『幽霊のさかもり』は、ただ同然で円山応挙の幽霊画の掛け軸を手に入れた骨董屋と、その掛け軸から抜け出してきた美しくて酒好きな女の幽霊とがおりなす無類に楽しいお話です。
今回は、『幽霊のさかもり』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『幽霊のさかもり』は、『応挙の幽霊』という噺で落語にも取り上げられている有名なお話です。
原作は、明治~大正時代の新聞記者で戯作者の鶯亭金升と伝わります。
講談にも同名の噺がありますが、まったく別のお話です。
絵本『よっぱらったゆうれい (日本の民話えほん)』は教育画劇から出版されています。村上豊さんの艶っぽい絵で、女の幽霊もなんだか色っぽいです。それなのに岩崎京子さんによる語り口調の文はまさに落語で、幽霊ということを忘れてしまうほど楽しい酒宴が描かれています。あらすじ
むかしむかし、ある所に、一軒の骨董屋がありました。
そこへ一人のお客がふとやってきて、店内の色々な掛け軸を手に取り始めました。
そこで骨董屋は、訪ねて来たお客に幽霊の掛け軸を勧めました。
「これは、そんじょそこらの女の幽霊の絵とはちょっと違います。枯柳などはありませんが素晴らしいものですよ」
と骨董屋はお客の気をそそるような勧め方をしました。
さらに、
「これは(円山)応挙の絵だと思うんですがね」
と骨董屋はお客に畳み掛けました。
お客は、
「オウキョでもラッキョでもいい。気に入った。これはいくらか」
と骨董屋に訊ねました。
この掛け軸は、ただ同然で譲り受けたガラクタのようなものだったので、骨董屋は二十文という意味で二本の指を見せました。
するとお客は、
「なんと二十両か。それは安い」
と大喜びして、明日に代金を持ってくるからと手付けの一両を置いて帰っていきました。
その夜、骨董屋は思わぬ大金を手にしてすっかり嬉しくなり、幽霊の掛け軸の前で一人で祝い酒を始めました。
「しかし、二十両だと思って見ると、お前さんはなかなかの美人な幽霊だね」
酔っ払って快い気分になった骨董屋は、掛け軸の中の女の幽霊に、
「お前もちょっと出てきて酌でもしてくれや」
と声をかけました。
するとそのとたん、夏だというのに辺りがスウーっと冷たくなり、風もないのに灯かりがパッと消えて、ふと気づくと目の前に見知らぬ女の人が立っていました。
「ん?まさか、その顔は」
骨董屋が掛け軸を見ると、掛け軸はもぬけの空で、真っ白でした。
「ぎゃあー!出たあー!」
掛け軸の幽霊は美人と褒められたのが嬉しくて、本当に出てきてしまったそうです。
そして、自分は円山応挙が書いたものだというのでした。
初めは怖がっていた骨董屋も、美人な幽霊のお酌にすっかりいい気分になりました。
おまけにこの幽霊の女、お酒が強いこと。
二人は夜通し、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎをしました。
骨董屋は酔いつぶれてしまいました。
そのうちに幽霊の女も酔っ払って、掛け軸の中に戻り、手枕で向こうを向いて眠り込んでしまいました。
翌朝、目を覚ました骨董屋の目の前には、女の幽霊が寝姿になっている掛け軸がありました。
早く女の幽霊に起きてもらって、元の立ち姿に戻ってもらわないと、せっかくの二十両がダメになってしまう、と骨董屋は大慌てになりました。
解説
江戸時代中期~後期の絵師で、近現代の京都画壇にまでその系統が続く「円山派」の祖である円山応挙は、諸説ありますが、“足のない幽霊”を描き始めた絵師といわれています。
応挙の描く絵は、写生を重視した山水、花鳥、人物など多彩な題材を巧妙に描き分け、親しみやすい画風が特色です。
日本一有名な応挙の幽霊画には、真筆と確認されているものが二点存在し、一点はカリフォルニア大学バークレー校美術館、もう一点は青森県弘前市の久遠寺が所蔵します。
久渡寺が所蔵する応挙による幽霊画「返魂香之図」は、一年に一度、旧暦の5月18日に当たる日に12時から1時間だけ限定公開され、毎年多くの人が訪れます。
感想
江戸時代の人々は、医療や科学が発達していなかったため、命がけのお産や病気などたくさんの”恐れ”が存在し、死が今より身近な存在でした。
そうした環境のなかで、直感的に生きていた彼らは、現代人よりもずっと感覚が鋭く、幽霊というものも身近な存在としてあったのではないでしょうか。
子どもから「幽霊って本当にいるの?」と聞かれると、私は「いる!」と即答することにしています。
それは、幽霊が実際に存在するという意味での「いる!」ではありません。見る者の心情が幽霊を見せるという意味での「いる!」です。
つまり、幽霊とは人の“想い”の産物だということです。
やましさや執念、罪の意識、愛憎など、人間の様々な想いが人に幽霊を見せてきたのではないかと考えるからです。
そのような人間の想いを昔話や落語で人々に伝えてきたのではないでしょうか。
まんが日本昔ばなし
『幽霊のさかもり』
放送日: 昭和51年(1976年)07月17日
放送回: 第0069話(第0041回放送 Bパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 高橋良輔
文芸: 沖島勲
美術: 西田稔
作画: 岩崎治彦
典型: 怪異譚
地域: ある所
Amazonプライム・ビデオで、『まんが日本昔ばなし』へ、ひとっ飛び。
『幽霊のさかもり』は「DVD-BOX第12集 第58巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『幽霊のさかもり』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
幽霊というと、怨みや憎しみからくる恐ろしい存在と思われがちですが、『幽霊のさかもり』に描かれている幽霊は、そこに邪悪な感情はなく、とても楽しい幽霊の姿が語られています。ぜひ触れてみてください!