『舌切り雀』は、糊をなめたことに腹を立てたお婆さんが、心やさしいお爺さんが可愛がっていた雀の舌を切って追い出します。雀の身を案じ、お爺さんは山奥まで雀のお宿を捜して訪ねて行きます。
今回は、『舌切り雀』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『舌切り雀』は、鎌倉時代前期(建暦2年~承久3年(1212~1221年))に成立したと推定される『宇治拾遺物語』に「腰折雀」として収載されています。
通称 “赤本”と呼ばれ、寛文2年(1662年)ごろに発生した幼童向け絵本の最初期の草双紙に『したきれ雀』として登場し、江戸時代の五大昔話の一つに数えられ、明治時代以後も絵本や読み物で広く親しまれています。
また、昭和22年(1947年)には音楽教科書『一ねんせいのおんがく』に「すずめのおやど」という題名で掲載されたことで、童謡としても親しまれています。
太宰治も昭和20年(1945年)に筑摩書房より発行した『お伽草紙』に「舌切雀」を収録しています。
絵本『したきりすずめ (むかしむかし絵本 16)』はポプラ社より出版されています。松谷みよ子さんによるリズミカルな語りと村上幸一さんの魅力あふれる絵は、耳にも目にも幸せが満ちる絵本です。あらすじ
むかしむかし、あるところに心の優しいお爺さんと欲張りで意地悪なお婆さんがいました。
ある日、お爺さんはケガをした一羽の雀を見つけたので家に連れて帰り手当てをしました。山へ返そうとしましたが、雀がお爺さんにすっかり懐いたので、おちょんという名前をつけて育てることにしました。
しかし、お婆さんはお爺さんが雀を可愛がっているのが気に入らなかったのです。
お爺さんが出かけたある日、おちょんがお婆さんの作った糊を食べてしまいました。
怒ったお婆さんは、
「悪さをしたのはこの舌か」
とおちょんの舌をハサミで切ってしまいました。
おちょんは泣きながらどこかへ飛んでいってしまいました。
帰ってきてそのことを聞いたおじいさんは慌てて、おちょんを探しに山へ出かけると、竹やぶの奥に雀のお宿があり、中からおちょんが出てきて、お爺さんを招き入れてくれました。
おちょんは美味しいご馳走や歌と踊りで、お爺さんをもてなしました。
お爺さんが帰ろうとすると、お土産として大きな葛籠と小さな葛籠が用意されていて、どちらか好きな方を持っていくようにと言われました。
お爺さんが小さな葛籠を選ぶと、
「家に着くまで決して開けないように」
と雀たちから言われました。
家に帰って葛籠を開けてみると、中からたくさんの宝物が出てきました。
欲張りなお婆さんは、大きな葛籠にはもっとたくさんの宝物が入っているに違いないと、雀のお宿に押しかけ、大きな葛籠を強引に受け取り帰りました。
雀たちからは、
「家に着くまで決して開けないように」
と言われていましたが、待ちきれずに帰り道で開けてみると、中から魑魅魍魎や虫や蛇が現れました。
お婆さんはびっくりして山道を逃げるように家へ帰りました。
解説
『舌切り雀』は、日本人なら誰もが一度は聞いたことのある有名な民話ではないでしょうか。
しかし、古くは相当に残酷で過激な表現が多いことから、現代に伝わるものは、明治時代以後に子どもが読めるように改定され、無難な内容に落ち着きました。
最近では、しばしば説教調で教訓的と非難される昔ばなしですが、“善”を奨めるだけではなく、“悪”とは何かを教えることが、実は昔ばなしの最大の魅力であり大切な役目ではないでしょうか。
感想
“嫉妬”は、「自分の大切なものを他に奪われるのではないか」という気持ちに由来します。とてもやっかいで複雑な感情です。
さて、『舌切り雀』で感じることは、お婆さんはお爺さんから大切にされていたということです。
もし、お爺さんが乱暴者だったら、晩年のお婆さんは卑屈になっていたはずです。しかし、お婆さんは意地悪で欲張りで傲慢です。このような性格になってしまったのは、お爺さんがお婆さんを長年にわたって甘やかしたからでしょう。多少のワガママを言われたとしても、お爺さんはお婆さんのすべてを優しく包み込み、二人は仲睦まじく生活していたと想像します。そんな二人の平和な世界に突如現れたのが雀でした。お婆さんの心は掻き乱れたに違いありません。それは、今まで自分だけを大切にしてくれていた人が、雀という別のものに優しく接するのだから、嫉妬の炎に身を焦がされたことでしょう。
女性なら誰しも、年齢を重ねると何となく焦りや不安を感じるものです。ここに嫉妬が加わると、とてつもなく残酷な行為を行うようになります。
嫉妬に狂ったお婆さんは、「糊を食べた」ことに対する罰として、雀の舌をハサミで切ってしまいます。しかしそれは名目上であり、実際は、自分の平和な世界を奪おうとする侵略者への攻撃でした。そして、雀は侵略者ですから、お婆さんはそこから財宝を奪うことに遠慮やためらいはありません。雀のお宿から大きな葛籠を持ち帰るのも当たり前の行動です。その結果、酷い目に遭うことになります。
この物語の結末は、嫉妬により行動したお婆さんの業の哀しさがよく表現されています。つまり、『舌切り雀』は極端な行動に走ってしまったがために起きた、女の悲劇の物語だということです。
まんが日本昔ばなし
『舌切り雀』
放送日: 昭和50年(1975年)01月14日
放送回: 第0004話(第0002回放送 Bパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: りんたろう
脚本: 沖島勲
美術: 椋尾篁
作画: 矢沢則夫
典型: 隣の爺型・異郷訪問譚・動物報恩譚・雀譚
地域: 中部地方(石川県)
最後に
今回は、『舌切り雀』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
最近では、舌を切るところが残虐だということで、あまり『舌切り雀』は子どもには見せないそうです。しかし、動物愛護の心や人をむやみに妬んではいけないなど、現代にも通じる教訓が含まれています。ぜひ触れてみてください!