伝記」と呼ばれ、地元ではとても有名なお話です。
昭和44年(1969年)にポプラ社より発行された文: 有吉佐和子・絵: 秋野不矩による『かみながひめ』の絵本と、昭和50年(1975年)に未來社より発行された徳山静子より『紀州の民話』に「髪長姫物語」という題名で紹介されたことで、日本中に広く知られるようになりました。
あらすじ
むかしむかし、九海士の里に住む海女の夫婦が、美しい女の子を授かりました。女の子は、すくすく育ちましたが、髪が生えてきませんでした。母親は悲しみ、神仏に祈りますが、効果がありませんでした。
ある日、九海士の海が荒れ、夜になると沖に不思議な光るものが出るようになりました。漁師たちは 魚が取れず、暮らしに困るようになりました。
その時、母親が光るものを確かめると名のりでます。
子どもの髪が生えないのは、自分の行いが悪かったためだろう、里のために光るもの確かめれば、神様が許してくれるかもしれないと考えたのです。
母親が船で沖へ出て、海に潜ると、海底に光輝くものがありました。それは黄金色の小さな観音様でした。母親は命がけで海底から観音様を引き揚げ浜に戻ると、そのまま息を引き取りました。
里の人々が彼女を葬って、観音様を祀ると、女の子の髪が生えはじめました。髪はどんどん伸び、やがて里の人々から「髪長姫」と呼ばれる見事な黒髪の美女となりました。
ある日、髪をとかしていた髪長姫のそばに飛んできたツバメが、抜け落ちた一本の髪をくわえて飛び去りました。ツバメは、時の右大臣で奈良の都で勢力を誇っていた藤原不比等の屋敷に、その髪で巣を造りました。
巣から垂れ下がる長い黒髪を見つけた不比等は、きっと美しい姫に違いないと思い、姫を探させました。やがて、髪長姫は、藤原家の養女として迎えられることになりました。不比等の養女となった髪長姫は宮子姫と呼ばれ、その美貌と才能を見込まれ文武天皇の妃となりました。
文武天皇は宮子姫がご恩返しをするため、日高の里に、彼女の母親と観音様を祀るお寺を建てることを命じました。それが道成寺だといわれています。
解説
大宝元年(701年)、文武天皇は皇后である藤原宮子の願いを受け、道成寺をお建てになりました。
宮子は、道成寺の言い伝えでは「髪長姫」と呼ばれる九海士の里に住む海女の娘であったとされます。
この言い伝えには賛否両論があり、宮子の人生には今も多くの謎が残されています。しかし、藤原不比等の長女が文武天皇の正妃となり、後に聖武天皇のご生母となったこと。それから、文武天皇の勅願によって道成寺が建立されたことは史実です。
また、道成寺は、ご本尊として大小二体の千手観音像がお祀りされています。昭和60年(1985年)に着手した、道成寺解体修理の際に発見された千手観音像は奈良時代にさかのぼる作品で、国内最古の部類に入る千手観音像とのことです。このことからも8世紀初頭には寺院が存在したことは確実視されています。
ちなみに、大小二体の千手観音像は、大きい方は奈良の都を向いて安置され、その胎内には宮子の母が海底から引き上げたと伝わる小さな観音像が納められているそうです。
『今昔物語集 (角川書店編ビギナーズ・クラシックス)』は、現代語訳と古文の生き生きとしたリズムによって誰もが古典の世界を楽しむことができます。感想
このお話は、まさかというような内容です。
海女の娘が天皇の妃になり、そして皇子を生み、皇子は天皇となる。出自の低い娘が入内することは簡単なことではありません。ましてや産んだ子が天皇になるなど考えられないことです。
ところが、髪長姫だとされる藤原宮子は、道成寺の創建に深く関わりのある人物として、長い間失われることなく伝えられてきました。道成寺には「文武天皇勅願所」の碑も立っています。
想像するに、藤原宮子の出自は、このお話にある通りでしょう。そして、口に出してはいけないものとして、公式な書物には記されず、口伝などで道成寺周辺では密かに語り継がれていったのでしょう。
まんが日本昔ばなし
『髪長姫』
放送日: 昭和51年(1976年)03月06日
放送回: 第0040話(第0022回放送 Bパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 今沢哲男
文芸: 鈴木良武
美術: 山守啓陽
作画: 鈴木欽一郎
典型: 宮子姫髪長譚・道成寺伝説
地域: 近畿地方(和歌山県)
『髪長姫』は「DVD-BOX第3集 第15巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『髪長姫』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
『髪長姫』は、出自の低い女の子が見違えるほどの成長と幸福を手に入れるという成功物語です。道成寺の縁起を描いたものに、ぜひ触れてみてください!