河童と人間の化かし合いが、なんともひょうひょうとしていて、軽やかで痛快なお話が『かっぱの淵』です。
今回は、『かっぱの淵』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『かっぱの淵』は、『カッパ淵』や『メドツからの宝物』とも呼ばれ、東北地方に属する岩手県や青森県、秋田県に伝わるお話です。
「メドツ」とは、青森県の南東部に位置する八戸地方を中心に用いられる方言で、川や池にすむ伝説上の妖怪「河童(カッパ)」のことを意味します。
ちなみに、青森県の西部に位置する津軽地方では、水虎大明神という水神を信仰する風習があります。祠に祀られている水虎大明神の神像は、河童をかたどったものが多く見られ、水難除けの神として地域の人々からは親しみを込めて「水虎様」と呼ばれています。
あらすじ
むかしむかし、陸奥国の八戸の北に、八太郎沼という、ひっそりとした沼がありました。
ある日、男が八太郎沼の淵を通りかかると、沼底から水がわき、一人の若者が現れ、
「おまえ、どこへ行く」
と尋ねてきました。
「おいら、八戸の町へ行くところだ」
と男が答えると、
「この手紙を、勘太郎堤に住む私の友達に届けて欲しい。勘太郎堤で手を三度叩けば友達が現れる」
と言い、若者は男に手紙を差し出しました。
男は、淵から出てきた若者のことを不審に思いながらも了承し、受け取った手紙を懐に入れて、若者の友達が住む勘太郎堤へ向かいました。
途中、男は山伏が歩いていたので、
「勘太郎堤はどこですか」
と尋ねたら、山伏は怪訝な顔をしながら、
「めったに人が行かない場所だ。行くのはやめておけ」
と男に伝えました。
そして、山伏は男を見て、考えながら、
「おぬしの持っている手紙からただならぬ殺気を感じる」
とも男に伝えました。
驚いた男は、八太郎沼の淵での出来事を山伏に話しました。
それを聞いた山伏は、
「手紙をワシにみせろ」
と男に言いました。
男から渡された手紙を山伏が開いてみると、手紙は真っ白で何も書いてありませんでした。
しかし、山伏が手紙を小川の水につけると、
「この男はうまそうだから、とっ捕まえて喰ってしまえ」
という文字が浮かび上がりました。
「これは河童の手紙だ。手紙を書き換えてやる」
と男に伝えると、かぼちゃの茎を筆にして山伏は手紙を書き始めました。
「この男にお前の宝物をやってくれ」
と手紙を書き変えた山伏は、新しい手紙を男に渡すと去っていきました。
山伏と別れた男は、新しい手紙を懐に入れると、また勘太郎堤へ向かいました。
タンタンタン
男は勘太郎堤に着くと、若者に教えられた通りに三度手を叩きました。
すると、どこからともなくなりのいい若衆が現れたので、男は手紙を渡しました。
手紙を読んだ若衆は、不思議そうな顔をしながら、
「一代物がいいか、それとも二代物か」
と男に尋ねました。
二よりも一の方が良いだろうと思った男は、
「一代をお願いします」
と若衆に伝えました。
すると若衆は、
「これは、いくらでも米の出てくる石の挽臼だ」
と言って、男に石の挽臼を渡すと姿を消しました。
若衆に言われた通り、この臼を回すと、ぞろぞろとお米が出てきました。
そして、男の暮らしはみるみる良くなり、長者と呼ばれるほどのお金持ちになりました。
男は、立派な家や蔵を建て、きれいなお嫁さんももらいました。
しかし、男のお嫁さんは欲深く、もっと米を出してやろうと、臼の穴に火箸を入れてえぐり回しました。
すると、臼は怒って、隣の出羽国へ飛んでいってしまいました。
にわか長者はにわか乞食。
男の繁栄は一代で終わってしまいました。
さて、石の挽臼が飛んできた出羽国はというと、いまも臼は土の中で回り続けており、それで現在の秋田県は米どころになったそうです。
解説
馬淵川が流れる青森県八戸市の北側の地域には、八太郎という地名があります。
その名が示す通り、かつてこの地区は「八太郎沼」や「北沼」などの沼地が大半でしたが、現在は埋め立てにより姿が一変しています。
そして、八太郎沼には、『八の太郎大蛇伝説』として東北地方北部で語り継がれている大蛇の伝説が残ります。
現在の青森県東部に位置する八戸市十日市に住んでいたお藤という娘と、同市の八太郎沼に住んでいた大蛇の間に男の子が産まれ、八の太郎と名づけられました。
やがて、青年になった八の太郎は、シナの木の皮を剥ぎに仲間と山に入ったが、途中の谷川で捕まえたイワナを三匹食べたところ、なぜか異常に喉が渇いたので、堰きとめた川の水を飲み続けました。
すると、大蛇になってしまいました。
その後、大蛇となった八の太郎は、谷間に水を溜めて青森県と秋田県にまたがる十和田湖を創り、その主となりました。
古来、馬淵川の最下流に位置する八太郎地区は、しばしば洪水に見舞われてきました。『八の太郎大蛇伝説』は、水害による天変地異を大蛇に置き代え、暴れる大蛇を鎮めようと難題を解決した人々と、治水の歴史物語でもあります。
また、通称「勘太郎堤」と呼ばれる大きな貯水池の「類家堤」も、現在は埋め立てられ消滅しています。
感想
日本ではとても有名な伝説の妖怪といえば、天狗に鬼、そして河童ではないでしょうか。
ところが、不思議なことに河童は、天狗や鬼とは違い、近代にいたるまで日本各地で目撃談が非常に多いのが特徴です。
これは、河童の目撃談が動物の行動と関係しているからではないでしょうか。
想像するに、水辺にいたサルやリス、カモシカなどの昼行性動物とカワウソやタヌキ、ヤマネコなどの夜行性動物を、河童と見誤った可能性が考えられます。
日本人は、身近な自然や動物と親しみ、それらと共生してきました。
それに加えて、東北地方は、本州でも屈指の寒さを誇るとても過酷な自然環境にあります。
その“東北らしさ”と呼ばれる風土にもまれながら、現代にも通用する独特の創造力が育まれ、その豊かな感性から河童を生み出したと考えられます。
まんが日本昔ばなし
『かっぱの淵』
放送日: 昭和52年(1977年)06月25日
放送回: 第0146話(0090 Aパート)
語り: 不明
出典: 不明
演出: 漉田実
文芸: 漉田実
美術: 下道一範
作画: 上口照人
典型: 怪異譚・致富譚・河童譚
地域: 東北地方(岩手県)
最後に
今回は、『かっぱの淵』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
東北地方北部で語り継がれている大蛇伝説の地には、河童伝説も長者伝説も残る地でもありました。それが『かっぱの淵』です。ぜひ触れてみてください!