『船幽霊』は、海で漁をしていると、水難で亡くなった人の霊が、生きている者を仲間に引き入れようと、「柄杓をよこせ」と声が聞こえてくることがあります。要求通り柄杓を渡してしまうと、その柄杓を使って海水をどんどん船内に汲み入れ、船を沈没させるという怖い妖怪です。
今回は、『船幽霊』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『船幽霊』は、磯や海上に出るといわれる妖怪で、水死した人の亡霊が幻想の船となり現れ、「柄杓を貸せ」と要求してくるので、柄杓の底をぬいて貸さないと、柄杓で海水を船に汲み入れて船を沈めるといわれています。
『船幽霊』に遭遇した際には、米や灰をまくと退散するといわれています。
江戸時代の怪談、随筆、近代の民俗資料などに多くみられ、『幽霊船』や『亡霊船』とも呼ばれる『船幽霊』は、人の姿で現れるもの、船そのものの形で現れるもの、怪火や怪音などの怪現象として現れるなど、類話が日本の沿岸地域で暮らす人々の間では広く伝えられています。
『船幽霊』は、明治時代の文豪であるラフカディオ・ハーンこと小泉八雲が、明治27年(1844年)に出版された『知られぬ日本の面影』の中の「日本海に沿うて」の章の挿入話として「船幽霊」を紹介したことにより、日本中で広く知られるようになりました。
あらすじ
むかしむかし、ある漁師町では、お盆の日に「迎え火」を焚いて亡くなった人の霊をお迎えする風習がありました。
また、お盆の日は、海で亡くなった人の霊が船幽霊となって船を沈めに来るので、決して漁に出てはいけないという言い伝えもありました。
ある年のお盆の夜のこと、威勢のいい漁師の親方が、村の長老たちが止めたのにもかかわらず、迎え火の後、船で漁に出掛けて行きました。
その晩は、風が静かで、空には星が輝き、まるで池みたいな凪でした。
そして、面白いように魚が取れました。
「『お盆に船を出してはいけない』なんて、誰が言い出したんだ!魚を獲るのに盆も正月もあるもんか!見ろ、今夜は大漁だ!」
と親方はご機嫌に言いました。
当初は恐る恐るだった漁師たちも、いつにない大漁に気が大きくなって、夢中で網を手繰りました。
そのうち、星が消え、あたりにどんよりとした空気が漂ってきました。
「おい、あれは、なんじゃ!」
と一人の漁師が沖の方を指差しました。
見ると、水平線の向こうから、朽ちかけた不気味な船が音もなく近づいてきました。不気味な船からは青白い火の玉がふわふわと舞い飛び、やがて、
「柄杓をくれえ~、柄杓をくれぇ~」
と、うめく様な声が聞こえてきました。
漁師たちは、背すじがゾクゾクしました。
そして、「柄杓を渡してはならんぞ」という村の長老たちの言葉を思い出しました。
「助けてくれー!船幽霊だ!」
と漁師たちが叫んだ時には、青白い火の玉の群れがふわふわと舞い飛び、そこから何百という白い手が出てきて、船をしっかりと掴んだため、漁師たちの船は動くことができなくなりました。
その時、浜では不思議な事が起こっていました。
浜で焚いていた迎え火が次々に消え、夜空で赤い炎となって沖へ飛んでいったのでした。
赤い炎の群れが、漁師たちの船のそばまでやってきて、
「海で命を落とした仲間じゃないか、悪さをせずに消えておくれ」
と青白い火の玉の群れに話しかけたのでした。
すると、青白い火の玉の群れは赤い炎の言葉を聞き入れたのか、ふわふわと船に戻り、ひとつずつ消えていきました。
不気味な船が立ち去ったのを見届けた赤い炎の群れも、浜へ引き返していきました。
このことは、漁師仲間に伝わり、それからというもの、お盆の日に漁に出る船はなくなったそうです。
解説
國學院大學の元教授で国文学者であり民俗学者の花部英雄によれば、『船幽霊』の出現は風雨や濃霧の晩、急に天候が悪化したときに多いとあります。
そうした状況下では、事故が発生しやすく、話に現実味が加わり、不気味さや不安感をかきたてるため、僅かな怪異も伝承の枠の中に組み入れ、幻影・幻想を現実として語ったりするとされます。
また、『船幽霊』の出現時期にお盆が多いのは、精霊船のイメージと重なるためとしています。
しかし、その根底には、祀られることのない水死した人の霊が浮遊していて、それが『船幽霊』として現れる死霊信仰があるとされます。
お盆や大晦日、あるいは特定の日などの禁漁日に、「海に出てはならない」とした、禁忌を犯した場合の戒めもあるとしています。
感想
「亀の甲より年の功」ということわざがあります。
それは、「年長者の豊富な経験は貴重であり、尊重すべきものである」といった意味です。
周囲の年長者からの小言めいた助言に、「うるさい」といった煩わしさを、誰しも感じたことがあるのではないでしょうか。
しかし、その小言、実は大変に有難いお言葉かもしれませんよ。
近年、“老人力”が注目されています。
深い経験に裏打ちされた老人力が発揮されることで、社会はより活性化するのではないかという考えです。
どんなに優れた人物でも、その知恵には限りがあります。
その限りある知恵で物事を判断し、処理をしていくと、往々にして独断に陥り、誤りを犯しやすくなります。
やはり、誤りなく物事を進めていくためには、伝統と昔ながらの知恵を持つ年長者の意見に耳を傾けることが大切です。
つまり、年長者から人生の教訓を正しく読み取るよう心がけ、そこから学んだことを忘れてはならないということです。
まんが日本昔ばなし
『船幽霊』
放送日: 昭和51年(1976年)08月14日
放送回: 第0075話(第0045回放送 Aパート)
語り: 常田富士男・(市原悦子)
出典: 表記なし
演出: 児玉喬夫
文芸: 沖島勲
美術: 青木稔
作画: スタジオアロー
典型: 怪異譚
地域: 中国地方(岡山県)
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『船幽霊』は「DVD-BOX第10集 第47巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『船幽霊』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
日本人と海の関係は密接で、文明の発達に船は欠かせないものでした。そして、予測できない事態がいつでも起こりうる海上では、時として不運に見舞われる船がありました。海上で命を落とした人、行方不明になってしまった人、多くの人間の魂を乗せた『幽霊船』は、今この時も漂流しているかもしれません。ぜひ触れてみてください!