『桃太郎』は、江戸時代から語り継がれる有名な日本の昔話の一つです。桃から生まれた男の子の桃太郎は、成長するとお爺さんとお婆さんから黍団子をもらって鬼退治に出発します。鬼ヶ島に向かう途中、犬・猿・雉を家来にし、全員で協力して鬼を退治するというお話です。
今回は、『桃太郎』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『桃太郎』は「日本五大昔話」の一つに数えられる有名なお話です。
ちなみに、日本五大昔話は『桃太郎』『カチカチ山』『さるかに合戦』『舌切り雀』『花咲か爺さん』です。
原型は、文字に書き記されることなく、人々の口から口へと語り継がれてきた、口承文学です。
そして、『桃太郎』の起源は、奈良時代初期に編纂された日本最古の歴史書である『古事記』に登場し、岡山県に残される「吉備津彦命の温羅伝説」に深く関わりがあると言われています。
温羅伝説とは、キビツヒコノミコトが天皇によって吉備国(現在の岡山県)へ派遣され、人々を苦しめていた温羅という鬼を討伐するという内容です。
このキビツヒコノミコトが桃太郎になったのではないかと言われています。
物語の発祥は室町時代末期から江戸時代初期とされます。
明治から現在に至り絵本や教科書を通じて普及したお話は、男の子の桃太郎が桃から生まれたとする出生ですが、それは江戸時代後期に初めてみられたもので、それまでは桃を食べたお爺さんとお婆さんが若返り桃太郎を出産するというのが主流でした。
物語の由来についても諸説存在し、戦前までは中部地方に位置する愛知県や四国地方に位置する香川県をゆかりとする説が主流でしたが、1960年以降の中国地方に位置する岡山県の促進運動により岡山県の桃太郎起源説が現在では主流となっています。
芥川龍之介をはじめとして、尾崎紅葉、正岡子規、北原白秋、菊池寛などの著名な作家たちも競って桃太郎を小説の題材にしており、桃太郎が日本人の深層心理に与えている影響の大きさがうかがうことができます。特に福澤諭吉は、自分の子どもに日々渡した家訓『ひゞのをしへ』で、桃太郎を取り上げています。
また、明治44 年(1911年)に当時の音楽教科書『尋常小学唱歌』第一学年用で発表された唱歌「桃太郎」は、おとぎ話の世界を歌詞が描いており、現在も親しまれています。
あらすじ
むかしむかし、あるところにお爺さんとお婆さんがいました。
ある日、お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。お婆さんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃が、「どんぶらこ、どんぶらこ」と流れてきました。
お婆さんはその桃を家に持ち帰り、お爺さんと二人で食べようとしたところ、桃の中から元気な男の子が飛び出しました。
子どもがいなかったお爺さんとお婆さんは大変に喜んで、桃から生まれた男の子に桃太郎と名付け、大事に育てました。
大きく成長した桃太郎は、
「村人を困らせている鬼を退治します」
とお爺さんとお婆さんに言い、お婆さんに黍団子を作ってもらうと、桃太郎は鬼ヶ島へと出発しました。
鬼ヶ島への道中、桃太郎の前に犬、猿、雉が順番に現れ、黍団子を欲しがりました。
桃太郎は、家来になって鬼ヶ島へ同行することを条件に、黍団子を分け与えました。
犬、猿、雉の三匹は桃太郎の家来となり船で鬼ヶ島へと向かいました。
鬼ヶ島に到着した桃太郎たち、そこでは鬼たちが酒盛りの真っ最中でした。
千載一遇の好機とばかりに、奇襲を仕掛けた桃太郎と三匹の家来は大勝利。
鬼が悪行を重ねて集めた宝物を台車に積み、村へと持ち帰りました。
解説
桃太郎の家来が「犬・猿・雉」である理由には、風水あるいは陰陽道と呼ばれるものと干支の十二支が深く関係しています。
古来、日本には「鬼門」という言葉があります。
鬼門の方角である北東は、避けるべき方角として有名であり、広い意味ではどうしても物事が上手くいかない相手や場所を指して使われたりします。
この鬼門は、風水あるいは陰陽道と呼ばれるものによって言われており、“鬼の出入りする方角”として嫌われています。
この北東の鬼門の方角を、日本の十二支で表した方位に照らし合わせると、北東は丑寅の方角となります。
そこから、鬼の姿は丑(牛)の角を持ち、寅(虎)柄の履物を穿くようになりました。
さて、昔ばなしの『桃太郎』では、避けるべき方角である鬼門に鬼ヶ島があるとされています。
そこで、その鬼ヶ島に行って鬼を退治するためには、鬼門と反対の方角である「裏鬼門」の生き物の力が必要と考えました。
北東と反対の方角は南西なので、その方角に十二支で表した方位を照らし合わせると、南西は未申です。
しかし、未(羊)には角があるため、鬼の角に通じるということで避けられました。
そこで、未(羊)とは反対方向に進み、申(猿)から順番に酉(鳥)と戌(犬)の三匹になりました。
ちなみに、なぜ家来が三匹かと言うと、古来、日本では三という数字は「魂・精神・肉体」という三位一体を意味する重要な数字とされ、「聖数」と呼ばれる神聖な数字だからです。
昔ばなしの『桃太郎』に登場する家来が犬・猿・雉である由来には、このような日本古来の陰陽五行思想の影響を大いに受けているということです。
感想
正義の味方である桃太郎に悪い鬼が退治されるという、一見すると勧善懲悪のお話ですが、鬼退治とは、もしかしたら「社会に出る」ことを指し、社会の厳しさを鬼に例えているのではないでしょうか。
そのように考えると、黍団子は、社会に出るに当たって子どもに“質素”を教えているのではないかと捉えることができます。
そのような贅沢をしないで質素の心を大切にした上で、昔ばなしの『桃太郎』を読み進めていくと面白いことに気がつきます。
まず最初の犬では、“犬が三日飼われたら恩を三年忘れない”と言われていることから、「恩を忘れない人間になるように」と教えていると捉えることができます。
次の猿では、“猿知恵”を例に挙げ、「知識だけではない、知恵を働かせることが出来る人間になるように」と教えていると捉えることができます。
最後の雉では、“雉が勇気のある鳥”ということから、「勇気のある人間に成長してほしい」と願っていると捉えることができます。
そして、これこそが論語で三徳と言われる「智・仁・勇」です。
智=猿、仁=犬、勇=雉と親しみのある動物を当てはめることで、子どもにもわかりやすいお話にしたのでしょう。
それらを身に付けた上で、桃太郎は鬼退治を行いました。
つまり、社会の中で立派に独り立ち出来るようになったことをあらわしているということです。
鬼からもらった宝物は、“信用”のことではないでしょうか。
社会で得た信用ほどの宝物はありません。長い人生の上では、信用があれば何でも出来ます。
その信用を得た時に、父母の元に帰り、桃太郎が親孝行をしたというお話ではないかと考えられます。
まんが日本昔ばなし
『桃太郎』
放送日: 昭和50年(1975年)02月04日
放送回: 第0009話(第0005回放送 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 児玉喬夫
脚本: 平見修二
美術: 児玉喬夫(※阿部幸次)
作画: 児玉喬夫(※前田庸生)
典型: 異常誕生譚・立身出世譚・勧善懲悪譚・果生譚・鬼譚
地域: 中国地方(岡山県)
最後に
今回は、『桃太郎』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
『桃太郎』の起源は日本の古代史にまでさかのぼります。桃は日本神話の中でも邪気を払うために登場するなど、古くから神聖な食べ物として扱われてきました。吉備国と呼ばれた岡山県の風土と、そこに伝わる温羅伝説が、『桃太郎』の物語を生んだのでしょう。ぜひ触れてみてください!