昔話『山伏石』のあらすじ・内容解説・感想|おすすめ絵本
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 『山伏やまぶしいし』は、とおりかかるひといしえてしまい、たきにひそむぬしおそれられている妖怪ようかいと、その妖怪ようかい退治たいじしようといどむ、わか山伏やまぶしとの壮絶そうぜつたたかいをえがいた物語ものがたりです。

 今回こんかいは、『山伏やまぶしいし』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいします!

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概要

 世界せかい遺産いさんまちとしてられる東北とうほく地方ちほう岩手県いわてけん南西部なんせいぶにある平泉町ひらいずみちょう平泉ひらいずみにある中尊寺ちゅうそんじから西にし半里はんり(やく2km)ほど移動いどうしたところに戸河内へかないがわというかわながれます。その戸河内へかないがわ流域りゅういき舞台ぶたいとしたおはなしが『山伏やまぶしいし』です。

 戸河内川へかないがわには、「だき(ことだき)」と「だき(琵琶ノびわのたき)」とばれるふたつのたきがあります。

 このふたつのたきは、それぞれに妖怪ようかいがひそむとつたわり、とおりかかるひといしえてしまうなど、おおくの伝説でんせつのこります。

 そのなかでもとく有名ゆうめいなおはなしが、「だき(ことだき)」と「だき(琵琶ノびわのたき)」に別々べつべつらしていた妖怪ようかい夫婦ふうふわか山伏やまぶしとの壮絶そうぜつたたかいをえがいた『山伏石やまぶしいし』です。

 かつてテレビで一大いちだいブームをつくった『まんが日本にっぽんむかしばなし』が、二見ふたみ書房しょぼうより二見ふたみサラ文庫ぶんことして刊行かんこう。『山伏やまぶしいし』のおはなしは『まんが日本にっぽんむかしばなし だい16かん』のなか収録しゅうろくされています。

 オンデマンドばん岩手県いわてけん民話みんわ (県別けんべつふるさとの民話みんわ)』は、偕成社かいせいしゃより出版しゅっぱんされています。民俗みんぞく学者がくしゃ柳田やなぎた國男くにお先生せんせいが、岩手県いわてけん遠野とおの地方ちほう収集しゅうしゅうした説話せつわ民話みんわなどを収録しゅうろくした作品さくひんが『遠野物語とおのものがたり』です。その『遠野物語とおのものがたり』をんだ民話みんわ宝庫ほうこから、「山伏やまぶしいし」など素朴そぼくあたたかいざわりのえらびぬいたおはなしばかり36ぺん収録しゅうろくされています。

 『岩手いわて民話みんわ ([新版しんぱん]日本にっぽん民話みんわ 2)』は、未來社みらいしゃから出版しゅっぱんされています。『遠野物語とおのものがたり』に代表だいひょうされるように、日本にっぽんなかでも民話みんわゆたかにのこ地方ちほうとして、ふるくから関心かんしんをひいていたのが岩手県いわてけんです。きょうみやこ中心ちゅうしんとした中央ちゅうおう文化ぶんか伝搬でんぱんはばむ、きびしい地勢ちせいなかはぐくまれた「山伏やまぶしいし」などの独特どくとく民話みんわが39へん収録しゅうろくされています。

あらすじ

 むかしむかし、平泉の中尊寺から西へ半里ほど行ったところに、戸河内川という川が流れていました。

 ある日、一人の若い山伏が、戸河内川に沿って歩いていると、一人の美しい女に声をかけられました。

 「あの、先ほど川で足を洗っていましたら、草履を流してしまいました。申し訳ありませんが、私を一つ上にある淵の琴滝まで運んでいただけませんか」
と女は山伏に言いました。

 ところが、山伏はまだ修行中の身なので、
 「わしは仏に仕える身なので、女人に触れることは...」
と言い、頭を下げて丁寧にお断りしました。

 すると女は、
 「お坊さまは、困っている者を助けるのが役目ではないのか」
と言って山伏に必死に食い下がりました。

 そう言われればその通りなので、山伏は考えを改め、
 「では、どうぞ」
と言って、女を背負って歩き始めました。

 ところが、女を背負って歩き始めると、どういう訳か山伏の前に幻覚の世界が現れ、いろんなものが見えてきました。

 「これはまだ自分が未熟であるため、女人に近づいたことで法力が衰えたせいだ」
と思った山伏は、
 「のうまく さんまんだ」
と呪文を唱えながら歩くことにしました。

 こうして、山伏は、やっとの思いで一つ上の琴滝にたどり着きました。

 「ゼーハー、ゼーハー」
とヘトヘトで完全に息があがってしまった山伏を見て、
 「お坊さまは、見かけによらずお力が弱いんですね」
と言うと、女は山伏の背からおりました。

 「さて、行くとするか」
と言って立ち上がった瞬間、
 「あっ!」
と山伏は大きな声を上げてしまいました。

 それは、山伏の持っていた杖が女の袖に引っかかり、袖がまくれ、その袖の中の腕を見て、驚いてしまったからでした。

 「うろこ!?」
と山伏がつぶやくと、女の表情がみるみる豹変していきました。

 「見たね。ご覧の通り、あたしは水に住む者さ。琵琶ノ滝から、夫が住むこの琴滝に来るのだが、途中、邪魔物があって川の中を通ることができなくて。そこで、お前さんのような通行人を見つけては、運んでもらっているんだ。秘密を知ったからには、ただではおかないよ」
と言って、女は視線を向こうにやりました。

 女の視線の先を山伏が見ると、そこには人の形をした石がたくさん並んでいました。

 「まさか石に!?」
と言った山伏に、
 「これが秘密を喋った者たちの最期の姿だよ。決して、あたしのことは誰にも喋ってはいけないよ」
と女は言いました。

 石は、女の秘密を喋ってしまったため、妖怪の魔力によって石にされてしまった人たちでした。

 「ほーう、ほーう」
と女が淵に住む夫の妖怪に呼びかけました。

 すると、
 「ほーう」
と夫の妖怪も応じました。

 女は、怪しい笑みを浮かべながら山伏を見ると、怪魚に姿を変えて、淵に飛び込みました。

 のうまく さんまんだ

 山伏は、淵に向かって呪文を唱え続けました。

 こうして、淵に住む恐ろしい妖怪に出会った山伏は、この日、一夜の宿を求めて近くの村に立ち寄りました。

 その夜、ある家に泊まることになった山伏は、その家の主人に、
 「今、わしは二つの滝のことを考えている」
と語りかけました。

 山伏が考えていることを察した主人は、辺りを見渡しながら、一本立てた人差し指を唇に当て、
 「しーっ」
と言いました。

 「ご主人、やはり知っておるのか。明日の朝、村の衆を琴滝に集めて欲しい」
と山伏は家の主人に伝えました。

 次の日、琴滝に集まった村人に対して、
 「村の衆、この淵には妖怪が棲んでいる。わしは今から、その妖怪を退治する。皆もわしと一緒になって、仏を念じて欲しい」
と言うと、山伏は淵に向かって呪文を唱え始めました。

 のうまく さんまんだ

 村人も山伏と一緒になって呪文を唱えました。

 のうまく さんまんだ
 ばざらだん せんだ
 まかろしゃだ
 そわたや うんたらた
 かんまん

 山伏の唱える呪文が、だんだんと激しさを増していくと、淵の水が渦を巻き始め、水柱が立ち、そこから不気味な赤い目をした妖怪が姿を現しました。

 妖怪は稲妻を呼び起こしました。

 山伏も負けじと呪文を唱え続けました。

 山伏と妖怪の戦いは、凄まじいものとなりました。

 「のーまく さんまんだー!えーいっ!」
と山伏が術をかけると、水柱が裂けて、
 「ギャーーーッ!」
と妖怪が悲鳴をあげました。

 そして、妖怪は琴滝の淵に落ちていきました。

 こうして、琴滝の妖怪は退治されて石になりました。

 ところが、山伏の下半身も、妖怪の魔力によって、石になってしまったのでした。

 それでもなお、山伏は呪文を唱え続けました。

 のうまく さんまんだ

 山伏が淵を覗き込むと、二つあるべき夫婦岩が、一つしかないことに気がつきました。

 これでは、もう一方の妖怪から、村人が復讐されてしまいます。

 「しまった!」
と叫んだ山伏は、
 「早く、わしを琵琶ノ滝まで運んでくれ」
と村人に言いました。

 下半身が石となり動けなくなった山伏は、村人たちに担がれ、ようやく琵琶ノ滝までやって来ました。

 やはり女の妖怪は、昨夜の内に琵琶ノ滝に帰ってきていたのでした。

 夫の異変に気づいていた女の妖怪は、既に荒れ狂った状態で、天に向かって、激しく水柱が立ち上がりました。

 山伏は、琵琶ノ滝の淵に向かって、呪文を唱えました。

 「のーまく さんまんだー!えーいっ!」
と山伏が術をかけると、
 「ギャーーーッ!」
と女の妖怪は悲鳴をあげ、それと同時に水柱が裂け、女の妖怪は水柱とともに、琵琶ノ滝の淵に落ちました。

 やがて、淵から水面に浮かび上がきた女の妖怪は、そのまま石になりました。

 山伏は、村人と力を合わせ、妖怪に打ち勝つことができました。

 しかし、法力を使い果たした山伏は、女の妖怪が最後に放った魔力によって、石になってしまいました。

 ようやく静けさを取り戻した淵には、今でも淵の底に、妖怪の石が二つ見られるといいます。

解説

 「石化せきか伝説でんせつ」とばれる“ひといしになる”おはなしは、日本にっぽん各地かくちひろ分布ぶんぷしています。

 それは、日本にっぽん神々かみがみは、とく神道しんどうでは「八百万やおよろずかみ」と表現ひょうげんされるように、古来こらいいし樹木じゅもくみずなどのあらゆる自然物しぜんぶつにはかみ宿やどり、人間にんげんおなじく霊魂れいこんはいっているとかんがえられてきた背景はいけいふか関係かんけいしています。

 そのなかでも石化せきか伝説でんせつは、だい洪水こうずいなどの自然しぜん災害さいがいきたことを、後世こうせいつたえる場合ばあいおおいとされます。

 それは、人間にんげん自然しぜんをコントロールしれず、安定あんてい生活せいかつおくなかでも、いし安定あんていしたちからあたえる存在そんざいしんじられていたからです。

 つまり、『山伏やまぶしいし』は、山伏やまぶしいしになったというよりも、いまでもたましいいしなかにあり、山伏やまぶし永遠えいえんつづけ、ふかえんきずなはけっして途切とぎれることはなく、これからさき永久 えいきゅう見守みまもってくださるということです。

感想

 インド独立どくりつ象徴しょうちょうであるマハトマ・ガンディーは、「肉体にくたいからの解放かいほうであり、そこに宿やどっていたたましいがなくなることはない」といています。

 さて、『山伏石やまぶしいし』は、「きるということ」と「ぬということ」をかんがえさせられるおはなしです。

 妖怪ようかいとの勝負しょうぶったものの、山伏やまぶしいしとなってしまいました。

 つまり、山伏やまぶしむかえたことで、ガンディーがうところの「たましい肉体にくたいから解放かいほうされた」ということです。

 しかし、そのことでのこされた村人むらびとたちは、妖怪ようかいがいなくなり、のこりのいのちきることができるようになりました。

 そして、おおくの村人むらびとたちのこころには、山伏やまぶしのことがきざまれました。

 これこそが、ガンディーがうところの「たましいがなくなることはない」ということです。

 村人むらびとたちのこころなかで、山伏やまぶし永遠えいえんつづけるのです。

 ときえ、村人むらびとたちによって民話みんわめられた記憶きおくわたしたちは、そのおもいをり、ただただ山伏やまぶしのためにいのつづけるだけです。

 それと同時どうじに、山伏やまぶしたましい永遠えいえんとなるよう、つぎ世代せだい伝承でんしょうしていくことが役目やくめです。

まんが日本昔ばなし

山伏石やまぶしいし
放送日: 昭和52年(1977年)02月12日
放送回: 第0117話(0071 Bパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 亜細亜堂
文芸: 沖島勲
美術: 亜細亜堂
作画: 亜細亜堂
典型: 幽霊妖怪譚ゆうれいようかいたん
地域: 東北地方(岩手県)

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最後に

 今回こんかいは、『山伏やまぶしいし』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいしました。

 人間にんげんは、くなったとしてもたましい永遠えいえんであり、肉体にくたいほろびてもたましい永遠えいえんつづけます。たましいのゆくえをいたおはなしが『山伏やまぶしいし』です。脈々みゃくみゃくがれてきた山伏やまぶしたましいに、ぜひれてみてください!

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