大人たちが田んぼに出てしまった村で、子どもたちが遊んでいると、突然ゴーっと風が吹き、とても大きな子どもがやってきました。大きな子どもは村の子どもたちを乗せ、天に舞い上がり、柿や栗のなる山へと連れて行きますが…。
今回は、『風の神とこども』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『風の神とこども』は新潟県小千谷市に伝わる民話です。
風の神様の子どもと村の子どもたちの交流を描いたお話で、昭和32年(1957年)に未來社より発行された水沢謙一の『越後の民話』と、昭和47年(1972年)12月号にフレーベル館より発行された『キンダーおはなしえほん』で紹介されたことで日本中に広く知られるようになりました。
他に風の神様の子どもと子どもたちの交流を描いたお話で連想するものは、宮沢賢治の『風の又三郎』があります。
また、昭和49年(1974年)12月にNHKの『みんなのうた』で放送された作詞:井出隆夫・作編曲:福田和禾子が手掛け堺正章と東京放送児童合唱団が歌唱を担当した童謡「北風小僧の寒太郎」があります。
この二つの作品にも少なくとも発想の上で『風の神とこども』の影響が見られます。
絵本『かぜのかみとこども (フレーベル館復刊絵本セレクション)』はフレーベル館から出版されています。山中恒さんによるスリリングで不思議な世界を描いた文が、瀬川康男さんの少しとぼけた独特のタッチの絵により、そんな不思議な世界が和やかな雰囲気となります。1972年初出作品の復刊なので、味わい深い絵本です。あらすじ
むかしむかし、ある村で、大人はみんな田んぼへ出かけて稲刈りをしていました。残った子どもたちが村の鎮守様のところで遊んでいると、突然風が吹き、とても大きな子どもがやってきました。
その大きな子どもは、
「柿や栗がたくさんなっている山へ連れて行ってあげる」
と村の子どもたちに言いました。
それを聞いた村の子どもたちは、大喜びで、
「連れて行って欲しい」
と頼むと、大きな子どもはゴーっと風を起こして空高く舞い上がり、どこかの山の中へ子どもたちを連れきました。
その山で子どもたちは柿や栗をお腹一杯になるまで食べて遊びました。
夕方になってあたりが薄暗くなってきた頃、突然大きな子どもが、
「用があるので自分たちで家に帰れ」
と言って姿を消してしまいました。
困った子どもたちが見知らぬ山をさまよい歩いていると、遠くでひかる灯りを見つけました。
灯りを目指して進むと、ある一軒家にたどり着きました。
そこには太った大きな風の神の親子が住んでおり、山へ連れてきたのは南風の子どもだと教えてくれました。
子どもたちは風の神の親子の家でご馳走になり、帰りは南風の子どもの弟である北風の神のしっぽに乗せてもらって村まで送ってもらいました。
村では夜になっても子どもたちが帰ってこないことを心配した大人たちが村中を探し回っているところだったので、無事に帰ってきた子どもたちにホッとしました。
解説
子どもが急にみえなくなることを「神隠し」といいます。
『風の神とこども』のお話のように、以前は農村などでよく起きた現象で、これを天狗、狐、鬼、隠し神などによって隠されたものだと信じられ、村中総出で鉦や太鼓を叩いて捜し歩いたそうです。
永遠に帰らない場合と、数日してひょっこり帰ってくることや山中などでぐったりしている姿を発見される場合があったそうです。
発見された子どもに話を聞いても“うろ覚え”のことが多いのが特徴で、これは異界との交流ではないかと思われてきました。
また、新潟県や岩手県では、風の神様を「風の三郎様」と呼んで祭礼を行う風習があり、風を自然現象ではなく霊的なものとする民間信仰がみられ、古来神社で祀られてきました。
神隠し伝説を風の神様の子どもと結びつけ、そのままに伝承された可能性が考えられます。
感想
子どもたちの遊びの描写を通して、現実世界と異郷との間で揺れる子ども特有の精神世界を鮮やかに描いています。そして、不思議な余韻に浸り、郷愁や憧憬の思いに駆られます。
さて、風の神様の子どもの気まぐれにより、村の子どもたちは異郷へ行くことになります。そして、風の神様の子どもに置き去りにされ、異郷から現実世界へ帰る手段を失った村の子どもたちは困惑します。
そこに現れるものが山の中で光を放つひとつの灯りです。
この“ひとつの灯り”という状況は、日本の昔話ではよく登場します。困難な状況を打開するための選択肢は、多くは用意されていません。だから「ひとつ」と表現されるのでしょう。そして「灯り」は希望を指す表現だと考えられます。
村の子どもたちが灯りの方へ向かうと、そこで出会うのもまた神様だったので、村の子どもたちは無事に現実世界へ帰ることができました。
このお話は、日本人の根底にある目に見えず確かめようがない神様を、「信じる・信じない」とするのではなく、「大事にする」という信仰心を語っているように思います。
まんが日本昔ばなし
『風の神とこども』
放送日: 昭和51年(1976年)03月06日
放送回: 第0039話(第0022回放送 Aパート)
語り: 常田富士男・(市原悦子)
出典: 表記なし
演出: まるふしろう
文芸: 沖島勲
美術: 稲場富恵(アートノア)
作画: スタジオアロー
典型: 異郷訪問譚
地域: 中部地方(新潟県)
最後に
今回は、『風の神とこども』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
子どもたちだけの不思議な世界を描いたお話が『風の神とこども』です。ぜひ触れてみてください!