“山姥”とは、奥山に住み、「山の神」あるいは「山の神に仕える女」のことで、恐ろしい形相をし、人を喰らう妖怪と考えられています。しかし、この『ちょうふく山の山んば』からは、恐ろしさだけではなく、優しさ、温かさが感じられます。
今回は、『ちょうふく山の山んば』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
「ちょうふく山の山んばが、子ども産んだで、餅もってこう」から始まる『ちょうふく山の山んば』は、『山んばの錦』とも呼ばれる民話です。
東北地方に位置する秋田県仙北郡南外村 (現在の大仙市南外)に伝わるとされます。
「女は弱し、されど母は強し」
一般的に、女性は弱いものとされています。 しかし、母が女性として弱いものであれば、子育てをすることが難しくなってしまいます。
それは妖怪の山姥でも同じことです。
妖怪の山姥と人間のお婆さんによる、愛に溢れた心が和む物語が『ちょうふく山の山んば』です。
あらすじ
むかしむかし、あるところに、ちょうふく山という高い山がありました。そこには恐ろしい山姥が住んでいました。
ある年の十五夜の晩のことです。
ちょうふく山の麓の村の人々がお月見をしていると、真っ黒い雲が近付き、周囲が急に暗くなり、
「ちょうふく山の山姥が、子どもを産んだから、祝いの餅をついて持って来い」
という恐ろしい声が響き渡りました。
村人たちは驚きました。
そして、皆でもち米を出し合って、大慌てで祝いの餅をつきました。
こうして、餅は用意することが出来ました。しかし、山姥を怖がり、餅を持ってちょうふく山へ行くという村人が誰もいませんでした。
村人たちは話し合い、村一番の乱暴者のカモ安と権六に頼むことにしました。
ところがこの二人、山姥が怖くて、道を知らないから行けないと断ってました。
そこで、村一番の年寄りの大ばんばが道案内役としてついていくことになりました。
そうなっては、カモ安も権六も断ることができませんでした。二人は仕方なく餅をかかえて、大ばんばの後についてちょうふく山を登っていきました。
山を登っていく途中、山姥の声が聞こえると、カモ安と権六は大ばんばと餅を置いて逃げていってしまいました。
仕方なく、大ばんばは餅をその場に置いて、山姥の家を訪ねていきました。
山姥に事情を話すと、昨日産まれたばかりの“まる”という名の赤ん坊が、風のように飛びだしていき、ひとっ飛びで餅を担いで帰ってきました。
大ばんばは恐ろしくなって、
「もう帰ってもいいか」
と山姥に伝えましたが、
「ワシの産後の世話をしてくれ」
と山姥に引き留められ、山姥の産後の世話を二十一日間だけすることになりました。
大ばんばが帰る日、お礼にと山姥からいくら使ってもなくなることがないという不思議な「錦の反物」を貰いました。
大ばんばが村に帰ると、村人たちは大ばんばが死んだと思って葬式の真っ最中でした。
大ばんばは村人たちに事情を話し、山姥からもらった錦を村人たちに分けてあげました。
それからというもの、この錦は村の名物となり、村人たちは錦を売って幸せに暮らしたそうです。
解説
山姥は、山奥に棲む老女の妖怪といわれています。
多くの場合、形相は、背が高く、長い髪で、眼光が鋭く、耳まで裂けた口を持ち、出会った人間に災厄をもたらし、人間を喰らうと考えられています。
しかし、その一方で山の神に仕え、福を授ける柔和な女性として描かれる場合もあります。
それから、日本人なら誰もが知っている、熊に乗り鉞を担いだ足柄山の『金太郎』という民話がありますが、平安時代末期に成立したとされる『今昔物語集』には、「金太郎の母は山姥」と記されています。
これが、山姥の伝承としては、日本で一番有名なお話かもしれません。
また、お話に「産後二十一日間」とありますが、日本では古くからの習慣で、産後の安静にする時期の終わりを「床上げ」と表現し、産後二十一日間の床上げまでは、できるだけ横になって身体を休めるものと言われています。
そこに関しては、人間の世界も山姥の世界も同じようです。
感想
大ばんばと村人たちや山姥とその子どもなど、『ちょうふく山の山んば』は登場するすべての人物が実に生き生きと描かれているお話です。
さて、お年寄りは、それまでの人生において様々な経験をし、技を鍛え、知識を積み重ねてきています。
その経験や技、知識は一夜にして築かれたものではないので、将来を見通していく“力”と解釈することができます。
そして、それは間違いなく次世代を担う若者の道しるべや参考になることでしょう。
お年寄りが自ら培ってきたものを発信し、世代を超えて共有することは、これから超高齢社会という未知の領域へ踏み出していく日本にとっては、未来の社会のあり方だけではなく、自分たちがどう生きていくかを考えるきっかけを提示してくれる重要な要点になるのではないでしょうか。
まんが日本昔ばなし
『ちょうふく山の山んば』
放送日: 昭和51年(1976年) 02月07日
放送回: 第0034話(第0018回放送 Aパート)
語り: 常田富士男・(市原悦子)
出典: 表記なし
演出: 樋口雅一
文芸: 沖島勲
美術: 山守啓陽
作画: 鈴木欽一郎
典型: 妖怪譚・山姥
地域: 東北地方(秋田県)
『ちょうふく山の山んば』は「DVD-BOX第8集 第37巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『ちょうふく山の山んば』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
『ちょうふく山の山んば』は、豪快でしかも人間味を感じさせる山姥と、お婆さんの知恵と勇気が、最後は村に幸せを運んでくるというお話です。ぜひ触れてみてください!