勇者カンナカムイは、強くて優しくて男気にあふれています。『湖の怪魚』は、カンナカムイが湖に住む怪魚のチライと戦うお話です。
今回は、『湖の怪魚』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『湖の怪魚』は、北海道地方に位置する北海道川上郡弟子屈町にある摩周湖が舞台です。
日本列島北部に先住し、独自の言語と文化をもつアイヌ民族の生活様式と信仰、そして精神性を感じる民話です。
昭和30年代に作詞: 島暁子・作曲: 笹倉重男による日本民話による子どものための合唱組曲『湖の怪魚』が、小学校音楽教科書に採用されたので、歌としてこの物語を知っているという方も多いのではないでしょうか。
絵本『カンナカムイのたたかい (フレーベルのえほん 20)』はフレーベル館より出版されています。尊い命と引き換えに、摩周湖を守り、アイヌの人々の暮らしを守った勇者カンナカムイのお話です。堀尾青史さんによる美しい言葉が、太田大八さんの力強い絵で迫ります。あらすじ
むかしむかし、日本の北の果て、北海道の山奥に、美しい大きな湖がありました。
四季折々の変化に彩られ、動物たちも澄んだ水と豊富な獲物を求めて、この湖に集まって来ました。
ある日、その湖のそばで、少年サマイと勇者カンナカムイが話をしていました。
カンナカムイは、大きな鹿と戦う話をサマイに聞かせていました。サマイは、カンナカムイの話を聞くのが大好きでした。だから、カンナカムイの話は、いつまでも尽きませんでした。そして、気がつくといつも夕暮れでした。
ところで、サマイが住む村人は、皆がこの大きくて美しい湖から魚を獲って暮らしていました。
しかし、ある頃から、この湖で、漁に出た人がそのまま帰らなかったり、死体となって岸に打ち上げられたり、恐ろしい事が起こるようになりました。
湖畔の村人は漁ができなくなってしまいました。
この頃から、この湖には恐ろしい怪魚が潜んでいるという噂が、村人の間に広まるようになりました。そして、村人は、この怪魚を「チライ」と呼んで恐れたのでした。
村の長老は、なんとかチライと呼ばれる怪魚を退治できないかと考えました。そこで、カンナカムイに湖に潜む怪魚の退治を頼むことにしました。
しかし、カンナカムイは湖の獲物とは戦わないと言って断りました。
ところが数日後、カンナカムイが狩りの途中で湖のそばを通りかかると、怪魚が大角鹿をひと飲みにしてしまうところを目撃しました。
これで、カンナカムイは怪魚の退治にのりだすことを決心しました。
その夜、カンナカムイは湖に船を出し、怪魚が現れるのを待つことにしました。
そのまま何時間が経過すると、怪魚が現れました。そして、カンナカムイの船を襲ってきました。船はひっくり返り、カンナカムイと船の漕ぎ手は湖の中に放り出されてしまった。
漕ぎ手がひっくり返った船にしがみついて辺りを見渡すと、カンナカムイが怪魚の背に乗って戦っているのが見えました。カンナカムイは怪魚の頭めがけて鉄の銛を突き刺しましたが、そのまま怪魚と一緒に湖の中へと沈んでいってしまいました。
その後、怪魚もカンナカムイも水面にその姿が現れることはありませんでした。
生き残って、なんとか岸にたどり着いた漕ぎ手は、一部始終を村人に語って聞かせました。
それから何ヶ月かして、湖から流れ出る川の畔に、大きな魚の死骸が浮いていました。
その魚の頭にはカンナカムイの銛が刺さっていました。
解説
『湖の怪魚』の主人公であるカンナカムイは、アイヌ伝承の創世神話においては、男女一対の雷神の化身である龍神と言われています。
ちなみに、アイヌ語で“カンナ”は「上(上方)」を、“カムイ”は「神」を意味します。
大蛇(龍)の姿をしているとされ、伝承によれば雷を衣装として人間界に現れると言われています。
神々の世界である天上界において最も気性の激しい性格の荒神と言われ、子ども用の揺り籠に乗って空を飛ぶとされています。
それから、お話に登場するチライとは、イトウと呼ばれる日本では北海道の一部のみで生息が確認されており、絶滅危惧種にも指定されている日本一大きな幻の魚です。
感想
戦国時代の義将・石田三成の陣幕や幟旗には「大一大万大吉」と染められています。この「大一大万大吉」に込められた意味は、「一人が万民のために、万民は一人のために尽くせば、天下の人々は幸福(吉)になれる」という助け合いの精神です。
海外ではこれと同様の意味で、フフランスの作家アレクサンドル・デュマ・ペールの『ダルタニヤン物語』の第1部『三銃士』の中に登場する「One for all, All for one (ワンフォーオール、オールフォーワン)」(一人はみんなのために、みんなは一人のために)という言葉が親しまれています。
集団という“公”の利のために、個である“私”が、粉骨砕身の努力をして事に当るというのは、まさに人の上に立つ者の姿勢です。そして、一人ひとりがそのような意識を持って自己形成に励むことは、本当に素晴らしいと思います。
近年、日本は大きな災害に見舞われています。それにより、若者の意識が随分と変容したと言われています。
「他者のために自分に何ができるのか」「自分の力を何に使えばよいのか」を考えて励む時代になったと言われます。
こういう時代だからこそ、「一人はみんなのために」という温かい心を持つ子どもを、日本に伝わる昔話を通じて、一人でも多く育むことができればと思います。
まんが日本昔ばなし
『湖の怪魚』
放送日: 昭和51年(1976年)05月08日
放送回: 第0054話(第0031回放送 Aパート)
語り: 常田富士男・(市原悦子)
出典: 表記なし
演出: 児玉喬夫
文芸: 沖島勲
美術: 稲場富恵
作画: 高橋信也
典型: 英雄譚
地域: 北海道
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『湖の怪魚』は「DVD-BOX第12集 第56巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『湖の怪魚』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
湖に住む怪魚のチライを退治するため、文字通り命を賭けて臨んだ男が勇者カンナカムイです。誇りと知恵と力、そしてなによりも勇気を持って、尊い命と引き換えに、摩周湖を守り、アイヌの人々の暮らしを守った英雄伝説が『湖の怪魚』です。ぜひ触れてみてください!