いたずらばかりするタヌキに、怒った木こりが罠を仕掛けたところ、その罠に掛かってしまったタヌキ。ところが、木こりのお嫁さんに助けてもらいます。命を助けられたタヌキが、恩返しにお嫁さんに代わって糸車を回して糸を紡ぎます。タヌキとお嫁さんの交流を描いた、心温まる優しいお話が『たぬきの糸車』です。
今回は、『たぬきの糸車』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『たぬきの糸車』は、中部地方に位置する静岡県の伊豆市吉奈地域が舞台のお話です。
伊豆市吉奈地域は、伊豆半島のちょうど中心あたりで、日本百名山として知られ、豊かな自然が残る天城山の北麓で、「奥天城」と呼ばれる地です。
奈良時代中期の神亀元年(724年)に、高僧の行基が建立した善明寺とともに吉奈地域は栄え、その行基が発見したと伝わり、霊泉・子宝の湯として名を馳せる「吉奈温泉」として長い歴史があります。
絵本『たぬきのいとぐるま (一年生のおはなし 12)』は、ひかりのくにから出版されています。一年生の国語の教科書で習う名作昔話を、一年生で習う漢字を使って綴られた絵本です。お子さんが糸車を見たことがないとしても、「キークルクル キーカラカラ」という糸車の回る音が印象的に描写されているので、想像力を膨らませることができます。巻末には一年生が習う漢字が掲載されています。 絵本『たぬきのいとぐるま (ひかりのくに傑作絵本集集)』は、ひかりのくにから出版されています。松岡節さんは擬音語・擬態語を上手に使い、ズミカルに糸を紡いでいく様子を美しく描いています。そして、狩野富貴子さんによる絵は、温かなタッチで、登場人物の表情やしぐさ、背景の細かさなどが素晴らしいです。比較的大人向けの文章なので、教科書に載っていたお話を読み返したいと考えている大人の方には最適な一冊です。 絵本『たぬきのいとぐるま (元気いっぱい!日本の昔話)』は、チャイルド本社から出版されています。光村図書出版の小学校国語一年(下)とは違った内容です。国語の教科書とは少し違う内容となっていますが、これはこれで温かく素朴な感じがして、とても可愛らしい世界観を楽しむことができます。 『伊豆の民話 ([新版]日本の民話 4)』は、未來社から出版されています。太平洋の海の中に、ずんと片腕を伸ばしたような伊豆半島。そこには、「たぬきの糸車」のような豊かな自然に恵まれた生活条件の中に、明るくおおらかな風格をもつ民話が伝わります。人間本然の哀愁の中に、のんびりとした明るさがある伊豆の民話が55篇収録されています。あらすじ
むかしむかし、ある山奥に、木こりの夫婦が住んでいました。山奥の一軒家なので、毎晩のようにタヌキがやってきて、いたずらをしました。そこで、木こりは罠を仕掛けました。
ある月の綺麗な晩のこと、おかみさんは、糸車を回して、糸を紡いでいました。
キーカラカラ キーカラカラ
キークルクル キークルクル
ふと気がつくと、破れ障子の穴から、二つのクリクリした目玉が、こちらを覗いていました。
糸車が「キークルクル」と回るにつれて、二つの目玉も、クルリクルリと回りました。そして、月で明るい障子に、糸車を回す真似をするタヌキの影が映りました。
おかみさんは思わずふき出しそうになりましたが、黙って糸車を回していました。
それからというもの、タヌキは、毎晩毎晩やってきて、糸車を回す真似を繰り返しました。
「いたずらもんだが、かわいいな」
ある晩、小屋の裏で、「キャーッ」という叫び声がしました。
おかみさんがこわごわ行ってみると、いつものタヌキが罠に掛かっていました。
「かわいそうに。罠になんか掛かるんじゃないよ。タヌキ汁にされてしまうで」
おかみさんは、そういって、タヌキを逃がしてやりました。
やがて、山の木の葉が落ちて、冬がやってきました。雪が降り始めると、木こりの夫婦は、村へ下りていきました。
春になって、また、木こりの夫婦は、山奥の小屋に戻ってきました。
戸を開けた時、おかみさんは「あっ!」と驚きました。
板の間に、白い糸の束が、山のように積んであったのです。その上、埃だらけのはずの糸車には、巻きかけた糸まで掛かっています。
「はあて、不思議な。どうしたこっちゃ」
おかみさんは、そう思いながら、土間でご飯を炊き始めました。
すると、
キーカラカラ キーカラカラ
キークルクル キークルクル
と、糸車の回る音が、聞こえてきました。
びっくりして振り向くと、板戸の影から茶色の尻尾がちらりと見えました。
そっと覗くと、いつかのタヌキが、上手な手つきで、糸を紡いでいるのでした。
タヌキは紡ぎ終わると、今度は、いつもおかみさんがしていた通りに、束ねて脇に積み重ねました。
タヌキは、ふいに、おかみさんが覗いているのに気がつきました。
タヌキはピョコンと外に飛び下りました。そして、嬉しくてたまらないというように、ピョンピョコ踊りながら帰っていきましたとさ。
解説
『たぬきの糸車』は、光村図書出版の小学校国語一年(下)に採用されたことにより、日本全国に広く知られるようになりました。
あまりにも有名なお話ですが、「なぜ小学校の教材に採用されたのか」を考えることで、もしかしたらいくつかの異なった視点から物語を捉えることができるかもしれません。
そこで、今回は小学校に入学した“児童”になったつもりで、教材としての『たぬきの糸車』を読み解いてみたいと思います。
『たぬきの糸車』は、「むかしむかし、ある山奥に、」という語り口で始まります。
この語り口は、児童にとってはなじみ深い民話特有のものでしょう。そして、物語の世界に引き込まれる扉でもあります。
「むかしむかし」とは、いつ頃のことなのでしょうか。
「ある山奥に」とは、どんな所なのでしょうか。
それを限定していないので、読み手の児童が自由に想像することができます。
そして、児童一人ひとりが、それぞれの想像力を膨らませながら読み進めるうちに、いつの間にかそれが共通の感動を生み、みんなで読み合うことの楽しさにつながることでしょう。
また、物語の中には、児童になじみのうすい語句が出てきます。
それらの疑問はどんどん出させて、解説する必要があります。
「糸車」に「障子」、「板の間」や「土間」などについては、写真を使って説明していくと盛り上がること間違いなしです。
さらに、『たぬきの糸車』という題名でありながら、この物語にはタヌキの会話文が一つもありません。
そこで、その文章の特徴を利用して、自由に想像を膨らませることができるように、タヌキになり切りましょう。
物語のあらすじを押さえたうえで、場面ごとのタヌキの心の移り変わりを想像すると、自然にタヌキと木こりのお嫁さんの掛け合いが生まれてくることでしょう。
それらを踏まえたうえで、読み取ったことをもとに、物語の流れを考えながら、児童が自分の想像を文章や絵で表していくと楽しいのではないでしょうか。
そうすることで、自分の考えを表現することが、児童にとって豊かに表現できる力を身につけることにつながると思います。
つまり、『たぬきの糸車』は、児童が自ら考えようとする意欲を高め、表現する場や機会を意図的に多く取り入れることにより、児童一人ひとりに、豊かな表現力が身に付くことが期待できる教材のようです。
感想
『たぬきの糸車』は、タヌキと木こりのお嫁さんとの「ほのぼのとした心の交流」が描かれています。
いたずらで可愛い仕草のタヌキと優しいお嫁さんの表情が豊かに感じられます。
また、物語の展開が明快で、登場人物が魅力的でもあり、行動描写を中心として情景が描かれていることなどから、豊かな想像力を働かせることができます。
想像力を働かせながら読み取りや読み聞かせを行うことで、読み手と聞き手がお互いの考えを話したり聞いたりする活動へとつなぐことができる物語でもあります。
お嫁さんとタヌキの心の交流に共感し、多様な意見や考え、想像したことを伝え合う中で、お子さんにとっては自分の考えを深めることができるでしょう。
場面の様子や登場人物の心情を想像しながら読む力をつけるために、お嫁さんやタヌキの言葉を考え、ワークシートを活用したり紙芝居を作ったりすることで、「物語にはない言葉」が生み出されることが期待できます。
まんが日本昔ばなし
『たぬきの糸車』
放送日: 昭和51年(1976年)10月02日
放送回: 第0086話(第0052回放送 Bパート)
語り: 不明
出典: 表記なし
演出: 藤本四郎
文芸: 沖島勲
美術: サキスタジオ
作画: 高橋信也
典型: 動物報恩譚・狸譚
地域: 中部地方(静岡県)
Amazonプライム・ビデオで、『まんが日本昔ばなし』へ、ひとっ飛び。
最後に
今回は、『たぬきの糸車』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
いたずらで可愛い仕草のタヌキと優しいおかみさんの表情が豊かに感じられる物語が『たぬきの糸車』です。ぜひ触れてみてください!