「鬼は外!福は内!」
という掛け声とともに、豆をまく節分は、年間行事として古くから日本人に親しまれてきました。その豆をまく節分の由来となったお話が『鬼の嫁さん』です。
今回は、『鬼の嫁さん』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『鬼の嫁さん』は、『お福と鬼』とも呼ばれ、中部地方に位置する静岡県の伊豆地方に伝わる民話で、「鬼は外!福は内!」という掛け声とともに、豆をまく、節分の由来となったお話です。
関東地方に位置する東京都の檜原村や中国地方に位置する山口県の防府市にも類似のお話が伝わることから、日本各地にこの民話は広く分布していると考えられます。
ちなみに、節分に豆をまく行事は、元々は中国の行事で、疫病をもたらす「疫鬼」という鬼を穀物で追い払うものでした。
それが日本では、飛鳥時代に役人が矛と盾を持ち、貴族たちがそれに従って鬼を追いかける「追儺」と呼ばれる宮中行事となり、平安時代には鬼を豆まきで追い払う「鬼遣い」という催しに変化し、現在の節分の形になったといわれています。
あらすじ
むかしむかし、ある山に、鬼が一人で暮らしていました。
「やっぱり一人は寂しいな」
と鬼は思っていました。
いくら鬼といえども、やっぱり一人ぼっちは寂しいので、鬼は嫁さんをもらおうと考えました。
そこで、鬼はぐーんと背伸びをして、村を見渡しました。すると、そこに一人の可愛い娘を見つけました。その娘は、ほっぺたがぷっくらふくらんでいて、笑うと小さなえくぼができる、山本権兵衛の娘で、名前をお福と言いました。
鬼は早速、権兵衛のところへ出かけて行き、
「お福を嫁にくれ」
と頼みました。
しかし、突然、鬼から娘をくれと言われて、権兵衛はびっくりしました。
大切な娘を鬼にやるなんてことは、もちろん出来ませんが、相手は鬼なので、断りでもしたら、暴れて村をめちゃくちゃにするかもしれません。
そこで、権兵衛は奥さんと相談して、
「日照りが続き、困っている。雨を降らせてくれたら娘を嫁にやる」
と鬼に言うと、
「なんだ、そんな簡単なことか。雨を降らせばいいんだな」
と鬼は言うと、
「うぉー!曇に住む鬼よ!この村に雨を降らせよ!」
と天に向かって大声で叫びました。
すると、そのとたん、ザーザーと大雨が降ってきて、カラカラに乾いていた畑は、たちまち生き返りました。
こうなっては約束通どおり、お福を鬼の嫁さんにするしかありませんでした。
やがて、お福が鬼に嫁入りをする日が来ました。
お母さんは、
「この種をまきながら、山へお行き」
とお福に言って、菜の花の種を着物のたもとに入れました。
お福は泣きながら、菜の花の種を少しずつまき、鬼と山へ登って行きました。
一方、鬼は大喜びで山へと帰っていきました。
嫁をもらったことが嬉しくてたまらない鬼は、お福に対して親切に振る舞いました。
毎日、鬼は、お福のためにご馳走をたくさん用意しました。
しかし、それは鳥やネズミの死骸で、お福にはとても食べられるものではありませんでした。
夜になると、鬼は、お福が眠れるようにと子守唄を歌いました。
でも、それは嵐の夜の雷のようで、お福は眠るどころか怖くてたまりませんでした。
お福は、家に帰りたくて、来る日も来る日も、泣いてばかりいました。
さて、山にも春がやってきました。
ある日、外をぼーっと眺めていたお福は、
「あっ!」
と大きな声をあげました。
そこには、嫁入りの日、山へと向う道にまいた種が、芽を出し育ち、菜の花が咲き、黄色い花の道ができていたのでした。
「あの菜の花をたどっていけば、村へ帰れる」
と思ったお福は、菜の花が咲く道を通って、村へ向かいました。
「お福、どこへ行く!待て!」
村へ向かうお福に気づいた鬼は、そう叫びながら、すごい勢いでお福を追いかけました。
途中、お福は何度も転びながらも必死に走り、やっとの思いでたどり着いた家に駆け込みました。
「お福、よく帰ってきた!もう安心だよ」
とお父さんとお母さんは言いながら、お福を抱きしめました。
その時、ドスンと大きな音がして、
「オレの嫁さんを返せ!」
と家が壊れそうなほどの大声で鬼が怒鳴りました。
すると、お父さんとお母さんは、台所から炒り豆の入った鍋を抱えて飛び出し、鬼に言いました。
「この豆から芽が出た頃、お福を迎えに来なさい」
と、よく炒った豆を鬼に渡しました。
鬼は、豆から芽が出ることを楽しみにしていたが、一年たっても芽が出てこないので、怒ってお福の実家に怒鳴り込みました。
すると権兵衛は、
「鬼は外!」
と言いながら、鬼に向かって炒り豆を投げました。
「痛い!痛い!こりゃたまらん!」
と鬼は言いながら、頭をかかえて山へ逃げて行きました。
山へ戻った鬼は、自分の豆からまだ芽が出ていなかったことを思い出し、それからというもの、鬼が村へやって来ることはありませんでした。
解説
節分とは、本来は「季節を分ける日」を指す言葉です。
昔は季節の変わり目に邪気(鬼)が生じると考えられ、「立春・立夏・立秋・立冬」の前日に鬼遣いの行事がおこなわれていました。
そのなかでも旧暦の大晦日にあたる「立春」は、一年の邪気を追い払い、新しい年を健やかに迎えるための特別な日でした。
そうした背景から、いつしか立春の前日を「節分」と呼ぶようになりました。
古来、日本には、中国の行事をルーツとした「追儺」という宮中行事がありました。
「追儺」は「儺」とも呼ばれ、大晦日に「邪気や疫鬼を追い払う」行事のことです。
この行事が、現在の節分の元となったと考えられています。
古来、日本では、自然災害や疫病、飢餓などの不幸な出来事の原因を「鬼の仕業」と捉えていました。そのような不幸な出来事を鎮めるため、行われていた行事が節分の鬼遣いです。
鬼遣いに豆が用いられるようになった理由には諸説ありますが、古来より、「米・麦・ひえ・あわ・豆」の五穀には、穀霊と呼ばれる精霊が宿ると考えられていました。
五穀の中で、最も粒の大ものが豆で、それを使うことが鬼を払うのに最適と考えられたようです。
また、「魔を滅する(=魔滅)」という言葉の響きから、語呂合わせで豆を用いるようになったとの説もあります。
それから、節分の豆まきには炒り豆を使うのが一般的です。
それは、節分の豆には、「鬼遣い」や「厄除け」の願いが込められています。生の豆をまき、拾い忘れた豆から芽が出ることは縁起が悪いとされたことから、芽が出ないように炒った豆を使うようになりました。
感想
「鬼に金棒」「鬼の目にも涙」などのことわざから、「鬼瓦」や「鬼婆」「鬼嫁」まで、鬼にまつわる日本語は枚挙にいとまがありません。
令和の世に、一大ブームを巻き起こしている『鬼滅の刃』も「鬼退治」のお話です。
鬼の付く言葉がそれだけあるということは、それだけ鬼は日本人に愛されているということでしょう。
そんな存在であるにもかかわらず、赤ら顔で角の生えた暴れん坊という典型的な印象のほかに、鬼の素性について意識することは意外と少ないのではないでしょうか。
悪者として扱われることが圧倒的に多い鬼ですが、この『鬼の嫁さん』のように、退治される鬼の方に同情してしまうという庶民感情もあります。
それは、きっと鬼が反人間的であり反社会的な存在でありながらも、人間そのものの写し鏡でもあるからではないでしょうか。
モラルからはみ出た「鬼」という部分を、人間なら誰しもが心の中に持っています。
人間の抑圧された部分を代弁したり、戒めたりする存在だからこそ、人間社会が存在する限り、鬼も時代を超えて語り継がれていくことでしょう。
つまり、鬼と人間は一心同体ということです。
だから、節分の時くらいは、すぐそばにいる鬼を年に一度は思い出し、上手に付き合っていくことを考える機会になればと思います。
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まんが日本昔ばなし
『鬼の嫁さん』
放送日: 昭和52年(1977年)01月29日
放送回: 第0113話(0069 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 『伊豆の民話 ([新版]日本の民話 4)』 岸なみ (未來社)
演出: 阿部幸次
文芸: 沖島勲
美術: 阿部幸次
作画: 阿部幸次
典型: 由来譚・鬼譚
地域: 中部地方(静岡県)
最後に
今回は、『鬼の嫁さん』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
節分に行う豆まきには親しんでいるけれど、由来は知らないという方は多いのではないでしょうか。『鬼の嫁さん』で得た知識を意識し、家族の健康と幸せを願いながら、豆まきを行うと、節分がさらに楽しくなりますよ。ぜひ触れてみてください!