昔話『天狗のこま』のあらすじ・内容解説・感想|おすすめ絵本
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 「天狗てんぐになれ」とおどされ、やまなかにさらわれた小僧こぞう一兆いっちょうさんは、「わしがけたら、天狗てんぐになってもええ」とって、天狗てんぐたちに得意とくいのコマまわしで勝負しょうぶいどみます。静岡県しずおかけん伊豆いず地方ちほうつたわる天狗てんぐ伝説でんせつえがいたおはなしが、『天狗てんぐのこま』です。

 今回こんかいは、『天狗てんぐのこま』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいします!

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概要

 静岡県しずおかけん東部とうぶ位置いちする伊豆いず半島はんとうには、天狗てんぐてくる昔話むかしばなし数多かずおおのこされています。『天狗てんぐのこま』もそのうちのひとつです。

 おはなし舞台ぶたいである静岡県しずおかけん伊豆いず国市くにし奈古屋なごや(きゅう静岡県しずおかけん田方郡たがたぐん韮山町にらやまちょう奈古屋なごや)にある国清寺こくせいじには、天狗てんぐにまつわる伝説でんせつみっつつもつたえられていて、そのなかでも『天狗てんぐにさらわれた一兆いっちょうさん』としてられる『天狗てんぐのこま』は、とく有名ゆうめいなおはなしです。

 ちなみに、主人公しゅじんこうである小僧こぞう一兆いっちょうさんは実在じつざい人物じんぶつで、のち国清寺こくせいじ隣接りんせつする高岩院こうがんいん住職じゅうしょくとなりました。

 絵本えほんてんぐのこま (特製版とくせいばん)』は、福音館ふくいんかん書店しょてんから出版しゅっぱんされています。きしなみさんのドキドキするようなぶんと、山中春雄やまなかはるおさんのいきをのむようなにより、物語ものがたり世界せかい一気いっきまれます。色合いろあいが不思議ふしぎ雰囲気ふんいきで、最近さいきん絵本えほんにはないお洒落しゃれ一冊いっさつです。

 絵本えほんこどものとも 復刻版ふっこくばん Aセット (創刊号そうかんごう~50ごう)』は、福音館ふくいんかん書店しょてんから出版しゅっぱんされています。戦後せんご日本にっぽん絵本えほん歴史れきしひらいた月刊げっかん絵本えほん「こどものとも」が、創刊そうかんごうから50ごうまでを、刊行かんこう当時とうじのままのかたち復刻ふっこくしました。「マッチうりのしょうじょ」「さんびきのこぶた」「てんぐのこま」など、これからもがれていく世界せかいじゅうのおはなしを、一冊いっさつ一冊いっさつたのしみながらすすめていくことができます。

 『伊豆いず民話みんわ ([新版しんぱん]日本にっぽん民話みんわ 4)』は、未來社みらいしゃから出版しゅっぱんされています。太平洋たいへいよううみのなかに、ずんと片腕かたうでをのばしたような伊豆いず半島はんとう。そこには、ゆたかな自然しぜんめぐまれた生活せいかつ条件じょうけんのなかに、あかるくおおらかな風格ふうかくをもつ民話みんわつたわります。「仙人せんにんみかん」「おふくおに」「ひなのばやし」「天狗てんぐ独楽こま」など、人間にんげん本然ほんぜん哀愁あいしゅうのなかに、のんびりとしたあかるさがある伊豆いず民話みんわが55へん収録しゅうろくされています。

あらすじ

 むかしむかし、まわりを杉の木立の深い緑に囲まれた小さな村に、国清寺というお寺がありました。

 国清寺のまわりも高い杉の木立に囲まれ、昼間でも薄暗く、さらにその杉の木立の中には、昔から「天狗の鼻」と呼ばれる、奇妙な形をした岩が祀られていました。

 この国清寺には、一兆さんという小僧さんがおりました。

 一兆さんはいたずら者で、お寺の仕事はそっちのけ、お経を読むのもいい加減、和尚さんもこれにはほとほと手を焼いていました。

 ところが、コマ回しだけは大した腕前で、一兆さんは誰にも負けたことがありませんでした。

 一兆さんのコマは強く、他のコマを弾き飛ばしては、そのコマを巻き上げてしまうほどでした。

 だから、和尚さんがお出かけで不在の時は、村の子どもたちを集めては、コマ回しをして遊んでばかりいました。

 ある晩のこと、厠から戻る途中、一兆さんが長廊下を歩いていると、大きな羽ばたきの音がして、
 「小僧、こっちへ来い」
と低い声で言われたかと思うと、あっというまに一兆さんの体は宙に持ち上げられ、真っ暗な場所に連れていかれました。

 一兆さんは天狗にさらわれてしまったのでした。

 暗闇の中、天狗たちは、いたずら者の一兆さんを天狗に変えようとしていました。

 「小僧、天狗になれ」
 「天狗にしてあげよう」
とあちこちから声が聞こえてきたので、一兆さんは大勢の天狗に囲まれているようでした。

 震えあがった一兆さんは、
 「いやじゃ、天狗は嫌いじゃ」
と叫び、抵抗しました。

 すると、
 「いやでも天狗にしてくれよう」
と天狗が笑いながら言いました。

 「天狗にされてはたまったもんじゃない。さて、どうしたものか」
と思いながら、一兆さんが懐に手を当てると、コマが入っていることに気がつきました。

 一兆さんは、コマ回しなら誰にも負けない自信があったので、思いきって、
 「それならコマ回しで勝負しよう。おいらが負けたら天狗になってもいい」
と天狗たちにコマ回しの勝負を持ちかけました。

 「よし、わかった」
と勝負を受けて立った天狗たちは、コマを回して闇の中から次々と投げてきました。

 懐からコマを出した一兆さんは、音がする方に夢中でコマを投げました。

 コマとコマがぶつかり合い、片方のコマがはじかれた音が闇の中に響き渡りました。

 闇に目が慣れてきた一兆さんは、コマを勢いよく回し、次々と投げ、天狗たちが投げるコマをはじき飛ばしていきました。

 一兆さんは、天狗たちを相手にコマ回しで勝ちまくりました。

 コマ回しでことごとく負けた天狗たちは、負けコマを一兆の懐にむりやりねじ込むと、
 「あはははは、小僧にやられたぞ」
と大きな羽ばたきの音と共に天狗笑いで、天狗たちは飛び立っていきました。

 気がつくと、すっかり夜は明けており、一兆さんの懐の中のコマは、不思議なことにすべてキノコに変わっていました。

 その夜、国清寺では、一兆の話に大笑いしながら、みんなでお腹いっぱいキノコを食べました。

解説

 静岡県しずおかけん伊豆いず国市くにし奈古屋なごやにある臨済りんざいしゅう国清寺こくせいじは、貞治じょうじがんねん(1362ねん)に室町むろまち幕府ばくふ有力ゆうりょくしゃである畠山はたけやま国清くにきよ創建そうけんしたとされ、應安おうあんがんねん(1368ねん)に関東かんとう管領かんれい上杉うえすぎ憲顕のりあきによって本格ほんかくてき臨済りんざいしゅう寺院じいんとして修築しゅうちくしたおてらです。

 最盛さいせいには子院しいん78、末寺まつじ300をようする壮大そうだい伽藍がらんとなり、室町むろまち幕府ばくふ三代さんだい将軍しょうぐん足利あしかが義満よしみつときには、関東かんとうにある臨済りんざいしゅうじゅうおおきなおてらからなる関東かんとう十刹じっせつ六番ろくばんれっせられました。

 仏殿ぶつでんには、鎌倉かまくら時代じだい慶派けいは仏師ぶっしによるものとかんがえられている釈迦しゃか如来にょらいぞう安置あんちされ、境内けいだいには、歯痛しつう安産あんざんにご利益りえきがあるとされる、立膝たてひざかんがごとをしているめずらしいお地蔵じぞうさまがあります。

 また、いまでも修行しゅぎょうそうべ、神奈川県かながわけん鎌倉市かまくらしにある建長寺けんちょうじ発祥はっしょうとされる「けんちんじる(建長汁けんちょうじる)」がもとになっていて、「もったいない」と大切たいせつにする気持きもちで、普段ふだんてることがおお野菜やさいのヘタやしんかわなどクズの部分ぶぶんあぶらいため、味噌みそ仕立じたてのしるである「国清汁こくしょうじる」は、この国清寺こくせいじ発祥はっしょうとされます。

 それから、小僧こぞう一兆いっちょうさんは実在じつざい人物じんぶつで、石井いしい一兆いっちょうといい、のち国清寺こくせいじ隣接りんせつする高岩院こうがんいん住職じゅうしょくとなりました。

 『天狗てんぐのこま』は萬延󠄂まんえん元年がんねん(1860ねん)3がつのおはなしつたわり、一兆いっちょうさんが14さいころとされます。

 一兆いっちょうさんは明治めいじ44ねん(1911ねん)5がつに65さいくなったとの記録きろくのこされていることから、比較ひかくてきあたらしいむかしばなしです。

感想

 「一芸いちげいひいでるもの多芸たげいつうず」ということわざがあります。

 これは、「なにひとつのみちきわめたひとは、おおくの事柄ことがらにつけることがたやすくなる」といった意味いみいです。

 さて、『天狗てんぐのこま』の主人しゅじんこうである一兆いっちょうさんをみていると、だれにもけたことがないコマまわしという“一芸いちげい”から、メンタルと表現ひょうげんされる“精神せいしんめん”や“こころちよう”についてまなぶことができます。

 まず、一兆いっちょうさんは、「天狗てんぐにされたくない」というつよ気持きもちから、天狗てんぐ勝負しょうぶいどみます。天狗てんぐ妖怪ようかいなので、けるかもしれません。ければ、ただちに「天狗てんぐにされてしまう」ので、この勝負しょうぶには絶対ぜったいたなくてはなりません。まさに“背水はいすいじん”です。

 そこで、つぎ一兆いっちょうさんがった行動こうどうは、得意とくいなコマまわしで天狗てんぐ勝負しょうぶます。だれにもけたことがないコマまわしは、一兆いっちょうさんにとって“絶対ぜったいてきふだ”です。

 つまり、一兆いっちょうさんは、あとがない状況じょうきょうで、絶対ぜったいてきふだし、てるちから最大さいだいげん発揮はっきするため、自分じぶんむということを選択せんたくしたのです。

 一般いっぱんてきには、自分じぶんちから過信かしんすることはくない行動こうどうですが、一兆いっちょうさんの場合ばあいは、自分じぶんちから過信かしんすることで、天狗てんぐとの勝負しょうぶつことができたということです。

 一兆いっちょうさんは、のち住職じゅうしょくとなったとつたわります。

 コマまわしをきわめ、それを自分じぶんじくえて、とどのような脈絡みゃくりゃくでつながっているのか、あるいは全体ぜんたいなかでどのような位置いちにあるのか、さらには、どのように全体ぜんたいぞう関連かんれんしているのか、というはばひろ視点してんやしなったことで、いたずらものだったのに住職じゅうしょくくことができたのでしょう。

 専門せんもん分野ぶんやみがかれたてば、専門せんもん以外いがいのものもえてくるということです。

まんが日本昔ばなし

天狗てんぐのこま
放送日: 昭和52年(1977年)02月12日
放送回: 第0116話(0071 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 『伊豆の民話 ([新版]日本の民話 4)』 岸なみ (未來社)
演出: 小林三男
文芸: 沖島勲
美術: 末永光代
作画: 白梅進
典型: 仙境譚せんきょうたん天狗譚てんぐたん
地域: 中部地方(静岡県)

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最後に

 今回こんかいは、『天狗てんぐのこま』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいしました。

 「げいたすく」ということわざがありますが、についた技芸ぎげいがあれば、なにかのおりやくち、ときには生計せいけいてるもとになることもあります。どんな分野ぶんやであれ、他人たにんよりひいでる能力のうりょくがあれば、おもわぬところでやくつと、『天狗てんぐのこま』はおしさとしています。ぜひれてみてください!

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