『旅人馬』は、恐ろしい幻術を使う女から若者二人が逃れることを主題にした民話です。
今回は、『旅人馬』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『旅人馬』は、九州地方に伝わる民話です。
災厄から逃げるお話で、『三枚のお札』と同じ逃走譚に分類されます。
『旅人馬』は、平安時代末期に成立したと見られる説話集『今昔物語集』や、同じく平安時代末期の治承年間(1177~81年)に成立した仏教説話集『宝物集』に記されているほど、大変に古い民話です。
類話は日本各地に伝わりますが、東北地方では旅人を馬にしようとした女が逆に、旅人の機知によって馬に変えられてしまうという内容です。それに対して、西日本では今回のお話と同様に、馬に姿を変えられてしまった人間を元に戻して逃げ出すという内容です。
明治時代の人気小説家である泉鏡花が、短編小説『高野聖』の題材として『旅人馬』を取り上げたことにより日本中で広く知られるようになりました。
あらすじ
むかしむかし、あるところに、金持ちの息子の栄助と貧しい家の息子の五郎がおりました。二人は幼なじみで仲良くしていました。そんな二人が一緒に旅をすることになりました。
ある日のこと、二人が山道を歩いていると、途中で日が暮れてしまいました。二人が泊まるところを探しながら山の中を歩いていると、ふと前に一軒の宿屋がありました。
二人が家の戸を叩いて、
「一晩泊めて欲しい」
と頼むと、
「山の中なので何もないが、ゆっくりと休んでいきなさい」
と中から出てきた宿屋の女がにっこり笑って言いました。
二人はここで一晩過ごすことになりました。
その夜、金持ちの息子の栄助はすぐに眠ってしまいましたが、貧しい家の息子の五郎はなかなか眠れませんでした。
すると真夜中になって、すっと障子が開き宿屋の女が部屋に入ってきて、囲炉裏端に座りました。
五郎は寝たふりをして女の様子をそうっと見ていると、まるで田んぼを耕すように、女は囲炉裏の灰を掻きまわして、ぱらりぱらりと米の籾種を蒔きました。
すると種からみるみるうちに芽が出てきて、苗が生えそろいました。さらに苗はどんどん生長して黄色くなり、たわわな稲になりました。そして女は稲を刈り取って実を落とし、そこから真っ白な団子を作りました。
夜が明けると、女は、
「さあ、このお団子をお食べ」
とお盆に昨夜の団子を載せて部屋に入ってきました。
五郎は、
「それは怪しい団子なので食べない方がいい」
と栄助にそっと耳うちをしました。
しかし、女が、
「おいしいお団子だよ」
と言うので、栄助は思わず手をのばして、団子をパクリと食べてしまいました。
するとそのとたん、栄助は馬になってしまいました。
五郎は驚いてその場から逃げ出しました。
逃げた先の村で、ある農家のお爺さんに山の中での出来事を話すと、
「ここから東へ行くと、大きな茄子の畑があるから、その中に、東を向いた一本の木に一度に七つの実がなっている茄子があるので、その実を七つとも友達に食べさせるといい」
と教えてくれました。
五郎は栄助のために、何日もかけて言われたとおりの茄子を探しました。ようやく東を向いた一本の木から七つの実がなる茄子を見つけたので、女の留守を見はからって宿屋へ戻り、馬なった栄助に茄子を食べさせると、栄助は無事に人間に戻ることができました。
そして、その後も旅を続けた二人は、何年か後に村に帰ると、栄助は命の恩人である五郎に財産の半分を譲り、兄弟のように仲良く暮らしました。
解説
九世紀前半の中国の唐の時代末期に成立したとされる伝奇小説集『河東記』の中にある「板橋三娘子」は、『旅人馬』にかなり近い内容のお話です。
そして、「板橋三娘子」の内容は、『アラビアンナイト』の「バドルバートムの物語」とほとんど同じ趣向のお話です。
『アラビアンナイト』の成立は、およそ九世紀ごろと考えられているので、『アラビアンナイト』の成立の過程で、その一支流が中国に伝わり「板橋三娘子」となり、その後、日本に入ってきて伝承され、『旅人馬』が生まれたのでしょう。
それから、『旅人馬』にある“人を馬に変える幻術”は、日本では文芸の興味深い素材であった様で、人を馬に変えることができるといって人をだますお話は、狂言では『人馬』に取り入れ、江戸時代の小咄『魔法』から落語『大師の馬』へと続きます。
感想
昔話には、はじめは人間の世界のお話だったものが、途中からその世界が異なる世界である「異界」へと変わってしまうものがあります。その際、異界として“山の中”が昔話には、たびたび登場します。
異界が登場する昔話には、どちらかといえば、妖怪とか魔物とか、あまり好ましくない“人でないもの”が必ず登場します。そして最後は、人間は知恵を働かせたり勇気をふるったりして追い払ったり、またはやっつけたりします。
では、異界という場所は、どこにあるのでしょうか。
人が住む人間の世界と向き合う形で、もしくは重なるようにして異界は存在するのだろうと私は考えます。それを信じることができる人、それから想像することがきる人は、人間の世界と異界とを行ったり来たりすることができ、何かのきっかけで異界を見たり感じたりすることができるのではないかと思います。同時に、“人でないもの”が“人にはできないこと”を行える場所が異界で、そうした異界での出来事を語ることによって、人間自身が救われたり、励まされたりする、そういう存在が異界だと思います。
“人であるもの”、つまり人間が、今、見ている世界は、人によって見え方も景色も違います。もしかしたら、人間の世界にいるのに、異界を見ている場合もあるのかもしれません。
しかし、疑心暗鬼になる必要はありません。
昔話を通して、異界という世界を知ることは、先人が苦労を重ね語り継いできたことを知ることにつながります。
『旅人馬』から、日本人が伝えようとしたこと知ることで、心豊かでたくましい考え方を身につけることができると、私はふと思います。
まんが日本昔ばなし
『旅人馬』
放送日: 昭和51年(1976年)04月24日
放送回: 第0051話(第0028回放送 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 今沢哲男
文芸: 沖島勲
美術: 山守正一
作画: 鈴木欽一郎
典型: 逃走譚
地域: 九州地方
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『旅人馬』は「DVD-BOX第4集 第16巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『旅人馬』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
馬に姿を変えられてしまった友達を、元の人間に戻して、不思議な力を持つ女から逃げ出すという内容です。ぜひ触れてみてください!