『こぶとり爺さん』は、頬に大きなこぶを持つ二人のお爺さんが、連夜で鬼の宴に参加し、正直なお爺さんは鬼に質草として頬のこぶを取られるが、意地悪なお爺さんは逆にこぶを増やされるという内容で、日本人なら誰もが一度は聞いたことのある有名な民話です。
今回は、『こぶとり爺さん』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
昔話として広く知られている『こぶとり爺さん』の舞台は、東北地方に位置する岩手県の上閉伊郡といわれていますが定かではありません。
『こぶとり爺さん』は、鎌倉時代前期の建暦2年~承久3年(1212~1221年)に成立が推定される日本の説話物語集『宇治拾遺物語』巻一の第三話に、樵が「鬼に瘤取らるる事(鬼にこぶとらるゝ事)」として収載されています。
日本各地に広く伝わる民話で、二人のお爺さんが連夜で鬼の宴に参加し、最初に参加したお爺さんはこぶを取られ、翌日に参加したお爺ささんは逆にこぶを増やされるのが典型的な話型です。
しかし、様々な類型が日本各地に存在し、物語の内容も様々です。
昭和20年(1945年)に筑摩書房より刊行された太宰治の短編小説集『お伽草紙』の「瘤取り」は、阿波国(現在の四国地方に位置する徳島県)の剣山の麓の設定で書かれています。
あらすじ
むかしむかし、ある所に右の頬に大きなこぶを持った正直なお爺さんと、左の頬に大きなこぶを持った意地悪なお爺さんがいました。
ある日、正直お爺さんが山へ木を切りに行くと嵐に遭い、家に帰れなくなってしまいました。
大きな木で雨宿りをしていると、山の上から大勢でがやがや騒ぎながら降りてくる声が聞こえてきました。
ひとりぼっちで寂しかったお爺さんは木の陰から行列を覗いてみると、そこには鬼がぞろぞろ歩いていました。
やがて、鬼たちは宴会を始めました。
鬼の宴会の楽しそうな様子を見たお爺さんは我慢できず、一緒になって踊りました。
すると、鬼たちに気に入られ、
「また明日も来るように、それまでこれを預かっておく」
と言って顔のこぶをもぎ取りました。
この話を隣に住む左の頬に大きなこぶのある意地悪なお爺さんに伝えると、今度は意地悪なお爺さんが代わりに鬼の宴会に行きました。
しかし、意地悪お爺さんは踊りが下手で鬼を怒らせてしまい、昨日もぎ取って預かっていたこぶを、右の頬にくっつけられてしまいました。
正直お爺さんはこぶがなくなり、意地悪お爺さんは両方の頬にこぶをつけて一生を過ごすことになりました。
解説
『宇治拾遺物語』の「鬼にこぶとらるゝ事」に登場するお爺さんたちは、踊りが得意か苦手かの記述はありますが、それぞれの性格にまでは記されてはいません。
現在、広く知られている『こぶとり爺さん』では、なぜか最初に登場する右の頬にこぶのあるお爺さんは正直で陽気であり、次に登場する左の頬にこぶのあるお爺さんは意地悪であるとされています。
この変遷は定かではありませんが、『こぶとり爺さん』は「隣の爺型民話」という類型に分類されます。これは『舌切り雀』や『花咲か爺さん』と同じ類型です。もしかしたら時代が進むにつれて他のお話と同じ様な「隣のお爺さんは意地悪」という設定に変わっていったのかもしれません。
感想
『宇治拾遺物語』に収載されている「こぶとり爺さん」の締めくくりは、「ものうらやみはせまじきことなりとか(ものうらやみをしてはいけない)」と羨望を戒める言葉で結ばれています。つまり、この昔ばなしからは「人を羨まずに、身の丈に合った行動をしなさい」ということが推察できます。
「隣の芝生は青く見える」ということわざがありますが、これは嫉妬心から起こるものです。嫉妬という感情は誰もが身に覚えのあるものでしょう。嫉妬とは「他者の快感や快適さに対する怒り」です。他人が自分より少しでも良い思いをしていることが気に入らないということです。
嫉妬の感情はどこからくるのでしょうか。「他者の利益は自分の損」ということでしょうか。しかし、よくよく考えてみると、この2つには何の関係性もありません。でも、そこに関係性を見出そうとしてしまうのが人間の心の働きです。人間は欲深い生き物です。自分が一番得をしたいと思っています。だから、他人の取り分を少なくすれば、自分の取り分が大きくなるかもしれないと考えてしまうのです。
嫉妬を野放しにしていることは、自分の生きる喜びを減らしていることだと知りましょう。それは、嫉妬心が強いと、周囲の人が成功するたびに嫌な気持ちになり、自分自身が苦しむことになるからです。他人に嫉妬することは自分を不幸にするだけです。嫉妬という感情を乗り越えた時、人には自己克服感が生まれます。
まんが日本昔ばなし
『こぶとり爺さん』
放送日: 昭和50年(1975年)01月07日
放送回: 第0001話(第0001回放送 Aパート)
語り: 市原悦子・常田富士男
出典: 表記なし
演出: 彦根のりお
脚本: 平見修二
美術: 彦根まふみ
作画: K・S・R(K=座間喜代美・S=池田志津子・R=斉藤礼子)
典型: 隣の爺型
地域: 東北地方
最後に
今回は、『こぶとり爺さん』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
『こぶとり爺さん』は、お爺さんが、鬼に質草として“こぶ”を取られる民話で、「人を羨んではいけない」ということを隣の意地悪なお爺さんを反面教師にして、得た教訓を面白おかしく伝えています。ぜひ触れてみてください!