『梨とり兄弟』は、三人の兄弟が上から順に病気の母親のために山梨を採るため試練に挑む物語です。出かけていく途中に発せられる文言とその拍子が楽しく、お話の世界に一気に引き込まれます。
今回は、『梨とり兄弟』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『梨とり兄弟』は日本全国に広く分布する民話で、『やまなしとり』『やまなしもぎ』『なら梨採り』などとも呼ばれています。
昭和33年(1958年)に岩波少年文庫より発行された文: 木下順二・絵: 赤羽末吉の『日本民話選』に「なら梨とり」という題名で紹介されたことで、日本中に広く知られるようになりました。
絵本『なしとりきょうだい (むかしむかし絵本 4)』はポプラ社から出版されています。神沢利子さんによって、とても美しい響きの擬態語や擬音語がたくさん散りばめられています。また、遠藤てるよさんの美しい彩りの絵でお話を描き切っているところも素敵です。何とも言えない、昔話の言葉遣いが面白い絵本です。
あらすじ
むかしむかし、あるところに、お母さんと三人の兄弟が暮らしていました。
ある日、お母さんは重い病にかかってしまいました。
「山梨が食べたい」
とお母さんがつぶやきました。
山梨を食べればお母さんの体が良くなるかも知れない。お母さん想いの兄弟は何とか山梨を食べさせてあげたいと考えました。
一番上の太郎が最初に山梨を採りに山へと向かいました。
太郎がずんずんと山奥へ入っていくと、大きな岩がありました。その岩の上にはお婆さまが座っていました。
お婆さまが、
「この先の三本の枝道になっている所に笹葉が三本生えておる。その笹葉が風に吹かれて、『いけっちゃ ガサガサ』と言う方へ入っていけ」
と教えてくれました。
太郎が山を登っていくと、お婆さまの言う通り三本の枝道がありました。
道の前にはそれぞれ笹葉が生えていて、
左の道の笹葉は
「いけっちゃ ガサガサ」
と葉を揺らしていました。
そして、真ん中と右の笹葉は、
「いくなっちゃ ガサガサ」
と葉を揺らしていました。
しかし、太郎はお婆さまに言われた事を忘れ、真ん中の道を進んでいきました。
そして、沼の主にゲロリと飲み込まれてしまいました。
家ではいくら待っても太郎が帰ってこないので、今度は次郎が山梨を採りに山へと向かいました。
次郎もお婆さまの言う事を聞かず、沼の主にゲロリと飲み込まれてしまいました。
二人の兄はいくら待っても帰ってこないので、三郎も山梨を採りに山へ向かう決心をしました。
三郎は二人の兄とは違い、岩の上にいたお婆さまの話をよく聞きました。
しっかり者の三郎に感心したお婆さまは、一振りの刀を渡しました。三郎はお婆さまに頭を下げると、山へと急ぎました。
しばらく走ると、お婆さまの言う通り三本の枝道がありました。
「いけっちゃ ガサガサ」
「いくなっちゃ ガサガサ」
「いくなっちゃ ガサガサ」
と笹葉が葉を揺らしていました。
三郎は、「いけっちゃ ガサガサ」と笹葉が葉を揺らす左の道を進みました。
三郎がどんどんと進むと沼に着きました。
そこで、どっさり実を付けた山梨の木を見つけました。
「東の側はおっがねぞぉ ザラン」
「西の側はあぶねぇぞぉ ザラン」
「北の側は影がぁうつる ザラン」
「南の側から登らんさい ザラン」
と山梨の実が唄いました。
三郎は山梨の木に南から登り、実をいっぱいもぎ採りました。ところが、あまりに喜んだ三郎は木の反対側から降りてしまいました。そして、沼の水面に三郎が映ってしまいました。
すると、沼の底から沼の主が浮かび上がってきて、三郎をひと飲みにしてしまいました。
ところがどうしたわけか、沼の主はそれから散々苦しんで七転八倒した揚句、完全にのびてしまいました。
それは、三郎がお婆さんに渡された刀で沼の主のお腹を刺したからでした。お腹の中からは三郎と共に太郎と次郎も出てきました。
こうして三郎の大手柄で三人は無事、お母さんの待つ家に帰りました。兄弟が持って帰った山梨を食べると、お母さんの病は治ってしまいました。
そして、お母さんと兄弟三人は、それからもお互いに助け合っていつまでも幸せに暮らしました。
解説
森は木の連なりによって出来た空間で、古来より日本人は木を建材や燃料として使用してきました。しかし、これは森の物理的な側面です。
もし、日本人が森に対して単なる物理的な価値しか見出さないならば、森は不思議な出来事が起こる場所とは考えないはずです。ところが実際には、人間は思考する生き物なので、日本では森は聖域とされご神木が存在します。
日本人は、古来より生命力の強い場所として言い伝えられてきた森には、単なる森としての物理的な価値以外の憧れを感じさせるような精神的な価値を見出しながら生活してきました。単なる物質に“神聖”という付加価値を見出だすことは、一見無駄のように映りますが、実はとても大切な処世術なのです。それは、辛い時には誰しも心の拠り所を欲するからです。現実世界を生きていくうえで、このような世界観を日本人は常に持ち続けてきたということです。
ちなみに、日本に古くから自生している野生の梨 (ヤマナシ)は三種存在します。本州中部地方以南、四国、九州に自生します。
感想
『梨とり兄弟』では、森を登場人物が成長するための経験を積む場所として描かれています。そして、森は「一時的な死と再生の空間」とも描いています。
そう考えると、森を「本来の自分ではなくなる場所」と解釈することができます。
森での修業期間を成長するための試練と考えれば、三兄弟はその時、本来の自分が一時的に死を迎えている状態であり、本来の自分ではない「異なる状態」となります。
つまり「異界にいる状態」といえます。さらに、森は空間的なものだけではなく、時間的なものもあります。「一時的な死の状態」から脱しなければなりません。この森から脱出しなければ「再生」はしないからです。
この様に物語を捉えると、『梨とり兄弟』は日本人が昔から持ち続けてきた多角的視点という感覚を描いた物語だと考えることができます。
多角的視点は、考え方や価値観を豊かにすることができる重要なものです。森のような異界は、私たちが気づかないだけで、実は日常に溢れています。知らない世界観を体験すると視野が広がり、時には新しい発見や嫌いなものを好きになるきっかけを得られることもあります。多角的視点を養える異界を体験して、成長への手掛かりを手に入れましょう。
まんが日本昔ばなし
『梨とり兄弟』
放送日: 昭和51年(1976年)03月13日
放送回: 第0041話(第0023回放送 Aパート)
語り: 常田富士男・(市原悦子)
出典: 表記なし
演出: 高橋良輔
文芸: 沖島勲
美術: 本田幸雄
作画: 竹内大三
典型: 孝行譚・末子成功譚
地域: ある所
『梨とり兄弟』は「DVD-BOX第11集 第53巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『梨とり兄弟』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
『梨とり兄弟』は、末っ子が成功を掴み取るという内容で、末子成功譚に分類される昔ばなしです。ぜひ触れてみてください!