『三年寝太郎』は、寝てばかりいることから寝太郎と呼ばれる怠け者の男が、突然、起き出し灌漑を成し遂げるという民話です。
今回は、『三年寝太郎』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『三年寝太郎』は山口県山陽小野田市厚狭地区に伝わる民話です。
天保13年(1842年)に成立した『防長風土注進案』に三年寝太郎の物語の原型ではないかと言われる記述があります。
それは、「一人の翁が仕事もせず、いつも寝てばかりいるので、世人から『寝太郎』と呼ばれていた。やがて彼は沓村に大きな堰を造って厚狭川の流れを引き、千町ヶ原を開いて美田とした」との内容です。
このお話に、寝太郎の父が庄屋であることや三年と三月寝て暮らしたこと、佐渡金山で資金を調達したことなどが加えられ、現在の厚狭の寝太郎伝説が形成されたと考えられています。
『三年寝太郎』の民話が全国に広まるきっかけを作ったのは、昭和28年(1953年)2 月2日の朝日新聞「民話めぐり」に、山口県萩市出身の岡不可止が寄稿したものが元とされます。
村人たちにからかわれる寝太郎。そんな寝太郎が村のために働きます。絵本『三ねんねたろう』を読むと、人は強さで民話を生みだし、民話は人をより強くするということを、大川悦生さんの文と渡辺三郎さんの絵から感じ取ることができます。あらすじ
むかしむかし、あるところに一日中寝ていて、村人たちから怠け者と嫌われ、寝太郎と呼ばれている男がおりました。
寝太郎は根っからの怠け者というわけではなく、いつの頃からか、一日中ごろごろと寝てばかりいて、叩いてもゆすっても朝になってもどんなにしても起きなくなってしまったのでした。さすがに十日にいっぺんは起きて、山の上から小便をするものの、それ以外はもう三年も寝続けておりました。
ある年、村は日照り続きで雨が降らず、田んぼに水がなくなり農作物も育たなくなってしまいました。村人たちは村に罰当たりがいるせいだといい、寝太郎を殺すことにしました。
その夜、寝太郎は夜中に起き、山の上の大きな岩を崖の下に落としました。岩による衝撃で山崩れが起こり、その下を流れる川の流れを変え、村にまで水が届くようになり、田んぼにも水を引くことができるようになりました。村の農作物は助かりました。
寝太郎はただ寝ていたのではなく、どうすれば村が助かるのかをずっと考えていたのでした。
解説
戦国時代の伝承上の人物とされる平賀清恒が、三年寝太郎の由来ではないかと伝わります。
平賀清恒は信濃国佐久郡(現在の長野県佐久市)の小豪族で平賀城主の平賀玄信の息子とされます。
天文20年(1551年)8 月に起きた「大寧寺の変」により厚狭(現在の山口県山陽小野田市厚狭地区)に落ち延び暮らし始めましたが、水不足に苦しむ村人の声に動かされ、三年と三ヶ月の長期にわたり、日夜思案を重ね、厚狭川を堰き止め、千町ヶ原に水路をひいたとされます。
厚狭地区を流れる厚狭川には、実際に寝太郎の集めた資金により整備したとされる堰があり、「寝太郎堰」と呼ばれています。
平賀清恒の名はいつしか「寝太郎さま」と呼ばれるようになり、地元の窮地を救い荒れ地を開墾した英雄として今なおたたえられており、神様として寝太郎荒神社に祀られています。
厚狭駅前には寝太郎の銅像があり、地元では毎年4月29日に「寝太郎祭り」が催されています。
いつ誰の手によって厚狭川が堰き止められ、厚狭盆地に縦横に水路を構築する事業が行われたか公的な記録は残っていません。しかし、膨大な資金と労力を要したことは疑いようがなく、この偉業に対する人々の感謝の気持ちが、「寝太郎伝説」として語られるようになったのでしょう。
厚狭地区では「寝太郎伝説」が語り継がれるだけではなく、現在も寝太郎が造ったとされる堰と用水路が人々の暮らしを支えています。
感想
『三年寝太郎』は“子どもの成長”が織り込まれているお話です。
実は多くの昔ばなしでは主人公の性格が変わります。
はじめは間が抜けていても、最後は賢くなります。
寝てばかりいる若者が、あるとき知恵を働かせます。ちょっとした知恵を働かせることは誰にでもあり、その意味で本当の人間の姿を伝えています。
そして、「寝太郎」の姿は「若者の変化」そのものではないでしょうか。
若いときにはいい加減でも、30~40歳になればしっかりとした大人になっている。そんな人はたくさんいます。今は勉強やお手伝いをしない小学生だとしても、20~30年もすれば、誰もがすまして立派な大人になっているということです。
このお話からわかるように、子どもは自らの力でちゃんと育ちます。それを理解し、子どもを信頼すればよいということです。子どもだって、「自分はこういう姿でありたい」という意思をもっているはずです。だから、大人がやるべきことは、子どもを信頼して、すくすく育つ環境を作ることです。
「子どもは無限の可能性を持っている」といわれますが、それは「大人が干渉しない」という条件つきで初めて成り立ちます。
子どもは自ら成長し、変化するものだという、そうした当たり前で大切なことを、昔話は教えてくれます。
大人は、慌てずに焦らずに、子どもを信頼して、温かく見守っていきましょう。
まんが日本昔ばなし
『三年寝太郎』
放送日: 昭和50年(1975年)02月18日
放送回: 第0014話(第0007回放送 Bパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 樋口雅一
脚本: 伊東恒久
美術: 内田好之(※青木稔)
作画: 樋口雅一
典型: 寝太郎伝説
地域: 中国地方(山口県)
『三年寝太郎』は未DVD化のため「VHS-BOX第2集 第18巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『三年寝太郎』のあらすじと内容解説、感想をご紹介しました。
厚狭の人々の心の中には、今も寝太郎が生き続けています。毎年祭祀が行われ、人々に信奉され親しまれています。『三年寝太郎』のお話には、寝太郎の偉業に対する人々の感謝の気持ち詰まっています。ぜひ触れてみてください!