ちょっとした悪戯心で、子だぬきを驚かしてやろうと行動した山伏が、最後はしっぺ返しを食らうお話が『山伏と子だぬき』です。
今回は、『山伏と子だぬき』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『山伏と子だぬき』は、東北地方に属する秋田県や、九州地方に属する長崎県に伝わるお話です。
日本では、近年まで、普段の生活の中でタヌキやキツネに化かされたお話が、まことしやかに語られてきました。
その表れが、山などの自然の中で、人間の知恵では解明できない出来事が起こると、それをタヌキやキツネに化かされたことにして納得してきました。
タヌキやキツネは、家畜ではなく野生動物なので、かつてはそれだけ身近な動物だったということなのでしょう。
あらすじ
むかしむかし、あるところを、怖い顔をした大男の山伏が、ホラ貝を背負い、一本歯の高下駄を履き、偉そうに肩を揺さぶりながら、一人で歩いておりました。
まだ時刻は昼をちょっと過ぎたばかりで、お天道様は、カンカンと高いところで照っておりました
すると道端の木の根に、一匹の小さな子狸が、気持ちよさそうに昼寝をしておりました。
それを見つけた山伏は、
「いっちょ驚かしてやろう」
と思い、一本歯の高下駄のまま、
抜き足差し足忍び足
子狸のそばに近よると、その耳のわきへホラ貝をもっていって、とてつもない大きな音で、
ボワボワボワーン
とばかり、吹き鳴らしました。
子狸は、びっくり仰天して、一間ばかりも飛び上がって、一散走りに駆け出したが、だいぶ行ってからちょっと立ち止まって、
「ちくしょう、覚えとけよ」
というような顔で、ちょろっとこっちを見て、それから、振り向き振り向き、逃げて行きました。
山伏は、子狸のその後ろ姿が可笑しくて可笑しくて堪らなかったので、天までとどきそうな大きな声を出して、笑っても笑っても、なかなか笑いが止まらないほどでした。
それから山伏は、その辺りを二、三軒まわって、今度は次の村へ行こうと思って、一本歯の高下駄の音を、
ガラン ガラン
と響かせながら、偉そうに肩を揺さぶって、ゆっくりと歩いて行きました。
ところが、その日に限って恐ろしく時の経つのが早くて、それ次の村までの道のりが恐ろしく遠くて、まだあまり行かないうちに日がどんどんと暮れてきて、いつの間にかどっぷりと暮れてしまいました。
山伏は、
「今日はまた、どういうわけか日が暮れるのが早いな」
と独り言を言いながら、足を速めて、歩いて行きました。
しばらくすると、真っ暗な中を、向こうの方から白い着物を着た人たちの行列が近づいてきました。
それは、よく見ると葬式の行列でした。
山伏は、
「うわ、あれは葬式だ。これは気味が悪い。こんな時に、困ったものに遭遇してしまった」
と思いましたが、一本道であったため、他の方へ逃げることができませんでした。
仕方がないので、山伏は、回れ右をして、いま歩いてきた方へ、引き返し始めました。
ところが、その葬式の行列は、恐ろしく足が速くて、すぐ後ろに追いついてきそうになりました。
山伏は怖いものだから、並行して、一本歯の高下駄を履いたまま、だんだん大股に歩き出して、だんだん足を早く動かし出して、しまいにとうとう駆け出したが、白い着物の行列は、やっぱりぴったりと後ろにくっついてきました。
それでもう、一生懸命、山伏は、息が切れそうに走って行くと、幸い大きな松の木が一本、道の真ん中に立っていたので、やっとそこへ駆けつけて、大慌てでその木の最初の枝までよじ登りました。
そして、白い着物の行列が通り過ぎたら、木から下りようと思って、山伏が木から見おろしていたら、驚いたことに、白い着物の行列は、その松の木の根のところにお棺を下して、お坊さんたちが、
ボジャボジャ
ボジャボジャ
とお経を読み始めました。
「あらあら、これは困ったことになった」
と思いながら、山伏が木の上から眺めていると、やがてお経が済んで、今度は松の木の根のところを皆が掘り始めました。
そうしておいて、その穴の中へお棺を埋めて、それからやがて、一人帰り、二人帰りして、そのうちに誰もそこにはいなくなりました。
誰も人がいなくなったので、
「さあ、帰るとするか」
と山伏は思いましたが、松の木の根のところにお棺が埋めてあると思うと、どうも怖くて木から下りて行けませんでした。
そうかといって、木の上で夜を明かすわけにもいかず、
「さて、どうしたものか」
と真っ暗な中で、松の木の枝にまたがり、ホラ貝を背負ったまま、山伏は考え込んでいました。
そのうちに、辺りは、ますますしんしんと、静かになって来ました。
やがて、山伏が、なんの気もなく、ひょっと木の根の方を見おろすと、今、お棺を埋めたばかりのところから、白い着物を着た者が、ふらりふらりと這い出してきて、山伏がいる方へ向かって、そろりそろりと木を這い登って来るように見えました
「うわ、これは困ったぞ。一体どうなっているんだ」
と山伏は思いながら、枝の上からそれを見ていました。
すると、白い着物を着た者は、だんだんそろりそろり木を這い登って来て、山伏がまたがっている枝の下まで来て、山伏の足に、白い着物を着た者の手が触りそうになったので、
「やめてくれ」
とわめいて、山伏は上の枝へ登って行きました。
すると、白い着物を着た者は、またそろりそろりと、その枝の下まで、這い登って来て手を差し出しました。
それで、山伏は、また上の枝へ登って、また上の枝へ登って、しまいにとうとう山伏は、その松の木のてっぺんまで登ってしまいましたが、それでもやっぱり白い着物を着た者は、そろりそろりと這い登って来て、手を差し出して、山伏の足に触ろうとしました。
山伏は、夢中になって細い枝の先まで逃げたところで、枝が折れ、山伏は転落してしまいました。
「痛たたた...」
と叫びながら山伏が倒れていると、空は元通りの明るさになり、お天道様が照りつけていることに気がつきました。
「一体、わしは何をしていたんだ」
と山伏は言いながら、打ち付けた腰をなで、足を引きずり、歩き始めました。
おおかた、気持ちよく昼寝をしていた子狸に悪戯をしたから、山伏はおっかない目にあったんじゃろう。
解説
古来より日本では、タヌキは“人を騙す生き物”として認識されてきました。
奈良時代(推古天皇35年)に編まれた『日本書紀』にも「推古三十五年の春二月に、陸奥国に狢有りて、人に化りて歌ふ」という記述があります。
「人に化り」というのは、タヌキの特殊能力の中で最も知られている“姿を変える魔術”です。
昔話の中にも、美しい女性などの人間に化けて、人間を騙す逸話が数多く残されています。
その他にも、木の葉や小石を小判に変えたり、糞を食べ物に見せかけたりして、人間を騙すのもタヌキの常套手段です。
ちなみに、タヌキが魔術を使って人間に化ける際には、木の葉を頭の上に乗せるといわれています。
それから、日本に於いては、化ける動物の代表格として、タヌキと並び称されているものの中にキツネがあります。
ことわざに「狐七化け、狸は八化け」とあることから、キツネよりもタヌキの方が人間を化かす腕が一段上といわれています。
何をもって基準としているのかは定かではありませんが、キツネは人を誘惑するために化けるのに対し、タヌキは人をバカにするために化けるのであって、化けること自体が好きだからという説が有力とされます。
『日本書紀』は、養老4年(720年)に成立した日本初の正史です。第四十代の天武天皇の第六皇子である舎人親王が、第四十四代の元正天皇の命によって編纂しました。全三十巻から成り、巻第一と巻第二は神代、他は初代の神武天皇から第四十一代の持統天皇までの国史を収めています。
こちらの『日本書紀 (一)』には、「巻第一:神代上」から「巻第五:第十代の崇神天皇」までが収録されています。
原文は漢文であるため、こちらのシリーズ全五巻では、漢文を日本語として意味がわかるように書き改めた読み下し文が右の頁にあり、その註釈が左の頁にあるという形式なので、楽に読み進めることができます。また、補注が豊富で、原文と資料も掲載されています。ここまで網羅している文庫本は他にはないでしょう。いつ読んでも新しい発見が尽きないため、常にそばに置いておきたい一冊です。
感想
寝ている時間って、誰にも邪魔されたくないですよね。
特に、昼寝を嫌いだという人はいないのではないでしょうか。
子どもは、昼寝の時間に無理に起こしたりすると、手がつけられないくらいわめき散らして、寝るまで泣いたりすることがあります。
子どもにとって、眠いっていうことは、きっと大人のそれよりもとてつもなく不快なことなんでしょう。
まんが日本昔ばなし
『山伏と子だぬき』
放送日: 昭和52年(1977年)03月12日
放送回: 第0123話(0075 Bパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 『松谷みよ子むかしむかし 第一巻 (日本のむかし話 1)』 松谷みよ子 (講談社)
演出: 殿河内勝
文芸: 沖島勲
美術: 竹内靖明
作画: 殿河内勝
典型: 因果応報譚・狸譚
地域: ある所
最後に
今回は、『山伏と子だぬき』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
「昼寝」は心と体を元気にするといわれています。その昼寝をしている子だぬきを邪魔したことで、山伏が痛い目にあうお話が『山伏と子だぬき』です。ぜひ触れてみてください!