昔話『猿神退治』のあらすじ・内容解説・感想|おすすめ絵本
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 『猿神さるがみ退治たいじ』は、猿神さるがみばれる怪物かいぶつによって毎年まいとし えされるかなしいならわしから、村人むらびとすくった勇気ゆうきある霊犬れいけん物語ものがたりです。

 今回こんかいは、『猿神退治』のあらすじと解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいします!

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概要

 『猿神さるがみ退治たいじ』の舞台ぶたいである光前寺こうぜんじは、長野県駒ヶ根市赤穂ながのけんこまがねしあかほにある天台宗てんだいしゅう別格べっかく本山ほんざん寺院じいんです。

 そして、光前寺には「霊犬れいけん早太郎はやたろう伝説でんせつ」がつたわります。

 「霊犬早太郎伝説」は、平安時代へいあんじだい末期まっき成立せいりつしたとみられる説話集せつわしゅう今昔物語集こんじゃくものがたりしゅうかん26だい7の「猿神さるがみ退治たいじ」が原典げんてんといわれています。

 『猿神退治』は、光前寺をはじめ青森県あおもりけんから鹿児島県かごしまけんまでの各地かくちひろ類話るいわつたわる民話みんわです。

 伝わる地方ちほうによりいぬことなり、光前寺では早太郎はやたろうですが、物語ものがたり天神様てんじんさまとして登場とうじょうし、静岡県磐田市見付しずおかけんいわたしみつけ鎮座ちんざする、見付天神みふてんじん通称つうしょうられる矢奈比売神社やなひめじんじゃが舞台となるおはなしでは、犬の名は悉平太郎しっぺいたろうばれます。

 また、おな長野県駒ヶ根市ながのけんこまがねしでも地域ちいきによっては早太郎のことを疾風太郎しっぷうたろうという別名べつめいで呼ぶところもあります。

 絵本えほんはやたろう (日本にっぽん伝説でんせつ)』はどもの未来社みらいしゃから出版しゅっぱんされています。長野県ながのけん静岡県しずおかけん長年ながねんしたしまれ、かたりつがれてきた「早太郎はやたろう伝説でんせつ」の絵本えほんです。堀切ほりきりリエさんのわかりやすいのにくどくないぶんと、石井勉いしいつとむさんのいきおいがありうごきのある調和ちょうわにより、伝説でんせつのヒーローけんである早太郎はやたろうが、かっこよくて感動かんどうする絵本に仕上しあがっています。かせにもってこいの絵本です。

 絵本えほんしっぺいたろう (日本にっぽん民話みんわえほん)』は教育画劇きょういくがげきから出版しゅっぱんされています。太田大八おおただいはちさんのえがくろもの香山美子こうやまよしこさんのぶんが、とにかくこわいこと怖いこと。もよだつおはなしは、ハラハラドキドキの展開てんかいなのに、最後さいご不思議ふしぎやさしい気持きもちになる絵本えほんです。

 絵本えほんしっぺいたろう (むかしむかしばなし)』はフレーベルかんから出版しゅっぱんされています。松谷まつたにみよさんのれのかた口調くちょうぶんを、赤坂三好あかさかみよしさんの版画調はんがちょう雰囲気ふんいきげるので、絵本えほん世界せかいまれます。残酷ざんぎゃくなシーンもありますが、あくほろびる爽快そうかい内容ないようなので、おススメの一冊いっさつです。

 角川書店かどかわしょてんより出版しゅっぱんされた『日本にっぽん民話みんわ<3> (神々かみがみ物語ものがたり)』は、瀬川拓男せがわたくおさん・松谷まつたにみよさんが編者へんしゃとなり、日本にっぽんむかしばなしから「早太郎はやたろう人身御供ひとみごくう」など“神々かみがみ物語ものがたり”を主題しゅだいとした伝説でんせつが56ぺん収録しゅうろくされています。

あらすじ

 むかしむかし、いまよりおよそ700ねんほどむかし信濃国しなののくに伊那郡赤穂里いなぐんあかほのさと光前寺こうぜんじに、早太郎はやたろうというたいへんつよ山犬やまいぬわれておりました。

 ところわって、ここは遠江国とおとうみのくに見附村みつけむら。このむら天神様てんじんさまでは、田畑たはたらされないようにと、毎年まいとしまつりの白羽しらはてられたいえむすめを、にえとして神様かみさまささげる人身御供ひとみごくうというかなしいならわしがありました。

 あるとし、村をとおりかかったたびそうである一実坊いちじつぼう弁存べんぞんは、
 「神様がそんなわるいいことをするはずがない」
おもい、ひそかに御神前ごしんぜんかくれて、人身御供を要求ようきゅうする神様の正体しょうたいをみとどけることにしました。

 祭りのよる、娘はしろひつぎれられて、村人むらびとたちによって御神前にそなえられました。

 よるけるころ弁存べんぞんいきころして、かげから御神前の様子ようすをうかがっていると、暗闇くらやみなかから三匹さんびき怪物かいぶつあらわれました。

 怪物は、
 「今宵こよい早太郎はやたろうるまいな。信州しんしゅう信濃しなのの早太郎はおそろしや。早太郎にはられるな」
となえながらおどくるい、棺のなかの娘をほねのこさずってしまいました。

 弁存は、
 「村人をすくうには早太郎にたのむほかない」
おもい、すぐさま信州しんしゅうかいました。

 しかし、信州はひろく、なかなか早太郎をつけることができませんでした。

 翌年よくとしなつわるころ、弁存はある茶店ちゃみせりました。
 「このあたりに早太郎というひとがいるといてきたのだが、ごぞんじなかろうか」
と弁存は、いつものように早太郎のことをきました。

 すると、茶店のおばあさんが、
 「早太郎という人は知らないが、ここからちか赤穂あかほ光前寺こうぜんじには、早太郎といういぬがいるよ」
いました。

 早速さっそく、弁存は光前寺をおとずれ、和尚おしょうさんと山犬の早太郎にこれまでのことはなして聞かせました。

 弁存のはなしわると、和尚さんはすぐに早太郎に、
 「早太郎、しっかり怪物かいぶつ退治たいじしてくるのだぞ」
と言い聞かせました。

 「ワン!」
たのもしく一声ひとこええると、早太郎はすぐに弁存とともに遠江国へ向かいました。

 ちょうど祭りの当日とうじつに、弁存と早太郎は見附村の天神様に到着とうちゃくしました。

 弁存は村人たちに事のきを説明せつめいし、娘のわりに早太郎を棺にれました。

 さて、そのなにも知らない三匹の怪物が、いつもとおなじように御神前に現れました。

 「今宵、早太郎は居るまいな。信州信濃の早太郎は恐ろしや。早太郎には知られるな」
と怪物は唱え、踊り狂いながら棺のふたけると、中から早太郎が現れました。

 棺からした早太郎は、いさましく怪物にかりました。

 暗闇の中に、早太郎と怪物の恐ろしい決闘けっとうこえひびわたりました。

 それを聞きながら、弁存と村人たちはあさちました。

 翌朝よくあさ、弁存と村人たちが天神様へ向かうと、年老としおいた三匹のヒヒがんでいました。

 そして、早太郎の姿すがたはもうどこにもありませんでした。

 神様のおこないとしんじていた村人たちは、たおれているヒヒをながら愕然がくぜんとしました。

 早太郎は怪物とのたたかいできずいましたが、光前寺までなんとかたどりくと、和尚さんのもとにかえってきました。

 早太郎は和尚さんにきかかえられると、怪物かいぶつ退治たいじを知らせるかのように「ワン」と一声たかく吠えて、いきりました。

 和尚さんは、早太郎の亡骸なきがら本堂ほんどうよこ境内けいだい手厚てあつほうむりました。

 その、早太郎をいかけてきた弁存は、早太郎のを知ると、その功績こうせきをたたえ、早太郎の供養くようにと『大般若経だいはんにゃきょう』を写経しゃきょうし、それを光前寺に奉納ほうのうしました。

 現在げんざいも光前寺の本堂の横に、早太郎のおはかまつられています。そして、弁存によって奉納された『大般若経だいはんにゃきょう 六百巻ろっぴゃっかん』の写経も、光前寺のたからとして大切たいせつのこされています。

解説

 平安時代へいあんじだい末期まっき成立せいりつしたとみられる説話集せつわしゅう今昔物語集こんじゃくものがたりしゅうかん26だい7の「猿神さるがみ退治たいじ」を原典げんてんとし、猿神さるがみばれる怪物かいぶつ退治たいじする霊犬れいけん伝説でんせつは、青森県あおもりけんから鹿児島県かごしまけんまでの日本にっぽん各地かくちひろ類話るいわつたわります。

 霊犬は、地域ちいきによって「早太郎はやたろう」「悉平太郎しっぺいたろう」「疾風太郎しっぷうたろう」「竹箆太郎しっぺいたろう」「執柄太郎しっぺいたろう」などとしるされ、それらはすべ同一どういついぬといわれています。

 そして、霊犬は、農作物のうさくぶつ守護神しゅごしんといわれるおおかみかみつかいとする「山犬信仰やまいぬしんこう」とかかわりがあるとされています。

 さて、悉平太郎の“悉平しっぺい”は、元々もともと座禅ざぜんときいましめのために板状いたじょう道具どうぐである「竹箆しっぺい」ではないかといわれています。

 現在げんざい遠江国とおとうみのくにばれた長野県ながのけん仏教ぶっきょう宗派しゅうはは、全体ぜんたいの8わり禅宗ぜんしゅうである曹洞宗そうとうしゅうです。

 しかし、室町時代むろまちじだい後期こうき、遠江国にひろまっていた仏教ぶっきょうの宗派は天台宗てんだいしゅうでした。

 天台宗の本山ほんざんではさるは神の遣いとされ、室町時代以降いこう、天台宗と神道しんどう山神やまがみからんだ「山王信仰さんのうしんこう」の象徴しょうちょうとして、全国的ぜんこくてき流行りゅうこうしました。

 すなわち、禅宗の道具の竹箆で、「戒め」や「悪行あくぎょう」をったことが意味いみするものは、天台宗の勢力せいりょくおさみ、曹洞宗の普及ふきゅういた物語ものがたりではないかととらえることができます。

 それから、『猿神退治』の説話せつわには、かならずといっていいほどいぬ登場とうじょうします。もしかしたら、それは「犬猿けんえんなか」を説話にりばめたあそごころかもしれませんね

 『今昔物語集こんじゃくものがたりしゅう (角川書店かどかわしょてんへんビギナーズ・クラシックス)』は、現代語訳げんだいごやく古文こぶんきとしたリズムによってだれもが古典こてん世界せかいたのしむことができます。

感想

 日本にっぽん説話集せつわしゅう今昔物語集こんじゃくものがたりしゅう』や『宇治拾遺物語うじしゅういものがたり』などでは、猿神さるがみ人間にんげんがい怪物かいぶつとしてたびたび登場とうじょうします。

 そして、この『猿神さるがみ退治たいじ』では、毎年まいとし、猿神に生贄いけにえとしてむすめすというむらのしきたりが、とてもおもいものとしてえがかれています。

 “白羽しらは”が自分じぶんむすめたなかったことに安堵あんどした村人むらびとは、すぐに生贄として指定していされた家族かぞく慣習かんしゅうやぶらぬよう監視かんしするがわの村人になります。

 それと同時どうじに、生贄をなんのためらいもなく、たりまえのことのように猿神へ神官しんかんたちも存在そんざいします。

 むかしならわしというものは、とても不気味ぶきみです。

 昔の習わしにひそ恐怖きょうふ謎解なぞときをしながら、伝承でんしょうかんがえることは人間にんげん本質ほんしつることだとかんじさせるおはなしです。

 講談社学術文庫こうだんしゃがくじゅつぶんこより出版しゅっぱんされている『宇治拾遺物語うじしゅういものがたり』は、原文げんぶん現代語訳げんだいごやく解説かいせつ全話ぜんわ収載しゅうさいされています。

 『宇治拾遺うじしゅういものがたり』は、岩波少年文庫いわなみしょうねんぶんこから出版しゅっぱんされています。むかしいまわらないひとこころのふしぎさをえがいた一冊いっさつです。現代語訳げんだいごやくのみを収載しゅうさいしたことで、古文こぶん苦手にがてな人でも物語ものがたり展開てんかいることができます。

まんが日本昔ばなし

猿神さるがみ退治たいじ
放送日: 昭和51年(1976年)07月31日
放送回: 第0072話(第0043回放送 Bパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 亜細亜堂
文芸: 沖島勲
美術: 亜細亜堂
作画: 亜細亜堂
典型: 早太郎伝説・人身御供譚ひとみごくうたん異類退治譚いるいたいじたん
地域: 中部地方(長野県)


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最後に

 今回こんかいは、『猿神さるがみ退治たいじ』のあらすじと解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいしました。

 遠江国とおとうみのくに見附村みつけむらは、現在げんざい静岡県磐田市見付しずおかけんいわたしみつけです。そして、信濃国しなののくに伊那郡赤穂里いなぐんあかほのさとは、現在の長野県駒ヶ根市赤穂ながのけんこまがねしあかほです。『猿神退治』の物語ものがたりえんとなり、昭和しょうわ42ねん(1967年)1がつ12にちから駒ヶ根市こまがねし磐田市いわたし友好ゆうこう都市とし関係かんけいとなっています。ぜひれてみてください!

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