『カチカチ山』は、室町時代末期から語り継がれる有名な日本の昔話の一つです。お婆さんを残虐に殺したタヌキを、お爺さんに代わってウサギが敵を討つという勧善懲悪の復讐物語です。
今回は、『カチカチ山』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『カチカチ山』は、室町時代末期には現在の形に成立していたとされます。江戸時代には『兎の大手柄』とも呼ばれていて、明治時代以後も絵本などの読み物になって広く知られるお話です。
『カチカチ山』は、お婆さんを殺して汁に料理したタヌキを罰している点から、人間が人間の肉を食べる「カニバリズム」と呼ばれるものに対する極めて強い憎悪を想起させ、日本の数ある昔話の中でも異色といってもよいお話です。
芥川龍之介は、お話の内容は変えず、素晴らしい日本語による詩のような美しい文体で『かちかち山』を書いています。
太宰治の『お伽草紙』では「カチカチ山」を新解釈で書き直し、美少女と男の宿命物語としています。
また、太宰は「カチカチ山」の舞台を、富士山の絶景が望めるとても綺麗な中部地方に位置する山梨県の河口湖畔にある天上山と『お伽草紙』の中で記しています。
作詞: 東くめ・作曲: 瀧廉太郎による童謡『かちかち山』が存在します。
あらすじ
むかしむかし、あるところに畑を耕して生活している老夫婦がおりました。
二人の大事な畑にタヌキがやってきては豆を全部食べてしまうので、怒ったお爺さんはタヌキを捕まえました。
タヌキを縛り上げて天井から吊して、お爺さんはお婆さんに狸汁にするように言って畑へ出かけていきました。
タヌキはお婆さんに自分が悪かったと反省するふりをして縄を解いてもらい自由になると、お婆さんを杵で殴り殺しました。
その上で、お婆さんの肉を鍋に入れて煮込み、タヌキは「婆汁」を作りました。
そして、それを帰ってきたお爺さんに食べさせたのでした。
お爺さんが悲しんでいると、それをみかねたウサギがお婆さんの仇をとるとタヌキ成敗に出かけました。
まず、ウサギはタヌキに薪を拾うのを手伝ってほしいと言い、タヌキの背負った薪に火をつけてタヌキに大火傷を負わせました。
後日、ウサギはタヌキに良く効く火傷の薬だと称して唐辛子入りの味噌を塗り、タヌキはさらなる痛みに苦しむこととなります。
最後にウサギはタヌキの食い意地を利用して魚を食べさせると言って誘い出し、泥で作った船で沖に出たタヌキは溺れ死に、ウサギは見事にお婆さん仇を討ちました。
解説
『カチカチ山』は、『桃太郎』『さるかに合戦』『舌切り雀』『花咲か爺さん』と並ぶ「日本五大昔話」の一つで、江戸時代から広く親しまれているお話です。
『カチカチ山』では、ウサギは知恵者として人間の味方として描かれ、タヌキは、他の昔話でもそうあるように、人間を騙す者として描かれています。
お話の前半は農耕で営まれる信仰的儀礼の呪術的行為が主題ですが、後半は動物による闘争となっており、お話の継ぎ合せによってつくられたものだと考えられます。
さて、「盟神探湯」と呼ばれる、古代の日本で行われていた神代の裁判をご存じでしょうか。これは、罪のない者であれば、仮に熱湯に浸かったとしても火傷はしないという考えによるものです。つまり、火傷を負ったものは有罪という意味です。
『カチカチ山』における盟神探湯は、タヌキが薪を背負ったところに、ウサギが火打石で火を点けるという場面です。これによりタヌキは大火傷を負います。盟神探湯の考えでは、“大火傷を負う”ことは有罪を意味するものなので、最後に刑が執行されます。それが、“泥船に乗って溺れ死ぬ”という死刑でした。
古代の日本では、船は、死者が住むとされる地下にある「黄泉の国」へ行くための乗り物と考えられていました。高貴な人物の船は贅沢な材料で造られましたが、タヌキのような卑劣な輩の船は泥で造られました。タヌキの乗る泥船は黄泉の国には到着せず、途中で沈み、タヌキは溺れ死にます。そのことからも、ウサギの凄まじい怒りの大きさを『カチカチ山』からは感じ取ることができます。
感想
近年、生命の大切さについての意識が希薄になり、様々な事件が起きています。そして「命の教育」の必要性が叫ばれています。命の教育とは、生命を慈しむ心を育てること、自然の摂理を教えること、この二つの面を意識した教育といわれています。
さて、『カチカチ山』は日本人と自然との関係の基本的な形とその歴史を語っていることがわかります。『カチカチ山』は人間とタヌキの“生命をめぐる戦いのお話”です。それなのに、『カチカチ山』はその残酷性から本来の形と異なった内容で子どもたちに示されることの多い昔話の一つです。
昔は自給自足の生活でしたが、食糧は外部調達するようになった現在では、人間が他の動植物の命をもらって生き延びているのだという意識が希薄になっています。
人は命あるものを食糧としている、このことは命の教育の中でも重要な側面の一つです。だからこそ残酷だとしても、タヌキを倒したこと、タヌキを食べようとしたこと、お婆さんが殺されたこと、お爺さんが知らずに「婆汁」を食べさせられたことを考えることが大切ではないでしょうか。
道徳観、社会的規範の遵守が希薄となりつつある時代だからこそ、人は命あるものを食糧としていることを忘れずに、そしてそのことを次世代に伝える役割を、『カチカチ山』は担っているということです。
まんが日本昔ばなし
『カチカチ山』
放送日: 昭和50年(1975年)02月25日
放送回: 第0015話(第0008回放送 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 彦根のりお
脚本: 平見修二
美術: 彦根まふみ
作画: K・S・R(K=座間喜代美・S=池田志津子・R=斉藤礼子)
典型: 葛藤譚・復讐譚・動物闘争譚
地域: 東北地方/中部地方(新潟県・山梨県)
最後に
今回は、『カチカチ山』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
因果応報という仏教の教えを表す言葉がありますが、『カチカチ山』は、善い原因には善い結果が、悪い原因には悪い結果が、報いとして現れる、といったありきたりの教訓をこえて、昔話のもつ生き生きとした力強さと残酷さを感じさせるお話です。ぜひ触れてみてください!