“たのきゅう”は旅芝居の人気役者です。ある日、旅先で「母親、病気」との手紙を受け取ります。急ぎ故郷へ帰るたのきゅうは、その途中、夜の山道でとても不気味な老人に出会います。その老人は…。
今回は、『たのきゅう』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『たのきゅう』という名の役者の頓知話で、落語にも取り上げられている有名なお話です。
他の昔ばなしと比較しても物語が定型化しており、類話が極めて少ないのが特徴です。
昭和49年(1974年)に未來社より発行された湯浅良幸・緒方啓郎・武田明の『日本の民話 19 阿波篇』に「田野久兵衛さん」という題名で、徳島県小松島市で採録されたお話として収録されたことにより日本中に広く知られるようになりました。
同じく未來社より昭和53年(1978年)に発行された市原麟一郎の『日本の民話 39 土佐篇』に「田野久兵衛の話」という題名で収録されています。
土佐(現在の高知県)も阿波(現在の徳島県)と同じ四国地方に位置し、お話もほぼ同じ展開を見ることから、徳島県の民話の影響を受けているのではないかと推測されます。
また、落語にも類例があり展開がほぼ同じことから、こちらは民話を脚色して落ち噺に仕立て上げた可能性が高いです。
ちなみに、落語では「田能久」と表記される『たのきゅう』は、昭和の落語界を代表する六代目 三遊亭圓生が得意とする演目の一つです。
あらすじ
むかしむかし、あるところに、たのきゅうという旅の役者がいました。
ある日、故郷の母の病の知らせを受け、親孝行のたのきゅうは大急ぎで里帰りを始めます。
その帰り道、夜の山道で怪しい大男に出くわします。
「お前は何者か」
と大男が聞くので、震えながら
「たのきゅう」
と答えると、大男は“タヌキ”と聞き間違え、
「タヌキなんぞ食えるか」
といい、
「タヌキなら何か化けてみせろ」
というので、たのきゅうは芝居の道具を使って女に変装すると、大男は驚き
「実は俺も化けておるんじゃ」
と、みるみるウワバミと呼ばれる大きなヘビに変わりました。
たのきゅうは震えあがりながらも、気を紛らわすために煙草に手を伸ばしました。
するとウワバミは、
「やめてくれ、わしは煙草の煙が大嫌いなんじゃ!」
と叫びました。
そして、ウワバミがたのきゅうに、
「お前の嫌いな物はなんじゃ」
と聞くので、
「私は世の中で小判が一番嫌いです」
とたのきゅうは答えて、ウワバミと別れました。
翌朝、たのきゅうは昨夜のことを村の人たちに教え、村人たちは煙草を吸いながらウワバミ退治へと出かけました。これには、さすがのウワバミも七転八倒し、苦しみもがいて、息も絶え絶えになってようやく逃げ出しました。
「これは、きっと、あのタヌキのせいに違いない」
と怒ったウワバミは、たのきゅうの家を探しあて、
「性悪タヌキめ、思い知れ!」
と天窓から大量の小判を投げこんでいきました。
「助けて~苦しい~」
と小判にまみれながら苦しむたのきゅうに、
「ざまあみろ!」
と捨て台詞を残してウワバミは去っていきました。
おかげで、たのきゅうは大金持ちになり、お母さんの病気も治って、幸せしに暮らしました。
解説
『たのきゅう』のお話の舞台は、阿波国の田能村と伝わります。
お話の題名である『たのきゅう』は、田能村の百姓の久兵衛さんの通称から由来するもので、漢字では「田能久」と書きます。
阿波国は現在の徳島県に当たりますが、田能村という村が存在したという記録は見つかっていません。
しかし、『たのきゅう』は特定の地区を舞台にした数少ない民話であり、田能村以外の登場する地名はすべて実在するものです。それから、徳島県の阿波地方は昔から芸能が盛んな土地柄で、「阿波人形浄瑠璃」の本場でもあり、歌舞伎や文楽で上演される『傾城阿波の鳴門』の舞台でもあります。そのことから、芸達者な久兵衛さんを「阿波人形浄瑠璃」や「阿波踊り」など芸能が盛んな土地柄の人という筋立てにするため、阿波国に架空の田能村を持ってきた可能性が考えられます。
また、主人公が女装するというお話は、古くはヤマトタケルの「熊襲征伐」があります。女装や男装するお話は、印象的だからでしょうか、記憶に残るお話が多いのですが、実は神話や昔ばなしの中に数多く存在するわけではありません。
感想
ウワバミと呼ばれる大蛇が、“たのきゅう”を“タヌキ”と勘違いしたことが、そもそもの事の発端です。
それからは可笑しさの連続です。
たのきゅうはウワバミの変身要求に、役者の衣装を用いて次から次へと早変わりをみせ、さらに頭を働かせて、最後はまんまと小判をせしめてしまいます。
たのきゅうに庶民のしぶとさ、たくましさを感じるとともに、自分の弱点をポロっと漏らしてしまうウワバミに、恐ろしさよりも人の良さを感じて、親しみが湧いてきます。
まんが日本昔ばなし
『たのきゅう』
放送日: 昭和50年(1975年)01月21日
放送回: 第0006話(第0003回放送 Bパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 近藤英輔
脚本: 平見修二
美術: 小関俊一
作画: 金沢比呂司
典型: 異類退治譚・呪的勝負譚・頓智話・蛇譚
地域: 四国地方(徳島県)
『たのきゅう』は未DVD化のため「VHS-BOX第1集 第2巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『たのきゅう』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
人気役者の“たのきゅう”による見事な早変わりとウワバミと呼ばれる大蛇を退治するという、わくわくして楽しい冒険物語です。ぜひ触れてみてください!