昔話『キツネのお産』のあらすじ・内容解説・感想|おすすめ絵本
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 やまらすキツネに、神秘性しんぴせいかんじながらも、したしい存在そんざいとしてあいする日本人にっぽんじんこころやさしさをえがいたおはなしが『キツネのおさん』です。

 今回こんかいは、『キツネのお産』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいします!

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概要

 『キツネのおさん』は、関東かんとう地方ちほう位置いちする栃木県とちぎけん芳賀郡はがぐん芳賀町はがまち稲毛田いなげたつたわる民話みんわとされますが、おな関東かんとう地方ちほう位置いちする茨城県いばらきけんはじまり、東北とうほく地方ちほう位置いちする岩手県いわてけん中部ちゅうぶ地方ちほう位置いちする愛知県あいちけん中国ちゅうごく地方ちほう位置いちする山口県やまぐちけんなど、類似るいじのおはなし日本にっぽん各地かくち点在てんざいしています。

 面白おもしろいことに、古来こらいより、「キツネの伝説でんせつ」にまつわる摩訶まか不思議ふしぎ伝承でんしょうのこされている地域ちいきに、『キツネのお産』が伝承でんしょうされているという共通点きょうつうてん見受みうけられます。

 また、芳賀町はがまちには、通称つうしょう開運かいうん犬切いぬきり不動尊ふどうそん」とばれ、大同だいどう2ねん(807ねん)に空海くうかい(弘法こうぼう大師だいし)が一夜いちやのうちにったとされる不動ふどう明王みょうおうぞう安置あんちされる崇真寺そうしんじがあります。その崇真寺そうしんじには、おはなし登場とうじょうする荷見玄同はすみげんどう先生せんせいのおはかがあるとつたわります。

なお現時点げんじてんでは『キツネのお産』にかんする絵本えほん存在そんざいしません。

 絵本えほんきつね (えほん遠野とおの物語ものがたり 第三期だんさんき)』は汐文社ちょうぶんしゃから出版しゅっぱんされています。岩手県いわてけん遠野とおの地方ちほうつたわる怪異かいい物語ものがたりを、柳田國男やなぎたくにお先生せんせいきのこしたものが名著めいちょ遠野物語とおのものがたり』です。京極夏彦きょうごくなつひこさんによるあらたなかたりと、樋口佳絵ひぐちかえさんによるくすんだ・・・・色合いろあいで不思議ふしぎ雰囲気ふんいきのある一体いったいとなり、『遠野物語とおのものがたり』がはつ本格的ほんかくてき絵本えほんとして現代げんだいによみがえりました。ゆたかな伝承でんしょういろどられたやまかわさとの、そこかしこにひそ不思議ふしぎ世界せかいは、ときにあやしく、ときにはなぞおどろきにちています。百年ひゃくねんときえた、ひとかす遠野とおののキツネの物語ものがたり3ぺんが、わたしたちのこころをふるわせます。

 『栃木とちぎ民話みんわ だい1しゅう ([新版しんぱん]日本にっぽん民話みんわ 32)』は未來社みらいしゃから出版しゅっぱんされています。肥沃ひよく関東平野かんとうへいやきたはし位置いちし、那須火山帯なすかざんたいようする下野国しもつけのくに現在げんざい栃木県とちぎけんです。かみなりかんするおはなしきつねのお話など、「きつねのおさん」をはじめ素朴そぼく農村のうそん生活感情せいかつかんじょう雄弁ゆうべん物語ものがた民話みんわを66ぺんとわらべうたが収録しゅうろくされています。

あらすじ

 むかしむかし、下野国芳賀郡稲毛田村に、荷見玄同という、とても腕が良く、人の良いお医者さんがおりました。

 ある晩のこと、玄同先生がお酒を飲んでいると、表の戸をしきりにたたく者がおりました。出てみますと、この辺りではあまり見かけない、みすぼらしい身なりの男が立っておりました。

 「どうしたんだね」
と玄同先生が尋ねると、男は、
 「先生、今、女房がお産で大変に苦しんでおります。夜分に申し訳ありませんが、診ていただけませんか」
と言うと、続けて、
 「駕篭を用意して来ています」
と言いました。
 玄同先生は、
 「お前さんは、どこの者だね」
と男に尋ねると、
 「山の奥の者です」
と男は答えました。

 見知らぬ男ですが、心の優しい玄同先生には、見捨てることはできませんでした。早速、薬籠をかかえて、男の用意した駕籠に乗り込みました。

 しかし、行けども行けども山の中で、民家らしきものは一つも見当たりませんでした。

 「一体どこへ連れていかれるんだ」
と不審に思った玄同先生が男に声をかけようとすると、
 「ここが家です」
と男が言い、一軒のあばら屋の前で駕籠を降ろしました。

 玄同先生が家に入ると、
 「コンコンチキ大明神 コンコンチキ大明神」
と祈祷を唱える老婆の横で、大きなお腹をかかえた男の女房が、布団の上で苦しそうに転げ回っていました。

 玄同先生は、
 「なぜもっと早く知らせなかったのじゃ。このままでは死んでしまうぞ」
と怒鳴り、あれこれ家人に指示を出すと、急いでお産にとりかかりました。

 そして、夜がしらじら明ける頃、五人の玉のような赤ん坊が生まれました。

 男と女房は大変に喜んで、
 「ありがとうございます。これはお礼です」
と言って、なにがしかの銭を差し出しましたが、
 「治療代はいいから、母親に十分栄養を取らせなさい」
と玄同先生は言って家を出ると、歩いて帰っていきました。

 家に帰った玄同先生は、疲れが出て、そのまま眠ってしまいました。

 明くる朝、玄同先生が眠りから目を覚ますと、懐に一枚の小判が入っていることに気がつきました。

 玄同先生が村の人たちに昨夜の出来事を話すと、
 「それはきっと、玄同先生の評判を聞いて、キツネが頼みに来たに違いない」
と村の人たちは口々に言いました。

 それから何日かして、玄同先生が歩いていると、夫婦のキツネと五匹の可愛らしい子ギツネが現れました。

 夫婦のキツネは何度も頭を下げると、子ギツネを連れて山の中へ帰っていきました。

解説

  キツネはメスがオスをえらびます。

 メスがオスをえら行動こうどうには、よりい、よりつよ子孫しそんのこすためのしくみがまれています。

 キツネのメスが発情はつじょうするのは2がつさむ時期じきです。

 からだから独特どくとくにおいをはっするようになり、そのにおいをぎつけて、オスたちがあつまってます。発情はつじょうしているメスは、オスたちが十分じゅうぶんあつまった頃合ころあいを見計みはからって、巣穴すあなて、全速力ぜんそくりょくはしります。メスは40~50kmはしったところでまり、最後さいごまでのこった一番いちばんつよいオスをれます。

 キツネのメスの妊娠にんしん期間にんしんは52にち前後ぜんごです。

 キツネは、3~4がつにかけて、地面じめんにほった巣穴すあななかで2~7ひきキツネをみ、まれてから24にち前後ぜんごの5~6がつになると、まだうぶのこっているキツネが巣穴すあなそとてきて周囲しゅうい探検たんけんはじめます。さら一週間いっしゅうかんつと、キツネのえそろって、じゃれあうなどあそキツネたちの様子ようすることができます。

 キツネの子育こそだては4~8がつくらいまでつづきます。

 この期間きかんは、普段ふだんよる行動こうどうするキツネも、キツネのエサをさがすために昼間ひるまうごまわります。

 9~10がつになると、キツネもおおきくなり、おやキツネとわかれてまれた場所ばしょからいなくなります。これがぞくにいう「キツネのひとりだちの儀式ぎしき」です。

 『どうぶつのあかちゃん キツネ (ちがいがわかる写真しゃしん絵本えほんシリーズ)』はきん星社ほししゃから出版しゅっぱんされています。きびしい自然しぜんきる、北海道ほっかいどうのキタキツネの親子おやこつよむすびつきやきずな、ひとりだちの儀式ぎしきうつくしい写真しゃしん紹介しょうかいされています。やさしい文章ぶんしょうで、キタキツネの成長せいちょう過程かていまなぶことができます。貴重きちょうなキタキツネのあしがた(実物大じつぶつだい)も掲載けいさいされています。また、シリーズをとおして、いろいろな動物どうぶつそだかたちがいを学習がくしゅうすることができます。

感想

  「やさしさ」という漢字かんじは、「うれいにひとう」という意味いみからきています。

 じゅんとしては「“にんべん”に“うれい”といて『ゆう』」なのでしょうが、本当ほんとうは「“うれい”に“ひと”がって『ゆう』」ということです。

 うれいは、ひとおもこころ心配しんぱいする気遣きづかいのこころといった意味いみですが、そこにひとうことで「やさしさ」となります。

 ふる時代じだい日本にっぽんでは、おせっかいなほどひととのかかわりがありました。

 それは、わずらわしくもあり、あたたかくもありました。

 やさしさの反対はんたい無関心むかんしんです。

 合理化ごうりかされた社会しゃかいでは、気遣きづかいのない関係かんけいは、それ自体じたいが「うれい」とします。

 こまっているひとがいれば、たすけてあげたいとおもひとやさしいこころを、仏教ぶっきょうでは「慈悲じひ」といいます。

 また、仏教ぶっきょうでは“づき”のことを「智慧ちえ(知恵ちえ)」と表現ひょうげんします。

 そして、仏教ぶっきょうおしえによる慈悲じひとは、「智慧ちえもとづいた慈悲じひ」もしくは「智慧ちえ裏付うらづけられた慈悲じひ」といています。

 智慧ちえ慈悲じひは、仏教ぶっきょうでは表裏ひょうり一体いったいで、このふたつがそろって、はじめて「やさしさ」につながるともいています。

 つまり、智慧ちえはたらかせて、「どうしてこまっているのか」を見極みきわめ、援助えんじょ必要ひつよう判断はんだんしたら場合ばあいは、慈悲じひにより支援しえんをする。

 これこそが、しんの「やさしさ」と仏教ぶっきょうではいています。

 『キツネのおさん』は、「やさしさ」という言葉ことばひびきと意味いみ素晴すばらしさが凝縮ぎょうしゅくされたおはなしです。

まんが日本昔ばなし

キツネのおさん
放送日: 昭和52年(1977年)01月15日
放送回: 第0111話(0067 Bパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 『栃木の民話 第一集 ([新版]日本の民話 32)』 日向野徳久 (未來社)
演出: 森田浩光
文芸: 沖島勲
美術: 下道一範
作画: 森田浩光
典型: 動物報恩譚どうぶつほうおんたん
地域: 関東地方(栃木県)

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最後に

 今回こんかいは、『キツネのおさん』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいしました。

 相手あいておもい、行動こうどうできるひと本当ほんとうやさしさにれて、こころあたたかくなる物語ものがたりが『キツネのおさん』です。ぜひれてみてください!

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