『さるかに合戦』は、弱い者でも、お互いに協力し、長所を生かして立ち向かえば、たとえ自分よりずっと強い相手でも倒すことはできるということを教えてくれるお話です。
今回は、『さるかに合戦』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
江戸時代の五大昔話の一つで、通称 “赤本”と呼ばれる草双紙にも『さるかに合戦』は記録されています。
ちなみに、日本五大昔話は『桃太郎』『カチカチ山』『さるかに合戦』『舌切り雀』『花咲か爺さん』です。
明治20年(1887年)に尋常小学校の国定教科書『尋常小学校読本 巻之二』に掲載されるなど、明治時代以後も絵本や読み物で広く親しまれています。
昭和時代末期以後は、蟹や猿は死なずに大怪我で済み、敵討ちされ反省した猿が蟹たちに謝り意地悪を止めると改作されたものが多く見られます。
芥川龍之介は、主犯の蟹は死刑に、共犯者は無期徒刑の判決を受けるという、『さるかに合戦』の後日談である『猿蟹合戦』を大正12年(1923年)に発表しています。
あらすじ
むかしむかし、蟹がおにぎりを持って歩いていると、ずる賢い猿が拾った柿の種と交換しようと提案をしました。
「蟹さん、おにぎりは食べてしまえばそれっきりだが、柿の種をまけば甘くて美味しい柿が毎年もなるよ」
と猿がいったので、蟹はおにぎりと柿の種を交換しました。
蟹は大喜びで早速
「早く芽を出せ柿の種、出さねばハサミでちょん切るぞ」
と歌いながら庭に柿の種をまき、毎日水をあげて大事に育てました。
種が成長して柿がたくさんなると猿がやってきて、木に登れない蟹の代わりに登って取ってやるといい、柿の木に登ると自分だけ柿を食べ始めました。登れず柿の木の下にいる蟹には、まだ青くてかたい柿の実を投げつけました。柿の実を投げつけられた拍子に蟹の甲羅が割れ、その際に三匹の子蟹を産み、母蟹はそのまま死んでしまいました。
やがて大きくなった子蟹たちは、母蟹の敵討ちをしようと決心し、栗、蜂、牛の糞、臼と一緒に猿の家へ向かいました。猿が留守の間に家へ忍び入り、栗は囲炉裏の中に隠れ、蜂は水桶の中に隠れ、牛の糞は土間に隠れ、臼は屋根に隠れました。
猿が帰ってきて体を温めようと囲炉裏端に座ると、熱々に焼けた栗が猿に体当たりをして猿は火傷を負いました。急いで水で冷やそうと水桶に近づくと、今度は蜂に刺されました。あわてて外へ逃げようとした猿は、牛の糞に滑って転び、最後は屋根から落ちてきた臼に潰されて猿は死に、子蟹たちは見事に親の敵を討ちました。
解説
江戸時代の『さるかに合戦』には、今のような型通りで敵討ちをするものは見いだせません。その代わりに、たくさんの動植物や器物が敵討ちに参加します。
享保時代(1716~1736年)の『さるかに合戦』の絵本には、蛇、(海藻の) 荒布、杵、臼、卵、包丁、蜂が見えます。また同じ頃の別の絵本では、上記以外に箸、蛸、水母なども登場します。蛇や包丁なんて、ちょっと残酷な感じがします。
そして、ここで注目すべきは荒布です。形こそ違えど、荒布は昆布の加工前の姿です。江戸時代では昆布が敵討ちの仲間に入っていたということです。ただし、そこで果たした役割については記されていませんけど。
感想
母蟹を殺された子蟹たちが猿へ復讐することが取り上げがちですが、この話の真髄は、猿と蟹がおにぎりと柿の種を交換する序盤こそが重要な点であると示しているように感じます。
おにぎりが欲しい猿は、蟹に対して
「柿の種はまけば木になり柿の実がたくさんなる」
と付加価値を説明して物々交換に至ります。
これは“目先の利益”と“将来の利益”の対比と捉えることができます。
この時点では、柿の種よりおにぎりの方が、すぐにお腹を満たし満足が得られるため魅力的なものでした。しかし、後になって柿の種はたくさん柿の実をつけた木に成長します。
「こんなにたくさん柿の実がなるのなら、あの時、おむすびと交換しなければよかった」
と猿は思います。
これは時間の経過とともに価値が逆転したということです。つまり、目先の利益より将来の利益の方が価値が高いということを、猿は身をもって学んだのです。
このお話では、柿の種が成長し見事に柿を実らせるという良い結果が出たことで、目先の利益よりも将来の利益の方が価値が高くなりました。しかし、結果の良し悪しに関わらず、結果以上の新しい価値がここでは生まれました。
それは、柿の種を育てたという“過程”の存在です。
この過程の体験は、新しい価値といっていいのではないでしょうか。目先のことだけを考えれば、おむすびの消費が優先されますが、将来のことを考えれば、柿の種を育てるという投資は欠かせません。柿の種をどう育て、たくさん実をならせるかという過程も重要です。
『さるかに合戦』は、目先の利益と将来の利益、さらに将来の利益という結果を得るための過程、そのすべてが大事であることを知るきっかけとなるお話ではないでしょうか。
まんが日本昔ばなし
『さるかに合戦』
放送日: 昭和50年(1975年)01月21日
放送回: 第0005話(第0003回放送 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 光延博愛
脚本: 平見修二
美術: 阿部行夫
作画: 三重野要一
典型: 因果応報譚・宝物交換譚
地域: 中部地方(新潟県)
最後に
今回は、『さるかに合戦』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
「良い行いをすれば良い報いがあり、悪い行いをすれば悪い報いはある」という、仏教の教えである因果応報を伝える教訓が『さるかに合戦』には隠されています。「敵討ちは残酷なため子どもの教育上問題がある」という考えもありますが、悪は徹底的にやられた方が「悪いことをしてはいけない」という心がしっかりと子どもに根付くと思うので、ぜひ触れてみてください!