何度、失敗しても、決して諦めないで奮闘し、見事に成功を掴むという痛快な人生を描いた民話が『夢を買う』です。
今回は、『夢を買う』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『夢を買う』は東北地方に伝わる民話と言われますが、民話研究家の萩坂昇によると、中部地方に位置する新潟県が舞台の昔話として紹介されています。
原作は、鎌倉時代初期(建暦2年~承久3年(1212~1221年))に成立したと推定される『宇治拾遺物語』の百六十五話(巻第十三ノ五)「夢買人事」だと推測します。
かつてテレビで一大ブームを作った『まんが日本昔ばなし』が、二見書房より新装改訂版で登場。『夢を買う』のお話は『まんが日本昔ばなし 第10巻』の中に収録されています。 『いまに語りつぐ日本民話集 第1集 <8> (天から降ってくる宝物)』は、野村純一さんと松谷みよ子さんによる監修のもと、作品社から出版されています。動物に関する民話を幅広く網羅していて、挿絵が多く、文字も大きく読みやすいので、お子さんと一緒に読むにもぴったりの民話集です。あらすじ
むかしむかし、財産を失ってしまった商人と絵描きが、旅の途中、大きな木の下で出会いました。
商人が絵描きに身の上話をすると、絵描きはうたた寝をして不思議な夢をみました。
それは、山を越えた長者の住む屋敷の庭に、白い花が咲く椿の木があり、そこに一匹のアブが飛んでいました。その椿の木の根を掘ると、そこから小判がたくさん入った甕がでてきたという夢でした。
商人は絵描きにその夢を買うと伝え、お金を渡しました。
商人は、夢にあった通りの椿の木がたくさんある屋敷にたどり着きました。しかし、花は咲いていません。そこで、商人はその屋敷に住み込みで働くことにしました。
春になり、椿の花が咲きましたが、咲いた花はすべて赤い花でした。仕方がないので、商人は次の年まで待つことにしました。
それから一年が経ち、再び春になると、赤い花の中に一本だけ白い花の椿の木があり、一匹のアブが飛んでいました。その根元を掘ると、夢にあった通り小判の入った甕がでてきました。
商人は、その小判を屋敷の主人と半分ずつ分け、それを元手に商売を始め大成功して大金持ちになりました。
解説
日本に現存する最古の書物『古事記』や奈良時代に成立した日本の歴史書『日本書紀』には、天つ神の御子である神倭伊波礼毘古命(後の神武天皇)が、神武東征中に夢のお告げで神剣を得るお話がありますが、夢のやり取りという考えが社会一般に広く浸透するのは鎌倉~室町時代です。
例えば、『夢を買う』の原作とされる「夢買人事」が載る『宇治拾遺物語』には、他にも夢に関するお話があります。
四話(巻第一ノ四)の「伴大納言の事」は、伴大納言が夢の内容を妻に語り不運に見舞われるという内容のお話です。
鎌倉時代初期に起きた曾我兄弟の仇討ちを題材にした軍記物語である『曽我物語』にも、鎌倉幕府を開いた源頼朝の妻である北条政子が、「夢を買う」という記述があります。
古代の日本では、夢もまた一種の実体として捉えられていたため、そこから夢を売買するという考えが生まれたのでしょう。
感想
夢をみた絵描きの夢は、正夢だったのでしょうか。財産を失った商人は、その夢を買って、自分の正夢にしたということなのでしょう。
『宇治拾遺物語』の百六十五話(巻第十三ノ五)「夢買人事」の最後には、「夢を人に聞かすな」とあります。つまり、大事な夢を他人に語ってしまう絵描きの軽率さと、この夢を大事だと悟り、すぐさま夢を買い取る商人の機転、とっさの判断の正確さとの対比が面白さでもあり、教訓として伝えたいことなのでしょう。
夢を買うということは、いかにも恐ろしい行動です。夢を売った絵描きは、お金持ちになれないで終わってしまいました。夢を売らなかったら、お金持ちになれたであろうに。だから、「夢を人に聞かすな」と言い伝わっているのです。
まんが日本昔ばなし
『夢を買う』
放送日: 昭和50年(1975年)02月18日
放送回: 第0013話(第0007回放送 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: まるふしろう
脚本: 鈴木良武
美術: 阿部幸次
作画: 上口照人
典型: 致富譚
地域: 東北地方/中部地方(新潟県)
『夢を買う』は未DVD化のため「VHS-BOX第1集 第1巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『夢を買う』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
平安~鎌倉時代、夢のお告げは「夢想告」と呼ばれ、古代の日本人の通念として、夢は“現世と異界を結ぶ神秘の領域”でした。呪術や陰陽道も人々の生活に深く関わっていました。それを楽しむことができる昔話が『夢を買う』です。ぜひ触れてみてください!