昔話『かじ屋のばばあ』のあらすじ・内容解説・感想|おすすめ絵本
※当サイトのリンクには広告を含む場合があります
AdMax

 日本にっぽんには、樹上じゅじょう人間にんげんおそうために、れをなしたおおかみ肩車かたぐるまをするという「千疋せんびきおおかみ」とばれる怪異けい伝承でんしょうがあります。その千疋せんびきおおかみのおはなしもっと有名ゆうめいなものが『かじのばばあ』です。

 今回こんかいは、『かじのばばあ』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいします!

AdMax

概要

かじ屋のばばあ 『かじのばばあ』は、四国しこく地方ちほうぞくする高知県こうちけん室戸市むろとし佐喜浜町さきはまちょうつたわる民話みんわとされます。

 そして、おはなしに「のぼるに10くだるに10」として紹介しょうかいされているとうげは、高知県こうちけん東部とうぶ奈半利町なはりちょうから野根山のねやま連山れんざん尾根おねつたいに東洋町とうようちょういたる35kmあまりの歴史れきし伝説でんせついろどられた野根山のねやま街道かいどう装束しょうぞくとうげつたわります。

 また、おはなしにあるような「おおかみれをなして、樹上じゅじょう人間にんげんおそうために肩車かたぐるまする」という怪異けいは、「千疋せんびきおおかみ」とばれ、日本にっぽん説話せつわ類型るいけいひとつとされています。

 かつてテレビで一大いちだいブームをつくった『まんが日本にっぽんむかしばなし』が、二見ふたみ書房しょぼうより二見ふたみサラ文庫ぶんことして刊行かんこう。『かじのばばあ』のおはなしは、『まんが日本にっぽんむかしばなし だい21かん』のなか収録しゅうろくされています。

 文庫ぶんこ桃山人とうさんじん夜話やわ絵本えほんひゃく物語ものがたり~ (角川かどかわソフィア文庫ぶんこ)』は、角川かどかわ書店しょてんから出版しゅっぱんされています。江戸えど時代じだい人気にんき妖怪ようかいぼん絵本えほんひゃく物語ものがたり』は、おおくの妖怪ようかい絵師えしたちに影響えいきょうあたえた、妖怪ようかい原点げんてんともいうべき作品さくひんです。本書ほんしょは、妖怪ようかい翻刻ほんこく現代げんだい語訳ごやく三章さんしょうにわけて紹介しょうかいし、とく現代げんだい語訳ごやくみやすく親切しんせつやくされた逸品いっぴんです。妖怪ようかいはオールカラーで1ページに一枚いちまいぜん44まい収録しゅうろくされています。

 『土佐とさ民話みんわ だい1しゅう ([新版しんぱん]日本にっぽん民話みんわ 53)』は、未來社みらいしゃから出版しゅっぱんされています。「このままでは、わたしたちの先祖せんぞつくりあげてきた民話みんわ消滅しょうめつしてしまう」と事態じたいうれえたひとたちが「土佐民話とさみんわかい」をつくり、もれた民話みんわりおこし収録しゅうろくした大切たいせつ一冊いっさつです。

 『土佐とさ伝説でんせつ (日本にっぽん伝説でんせつ 22)』は、角川かどかわ書店しょてんから出版しゅっぱんされています。土佐とさ民話みんわ伝説でんせつが、土佐とさべんによってかたられていますが、それだけではなくかたられた民話みんわ伝説でんせつ実際じっさい散策さんさくした、究極きゅうきょくのガイドブックという役割たしています。付録ふろく地図ちず便利べんりで、民話みんわ伝説でんせつ土佐とさやし、つね成長せいちょうしているということがかる一冊いっさつです。

あらすじ

 むかしむかし、「上るに10里、下るに10里」といわれるほど、恐ろしい峠がありました。

 その峠を越えるには、普通に歩いて丸一日かかるといわれていました。

 ある夏の日、一人の飛脚が、お殿様の使いで手紙を運ぶため、恐ろしいといわれている峠を走っていました。

 飛脚なので足には自信がありましたが、それでも峠の中ほどまで来た時、日が暮れてしまいました。

 森の中で夜を迎えてしまったので、山では何が起こるか分からないから、飛脚は安全のため、大きな木に登り、木の上で一夜を過ごすことにしました。

 すると、真夜中になって、木の下に大量の狼が、ゾロゾロと集まってきました。

 これが有名な「千匹狼」と呼ばれるものでした。

 そして、木の上の飛脚に向かって、一斉に吠えました。

 しばらく吠え続けた狼の群れは、それぞれの肩や背に乗り「犬梯子」と呼ばれる肩車を組み飛脚に迫ってきました。

 持っていた短刀を抜いた飛脚は、斬って斬って斬りまくって狼の攻撃を防ぎました。

 すると狼たちは、
 「今日の肴は手強いぞ!どうすればいいかのう?」
と相談を始めました。

 そして、
 「佐喜浜の鍛冶ヶ嬶さんを呼んでこい」
と一匹の狼が叫びました。

 しばらくすると、ヨイサ、ヨイサという駕籠舁の声が聞こえてきました。

 「鍛冶ヶ嬶さん、到着いたしました。あの人間を退治してくださいませ」
と木の下から声がするので、飛脚が覗いてみると、
 「なぜ人間一人に手を焼いておるのじゃ!犬梯子で攻めろ!」
と言いながら、一匹の白毛で大きな狼が駕籠から降りてきました。

 その大きな狼は、どういう訳か、頭に鉄鍋を被っていました。

 狼たちが犬梯子と呼ばれる肩車を組むと、大狼はフッフッと息を吐き、のっしのっしと犬梯子を登り、木の上に現れました。そして、飛脚に襲いかかってきました。

 飛脚は、負けじと大狼に向かって短刀を振り回した。

 カーーーーン!
 カーーーーン!

 飛脚の短刀は、大狼が被る鍋を叩くばかりでした。

 大狼は鍋を上手に使い、飛脚の攻撃をことごとく防いだのでした。

 「ぐわっはははは~~っ!」
 大狼は、飛脚をバカにしたように大笑いしました。

 「それっ~~!」

 カーーーーン!
 カーーーーン!

 飛脚が短刀を振り回しても鍋を叩くばかりだったので、飛脚は短刀で鍋を突き上げ、大狼の頭から鍋を外してしまいました。

 「えいっ!」
と叫んだ飛脚は、渾身の力で短刀を振り下ろすし、大狼の頭を斬りつけました。

 「ぎゃあああっ!」
という叫び声が響くと、大狼の頭が真っ赤な血に染まっていました。

 大狼は頭を傷つけられたので、一目散に逃げていきました。

 これを見ていた狼たちも、一斉に逃げ出しました。

 こうして飛脚は助かったのでした。

 翌朝、飛脚が木から下りてみると、大狼の血らしき跡が地面に点々と落ちていて、それは村里の方へ向かっていました。

 “鍛冶ヶ嬶さん”という言葉が、どうにも気になって仕方のなかった飛脚は、血の跡を追って村里に向かって駆け出しました。

 血の跡を追って村里に着いた飛脚は、
 「この辺りに鍛冶屋はないですか」
と村人に尋ねました。

 「その先に鍛冶屋がありますよ」
と村人から教えてもらいました。

 鍛冶屋に着いた飛脚は、家の戸を叩くと、中から一人のお爺さんが出てきました。

 「私は飛脚です。こちらにお婆さんはいらっしゃいますか」
と飛脚がお爺さんに尋ねると、
 「婆さんならいるけど、昨夜、川で鍋を洗っていたら転んで頭を切り、床に臥せっているよ」
とお爺さんは飛脚に言いました。

 それを聞いた飛脚は、
 「なんだってー!」
と叫ぶや否や短刀を抜いて、お婆さんが寝ている部屋へ向かいました。

 驚いたお爺さんが止めに入りますが、飛脚はそれを振り切り、お婆さんの部屋に入ると、
 「狼の化け物よ!出て来い!」
と叫びました。

 すると、寝ていたお婆さんが、みるみるうちに大狼の姿へと変わっていきました。

 「ウチの婆さんが狼に!!!」
と驚いたお爺さんは、そのままそこで腰を抜かして失神してしまいました。

 そして、再び飛脚と大狼の激しい戦いが始まりました。

 「えい~~~っ!!!」

 グサーーーッ!

 「うぎゃあああ~~~っ!!!」

 大狼が襲い掛かってきたところを、飛脚は持っていた小刀を高く振り上げ、大狼の左肩から右腰骨に向かって斜めに振り下ろしました。

 さすがの大狼も、その場にドサっと倒れ、そのまま動きませんでした。

 大狼は見事に退治されました。

 その後、飛脚はお爺さんと一緒に鍛冶屋の床下を調べてみると、本当のお婆さんをはじめ、多数の人間の骨と思われるものが出てきました。

解説

 『かじ屋のばばあ(鍛冶が嬶)』は、高知県室戸市の佐喜浜に伝わる民話です。

 そして、飛脚が狼の群れに襲われた場所は、野根山街道の装束峠と伝わります。

 飛脚が登ったとされる大きな木は、「お産杉」と呼ばれるものですが、現在は枯れてなくなってしまったそうです。

 鍛冶屋の家があった場所は、現在の佐喜浜町派出所辺りといわれ、佐喜浜を訪れた郷土史家の寺石正路氏によると、明治時代には鍛冶が嬶の墓石もあったとされ、鍛冶屋の子孫も確認できたそうです。

 現在は、佐喜浜町派出所の入口近くに、狼に食い殺されてしまった鍛冶屋のお婆さんの供養塔が立っています。

 それから、前出の寺石氏によると、鍛冶屋の子孫といわれる人々には必ず逆毛が生えていたとの言い伝えがあるそうです。

感想

 『かじ屋のばばあ』は、緊張感とユーモアが混在する独特の雰囲気のあるお話です。

 飛脚が木の上でオオカミに囲まれるシーンは、まるでサバイバル映画のような緊迫感があります。

 特に「オオカミ梯子」という発想がユニークで、動物たちが知恵を働かせて人間に挑む姿に少し驚きました。

 一方で、かじ屋のばばあが鍋をかぶって登場する場面は、どこか滑稽で笑いを誘います。

 鍋という日常的な道具が武器になるなんて、昔話らしい奇抜さが面白いですね。

 飛脚の勇敢さも印象的でした。絶体絶命の状況でも冷静に小刀で戦い続ける姿は、単なる運び屋以上の強さや機転を感じさせます。

 一方で、かじ屋のばばあの正体が曖昧なまま終わる点が気になります。

 なぜ鍋をかぶっているのか、なぜ「かじ屋」と呼ばれるのか、その背景が語られていないので、かえって神秘的な余韻が残ります。

 単なるオオカミのボスなのか、それとも何か別の存在なのか、想像が膨らみます。

 『かじ屋のばばあ』には明確な教訓がないようにも感じますが、危機に立ち向かう勇気や知恵の大切さをさりげなく伝えているのかもしれません。

 また、人間と自然界の対決というテーマも垣間見えて、当時の人々が自然や動物に対して抱いていた畏怖やユーモアが反映されているとも感じます。

 『かじ屋のばばあ』は、全体として短いお話でありながら印象に残る物語で、ちょっとしたホラーと冒険を楽しむことができます。

 かじ屋のばばあの鍋姿を想像すると、今でもクスッと笑ってしまいます。

まんが日本昔ばなし

かじのばばあ
放送日: 昭和52年(1977年)07月30日
放送回: 第0152話(0094 Aパート)
語り: 常田富士男・(市原悦子)
出典: 表記なし
演出: 小林三男
文芸: 沖島勲
美術: 内田好之
作画: 白梅進
典型: 千疋狼せんびきおおかみ
地域: ある所

 Amazonプライム・ビデオで、『まんが日本にっぽんむかしばなし』へ、ひとっび。

 かつてテレビで一大いちだいブームをつくった『まんが日本にっぽんむかしばなし』のなかから傑作けっさく101厳選げんせんしました!

 国民的こくみんてきアニメーション『まんが日本にっぽんむかしばなし』がDVDになりました!
 『かじのばばあ』は「DVD-BOXだい11しゅう だい53かん」でることができます。

最後に

 今回こんかいは、『かじのばばあ』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいしました。

 おおかみは、むれれを形成けいせいし、ひろなわりをち、おたがいをたすいながら共同きょうどう生活せいかついとなんでいます。そして、なわ意識いしきつよいため、むれれやなわりをおびやかす可能かのうせいがあるものを排除はいじょしよとする習性しゅうせいがあります。そんなおおかみ習性しゅうせいからきたおはなしが『かじのばばあ』です。ぜひれてみてください!

AdMax
おすすめの記事