幻術の宿で始まるサスペンススリラー
『旅人馬』は、恐ろしい幻術を使う女から若者二人が逃れることを主題としていますが、その核心には、魅力的に見えるものに飛び付くと、結果として深刻な、場合によっては致命的な危険や破滅を招くという教訓が込められています。
今回は、『旅人馬』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『旅人馬』は、九州地方に属する鹿児島県に伝わる民話ですが、東北地方に属する岩手県や中国地方に属する島根県などでも語り継がれています。
お話の内容は、地域ごとに異なるバリエーションが存在し、それが魅力の一つでもありますが、共通主題は「恐ろしい幻術を使う者から逃げる知恵」を主題にしていて、『三枚のお札』『馬方山姥』『食わず女房』『脂取り』などの昔話と同じ逃走譚に分類されます。
平安時代末期に成立したと見られる説話集『今昔物語集』には、巻31第14話に「通四国辺地僧行不知所被打成馬語 (四国の辺地を通る僧、知らぬ所へ行きて馬に打ち成さるる語)」と題される、「四国の辺地を旅する三人の僧侶が、山中で道に迷い、馬に変えられてしまった」という説話があります。
また、平安時代末期の治承年間(1177~81年)に平康頼が著したとされる仏教説話集『宝物集』には、「天竺の安息国(安足国)の王は、人間を馬にする術を知っていて、馬になる草を食べさせられ馬になった人間が、人間に返る草を食べて元に戻る」という説話が見られます。
このことからも『旅人馬』は大変に古い民話ということが分かります。
明治時代の人気小説家である泉鏡花が、短編小説『高野聖』の題材として『旅人馬』を取り上げたことにより、日本中で広く知られるようになりました。
絵本『
ふしぎなやどや (日本傑作絵本シリーズ)』は、
福音館書店から
出版されています。
中国唐代の
伝奇『
板橋三娘子』を
基に、
長谷川摂子さんが
優しくも
緊張感のある
語り
口で
物語を
紡ぎ、
井上洋介さんによる
墨絵調の
絵が、さらに
幻想的で
妖しい
雰囲気を
際立たせます。この
絵本の
魅力は、
客たちに
蕎麦餅を
食べさせロバに
変えてしまう、
宿の
美しい
女主人・
三娘子の
妖しい
美しさと、
旅商人・
趙の
賢い
復讐が
織り
成す
緊張感にあり、そこには
単なる
昔話以上の
深みがあります。
不気味さと
不思議さが
絶妙で、ページをめくる
度に
妖しい
世界へと
誘われ、
特に
絵の
迫力には、
子どもも
大人も
心が
引き
込まれることでしょう。
絵本『
たびびとうま (日本の民話えほん)』は、
教育画劇から
出版されています。
児童文学の
名手・
小沢正さんが、
貧しさと
幸運と
知恵が
交錯する
物語を、
平易で
温かい
現代語で
書き
表しています。そして、
石倉欣二さんによる
柔らかい
筆致で
描かれた
絵は、
表情が
豊かで
物語の
不気味さと
温もりを
絶妙に
表現しています。
観察力と
小さな
行動力を
実感させる
幸運の
連鎖は、
子どもたちの
想像力を
刺激します。
友情の
奇跡と
道徳的な
結末に
心躍る
絵本です。
『
読んであげたいおはなし 松谷みよ子の民話 上』は、
筑摩書房から
出版されています。
上巻には、
子どもたちに
語り
聞かせたい、
春と
夏の
季節感あふれる
民話を、
精選して50
篇収録しています。
松谷みよ
子さんは、
原話の
風情を
損なわず、
自然と
心に
染みる
文章を
組み
立てるので、
子どもには
想像力が
優しく
広がり、
大人には
子どもの
頃の
純粋な
驚きを
思い
出させてくれます。「
たにし長者」「
花咲かじい」「
猫檀家」「
桃太郎」などの
王道の
昔話から、「
山伏とこっこ狸」「
ミョウガ宿」「
絵に描いた嫁さま」などの
痛快な
昔話、はたまた「
鬼の
目玉」「
旅人馬」といったおどろおどろしい
昔話、そして「
見るなの座敷」「
月見草の
よめ」「いたちの
子守唄」といった
切ない
昔話まで、
失われがちな
優しさが
蘇り、
日本の
文化の
深さに
改めて
気づかされます。
語り
口調の
方言で
記された
文章は、テンポが
良く、とても
読みやすいので、
親子でページをめくると、
季節ごとのお
話が
家族の
時間を
豊かにする、
時代を
超える
一冊です。
『
日本昔話百選』は、
三省堂から
出版されています。
民俗学者として
全国の
語り
部を
訪ね
歩いた
稲田浩二さん・
和子さんご
夫妻が、
日本を「
北国」「
中の
国」「
西国」と
地理的・
風土的に
三つに
区分けし、この
分類に
基づき、
日本各地で
語り
継がれてきた
郷土色豊かな
昔話を100
篇厳選して
収録しました。
北のアイヌのユーカラから
南の
鹿児島の
龍神伝説まで、おなじみの
昔話や
地域に
根ざした
知られざる
逸話が、その
地域の
風土とお
国言葉の
語り
口調を
生かした
生々しい
語りとして
並びます。そして、
文章に
添えられた
丸木位里さん・
俊さんご
夫妻の
素朴な
挿絵に、
想像力が
喚起されるので、
物語を
立体的に
捉えることができます。また、
方言の
注釈が
丁寧に
記されているので、
言葉の
意味を
理解しながら
読み
進めることができ、ページをめくるごとに、
方言の
温かな
響きが
耳に
残ります。
方言で
物語を
読むと、お
馴染みのお
話も
何か
新鮮な
驚きを
覚えます。
互助の
精神やユーモアがさりげなく
織り
込まれ、
日本の
風土と
先人たちの
知恵を
紡ぐ、
日本人の
心の
故郷のような
一冊です。
『
今昔物語集 (ビギナーズ・クラシックス 日本の古典)』は、KADOKAWAから
出版されています。『
今昔物語集』は、
平安時代末期に
成立したと
見られ、
インド・
中国・
日本を
舞台に1059
話を
収載した
日本最大の
説話集です。
本書には、その
内の29
話が
収録されています。
本書の
特徴は、「
原文」は
総ふりがな
付きで、「あらすじ」→「
訳文」→「
原文」→「
寸評」で
構成されています。「あらすじ」と「
訳文」が「
原文」よりも
先にあるため、
話し
言葉のような「
訳文」ですらすらと
読み
進めた
後に、「
原文」で
古語の
風情を
味わい、
最後の「
寸評」で
仏教思想や
歴史背景を
分かりやすく
紐解かれるため、
物語の
深みが
一気に
広がります。
古典に
苦手意識を
持っている
人に
寄り
添いながらも、
原典の
雰囲気を
損なわない
工夫が
施されています。「
今は
昔」という
書き
出しは、
平安時代という1000
年も
前の
人間ドラマを、まるで
昨日の
出来事のように
現代に
蘇らせる
魔法の
鍵です。『
今昔物語集』は、
意外とエンタメ
性が
高く、
現代の
私たちに
通じる
人間ドラマが
満載です。その
入門編としては
最高の
一冊になることでしょう。
『
歌行燈・高野聖 (新潮文庫)』は、
新潮社から
出版されています。
本書には、
鏡花の
二大傑作「
歌行燈」と「
高野聖」の
他に、「
女客」「
国定えがく」「
売色鴨南蛮」の
全5
篇が
収録されています。『
旅人馬』を
題材として
取り
上げられた「
高野聖」は、
鏡花の
代表作というだけでなく、
日本文学史の
中でも、
怪奇小説・
幻想小説の
名作として
高く
評価されています。
鏡花の
文章は、まるで
水晶を
削るように
透明で
鋭く、
言葉の
一つひとつが
音を
立てて
響き、
読んでいるうちに
自分が
物語の
中に
溶けていくような
錯覚に
陥ります。
特に「
高野聖」で、
蛭がぼたぼた
落ちる
森の
描写は、
本当に
気持ち
悪くて、
背筋が
凍るような
恐怖を
感じます。しかし、その
恐怖の
奥底に、たまらない
色香が
漂っています。それが
鏡花の
恐ろしいところです。
鏡花の
文章は
難解なものとされていますが、だからこそ
味わい
深く、そこには
現代の
私たちが
失った“
言葉を
信じる
力”があります。
読者は、それに
惹きつけられ、その
魔力に
囚われます。
幻想と
現実の
狭間で
揺れる、
心を
掻き
乱されるような、
忘れられない
一冊となることでしょう。
あらすじ
むかしむかし、あるところに、金持ちの息子の栄助と貧しい家の息子の五郎がおりました。二人は幼なじみで仲良くしていました。そんな二人が一緒に旅をすることになりました。
ある日のこと、二人が山道を歩いていると、途中で日が暮れてしまいました。二人が泊まるところを探しながら山の中を歩いていると、ふと前に一軒の宿屋がありました。
二人が家の戸を叩いて、
「一晩泊めて欲しい」
と頼むと、
「山の中なので何もないが、ゆっくりと休んでいきなさい」
と中から出てきた宿屋の女がにっこり笑って言いました。
二人はここで一晩過ごすことになりました。
その夜、金持ちの息子の栄助はすぐに眠ってしまいましたが、貧しい家の息子の五郎はなかなか眠れませんでした。
すると真夜中になって、すっと障子が開き宿屋の女が部屋に入ってきて、囲炉裏端に座りました。
五郎は寝たふりをして女の様子をそうっと見ていると、まるで田んぼを耕すように、女は囲炉裏の灰を掻きまわして、ぱらりぱらりと米の籾種を蒔きました。
すると種からみるみるうちに芽が出てきて、苗が生えそろいました。さらに苗はどんどん生長して黄色くなり、たわわな稲になりました。そして女は稲を刈り取って実を落とし、そこから真っ白な団子を作りました。
夜が明けると、女は、
「さあ、このお団子をお食べ」
とお盆に昨夜の団子を載せて部屋に入ってきました。
五郎は、
「それは怪しい団子なので食べない方がいい」
と栄助にそっと耳うちをしました。
しかし、女が、
「おいしいお団子だよ」
と言うので、栄助は思わず手をのばして、団子をパクリと食べてしまいました。
するとそのとたん、栄助は馬になってしまいました。
五郎は驚いてその場から逃げ出しました。
逃げた先の村で、ある農家のお爺さんに山の中での出来事を話すと、
「ここから東へ行くと、大きな茄子の畑があるから、その中に、東を向いた一本の木に一度に七つの実がなっている茄子があるので、その実を七つとも友達に食べさせるといい」
と教えてくれました。
五郎は栄助のために、何日もかけて言われたとおりの茄子を探しました。ようやく東を向いた一本の木から七つの実がなる茄子を見つけたので、女の留守を見はからって宿屋へ戻り、馬なった栄助に茄子を食べさせると、栄助は無事に人間に戻ることができました。
そして、その後も旅を続けた二人は、何年か後に村に帰ると、栄助は命の恩人である五郎に財産の半分を譲り、兄弟のように仲良く暮らしました。
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解説
九世紀前半の中国の唐の時代末期に成立したとされる伝奇小説集『河東記』の中にある「板橋三娘子」は、『旅人馬』にかなり近い内容のお話です。
そして、「板橋三娘子」の内容は、『アラビアンナイト』の「バドルバートムの物語」とほとんど同じ趣向のお話です。
『アラビアンナイト』の成立は、およそ九世紀ごろと考えられているので、『アラビアンナイト』の成立の過程で、その一支流が中国に伝わり「板橋三娘子」となり、その後、日本に入ってきて伝承され、『旅人馬』が生まれたのでしょう。
それから、『旅人馬』にある“人を馬に変える幻術”は、日本では文芸の興味深い素材であった様で、人を馬に変えることができるといって人をだますお話は、狂言では『人馬』に取り入れ、江戸時代の小咄『魔法』から落語『大師の馬』へと続きます。
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感想
昔話には、はじめは人間の世界のお話だったものが、途中からその世界が異なる世界である「異界」へと変わってしまうものがあります。その際、異界として“山の中”が昔話には、たびたび登場します。
異界が登場する昔話には、どちらかといえば、妖怪とか魔物とか、あまり好ましくない“人でないもの”が必ず登場します。そして最後は、人間は知恵を働かせたり勇気をふるったりして追い払ったり、またはやっつけたりします。
では、異界という場所は、どこにあるのでしょうか。
人が住む人間の世界と向き合う形で、もしくは重なるようにして異界は存在するのだろうと私は考えます。それを信じることができる人、それから想像することがきる人は、人間の世界と異界とを行ったり来たりすることができ、何かのきっかけで異界を見たり感じたりすることができるのではないかと思います。同時に、“人でないもの”が“人にはできないこと”を行える場所が異界で、そうした異界での出来事を語ることによって、人間自身が救われたり、励まされたりする、そういう存在が異界だと思います。
“人であるもの”、つまり人間が、今、見ている世界は、人によって見え方も景色も違います。もしかしたら、人間の世界にいるのに、異界を見ている場合もあるのかもしれません。
しかし、疑心暗鬼になる必要はありません。
昔話を通して、異界という世界を知ることは、先人が苦労を重ね語り継いできたことを知ることにつながります。
『旅人馬』から、日本人が伝えようとしたこと知ることで、心豊かでたくましい考え方を身につけることができると、私はふと思います。
まんが日本昔ばなし
『旅人馬』
放送日: 昭和51年(1976年)04月24日
放送回: 第0051話(第0028回放送 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 今沢哲男
文芸: 沖島勲
美術: 山守正一
作画: 鈴木欽一郎
典型: 逃走譚
地域: 九州地方
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まんが日本昔ばなし』へ、ひとっ
飛び。
かつてテレビで
一大ブームを
作った『
まんが日本昔ばなし』の
中から
傑作101
話を
厳選しました!
国民的アニメーション『
まんが日本昔ばなし』がDVDになりました!
『
旅人馬』は「
DVD-BOX第4集 第16巻」で
観ることができます。
最後に
今回は、『旅人馬』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
あなたは、幻術の宿で餅を食べる派? それとも食べない派?
『旅人馬』は、「ほんの一瞬の油断が命取りになる」という、リアルな恐怖を描いています。女将の餅は「魅力的な罠」の象徴で、現代にも通じる、甘い話の危険性に警鐘を鳴しています。また、文化的意義は、江戸時代以降の語りで、階級という貧富の壁を超えた友情が革新的に描かれている点です。これは、現代の多様性や助け合いの精神に通じます。「警戒心と信頼」の調和を教えているお話です。ぜひ触れてみてください!