『みそ買い橋』は、正直者で信心深い若者が、夢のお告げに従って、遠くの町の橋の上に立ちつくしていると、自分の家のそばに宝物が埋まっているという話を聞き、急いで家に帰り、宝物を発見して大金持ちになるというお話です。
今回は、『みそ買い橋』のあらすじと内容解説、感想などをご紹介します!
概要
岐阜県北部に位置する山岳都市の高山市は、飛騨地方の中心地であることから、「飛騨高山」と呼ばれ、日本屈指の人気の観光地です。
その高山市内の中心部を流れる宮川には、飛騨高山を代表する有名な赤い中橋が架かります。そして、中橋の一つ下流にある筏橋は、橋のたもとに味噌屋があったことから、地元では「味噌買い橋」とも呼ばれ、『みそ買い橋』や『夢の橋』、『夢の夢』と呼ばれる民話の舞台として知られています。
昭和37年(1962年)に中学一年生の国語の教科書に採用されたことにより、『みそ買い橋』は広く日本中に知れ渡ることになりました。
あらすじ
むかしむかし、飛騨国の乗鞍岳のふもとの丹生川というところの澤上という村に、炭焼きの長吉という男が住んでいました。
長吉は、信心深く、正直者で、とてもよく働きましたが、生活は貧しく、決して楽ではありませんでした。
ある日の晩、長吉が囲炉裏端でうとうとしていると、夢に白く長いあご髭を蓄えた仙人が現れ、不思議なことを言いました。
「長吉や、目が覚めたら高山の町へ行って、『みそ買い橋』のたもとに立っておれ。たいそうよい話が聞けるぞ」
そう告げると、仙人は長吉の前から姿を消しました。
目を覚ました長吉は、
「なんだ、夢か。それにしても、仙人とはよい夢を見たもんだ。せっかく仙人が教えてくれたんだから、高山へ行ってみるか」
長吉は半信半疑だったものの、わざわざ仙人が夢に出てくるくらいのことだからと、炭を売りに行くついでに、仙人のお告げ通り高山へ行ってみることにしました。
長吉は、まだ暗いうちから炭を背負って山を下ると、まだ昼前に高山の町に到着しました。炭はあっという間に売れ、身軽になった長吉は、仙人が言っていた“みそ買い橋”へ向かいました。
みそ買い橋という名前は、宮川に架かる橋が味噌屋の前にちょうどあったことから、町の人たちがその橋を渡って味噌を買いに行くので、いつしかそう呼ばれるようになったのでした。
みそ買い橋を見つけた長吉は、夜になるまで橋にじっと立っていましたが、何もよい話は聞けませんでした。次の日も何もなく、その次の日も、そのまた次の日も夢のお告げを信じ、長吉は立ち続けました。
こうしてとうとう五日が経ち、さすがに疲れてしまい、
「やっぱり、ただの夢だったのかな」
と長吉が半ば諦めていた時、橋のそばの豆腐屋の主人が、
「お前さん、何日も橋の上に立っているが、いったい何をしているんだい」
と話しかけてきました。
長吉は素直に夢のことを話しました。
すると豆腐屋の主人は、
「馬鹿正直に夢などを信じるものではない」
と大笑いしました。
そして、思い出すようにこう言いました。
「実は、わしもこの間、おかしな夢を見た。白く長いあご髭を蓄えた仙人が出てきてな、乗鞍のふもとの澤上とかいう村に、長吉とかいう男がおる。長吉の家の前に立つ大きな杉の木の根っこには、大判小判がどっさり埋まっているから掘ってみよという夢を見た。わしは乗鞍の澤上なんていう村はどこにあるか知らないし、知っていたとしてもそんな馬鹿げた夢を信じるはずがなかろう」
「夢のお告げはこれだ!」
と思った長吉は、豆腐屋の主人への挨拶もそこそこに、一目散に家に帰ると、家の前に立つ大きな杉の木の根元を鍬で掘り返しました。
すると、そこには話の通り大判小判が詰まった大きな甕が三つも出てきました。
夢のお告げは本当のことでした。
夢に現れた仙人のお告げを正直に信じた長吉は、大金を手に入れて村一番の長者となり、福徳長者と呼ばれ、一生安楽に暮らしたという、夢のようなお話でした。
解説
民俗学者の柳田國男が、昭和14年(1939年)に発表した『昔話覚書』の中で「味噌買橋」が紹介され、それ以後、日本国内に『みそ買い橋』が知られることになります。
その中で柳田は、「ロンドン橋の話とまったく同じ話」と言いながらも、「日欧共通の典型的な話」と記し、「問題は、誰がいかなる方法で運んで、この地球の両端ともいってよい二つの国に、共通の昔話を分布せしめたかということである」と述べています。
柳田のこの発言により、『みそ買い橋』は注目されることになります。
しかし、それもそのはず、『みそ買い橋』にまつわる昔話は、“イギリスのグリム”と呼ばれるジョセフ・ジェイコブスが1894年に発表した名著『イギリス民話集 続編』の中に収められている「スウォファムの行商人」を翻案したものだからです。
大正15年(1926年)に出版された『世界童話大系 第七巻』に収められている、松村武雄訳の「スウォファムの行商人」を参考にして、高山市立西小学校教諭で郷土教育を熱心に行っていた小林幹が、児童に話すために地元の橋をめぐるお話に書き換えたからです。
つまり、あまりにも日本らしい民話になっていたので、あの柳田國男先生でさえ、それに気づかないで、まんまと騙されたということです。
感想
長吉と豆腐屋の主人を分けたものは何でしょうか。
どちらにも相応のチャンスがあり、長吉はチャンスをしっかり掴みました。その一方で、豆腐屋の主人は、チャンスと認識すらできず、チャンスを逃したことにも気づいていません。
それは、せっかく見た夢に対して、最善の行動が伴ったかどうかということなのでしょう。
僅かな差なのかもしれませんが、行動するかどうかによって、結果には大きな差が生まれてしまったということです。
では、チャンスを掴むためには、どのような行動を執ることが重要なのでしょうか。
レオナルド・ダ・ヴィンチの言葉に、
「幸運の女神には、前髪しかない」
というものがあります。
これは、「チャンスの女神には前髪しかないので、向かってきた時に掴まなければ、チャンスが通り過ぎた時に慌てて掴もうとしても、後ろ髪がないため掴むことが出来ない」という意味です。
ところが、チャンスというものは、目の前に現れた時、チャンスの形をしていないことがほとんどです。それどころか、チャンスは女神として現れるのではなく、悪魔の仮面をかぶってピンチとしてやってきます。
つまり、辛いこと、苦しいこと、人が嫌がることなど、リスクを伴うことから目をそらしていると、チャンスを見つけることができないということです。
そして、チャンスとは、ピンチが変わるものでなく、自分で造り出すか否かに尽きるということです。
だからこそ、毎日を大事に生きることが大切であり、それがチャンスなのかもしれません。
まんが日本昔ばなし
『みそ買い橋』
放送日: 昭和51年(1976年)10月23日
放送回: 第0091話(第0055回放送 Bパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 漉田実
文芸: 漉田実
美術: 下道一範
作画: 上口照人
典型: 致富譚・夢譚
地域: 中部地方(岐阜県)
最後に
今回は、『みそ買い橋』のあらすじと内容解説、感想などをご紹介しました。
『みそ買い橋』は、「富を得たい」という欲深い気持ちより、「素直に信じて辛抱する」という忍耐強く努力を惜しまないで生きていくことの大切さを教えています。ぜひ触れてみてください!