小太郎が母龍の背に乗って岩を突き破り、松本・安曇野一帯の湖水を日本海に流し土地を切り開き、人の住める平野にしました。このとき、犀川と千曲川ができたといわれています。信濃国(現在の長野県)の誕生の物語が『小太郎と母龍』です。
今回は、『小太郎と母龍』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『小太郎と母龍』は、かなり古い時代から長野県に伝わる民話です。
長野県信州・上田地域に伝わる民話『小泉小太郎』と同じく長野県安曇野地域に伝わる民話『泉小太郎』は、内容こそ異なるものの関連が指摘されており、民俗学者の柳田國男は「元は一つであったのではないか」と指摘しています。その二つの民話を組み合わせたものが『小太郎と母龍』です。
昭和32年(1957年)に未來社より発行された瀬川拓男と松谷みよ子による『日本の民話1 信濃の民話』には、『小泉小太郎』と『泉小太郎』の民話を一つの物語にまとめた「小泉小太郎」が収録されています。
同様に、昭和48年(1973年)に角川書店より発行された瀬川拓男・松谷みよ子・辺見じゅんの『日本の民話4 民衆の英雄』にも「小泉小太郎と母龍」の題で収録されています。
他にも児童文学作家の松谷みよ子は、『小泉小太郎』と『泉小太郎』を中心に、秋田県の民話など日本各地に伝わる民話を組み合わせ再話した『龍の子太郎』を、昭和34年(1959年)に講談社より発行しています。
松谷みよ子さんの傑作童話『龍の子太郎』が、優しく無駄のない言葉で仕上げられた絵本となって、美しくよみがえりました。 東西の結び目に位置し、日本の屋根といわれる信州の自然のなかで伝承されてきた民話を詰め込んだ『日本の民話1 信濃の民話』は、自然と人間の戦いが生んだ祖先の英知・願望の結晶です。あらすじ
むかしむかしのとても古い時代、人々が信濃の国に住み始め、開拓に汗を流していました。
そこには、人々を束ねる若くてたくましい長がおりました。長のもとには夜な夜な一人の女が通っていました。女の素性が分からない長は、ある夜、別れ際に糸の付いた針を女の服の裾に刺しました。
翌日、長が糸をたどると、それは山の中の岩屋まで続いていました。そして、なんと女は龍の化身だったのです。正体を知られると、女はそれっきり長のところには現れず、やがて長も死んでしまいました。
ある日のこと、産川から流れてきた赤ん坊をお婆さんが拾い上げました。お婆さんは、赤ん坊に小太郎と名付け育てることにしました。小太郎が成長すると、お婆さんは病で亡くなってしまいます。
独りぼっちになってしまった小太郎は、お婆さんから「お前は千曲の湖に住む龍の子どもに違いない」と言われていたことを思い出しました。そこで小太郎は、母を探す旅に出ることにしました。
幾多の苦難を越え、小太郎は龍である母の住む千曲の湖に着きました。
小太郎が湖に向かって、
「おっかあ」
と叫ぶと、湖面に一人の女が現れました。 小太郎は母に、
「この湖を田んぼにして百姓の役に立ちたい」
と頼みました。
母は、この湖がないと生きてはいけませんが、小太郎の望みを叶えることを決心しました。
小太郎を背に乗せた母龍は、山を切り崩して水を流すため、岩肌に幾度も幾度も体当たりを続けました。小太郎は母龍の背にしがみつき、体当たりする母龍の目となって導きました。母龍も体中に無数の傷を負いながら、岩にぶつかっていきました。
そしてついに山に裂け目が拓かれ、そこから滝となって水があふれ出ました。その水はどんどん信濃の国を貫き通し、海へと流れ着きました。そのときにできた川が、千曲川へとそそぐ犀川なのです。
解説
長野県松本・安曇野一帯は四方を山々に囲まれた盆地なので、ここに湖であったとしても何ら不思議ではありません。
享保9年(1724年)に完成した信濃国(現在の長野県)内の地理・歴史を記述した『信府統記』には、「信濃国の松本・安曇野一帯は景行天皇12年まで湖であった」という記述があります。景行天皇といえば日本武尊の父なので、実在したとすれば4世紀前期から中期となります。
もし、その頃まで長野県松本・安曇野一帯に湖があったとするならば、『小太郎と母龍』は、古代日本を代表する海人族であり、最後は信濃国に定住したとされる安曇氏の開拓や開墾の歴史と読み取ることが出来ます。
長野県の地には、そんな血と汗が染み込んでいるのかもしれません。
感想
「情けは人のためならず」ということわざがありますが、『小太郎と母龍』は、まさにこの言葉通通りの仕組みを題材にしたお話です。
他人に優しくすると、その様子を見ていた他の人から優しくされ、最後は優しさが自分に返ってきます。しかし、「他人に優しく」と言うことは簡単ですが、その具体的な行動はいまいち想像できないという方も多いのではないでしょうか。
そこで鍵となるのが“共感力”です。
相手側のことを否定せず、じっくりと話を聞くことができれば、相手の気持ちを把握することができます。そうすれば、どう忠告したらいいのか、どう励ましたらいいのか、自分なりの考えを示すことができます。それが共感力を高める方法です。
優しくすることは、特別な何かを与えるということではありません。相手の気持ちを考え、少しだけ相手に寄り添うことを心がけるだけで、相手だけではなく、自分にも良いことがもたらされることでしょう。
まんが日本昔ばなし
『小太郎と母龍』
放送日: 昭和51年(1976年)04月03日
放送回: 第0046話(第0026回放送 Bパート)
語り: 常田富士男・(市原悦子)
出典: 表記なし
演出: 樋口雅一
文芸: 沖島勲
美術: 小関俊一(サキスタジオ)
作画: 高橋信也
典型: 異類婚姻譚・由来譚・龍蛇譚
地域: 中部地方(長野県)
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『小太郎と母龍』は「DVD-BOX第1集 第5巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『小太郎と母龍』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
「情けは人の為ならず」ということを題材にした物語と信濃国(現在の長野県)の誕生の物語です。ぜひ触れてみてください!