冬の自然は、雪深い地域で生活する人々にとって、自然の猛威の恐ろしさを目の当たりにする現実です。そんな雪国の暮らしと文化から生まれた民話が『雪女』です。
今回は、『雪女』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『雪女』の起源は古く、室町時代末期の連歌師である宗祇法師による『宗祇諸国物語』には、法師が越後国 (現在の新潟県)に滞在していた時に「雪女を見た」と記述があることから、室町時代には既に伝承があったようです。
伝承地域は、青森県、山形県、秋田県、岩手県、福島県、新潟県、長野県、東京都、和歌山県、愛媛県などで確認されています。
「雪女」は、明治時代の文豪であるラフカディオ・ハーンこと小泉八雲が怪奇文学作品集『怪談』で紹介したことにより日本中で広く知られるようになりました。
小泉八雲が著した雪女もそうであるように、雪女は恐ろしくも美しい存在として語られることが多く、雪の性質からはかなさを連想させられます。
ちなみに、小泉八雲の『怪談』に収められている「雪女」は、武蔵国の西多摩郡調布村(現在の東京都青梅市)の多摩川沿いに伝わる民話をもとにしたと言われています。
※Kindle版はまったくの別内容となっています。ご注意ください。
あらすじ
むかしむかし、寒い北の国に茂作と巳之吉という猟師の親子が住んでいました。
ある冬の日のこと、猟りの途中に突然天気が悪くなったので、二人は山小屋で寒さをしのいで寝ることにしました。
二人が寝ていると山小屋の扉が開き、吹雪とともに白い着物を着た女が小屋に入ってきて、寝ていた茂作に白い息を吹きかけました。すると茂作は凍って死んでしまいました。
女は巳之吉にも息を吹きかけようとしますが、
「お前はまだ若く美しいから、命だけは助けてやる。だが、今夜のことを誰にも言ってはいけない」
と言い残し、女は吹雪の中へ消えていきました。
その日から、巳之吉は、誰ともしゃべらなくなり、言葉を発することもなくなりました。
それから数年後のある雪の夜、独りで暮らす巳之吉の家の戸を叩く音がしました。戸を開けると、一人の美しい女が立っていました。その女は、旅の途中に道に迷ってしまったので一晩泊めてほしいと言うのです。巳之吉は、お雪と名乗るその女をすっかり気に入ってしまったので、嫁にして一緒に暮らし始めました。
お雪は働き者でした。朝から晩まで、こまめによく働きました。同時に、巳之吉も人が変わったように、せっせと山へ出かけてよく働くようになりました。
それから五年が過ぎました。お雪は五人の子どもを産みました。お雪に似て、肌の色が白い子どもたちでした。巳之吉は子どもたちを、まるで宝物のように大切にしました。家の中には、いつも明るい笑い声があふれ、幸せな毎日が続きました。
ある吹雪の夜、巳之吉は酒に酔って、お雪に茂作が亡くなった山小屋での出来事を話してしまいました。
「あの日の雪女はお前にそっくりだった」
と巳之吉が言うと、
「お前が見た雪女はこの私です」
とお雪は告白し、
「あの時、私のことは誰にも話さないと約束したはずです。そして、ひと言でも私のことを話したら、お前の命はないとも言ったはずです」
さらに続けて、
「でも、命は奪いません。それは、あなたが子どもたちを大事にしてくれるからです。これからも子どもたちを大切にしてください」
と言って、お雪は姿を消してしまいました。
それからは、もう誰ひとりお雪を見かけた者はいませんでした。
解説
『雪女』は、『鶴の恩返し』や『浦島太郎』と同じく、「禁を犯すと悲劇が訪れる」というお話です。
昔ばなしでの被害者は、ほとんどの場合が男性です。それも、いつも女性の出生が悲劇の元になっています。それは、「女性の過去を暴いてはいけない」という教訓なんでしょう。
さて、『雪女』は地域によって「しがま女房」や「ユキオンバ」など様々な呼び方がありますが、呼び方は違えど、常に“死”をあらわす白装束を身にまとい、男に冷たい息を吹きかけて凍死させたり、男の精を吸いつくして殺したりすところは共通していて、広く「雪の妖怪」として怖れられています。
感想
『雪女』を恋愛物語とみなすと、非常に切ない物語です。
伝統的な日本人の情念の世界では、雪女という異類の人物にさえも人間的な感情を付与し、普通の人間と同一視しています。
しかし、この二人の結婚は、破綻すべく宿命づけられていたのです。では、なぜ破綻する運命にあるのかというと、異類の人物との婚姻というのはそもそも成立してはならないものであるからです。
その根底には、人間がそうでないものと結ばれてはならないという不文律が存在するからだと考えられます。
そして、当人同士は愛し合っているにもかかわらず、決して結ばれてはならない関係、その悲劇性に日本人は美を感じたのでしょう。
人間は人間の領域を超えてはなりません。それは、その領域を超えた瞬間に、人間が人間ではなくなるからです。だから、巳之吉は雪女との約束を破らなければならないのです。そして、この約束を破るという行為こそが人間であることの証なのです。
まんが日本昔ばなし
『雪女』
放送日: 昭和50年(1975年)02月11日
放送回: 第0012話(第0006回放送 Bパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: りんたろう
脚本: 沖島勲
美術: 椋尾篁
作画: 矢沢則夫・森田浩光
典型: 怪異譚・異類婚姻譚
地域: 関東地方(東京都)/東北地方(青森県・岩手県)/中部地方(新潟県)
最後に
今回は、『雪女』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
『雪女』は、“恐ろしい女”であると同時に、人間的な弱さを持った“哀れな女”でもあります。自分が禁じた話を語る巳之吉の言葉を、じっと聞かなければならなかったお雪の心は、どれほど苦しかったことでしょうか。しかし、それが雪女の宿命なのです。最期に雪女は“子どもたちへの愛”を残して去ってゆきました。それが雪女にとって、せめてもの“心の救い”だったのかもしれません。ぜひ触れてみてください!