お爺さんがお地蔵さまの格好をして畑に立っていると、猿が本物のお地蔵さまと思い込み、お供物をたくさんしてくれました。それを聞いた隣のお爺さんもお地蔵さまのふりをしますが、偽物だとバレてしまい、川に捨てられてしまいます。『猿地蔵』は、おなじみの昔話です。
今回は、『猿地蔵』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『猿地蔵』は、東北地方に位置する山形県に伝わる昔話です。
インドを起源とし、中国を経て日本にもたらされ、平安時代中期以降、地獄を恐れる風潮が強まったことにより、民衆の間に広まったとされる地蔵菩薩を信仰する「地蔵信仰」が根底にある民話です。
絵本『さるじぞうほいほい (子どもがはじめてであう民話 2)』はポプラ社より出版されています。テンポの良い大川悦生さんの文と梅田俊作さんのふわっとした絵が楽しく、最初から最後まで、笑いっぱなしの絵本です。残酷な場面がまったくない、王道の昔話です。あらすじ
むかしむかし、あるところに、乱暴者の猿たちに田や畑を荒らされて困っているお爺さんとお婆さんがいました。
お爺さんは、お地蔵さまの格好をして畑に立てば、猿たちも悪さをやめるのではないかと考え、お爺さんはお地蔵さんのふりをして畑に立ちました。
猿たちは、お爺さんを本物のお地蔵さまだと思い込み、山のお堂に祀ろうとお爺さんが化けたお地蔵さまを担いで運び始めました。
川を渡る時、
「猿のお尻は濡らしても、地蔵の尻は濡らすなよ」
と猿たちが陽気に歌うので、お爺さんはおかしくて笑い出しそうになりましたが、じっと我慢しました。
やがて猿たちはお爺さんのお地蔵さまをお堂に運び、お賽銭としてたくさんの小判を置いて拝むと、あっという間にどこかへ行ってしまいました。
お爺さんは、小判を持って家に帰り、今日あった出来事をお婆さんに話しました。
その話を聞いた隣の欲張りなお爺さんとお婆さんは、それを真似して自分たちも小判を手に入れようと考えました。
翌日、欲張りなお爺さんがお地蔵さまに化けて畑に立ちました。そこへまた猿たちが現れ、昨日と同じように欲張りなお爺さんのお地蔵さまを担いで運び始めました。
ところが、川を渡る時、
「猿のお尻は濡らしても、地蔵の尻は濡らすなよ」
と歌う猿たちの陽気な歌があまりにおかしく、お爺さんは我慢できずに、笑い出してしまいました。
お地蔵さまが人間だと分かった猿たちは、怒って欲張りなお爺さんを川へ放り投げてしまいました。
欲張りなお爺さんは泣きながら家に帰りました。
解説
地蔵は地獄に落ちて苦しみにあう死者を、地獄の入口で救済すると信じられることから、地獄の入口を村境にあてはめて、境の神の信仰と結びつきました。
また、地獄に落ちる者は、子孫をもたない無縁の霊であると考えられ、未婚のまま死んだ人とされる場合が多いことから、地蔵と子どもの霊が結びつき、地蔵を子どもの神様とする理解が強くなったと考えられています。
地蔵が稚児姿で現れたり田植えなどの農耕の手伝いをしてくれたりといった伝説や、子どもの病気や安産の守護神として広く信仰されるのは、このような考え方に基づきます。
境の神と同一のものと考えることから、他界との境に立つとか、地蔵という文字が“大地”を意味することから地下にいるというような理解もあるため、この『猿地蔵』のように、主要な役割を果すことになりました。
感想
『猿地蔵』は、おもしろい上に、良いお爺さんと欲張りなお爺さんの対比表現を学ぶことができることから、子どもの学習面は勿論のこと、日本人の道徳心を育むことができる昔話です。
他人と比べることや競争することは否定的にとらえられますが、むしろそれこそが人間の普遍的な心理ではないでしょうか。
だからこそ、何かを求め続ける生き方は人を幸せにしないということをこのお話は教えています。つまり、必要以上を求めない身の丈にあった生活を心がけることが大切だということです。
また、悪さをする猿たちがお爺さんが化けたお地蔵さんを一生懸命に拝む姿には、日本における地蔵信仰を垣間見ることができます。
まんが日本昔ばなし
『猿地蔵』
放送日: 昭和51年(1976年) 01月31日
放送回: 第0033話(第0017回放送 Bパート)
語り: 常田富士男・(市原悦子)
出典: 表記なし
演出: 樋口雅一
文芸: 沖島勲
美術: 阿部幸次
作画: 上口照人
典型: 地蔵信仰・隣の爺型・呪宝譚
地域: 東北地方(山形県)
『猿地蔵』は「DVD-BOX第7集 第31巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『猿地蔵』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
『猿地蔵』は、猿さえも信仰するという、日本における地蔵信仰を垣間見ることができる昔話です。ぜひ触れてみてください!