昔話『分銅狐』のあらすじ・内容解説・感想|おすすめ絵本
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 古来こらい日本にっぽんでは、“分銅ふんどうぎつね”にかれたもの大金おおがねちになるとつたわります。商売しょうばいをするもの場合ばあいには、もの仕入しいれるさい天秤てんびんぼう分銅ふんどうした分銅ふんどうぎつねがぶらがっておもくし、さい荷物にもつした分銅ふんどうぎつねぶらがっておもくします。分銅ふんどうぎつねかれたおとこ末路まつろのおはなしが『分銅ふんどうぎつね』です。

 今回こんかいは、『分銅ふんどうぎつね』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいします!

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概要

 れいなどがうつることを、「く」とか「憑依ひょうい」とかいいますが、ひといえれいを「もの」といい、古来こらい日本にっぽんでは、もの霊力れいりょくつとしんじられ、ひといえわざわいをもたらすとかんがえられてきました。

 ものは、自然しぜんひといえくものもあれば、ひともとめることでかせるものの種類しゅるい存在そんざいします。

 もの種類しゅるいには色々いろいろなものがありますが、日本にっぽん各地かくちではきつねれいかれた「きつねき」が一番いちばんおおく、その名称めいしょう地域ちいきによってことなります。

 一例いちれいげると、

くだぎつね北海道ほっかいどう東北とうほく地方ちほう関東かんとう地方ちほう南部なんぶ中部ちゅうぶ地方ちほう一部いちぶ
・オサキや尾崎おさきぎつね関東かんとう地方ちほう位置いちする埼玉県さいたまけん東京都とうきょうと奥多摩おくたま地方ちほう群馬県ぐんまけん栃木県とちぎけん茨城県いばらきけん中部ちゅうぶ地方ちほう位置いちする長野県ながのけん一部いちぶ
人狐にんこ近畿きんき地方ちほう一部いちぶ中国ちゅうごく地方ちほう
野狐やこ九州きゅうしゅう地方ちほう

などと呼ばれ、きつねきのおはなし日本にっぽん各地かくちひろくみられます。

 『分銅ふんどうぎつね』は、中国ちゅうごく地方ちほう位置いちする山口県やまぐちけん南東部なんとうぶ周南市しゅうなんし北部ほくぶ位置いちする須金すがね地区ちくつたわるきつねきのおはなしです。

なお現時点げんじてんでは『分銅ふんどうぎつね』にかんする絵本えほん存在そんざいしません。

 コミック『稲荷いなり神社じんじゃのキツネさん』は、光文社こうぶんしゃから出版しゅっぱんされています。東村ひがしむらアキコさんが、稲荷いなり神社じんじゃでの作法さほう信仰しんこうのありかた、おかねとのかたなどを、実体験じったいけんまじえながらかりやすくえがいいています。指南書しなんしょとしても自己じこ啓発本けいはつぼんとしても、おおくの気付きづきをることができる一冊いっさつです。
稲荷いなり神社じんじゃとキツネをえがいた内容ないようですが、昔話むかしばなしとはまったく関係かんけいないコミックです。

 『周防すおう長門ながと民話みんわ だい1しゅう ([新版しんぱん]日本にっぽん民話みんわ 29)』は未來社みらいしゃから出版しゅっぱんされています。瀬戸内海せとないかい日本海にほんかいめんした山口県やまぐちけんを、周防すおう地方ちほう長門ながと地方ちほうけ、「分銅ふんどうぎつね」など山口県やまぐちけん独自どくじかた口調くちょうのおもしろさをかした、あかるくおおらかな自然しぜんかれたたのしい民話みんわ70ぺんとわらべうたが収録しゅうろくされています。

 『きつねきときつねとし』は、戎光祥えびすこうしょう出版しゅっぱんから出版しゅっぱんされています。なぜ日本人にっぽんじんきつねかみとしてあがめたのか。そして、なぜ日本人にっぽんじんきつね妖怪ようかいとしておそれたのか。かみとしてのきつねへの「おそれ」と妖怪ようかいとしてのきつねへの「おそれ」の両面りょうめんを、その真髄しんずいからいた研究書けんきゅうしょです。「きつね寺社じしゃところどころ」「江戸えど稲荷いなりく」「きつねきときつねとし」の三部さんぶ構成こうせいされています。稲荷いなり信仰しんこうかんする具体的ぐたいてき検証けんしょうと、きつねかんする伝説でんせつ分析ぶんせきがバランスよくしるされているため、膨大ぼうだいなデータりょうでありながらもんでいてきることがありません。稲荷いなり信仰しんこうきつね伝説でんせつ関心かんしんのあるかたには、おススメの一冊いっさつです。

あらすじ

 むかしむかし、あるむら吞兵衛どんべえというおとこがおりました。

 吞兵衛どんべえは、やま和紙わし原材料げんざいりょう樹木じゅもくである「こうぞ」をり、それをって生活せいかつをしていました。

 吞兵衛どんべえは、かかあと五人ごにんどもたちと七人しちにんらしていましたが、あきないが下手へたなうえに、お人好ひとよしだったので、いつもあきないは上手うまくいかず、貧乏びんぼうらしをしていました。

 ある吞兵衛どんべえあきないのかえりにむら稲荷いなり明神みょうじんさまをご参拝さんぱいし、ほこらまえ一休ひとやすみしていると、稲荷いなり明神みょうじんさま使つかいと名乗なのしろきつねめられました。

 「オイラにおそなものをしてくれたら、はかり分銅ふんどうけて目方めかたをごまかし、おまえもうかるようにしてやる」
しろきつね吞兵衛どんべえいました。

 「そんなことができるのか」
吞兵衛どんべえ半信はんしん半疑はんぎでしたが、もうかるのならばと、毎日まいにち、おきつねさまにぎめしさんそなえすることを約束やくそくしました。

 そのから、こうぞさいは、おきつねさまはかり分銅ふんどうけて、目方めかたをごまかしてくれるようになったので、こうぞ実際じっさいよりも高値たかねることができるようになり、吞兵衛どんべえもうかるようになりました。

 おきつねさまのおかげで、吞兵衛どんべえ一家いっからしきはだいぶくなりました。

 そんなある、おきつねさまよめをもらいけることになりました。

 「オイラがよめをもらうことになったので、おそなえのにぎめしろっやせ。そうすればもうすこもうけさせてやる」
とおきつねさま吞兵衛どんべえいました。

 もうすこもうけることができるのならばと、吞兵衛どんべえは、毎日まいにち、おきつねさまにぎめしろっそなえすることを約束やくそくしました。

 おきつねさまのおかげで、いままでよりもすこしだけもうけさせてもらえるようになり、吞兵衛どんべえ一家いっからしきはもっとくなりました。

 れもまったある、おきつねさまが、
 「よめとのあいだきゅうひきまれたので、おそなえのにぎめし三十三さんじゅうさんやせ。そうすればおまえこうぞ問屋どんやにしてやる」
吞兵衛どんべえいました。

 「こうぞ問屋どんやになれるのであれば、おきつねさまどもの面倒めんどうもみる」
吞兵衛どんべえはおきつねさまつたえて、毎日まいにちにぎめし三十三さんじゅうさんそなえすることを約束やくそくしました。

 おきつねさまのおかげで、あきないは益々ますますうまくいき、吞兵衛どんべえ一家いっからしきは、以前いぜんとはくらべものにならないほどくなり、すこしずつ贅沢ぜいたくができるほどになりました。

 そんなあるこうぞ問屋どんやとなった吞兵衛どんべえのところに、しろいおきつねさま姿すがたあらわしました。

 「きゅうひきどもがよめをもらい、それぞれにまごまれた。オイラのいえ百一ひゃくいっぴきおお所帯じょたいになったので、明日あすからは、毎日まいにち三百三さんびゃくさんのおそなえのにぎめしってこい」
とおきつねさま吞兵衛どんべえいました。

 おどろいた吞兵衛どんべえは、そのにへなへなとすわんでしまいました。

 そして、
 「さすがにもうおきつねさま面倒めんどうをみることはできない」
おもった吞兵衛どんべえは、そのばんから寝込ねこんでしまいました。

 吞兵衛どんべえは、かかあにいままでのことをすべてけました。

 つぎ吞兵衛どんべえは、よん代目だいめのおきつねさまたちのぶんふくめた、二千七百にせんななひゃくにぎめしをおそなえし、おはらいをして、きずきげた身代しんだいをすべて稲荷いなり明神みょうじんさまにおかえしいたしました。

 吞兵衛どんべえは、もと貧乏びんぼうくらしにもどってしまいましたが、こうぞ問屋どんやになったときよりもいまらしのほうが、なんだかあたたかさをかんじていました。

 吞兵衛どんべえは、あいわらずおひとしであきな下手べたでしたが、やさしいかかあと元気げんきどもたちのために、あしぼうにしてやまあるまわり、こうぞってらしたそうです。

解説

 稲荷神いなりのかみは、稲荷大明神いなりだいみょうじん、お稲荷いなりさま、お稲荷いなりさんともばれる、いね精霊せいれいで、穀物こくもつ食物しょくもつつかさど神様かみさまです。

 そして、稲荷神いなりのかみをおまつりする稲荷いなり神社じんじゃは、日本にほん各地かくちにみられる神社じんじゃで、あか鳥居とりいかまえ、境内けいだい狛狐こまぎつねがあることでもられています。

 稲荷いなり神社じんじゃかずは、全国ぜんこく三万さんまんしゃとも四万よんまんしゃともいわれ、江戸えど時代じだいにはそのかずおおさから、江戸えど時代じだい初期しょきのはやり言葉ことばに「伊勢屋いせや稲荷いなりいぬくそ」といわれるほどでした。

 したしみをめて、人々ひとびとからお稲荷いなりさまばれる稲荷いなり神社じんじゃには、きつねがつきものです。

 しかし、稲荷神いなりのかみきつね姿すがたをしていません。

 きつねは、稲荷神いなりのかみのお使つかいとなる神使しんしなのです。

 ちなみに、稲荷神いなりのかみとは、須佐之男命スサノオノミコト神大市比売カムオオイチヒメあいだまれたとされる穀物こくもつかみである宇迦之御魂神ウカノミタマノカミ同一視どういつしされ、のち穀物こくもつかみとも習合しゅうごうしました。

 古来こらい日本にっぽんでは、きつねにはひと寿命じゅみょう作物さくもつ収穫量しゅうかくりょうなどを予知よちする能力のうりょくち、ひと精気せいきうばい、あるいはひとかすなど、神秘的しんぴてき動物どうぶつとしてあつかわれてきました。

 たれがった稲穂いなほ尻尾しっぽていることや、こめべるネズミを退治たいじすることから、きつね人間にんげんらしや稲作いなさくかかわりがふかく、信仰しんこう対象たいしょうでもあったため、お稲荷いなりさまのお使つかいにえらばれたのでしょう。

 つまり、本来ほんらいきつねはお稲荷いなりさまのお使つかいなので、神格化しんかくかされたくらいたかきつねということになります。

 ところが、いつのころからか神様かみさまふり・・をして、人々ひとびとねがいをなんでもかんでもれご利益りえきさずける、ワル知恵ぢえはたらくらいひくきつねあらわれました。

 はらぐろきつねですから、それなりの見返みかえりを人々ひとびと要求ようきゅうしました。

 『分銅ふんどうぎつね』も、そういったたぐいきつねかんがえられます。

 さて、江戸えど時代じだい周防国すおうのくに都濃郡つのぐん徳山とくやま(現在げんざい山口県やまぐちけん周南市しゅうなんし)をおさめていたのは、長州藩ちょうしゅうはん(萩藩はぎはん)の支藩しはんである徳山藩とくやまはんでした。

 徳山藩とくやまはんでは、かみきを奨励すいしょうし、年貢ねんぐはすべてかみによる上納じょうのうであったとつたわります。

 そのため、この地域ちいきでは和紙わし原材料げんざいりょう樹木じゅもくである「こうぞ」の取引とりひきさかんにおこなわれていました。

 周南市しゅうなんし須金すがね地区ちくは、明治めいじ時代じだいやく400のきつらねてかみいていたといわれますが、大正たいしょう時代じだいはいると機械化きかいかによりかみきは急速きゅうそく衰退すいたいし、昭和しょうわ時代じだい初期しょきにはかみきをおこなはほとんどなくなりました。

感想

 お稲荷いなりさま、つまり、本来ほんらいなら神様かみさまとなったきつねこわいものではありません。

 しかし、お稲荷いなりさま信仰しんこうには、「こわい」「危険きけん」「たたりがある」といううわさつねきまといます。

 古来こらい日本にっぽんでは、動物どうぶつであるきつねかみしんじることは、人間にんげん生命せいめいそなわる畜生ちくちょう根性こんじょうこすとされてきました。

 その結果けっか、そういったひと人格じんかく低落ていらくし、他人たにんあざむいてでもみずかかねもうけしようとするよごれたこころつとかんがえられてきました。

 さらに、「きつねき」という精神的せいしんてき異常いじょう行動こうどうむすびつけられて、お稲荷いなりさま信仰しんこう危険きけんだとおそれられてもきました。

 『分銅ふんどうぎつね』にもあるとおり、崇敬者すうけいしゃたいして、熱烈ねつれつなまでの信仰心しんこうしんもとめるのがお稲荷いなりさまといわれています。

 そのことを承知しょうちうえで、崇敬者すうけいしゃはお稲荷いなりさまとはわなければならないと『分銅ふんどうぎつね』のおはなしつたえているのでしょう。

 人間にんげんほう素直すなお熱意ねついあるといった、お稲荷いなりさまもの同士どうしならばうまうことでしょう。

 しかし、このくみわせの唯一ゆいつ欠点けってんは、人間にんげんほう自分じぶん見失みうしなってしまう可能性かのうせいがあり、お稲荷いなりさま過剰かじょうまわされてしまうおそれがあるということです。

 お稲荷いなりさまかぎらず、神仏しんぶつとのおいに礼儀れいぎおもんじ、幸運こううんのたびに感謝かんしゃするのはよいことです。

 とにかく、何事なにごともやりすぎると、副作用ふくさようまねくかもしれないということです。

まんが日本昔ばなし

分銅ふんどうぎつね
放送日: 昭和52年(1977年)04月09日
放送回: 第0129話(0079 Aパート))
語り: 常田富士男・(市原悦子)
出典: 『周防すおう長門ながと民話みんわ だい1しゅう ([新版しんぱん]日本にっぽん民話みんわ 29)松岡利夫まつおかとしお (未來社みらいしゃ)
演出: 藤本四郎
文芸: 境のぶひろ
美術: 阿部幸次
作画: 上口照人
典型: 幽霊妖怪譚ゆうれいようかいたん稲荷信仰いなりしんこう長者伝説ちょうじゃでんせつ狐譚きつねたん
地域: 中国地方(山口県)

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最後に

 今回こんかいは、『分銅ふんどうぎつね』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいしました。

 信仰しんこうとは、本来ほんらいひと神様かみさまむすばれている事実じじつそのものなので、自分じぶん見失みうしなうことはありません。しかし、お稲荷様いなりさま熱烈ねつれつなまでの信仰心しんこうしんもとめるので、過剰かじょうまわされてしまうおそれがあります。そのことを承知しょうちうえで、お稲荷様いなりさまとはわなければなりません。「ぎたるはおよばざるがごとし」という言葉ことばにもあるように、何事なにごともやりぎはくないと『分銅ふんどうぎつね』はおしえています。ぜひれてみてください!

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