仕事をせず、遊んでばかりの怠け者の主人公の太助が、道端で壺を拾います。その壺の中には小さな男が入っていました。怠け者な性格を気に入られ、小さな男は太助の家に住み着きます。不思議なことに、太助が遊んで帰ると男は次第に大きくなっていき、ついには家からはみ出すほどの大きさになりました。主人公の太助の心が、次第に変化していく様が面白いお話が『なんにもせん人の話』です。
今回は、『なんにもせん人の話』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『なんにもせん人の話』は、『怠け者の太助』や『なんにも仙人』とも呼ばれ、中国地方に属する山口県が舞台のお話といわれています。
あらすじは、おおむね同じですが、二通りの結末が存在します。ひとつは「怠け者の主人公が働く喜びを知る」で終わるものと、もうひとつは「心を入れかえ、よく働くようになった主人公が、日本一の長者になる」で終わるものです。
絵本『なんにもせんにん (チューリップえほんシリーズ)』は、鈴木出版から出版されています。教訓めいたことが題材のお話ですが、唯野元弘さんによって堅苦しくなくクスッと笑える文を、石川えりこさんの絵が展開を上手に表現しているので、テンポよく読み進めることができます。ダジャレ本ではなく、一種の教訓話であり、なかなか滋味深い昔話です。 紙芝居『なんにもせんにん (紙芝居ベストセレクション 第2集)』は、童心社から出版されています。明治時代から大正時代にかけて活躍した児童文学者の巖谷小波氏のお話が、紙芝居で蘇りました。川崎大治さんの文も佐藤わき子さんの絵も、ほどよく力が抜けていて、のんびりのほほんとしていることから、幼児でもわかりやすいよう構成されています。クスクスと笑ってしまった記憶とともに、怠けてはいけないという教訓が心に残ることでしょう。 『周防・長門の民話 第2集 ([新版]日本の民話 46)』は、未來社から出版されています。瀬戸内海と日本海に面した山口県を、周防地方と長門地方に分け、語り口調のおもしろさを活かした楽しい民話集です。あらすじ
むかしむかし、ある村に、太助という名のどうしようもない怠け者がおりました。
太助は、いつも朝からぶらぶら歩いていて、仕事もせずに遊んでばかりいました。
ある日、太助が朝からぶらぶらしていると、道端で小さい壷をみつけました。
壷の中をみてみると、そこには小さな小さな男が入っていました。
その男が、か細い声で何かを発しているので、太助が耳を澄ませて聞くと、
「ワシは、何にもせんで、いつも遊んでいる者が好きなんじゃ。お前さんの家に連れていって、一緒に暮らしてくれないか」
と言っているようでしたので、太助はその壷を家へ持って帰ることにしました。
こうして太助は、小さな男と同居することになりました。
次の日、太助がいつものように日暮れまでぶらぶらして家に帰ってみると、家の中で一人の男が寝ていました。
太助が、
「お前さんは何者だ」
と尋ねてみると、
その男は、
「昨日、壷の中に入っていた小さな男だ」
と答えました。
家の中で寝ていた男は、壷の中の小さな男が大きくなったのでした。
「そうなのか」
と太助は納得し、その次の日も太助は一日ぶらぶらして過ごしました。
そうして太助が家に帰ってみると、男がもう一回り大きくなっていました。
そんなこんなで数日が過ぎ、太助がぶらぶらして過ごして帰る度に、男はどんどん大きくなり、ついに男は家にぎゅうぎゅうに詰まるほど大きくなり、家からははみ出すほどの大きさになりました。
太助は寝るところがなくなり、最初は土間で、次には家の外で寝ることになりました。
そんな時、
「稲刈りが忙しくて手が足りないから、手伝ってくれないか」
と近所の人から太助に声がかかり、太助は稲刈りを手伝うことになりました。
しぶしぶ働いて、太助が家に帰ってみると、朝より男がちょっぴり小さくなっていました。
それから次の日も、また次の日も、太助は稲刈りの手伝いをしました。
そんな日々を太助が過ごしていると、男はどんどん小さくなっていき、やがて元のように壷の中に納まってしまうほど小さくなってしまいました。
太助が一向に遊ばなくなってしまったので、
「このままだと、小さくなりすぎてワシは消えてしまう。お願いだ。ワシを壺に入れて、捨ててくれ。何もしないで、遊んでばかりいる者に拾ってもらうから」
と男は太助に頼みました。
太助は可哀想に思い、男を壺に入れ、言われた通り壷を道端に捨てました。
この出来事があってからというもの、太助は今までとは打って変わって働き者になったそうです。
解説
学習指導要領が改訂され、長く教科外活動として行われてきた道徳の授業が、小学校では平成30年(2018年)、中学校では平成31年(2019年)から「特別の教科」として新教科書で再スタートしました。
『なんにもせん人の話』は、『なんにも仙人』という題で日本文教出版の小学校道徳三年に採用されたことにより、全国でも広く知られるようになりました。
では、「なぜ小学校の教材に採用されたのか」を考えるのと同時に、「子どもにはどのような学びが生まれるか」を考えてみましょう。
そこで、今回は小学校に入学した“児童”になったつもりで、教材としての『なんにもせん人の話』を読み解いてみたいと思います。
では、「3年『なんにも仙人』」のテーマで教材の解説をしていきましょう。
子どもにとっても“働く”ことは身近なことです。例えば、係の仕事、給食当番、委員会などが考えられます。また、働いたらお金をもらう労働もありますが、ボランティアなどの無償の労働も含みます。働くことはどんな意味があるのでしょう?
それでは、教材としての『なんにも仙人』を解説していきます!
1.主題名
2.教材名
3.主題について
4.実際
5.まとめ
上記の内容に沿って進めていきます。
1.主題名
はたらくよろこび
(C: 勤労、公共の精神)
2.教材名
3年生『なんにも仙人』(日本文教出版)
3.主題について
(1)主題の価値
本主題は、仕事に対して誇りや喜びをもち、働くことや社会に奉仕することの充実感を通して、働くことの意義を自覚し、進んで公共のために役立つことに関する内容項目である。
また、中学年の指導の観点は、「働くことの大切さを知り、進んでみんなのために働くこと」である。
これは、低学年の「働くことのよさを知り、みんなのために働くこと」からつながり、高学年の「働くことや社会に奉仕することの充実感を味わうとともに、その意義を理解し、公共のために役に立つことをすること」へと発展するものである。
働くということには、自分の仕事をやり遂げたときの達成感や充実感があり、また、誰かのためになれたという喜び、そして自分の成長を感じる喜びや満足感があるものである。
この期の子どもは、学級の清掃や給食などの当番活動、学級生活の充実に向けた係活動の大切さを理解している一方で、働くことを負担に感じたり、面倒に思ったりする様子も見られる。
そこで、本主題において、遊んでばかりの毎日を送っていたのに、意欲的に仕事に取り組むようになった主人公の心情の変化に注目させることで、働くことで得る楽しさや喜びについて考えを深め、進んで働こうという意欲を育むことは、大変意義のあるものと考える。
(2)他教育活動や環境、地域社会との連携
ⅰ)他教育活動との連携
例えば、音楽の『茶摘』の歌詞にあるような、「はたらくよろこび」を主題にしているものを、他の教科の中から探し出す。
ⅱ)環境、地域社会との連携
係活動、当番活動、清掃活動などを通じて、「はたらくよろこび」について考える。
(3)児童の実態
ⅰ)実態調査
・進んで働いたことがありますか。あると答えた人は、どんなことをしましたか。
・「進んで働くこと」は好きですか。理由も答えてください。
・「進んで働くこと」は大切だと思いますか。理由も答えてください。
・「働きたくないな。いやだな。」と感じることはありますか。それは、なぜですか。
・「進んで働いてよかった」と感じたことはありますか。理由も書きましょう。
・「働くことがおもしろい」と感じたことはありますか。それは、どんな時ですか。また、なぜですか。
上記のような質問を行い、子どもたちの実態を調査する。
ⅱ)実態調査からの考察
調査の結果より、児童は、働くことで誰かの役に立つことのうれしさや、喜びを強く感じている。
一方、身の回りの生活の中で、集団の一員としてできることや働くことが集団生活の向上につながることへの気付きは感じられていないことが分かった。
進んで働くことは、自分だけでなく、そこで、学級や学校で過ごす様々な人たちのためになっているということに気付かせ、みんなのために進んで働こうとする意欲や態度を育むことが大切である。
(4)教材について
本教材の主人公「怠け者の太助」は、ある日、何もせずに寝てばかりいる「なんにも仙人」に出会い、家に連れて帰る。
この仙人は、太助が怠け遊び暮らすほど大きくなり、ついには太助が家に入ることができないほどになる。
しかし、太助が一生懸命働くようになると、仙人は働くほど小さくなり、ついには仙人もいなくなり、お米のぎっしりつまったつぼが残った。
それなのに、その後も、太助はせっせと働いた。
「なんにも仙人」とのやりとりを通して、太助は働くことの楽しさや喜びを知っていく。
本教材では、「なんにも仙人」に出会い、働くことに対して価値を見いだしていく太助の心情の変化を見つめることを通して、自分も一生懸命、進んで働いていきたいという意欲を高めていきたい。
4.実際
(1)ねらい
働くことには、遊んでばかりいるのとは異なるおもしろさや、喜びがあることに気づき、進んでみんなのためになる仕事をしようという意欲を高める。
(2)指導に当たって
ⅰ)導入
係活動や当番活動の写真を見せて勤労の場面を具体的に想起させた後、実態調査の結果から働くことは好きだし大切だと気付いているが、実践できないこともあるという感情の矛盾に気付かせる。
そこから、「なぜ、働く必要があるのか」という問題意識をもたせ、めあての設定につなげる。
ⅱ)展開前段
ICT機器を活用し、デジタル教科書で教材を提示することで、内容を深く理解することができるようにする。
その際、主人公の太助が、「働いてみよう」と、今までと大きく心情が変化する場面を焦点化できるように教材を読ませる。
まず、「遊んでばかりいた太助の心情」を問い、主人公の気持ちのように働くことが面倒だと感じたり、負担に感じたりする心の弱さについて共感させる。
次に、せっせと働き続ける太助の気持ちに迫ることで、働き続けることの意義に目をむけられるようにする。
友達と伝え合う際は、赤ペン青ペンを持ち、メモをしながら伝え合う活動を行うことで自分と関連付けて考えたり、興味や関心を高めたりして主体的に取り組めるようにする。
さらに、実態調査の結果から分かるように、児童は「働く」ことで、仕事のやりがいや褒められることの嬉しさを感じていることが分かる。
問い返したり切り返したりすることで、集団の一員としてできることや、集団生活の向上につながるということに気付かせるような発問をし、みんなのために働くことの大切さについて追求できるようにする。
ⅲ)展開後段
ワークシートに学校生活で生かせそうな場面を問い、実践意欲につなげるようにさせる。
その際、理由を書かせるために、予めワークシートには「なぜなら…」の文言を挿入し、続けて書けるようにする。
ⅳ)展開後段 自分たちの勤労体験をスライドショーによって客観的に見せることで、面倒に思う心の弱さを乗り越えて頑張ったことや、終わった後のさわやかな気持ちを思い起こさせる。
その際、クラス全員の働いているスライドを映し出すことで、全員の勤労意欲を喚起させたい。
また、スライドの最後には、「ハッスルノート(児童が自由に書くいい人見つけましたノート)」に書かれている自主的に働いた児童を紹介し、これからもみんなのために働こうという意欲を高めたい。
5.まとめ
「はたらくよろこび」について、これから大切にしたいことや学んだことを子どもたちに聞くと、様々な意見が出て道徳的価値の本質に近付いていくような授業となった。
今回の道徳の授業について、全職員で授業研究会を行い、職員一人一人が授業への疑問を出し合ったり、改善点を述べ合ったりし、明日からの自分自身の授業づくりに活かすことができた。
これからも、子どもたちの道徳性を高める授業づくりを考えていこうと思う。
感想
心を入れ替えるつもりになったとしても、心を入れ替えることはできません。
出来たとしても軌道修正が関の山です。
ところが、この『なんにもせん人の話』にある通り、きっかけは頼まれたからにしろ、近所の稲刈りを頑張っている人の近くで、見様見真似で稲刈りを体験したということが大変に重要なことなのです。
「真似る」は「学ぶ」と同根です。
真似ることで稲刈りを無意識のうちに学ぶことができるということなのです。
習慣を少しだけ変える方が一気に全体を変えるよりも効果が高く、些細な習慣の変化を繰り返す方が驚くほどの改善をもたらすことが期待できます。
そして、主人公の太助は、当たり前だと思いがちな“生きている”というが、実はとても貴重で有り難いことだということに気づいたということでしょう。
まんが日本昔ばなし
『なんにもせん人の話』
放送日: 昭和52年(1977年)04月02日
放送回: 第0127話(0078 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 『周防・長門の民話 第2集 ([新版]日本の民話 46)』 松岡利夫 (未來社)
演出: 樋口雅一
文芸: 境のぶひろ
美術: 馬郡美保子(田中静恵)
作画: 樋口雅一
典型: 致富譚
地域: 中国地方(山口県)
最後に
今回は、『なんにもせん人の話』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
働くことには、遊んでばかりいるのとは異なる面白さや喜びがあります。そのことに気づき、進んで周りの人のために働こうという意欲を高めるお話が『なんにもせん人の話』です。ぜひ触れてみてください!